俳句庵

12月『餅』全応募作品

(敬称略)

里泊り刈上げ餅のお相伴
親の目を盗みし餅のうまさかな
背戸に客指紋の残るよもぎ餅
切らせればいびつ揃へし孫の餅
柔かき餅の喉越し危ふかり
孫曾孫間に合ふかしら餅十斗
餅を搗く妻を今年も相方に
次々と餅搗く父の力こぶ
餅を焼く焦がさぬやふにうらおもて
餅搗きの響く大地に命あり
搗きたての餅を呑み込むやふに食む
口下手が上手に焼きし丸い餅
ふるさとに戻る若者餅を搗
手のひらを転がし餅が丸くなる
ふるさとは餅搗く音に賑はへり
顔を汚してまだ食べる黄粉餅
明日近し焼き餅囲み紅白戦
餅焼いて心の中も膨らます
今様の餅や水の甕知らず
原料の何かを知らず餅食ふ娘(こ)
子等も出て二人で覗く餅搗き器
次々と餅焼けてきて独りかな
子も寝入り餅搗くうさぎも絵本棚
菓子箱に立てて詰められ餅届く
止められぬ赤児の餅肌摘む癖
手間要らぬ両面焼きの餅焼器
荒海や船出る民に力餅
つききりでこまめに反し餅を焼く
母の手でのばした餅が丸くなる
餅焼いて独りの夜を持て余す
火鉢の火餅をはじかせ燃えている
焼き餅の脇に並べし入歯かな
鏡餅母さんみたいと子が笑う
餅つきや兄の強さに驚きぬ
餅腹でひとつ鼓を打ってみる
搗役を忘れて食いし千切り餅
餅ふくれ醤油をつけて口はこぶ
孫の問う餅と団子の違いかな
全校で餅搗く課外授業かな
千切り餅婆の手量り確かなリ
餅食べて健やかだけを自慢とし
餅丸め餡子はみ出し食いにけり
餅焼くや母の寝顔を見ず育ち
餅の音きのう高砂きょう井筒
ぞうに餅あの頃みんな大家族
青空に餅の音する寛永寺
餅つきの杵音響く故山かな
餅搗くや女系家族の婿となり
豆餅や幸福念じ祖母丸め
還暦や頑固一徹からみ餅
この餅もうさぎつきけり望月に
餅を搗く男衆にまじる異邦人
雑煮より懐かしき想い滲みけり
しばらくはつきたて餅を手に遊ぶ
神棚に紅白餅は鎮座せり
杵掴む餅の強さに息上がり
杵でつく餅は延びたる命かな
風呂敷の真中に座る鏡餅
息の合うかけ声かろしお餅つき
園児には昔話やお餅つき
一升餅背負いし孫の一歩かな
ふた臼の餅つき終えて腰曲がる
一枚の伸し餅で足る老いふたり
のし餅のしんと冷たきたたずまい
餅搗きや板塀残る根岸かな
餅ひとつ焼いて男の昼餉かな
のし餅の切り時をみる指の跡
草餅の香りが残る鍋洗う
妻の留守夜食にひとり餅を焼く
賞品はもち米二キロ草野球
餅だけでしのぎし青春神田川
不器用に生きて焼餅硬くなる
下宿屋の三畳郷の餅を焼く
ふるさとの訛り出てくる餅料理
餅を切る父は定規を子に持たせ
テレビ点け洗濯廻し餅をチン
餅数ふ昔はどこも子沢山
餅を搗く三和土のくぼみ臼の跡
餅焼くや履歴に賞罰なかりけり
五平餅味噌芳しく格子窓
晩学は休み休みや餅を焼く
餅花を抱え人混み抜けにけり
餅の音どの家も聞こえし今はなく
餅花の揺れて畳を掃くごとく
伸し餅のごと延ぶ命であらまほし
昼までの温かさかな腰の餅
餅を搗く「ヨイショアイヨ」の父母なりき
搗きたての餡に黄粉に辛味餅
餅搗きて年のけじめとせし昔
早搗きの餅の捏ね取り神がかり
尻餅をつきて倒るる雪の道
寿命ほど餅を伸ばして舌で喰う
搗きたての千切り餅くれし母なりき
伸ばしたら縮まぬ餅と鼻の下
氏子らが獅子の上より餅を撒く
餅と縁早く切らぬと手に負えぬ
おぼつかぬ足でそろりと餅を踏む
物置に餅を忘れた臼と杵
小正月火鉢の餅の番をして
餅搗くや子の婚祝ふめでたさに
新米の餅はどこまで伸びるやら
餅つきや君と僕とは杵と臼
おばちゃんの餅を丸めて冬温し
鏡餅割れば笑顔の見へてきし
菱餅の三色作る娘かな
餅つきの筋肉痛の心地良し
家長われ儀式の如く餅を切る
棟上の餅大空へ投げにけり
父と母阿吽ノ息で餅を搗く
餅食べて大きくなりし喉ぼとけ
餅を焼く静かな時の流れけり
亡き父の好物餅を供えけり
魂の相寄る如く餅二つ
手の赤く五升のもち米とぐ夕べ
草餅の色になるまで焼きにけり
いが餅は千代の好物紅葉晴れ
餅三日けふは茶漬としたりけり
いが餅のありて茶会やもみじ晴れ
拉麺にお餅を載せるとふレシピ
なつかしきいが餅千代の生家かな
初孫が差出人の手形餅
橡餅の山ふところの香りかな
新婚へ豆たっぷりの餅届け
ふるさとに知る人の減り餅を焼く
デパ地下や餅臼連ね夜連ね
いくつまでいくつ食えるか磯辺餅