俳句庵

1月『寒稽古(かんげいこ)』全応募作品

(敬称略)

寒稽古せずに済ましてモンゴルへ
寒稽古どの子も泣かぬやうになり
寒ざらい出戻り娘の咳払い
寒稽古黒帯の子が増えてゐる
寒稽古みかんの出番ありしかる
寒稽古波はますます高くなる
寒稽古養子なればと竹刀もつ
寒稽古光の幅に埃舞い
赤胴を着けておカッパ寒稽古
寒稽古児らを見守る握り飯
鋭き目鵜の寒稽古始まりぬ
眠い目をこすりながら寒稽古
声限り星にぶつけて寒稽古
寒稽古ぜんざい待って鼻すする
壁一つ隔て長屋の寒稽古
今もなおつらい思い出寒稽古
太棹の音に艶出る寒稽古
怒鳴る声寒稽古なら絵になるよ
殊更にコーヒー熱き寒稽古
白い息あぜ道走る寒稽古
無心なる幼き気合い寒稽古
水泳部冷たい水へ寒稽古
寒稽古気合いかけられ日が昇る
茶屋町に灯のある限り寒稽古
水弾く肌に重ぬる寒稽古
寒稽古日記に大きく5時起床
寒稽古薄れし写真孫に見せ
生徒より教師が多い寒稽古
付添も杖でくははる寒稽古
年ごとに太刀筋決まる寒稽古
三歳児下駄ころがして寒稽古
誘ひ合ふ友がライバル寒稽古
垣根越しあの娘が見てる寒稽古
頼まれてゐし子を起こす寒稽古
終り頃恋も仕上がる寒稽古
寒稽古一人も欠けず並びをり
眉上げて李白を吟ず寒稽古
川風がさらふ掛け声寒稽古
寝言にも「エイヤ」と気合ひ寒稽古
休み癖ついてしまひし寒稽古
寒稽古師の前しかと竹刀打つ
寒稽古今年は点呼する側に
息白く湯気のごとくに寒稽古
寒稽古ちぢむ手足に活をいれ
気合ひ入れ大技小技寒稽古
師は昔ガキ大将や寒稽古
面取れど剣士凛然寒稽古
寒稽古好々爺にはなりきれず
寝相にも竹刀翳すごと寒稽古
寒稽古終わればやさし父の顔
二列目の剣に隙あり寒稽古
片隅で泣く子もありて寒稽古
俳句にも寒稽古ありお酒あり
寒稽古先ず正座よりはじまりぬ
寒稽古汗の香りのコップ酒
少年のまだ覚めやらぬ寒稽古
寒稽古見守る親の猫背かな
白砂突く鉄拳染めし寒稽古
寒稽古黄色の声もオッスとや
迷想を十字手に斬り寒稽古
猛者たちの中に乙女や寒げいこ
石段の窪みに雨踏む寒稽古
寒げいこ終えて赤らむ子らの頬
皇宮に奇声と割けし寒稽古
朝まだき静寂を破り寒げいこ
寒稽古厳しさゆるむ温暖化
掛け声も矍鑠として寒げいこ
茶髪どもイミわかんねぇと寒稽古
寒げいこ男の子の眉の凛々しさに
見物が増えて終われぬ寒稽古
正座するちひさき足裏寒稽古
赤い顔白い顔いて寒稽古
克己心しる粉に負けて寒稽古
湯気立てて鍋が待ってる寒稽古
始まりは正座端座の寒稽古
寒稽古火から離れぬ老師範
強張りし腕叩きて寒稽古
正眼の剣の気魄や寒稽古
能舞台に身震ひしきり寒稽古
寒稽古目のぎらぎらと面のなか
竹林は風を静めて寒稽古
道場で懇意となりし寒稽古
少年が胴を振りぬく寒稽古
背負投げ決めて一礼寒稽古
遠き日の祖母の謡や寒稽古
恒例の「第九」合唱寒稽古
手を温め肩を解して寒稽古
寒稽古干されて青き柔道着
寒稽古刺し子の帯の長く垂れ
寒稽古磨き上げたる床に坐す
寒稽古湯気何筋も窓硝子
泣きべそも笑って帰る寒稽古
摺り足の白さ畳に寒稽古
腸に一杯の白湯寒稽古
受身する黄色い声も寒稽古
神棚の榊艶やか寒稽古
短髪の少女も混じり寒稽古
寒稽古終へし老師コップ酒
少年が武士の眼をして寒稽古
寒稽古正す背筋の精気満つ
面つけて男まさりの寒稽古
廃校の体育館へ寒稽古
寒げいこ竹刀はげしく響きをり
手挟みし竹刀の軽き寒稽古
道場に空気張りつめ寒稽古
吐く息の次第に荒く寒稽古
神棚に一礼をして寒稽古
真剣の間合いに粛気寒稽古
少年の凛々しき眉毛寒稽古
寒稽古了へし星空ま青なる
寒稽古強くなれよと干支の寅
あかときを展く気合や寒稽古
寒稽古目指せイチロー松坂を
師の面を打って始むる寒稽古
寒稽古日本の力士意地見せろ
子供らが箒で真似る寒稽古
兄のこと先輩と呼ぶ寒稽古
寒稽古志津太夫どのの鼻濁音
寒稽古砂浜の果て灯台へ
寒稽古道場に干す柔道着
寒稽古腕立て伏せの声空へ
外土俵は風のたまり場寒稽古
寒稽古汗はさらなる塩重ね
三味線に言い訳はせず寒稽古
初恋の娘の家や寒稽古
一撃に賭ける気合や寒稽古
寒稽古リハビリ親父励まされ
「有備無憂」師の書掲げて寒稽古
寒稽古面面胴小手勝負あり
寒稽古乾く間のなき剣道着
師は上座武具飾りある寒稽古
血の染みし竹刀の柄や寒稽古
寒稽古震えてをりぬ見物人
「お脛」っと少女の気合寒稽古
磨き上げ舞台艶やか寒稽古
面打ちの幼き声や寒稽古
一杯の白湯に救われ寒稽古
寒稽古ふくれっつらの赤き頬
寒稽古糊のききたる練習着
霜柱地球持ち上ぐ稽古かな