俳句庵

8月『土用蜆(どようしじみ)』全応募作品

(敬称略)

味噌汁の土用蜆に目覚めけり
酒漬けし土用しじみや寒山寺
土用蜆の一汁三菜一人の餉
大椀に土用しじみの六拾年
遠い日の土用蜆や病み上り
二歳児の土用しじみは殻ほじり
来る人に土用蜆の小鍋立
朱の椀に土用蜆の砂光る
風邪の児に土用蜆の朝餉かな
たらちねの母へ土用の蜆汁
湯気立てし土用蜆のつやを食ふ
土用蜆砂金の如き砂吐けり
宍道湖の靄より土用蜆舟
口あけて土用蜆の苦笑ひ
靄の中土用蜆をとる小舟
土用蜆真水に浸し砂吐かす
寝たきりの祖母に土用蜆買ふ
ゆっくりと喉元を過ぐ蜆汁
路地裏に土用蜆を売る声来
土用蜆掻くや入江の黒土に
朝市に土用蜆を売る少年
椀の中土用蜆の沈みをり
出雲にて土用蜆の朝餉かな
土用蜆幼馴染へ手土産に
土用蜆涸沼の里や黒集り
土用蜆残業の子に温める
一粒も身逃すまいぞ土用蜆
ウォーキング勧めて土用蜆かな
貝塚や幾重の宴土用蜆
土用蜆買ふや無聊の夫のため
椀に盛る暑き日熱き土用蜆
万葉の四時美の一つ土用かな   
朝餉かな酔い醒め土用の蜆汁
土用蜆年寄りの暇つぶしけり
殻皿に恵みの丈や土用蜆
土用蜆青田刈りの物交じり
ため息の主人に今夜土用蜆
土用蜆汁のみ啜る昼休み
じりじりと焼ける日にこそ土用蜆
貝の風呂浴びていただく土用蜆
活力が土用蜆に詰まってる
窓開けりゃ隣の飯も土用蜆
毎年の決まり事です土用蜆
そりゃあるさ土用蜆の神通力
蝉に負け土用蜆に助けられ
口開けぬ土用蜆の強情さ
宍道湖と琵琶湖が出会う土用蜆
母の忌に土用蜆の炊込み飯
鹿之助土用蜆を噛みしめる
土用蜆あの日還らぬ特攻機
母が溶く土用蜆に田舎味噌
土用蜆われに老後の踏ん張りを
土用蜆月明浴びて眠りこけ
寄席のあと根岸は土用の蜆汁
トーストに土用蜆の漁師かな
丹念に土用蜆の身を箸に
幼子に土用蜆は乳のよう
味噌汁を掻いて土用の蜆取り
落日の湖土用蜆育てけり
威勢よく土用蜆を大盛に
暑に耐ふる土用蜆が舌を出す
肝吸ひの処を土用蜆汁
土用蜆更けてことりと寝返りぬ
蜆取り土用の朝日拝しつつ
滋養ぞと土用蜆を病む兄に
体調を託して土用蜆汁
味噌汁の土用蜆の波の音
受け継ぎし土用蜆の妻の味
土用蜆つぶやくごとく泡を吹く
職さがす土用の疲れ蜆汁
てらてらと土用蜆の洗ひ桶
見舞とて土用の蜆給わりぬ
朝餉卓土用蜆の椀並ぶ
退院の土用蜆という滋養
額拭き土用蜆の汁熱く
旧友と土用蜆で語らんや
椀小さし土用蜆の犇けり
艶やかな土用蜆の粒揃い
殻すべて土用蜆のせせらるる
競い合ふ土用蜆を椀の中
薬とて土用蜆の汁五杯
精つける土用蜆や父百歳
休肝日土用蜆の「飲め」と言ふ
葱散らし土用蜆の汁薫る
土用蜆夫の愚痴を聞いており
乗り切れと土用蜆を朝夕餉
朝市に土用蜆の跳ねており
止めには土用蜆と言い訳す
土用蜆妊婦と赤子活気づけ
母もまた土用蜆を薬とす
味噌鍋に土用蜆の踊りけり
医者嫌い土用蜆を日に三度
土用蜆食べて明日も生き延びる
一升の土用蜆の大家族
土用蜆掬い取るには指がつり
地球掻く土用蜆の笹葉舟
大海にかくも小さき土用蜆かな
根の国の土用蜆は夜に泣く
病む母ヘ一椀土用蜆かな
土用蜆殻から外す舌の先
土用の日せめて蜆を山積みに
此の季節土用蜆でのりきろう
土用蜆触れ合ふ音も艶めけり
呑み過ぎに土用蜆の琥珀酸
夏痩せの父に添ヘたる土用蜆かな
まどろみて土用のしじみ泥の中
後悔の砂吐く土用蜆かな
寡黙なり土用蜆に老夫の手
裏返す土用蜆の殻の照り
行平に土用の蜆べろ白く
嫁姑和み土用の蜆汁
がしがしと貝もて洗ふ土用しじみ
定食に蜆汁つき土用かな
熱き味噌酒が抜けてく土用蜆
ふんばりを助ける土用の蜆汁
土用蜆在りし日母の掌
行商の土用の蜆の声を待つ
休肝日土用蜆を酒びたし
苦学生土用蜆を売る昔
冷や飯に土用蜆の汁をかけ
御品書き土用蜆の丸き文字
父の忌や土用蜆の量り売り
アロハオエ土用蜆の邦人会
飲みすぎて土用蜆の朝の膳
刺し結ぶ土用しじみの朝陽かな
一椀の土用蜆の残り砂
鍋のまま土用蜆や出雲宿
母の背中土用蜆の香りよし