俳句庵

9月『新蕎麦』全応募作品

(敬称略)

新蕎麦のするりと箸の進みけり
新蕎麦の旗翩翻と道の駅
新蕎麦の待つ故郷へ走り出す
新蕎麦や平均寿命で父が逝く
新蕎麦や五風十雨の時を知る
新蕎麦や見知らぬ相席気にもせず
新蕎麦やローカル線の夫婦旅
古暖簾くぐれば新蕎麦ありにけり
新蕎麦と墨鮮やかに書かれけり
目と鼻で味わっている走り蕎麦
江戸っ子の見得を切ったる走り蕎麦
新蕎麦の香りも高く秋の風
新蕎麦を啜りし音のはやきかな
新蕎麦や今年も妻と山の宿
やはらかき新蕎麦の香や谷の風
月山の風入れて打つ走り蕎麦
小体なる店丹精の走り蕎麦
日を浴びて美味しさを増す新蕎麦よ
新蕎麦やつゆに微かに浸したり
新蕎麦やまだ日の高い酒となる
新蕎麦を食べて寿命を延ばしけり
新蕎麦や皿も小鉢も織部焼き
風香る霧の匂いや走り蕎麦
新蕎麦や古き暖簾の奥飛騨路
爽やかに一つ新蕎麦中に置き
新蕎麦を食ふて新宿行に乗る
新蕎麦や良き粉良き水良き力
薀蓄を聞いていただく走り蕎麦
新蕎麦や古き暖簾の奥飛騨路
品書は太き墨字や走り蕎麦
方言の 飛び交ふ酒場 走り蕎麦
三たての新蕎麦すする至福かな
新蕎麦に老舗の味の受け継がれ
新蕎麦や遠山は雲剥がしけり
新蕎麦をそつと差し出すお持て成し
新蕎麦を噛まずに食らうやせがまん
新蕎麦や喪服の女通りけり
店頭に打つ手を見せて走り蕎麦
つゆなしの新蕎麦含み鼻呼吸
音立てて一気にすする走り蕎麦
退院やまず新蕎麦に誘われり
新蕎麦や人それぞれに一家言
新蕎麦を食いたしアレルギー
新蕎麦や藁屋根つづく大内宿
新蕎麦の香りに思ふ故郷かな
小諸なる古城の茶屋の走り蕎麦
新蕎麦の香りのなかに棲む人よ
虫の音と黙して競う蕎麦の音
新蕎麦の玲瓏として出されけり
新蕎麦を打って休日終わりけり
新蕎麦を食べアルプスを仰ぎけり
新蕎麦の張り紙曲る銀座裏
戸隠の山の匂える走り蕎麦
新蕎麦を打つ腕太き山の里
新蕎麦を喰ろふて雨をやり過ごす
新蕎麦や祖父のにほいがする季節
新蕎麦や多士済々の同好会
新蕎麦をお変わりする孫三代目
新蕎麦や今年の出来の長談義
夏ばてをしんそば食べて解除かな
新蕎麦や息子の嫁か児を背負い
相席の夫婦もつられ走り蕎麦
新蕎麦や無骨な父の癖字かな
新蕎麦や額を拭う若主人
新蕎麦を啜る男の背の陰り
新蕎麦やすばやく啜る通の人
新蕎麦や打つ人もまたすがすがし
新蕎麦や街道行くも味のうち
新蕎麦やふるさとの山なつかしき
新そばのあるらし此処は饂飩の地
新蕎麦を打つ手自然と力込め
新蕎麦や添へし太葱かじりつつ
打ち水の三和土を楚々と走り蕎麦
新蕎麦を食べて冷やかす古本屋