俳句庵

7月『枇杷』全応募作品

(敬称略)

枇杷の種食べた分だけ残りたる
遠き日や母に抱かれし枇杷葉湯
枇杷の実のひとつひとつの灯りけり
初物と言われて枇杷の香もう一度
鳥どものかしまし枇杷の熟れ頃か
枇杷の実の心を癒す縮図なり
枇杷熟るる旧家の門の閉じしまま
お隣の枇杷いただくも垣根越し
ガブリ噛んでポロリ吐き出す枇杷の種
枇杷食へば人巡り来る半世紀
夕陽色染めて枇杷の実売られたる
枇杷を剥くつるりと種の滴くかな
枇杷の実の熟れて赤子の臍並ぶ
うめ取りの 手が橙に のびる昼
実の程を知らぬ大きさ枇杷の種
爪立てて律儀に枇杷を剥く子かな
生り年の落ちるに任すこつぶ枇杷
枇杷食べて子育て論をひとくさり
うす紙の褥に枇杷の生毛かな
月斜め枇杷の実だけがぽつねんと
目にやさし枕辺におく枇杷の籠
滝壺に白き風吹き枇杷甘し
薄様をまとひて枇杷の到来す
枇杷の葉に波打つ重さありにけり
熟れし枇杷の小包出るは出るは
酔い覚めの山の湯宿や皿に枇杷
賜りし枇杷良き種をやどしけり
枇杷の実の産毛が包む甘さかな
枇杷熟れて忘れられたる昼の月
枇杷熟れて天に届ける香りかな
残照の空引き寄せて枇杷の花
柔毛にも逆毛のありし枇杷を剥く
路地の鴉鳴き交ふ枇杷のたわわかな
枇杷の実やご近所みんな核家族
甘い枇杷心うちとけ友の顔
枇杷の木琵琶鳴りやまず二重奏
気がつけば垣根の上の琵琶の花
枇杷の木の琵琶鳴りやまず二重奏
廃屋と知るまで枇杷の色づいて
枇杷熟れる木いっぱいの祭りかな
ふるさとの 枇杷を想いて 涙かや
枇杷熟れて雨に匂える一日かな
琵琶の皮剥いて滴る甘さかな
枇杷食へば疎開の頃や老ひ易く
枇杷の種圧倒的な存在感
枇杷たわわ連絡船の銅鑼の音
枇杷の実の日照雨やみたる雫かな
枇杷の実のひかり放つや雨上がり
二階からふと見下ろせば琵琶熟るる
枇杷甘し物は試しと種を埋め
枇杷食べて種を飛ばすは子供なり
母在るは昨日の如く枇杷熟るる
雨上がりの琵琶は食むなと母教え
十二歳枇杷の甘さのあまくなり
婚約の指輪光らせ枇杷むく娘
枇杷の葉で病治ると煎じ飲む
大いなる種ありてこその枇杷であり
枇杷の実がたわわに実り山静か
どの家も枇杷の実うるる老の街
枇杷の実の甘さに偲ぶ故郷かな
誰一人土手の枇杷の実採らで往く
わが背丈いつしか超えて枇杷実る
ポンプ井戸残る佃や枇杷熟るる
神さまの通り道なり枇杷熟れる
見上げれど姿は見えず枇杷熟るる
母在るは昨日の如く枇杷熟るる
喜んで、枇杷を食べてる、妻の顔
路地裏のチリ紙交換枇杷熟るる
主亡き庭に枇杷の木実を結び
初夏をすするが如く枇杷を食む
枇杷干して母の手製の暑気払い
瑠璃皿に枇杷の黄うつし故郷かな
母の日や好物の枇杷仏前に
十字架に夕日浴びいて枇杷熟るる
枇杷ならぶ潮の香近き道の駅
もどかしく皮ごと食べる枇杷の美味
枇杷の花母は生涯木綿着て
初夏をすするが如く枇杷を食む
縁側にびわの葉の風夕涼み
枇杷の黄を確かめているたなごころ
いつの日か種無し枇杷の夢実る
父母のいてこそ故郷枇杷甘し
枇杷むくも慣れし手つきで地元の子
宝石と紛ふ輝き枇杷の種
腹割れば本心分かる枇杷の種
塀越えの隣家の枇杷のたわわなる
丸齧りまさか大きな枇杷の種
枇杷の実を父母の墓石に一つづつ
枇杷の種黒くごろごろ皿にあり
病む人へ丸さと色の枇杷選ぶ
吐き出せば大きに驚く枇杷の種
眼裏に母の猫背や枇杷干して
枇杷をもぐ指の向かうは安房の海
初ものの枇杷を亡父に供へけり
宮参り孫を抱く手も枇杷の色
雨に濡れ埋めゐし宝枇杷の種
枇杷の実の葉に隠れたる子沢山
遠き日の出て来るやうに枇杷を剥く
腹黒の奴は好かぬが枇杷好む
枇杷の実の熟れし頃合い手を伸ばす
震災を耐えて残りし枇杷たわわ
枇杷かじる吾子が振り向き手に隠す
食べ残す枇杷黒々と種光る
枇杷実るわれ三界に家ありや
枇杷の芽に心待ちする夏の味
古里の父母亡き狭庭枇杷熟るる
幼子の残念そうな枇杷の種
孫の来る知らせに枇杷を採らず置く