俳句庵

2月『蕗味噌(ふきみそ)』全応募作品

(敬称略)

蕗味噌をなめて秩父の地酒かな
出来栄えを褒め蕗味噌の朝餉かな
人が来て喜ぶ里の蕗の味噌
早春の苦味いただく蕗の味噌
蕗味噌や故郷に集ふ従兄妹会
わらんべも父も好みし蕗の味噌
蕗味噌や山を隔てて父母の里
なかんずくふるさとの蕗味噌ほろ苦き
蕗味噌や母との旅は一度きり
これやこの故郷の地酒蕗の味噌
蕗味噌や吉野の里の坊泊
蕗味噌に偲ぶ母の手母の味
蕗味噌や道より低き吉野建
みちのくの大地息づく蕗の味噌
熱燗のすすむ蕗味噌箸やすめ
すきま風気ならぬほどか蕗と味噌
蕗味噌の肴にすすむ手酌かな
小(こ)田舎の良き味噌みつけフキに和え
蕗味噌や晩酌すすむ会話あり
練りあげてゴマをひと振り蕗味噌や
蕗味噌やきらりと光るいぶし銀
ほろ苦き町を去りとて蕗に味噌
蕗味噌やときには辛き上り坂
蕗味噌は少し甘けれ母の味
蕗味噌は戦国武士の貌で食う
海の味合わせてみたり蕗の味噌
蕗味噌に山河の動き箸の先
蕗味噌や遠いあの日の鐘の音
蕗味噌に信州訛練り込みぬ
蕗味噌で熱燗交わし妻と酔ふ
懐郷を練った蕗味噌届きけり
蕗味噌や野にいっぱいの風薫る
禅僧の好む蕗味噌峠茶屋
蕗味噌のさみどりやさし月の声
蕗味噌やとげ抜き地蔵すりきれる
蕗味噌はいかがですかとお隣さん
大根に蕗味噌添えて雪とける
蕗味噌や旅の途中のレストラン
蕗味噌をたつぷりまぶし焼きにぎり
蕗味噌や野辺の匂ひす夕餉卓
蕗味噌な卓の光陰見られたし
蕗味噌や初恋ほどにほろ苦し
蕗味噌や小鉢のならぶ里の山
蕗味噌や野趣の風味を食ふ夕餉
蕗味噌やタッパの中には里の味
ほろ苦さ接吻ほどなる蕗の味噌
蕗味噌の小鉢のならぶ季節かな
蕗味噌の酒菜好みし父なりき
里の山季節をみせる蕗味噌や
蕗味噌のとろ火加減は妻ぞ知る
蕗味噌や口にひろがる里の味
蕗味噌や能登に生まれて能登を出ず
蕗味噌も魚沼産と念押され
蕗味噌や厨に母のメモ古し
朝採りの蕗を味噌にて夕餉かな
蕗味噌や母おもう日の迷い箸
蕗味噌の香り隣家へ換気扇
湖風の雨戸を叩く蕗の味噌
蕗味噌をあつあつの飯もう一杯
蕗味噌や平成町村大合併
弁当の蓋の蕗味噌舐めてをリ
蕗味噌や夕餉は地物尽くしなる
蕗味噌や亡き母思い胸焦がし
蕗味噌のあつあつ御飯にむせにけり
苦味あり苦手な大人蕗味噌ぞ
蕗味噌の香りなつかし疎開の地
受験朝蕗味噌啜り脳刺激
蕗味噌や山の彼方の母の里
蕗味噌の酒の肴と瓶半ば
蕗味噌の焼きおにぎりの懐かしや
蕗味噌の手順どうりに捗らず
蕗味噌や静かの里の茜空
蕗味噌の香りがすきや味も又
蕗味噌はおむすび入りて山戻る
蕗味噌や写真の母はどれも笑む
蕗味噌や白磁で持ちし幼馴染
蕗味噌を妻へ酒盗を我に買ふ
蕗味噌の香りの果てや母の夢
蕗味噌や蕗の薹すら知らぬ子ら
ふるさとの蕗味噌よりも甘きかな
蕗味噌や母の破顔が目にうかぶ
蕗味噌やふるさとの川は光れり
熱ごはん蕗味噌湯気に春薫る
蕗味噌やため息なんて似合わない
蕗味噌の講釈ながき板間かな
蕗味噌や風とならまし倦怠期
蕗味噌や母の真白き割烹着
蕗味噌や調子はずれのさのさ節
ぐい飲みに蕗味噌添へて蕎麦屋酒
蕗味噌を塗りておにぎり焼きあがる
蕗味噌や母の香りを嗅ぎにけり
蕗味噌やご飯のお代わり三杯目
蕗味噌や破恋の味を咬みしめり
これよこれ蕗味噌まさに母の味
蕗味噌や故郷の山河和えており
茶漬け良しにぎりめし良し蕗の味噌
金婚や蕗味噌味の妻を得て
蕗味噌に一家言ある母傘寿
蕗味噌の複雑な味楽しめる
蕗味噌や真砂女偲べは割烹着
蕗味噌や緑浮き立つほろ苦さ
蕗味噌ですます留守居の昼餉かな
あつあつの飯に蕗味噌所望する
蕗味噌や小さき器をいとほしむ
明るさを先取りしたる蕗の味噌
蕗味噌や我が半生のあれやこれ
老ゆるほどに舌も熟るるや蕗の味噌
舌先の蕗味噌の香に故郷思ふ
蕗味噌や名残りの雪の青めけり
蕗味噌の香りや今日の山遠し
蕗味噌や光秀包む深し闇
蕗味噌の色と香りを先づ供ふ
蕗味噌や老婆の笑顔飛騨の朝
蕗味噌の志野の小皿や斎の膳
蕗味噌のほどよく粘る老い二人
蕗味噌のほのかな香り久女の忌
雪刳きて萌芽香るや蕗の味噌
蕗味噌や母の在所の隠し味