俳句庵

3月『栄螺』全応募作品

(敬称略)

海女の浮き両手に榮螺磯開き
壷焼の煮立つ動きやコップ酒
榮螺焼くうない髪解く稽古海女
はらわたの苦さ楽しむ栄螺かな
磯の香とさざえが醸す江戸の風
落城の途中とおもう焼き栄螺
大きさを揃へて求む栄螺かな
栄螺焼く男ばかりとなりにけり
爪楊枝ほじくって出す栄螺かな
よーいドンマッチ一本焼栄螺
壷焼きのさざえのキューと鳴きにけり
ガウデイの城思わせる栄螺かな
壷焼きのさざえの腸のえもいへぬ
この入れ歯こりこり好む焼栄螺
灰皿のさざえの以つて瞑すべし
江ノ島の見えて栄螺の匂ひけり
えもいへぬさざえの腸の焼きあがる
水槽の底に栄螺のうづくまる
故郷は飛騨なり栄螺生かし行く
さざえ食むふと母の事子らの顔
口中に異郷の香り広ごりぬ
思い出をほじくり出せる栄螺かな
わが日々は書斎に篭る栄螺かな
ラビリンスかくやと思ふ栄螺かな
言わぬかな物申いたしてさざえなり
海女小屋の焚火の隅の栄螺かな
恐恐と栄螺の穴を覗きをり
げんこつはサザエに似たり七回忌
年上のひとに教はる焼栄螺
壷焼のつぶやく音も皿に盛る
耳に当て潮の音を聴く栄螺かな
遠き日の町子漫画のサザエかな
地炉端のたしかな記憶焼栄螺
壷焼きの匂いで誘う海の家
栄螺立つかくもあらんかバベルの塔
潮の香を並べて売られる栄螺かな
頑固なる父思いだす栄螺かな
深海の夢取り出される栄螺かな
七輪の網で笛吹く栄螺かな
磯桶の波に揺れらるる栄螺かな
壷焼や焼かれて噴き出す潮の音
そよ風や栄螺と竹の子頂戴す
素潜りの海女突き刺せる栄螺かな
命綱夫に託して栄螺採り
宴席にまず並びゐる栄螺かな
断崖へ道の賑はひ焼栄螺
深海に深き眠りの栄螺かな
名勝の波音絶えず焼栄螺
なかんずく腸が好みでさざえ焼く
壷焼に挑む一心不乱かな
灰皿になつてさざえの瞑すべし
栄螺籠よいしょと担ぐ親子海女
栄螺焼く磯を目指して急ぎ足
笛吹けば切なく聞ゆ栄螺かな
若き海女片手に余るさざえ挙げ
朝市になまり飛び交ふ焼さざえ
幼子やさざえの苦み覚えけり
栄螺噴く正油の息に網赤し
一句出ずさざえの蓋を閉じるごと
壷焼の噴きこぼれたる汐音かな
腸をゆっくり引き出す栄螺かな
ほじくれば栄螺の秘密出る如し
焼栄螺酒酌み交わす父子かな 
荒磯に止まるさざえ頼もしや
幼子ガ指差入れる栄螺かな
懐の深きやつかなさざえ焼く
朝市に潮の香並べ栄螺売り
大きな耳ほじくる仕種さざえ料る
壷焼のさざえで今宵呑み治む