俳句庵

8月『盆一切』全応募作品

(敬称略)

盆の月工事途中の新タワー
盆用意母の背中の淋しけり
差す手より哀愁放す風の盆
排球のこぼさぬように盆の月
盆踊り高齢なれど指の反り
盆の月テールランプの続き居り
盆踊り子供が入り輪の歪
荷を降ろし帰る峠や盆の月
昭和の輪開いて閉じて盆踊り
卓球のラリーの続く盆休み
携帯で写す今風盆踊り
新盆や 四日三泊の 早きこと
流灯の別れ惜しむや岸離(か)れず
二代目の ほうろくの上 苧殻焚く
盆魂の鎮まり給ふ奥座敷
洋花も 添へてみるなり 盆支度
盆用意父母の遺影の額清む
ほおずきの香を漂わす盆の棚
送り舟供物重きや傾げゆく
若僧侶麦茶も飲まず南無阿弥陀仏
読経終へお茶を断わる盆の僧
ヒグラシと共に焚き初む迎えの火
盆棚に考(ちち)の好みし酒供ふ
新盆の祖母が手書きの「盆用品」
孫迎う用意が先や盆用意
仏膳に供えし昼餉の茗荷蕎麦
孫たちと過ごすお盆や後幾度
灯を替えて省エネ型の盆提灯
農道を疾駆す法衣盆供養
二世代のこの家育ちの盆の客
口蹄疫涙で飾る盆の牛
掃苔を頼める吾子となりにけり
地蔵盆千の灯供う念仏寺
生きて来る客は賑やか盂蘭盆会
盆休み小間の父母見る孫曾孫
はらからのまた一人欠け生御魂
思い出のめぐる灯りや盆提灯
流燈を追うてしばらく歩きけり
吾が畑の野菜の牛馬盆用意
盆踊派手な浴衣は老人会
忙しさを言ひ盆僧の茶も飲まず
盆近し五木の子守唄謡ふ
外国車乗りつけ若き盆の僧
七草の灯かり訪ねる盆の虫
先代に似て盆僧の袈裟姿
盆ごとに仏間に座る長さかな
盆支度妻に似て来し子の仕草
曙の古利根に牛歩の精霊馬
盆踊り今は昔の夜の灯よ
磨くほど浮世を映す盆の墓
縁側に盆提灯の遠き日よ
稽古太鼓鳴りては止まる盆近し
盆過ぎて皺またひとつ増えしかな
盆踊り東京音頭待ちて入る
盆の月太鼓の音のいさぎよし
手をひとつ打ちて輪に入る盆踊
新しき花緒が急ぐ盆の夜
踊れさうなれど見てをり盆踊
盆提灯神妙に持つ幼の手
盆おどり空気に祖霊あまた充つ
爆竹の精霊祭り夜は更けて
義経の流せし弓の盆の唄
提灯の無数の灯り浜送り
三回の待った許すと生身魂
生前の写真満載精霊舟
一役を空けて待ってる盆芝居
草取りに夕までかかる墓参り
好物の芋蛸南瓜盆用意
幼子も飾り手伝う盆供養
念入りに赤い信女の墓洗う
古希が背の喜々たる母や大文字
教え子の説教を聞く盂蘭盆会
裏口の迎火ひとり亡妻を待つ
夭折の子の年数ふ地蔵盆
二歳児のまつげ伏せにし魂祭
盂蘭盆や母に似てきし三姉妹
棚経が流るる裏の邦人街
盆の僧あの世この世の架け橋に
初盆や形見の小紋掛け待てり
新盆や母にもあった隠しごと
後添の妻かひがひし盂蘭盆会
大柄の父の乗りたる茄子の馬
幼名で呼ばれ振り向く盆参り
遠路きて盆の仏間に子を寝かす
身の内の風となりゆく風の盆
送り火の炎の果ての赤き月
しばらくは一人佇む門火かな
つきをみて おぼんのひやし そうめんか
流燈や幼き子らの名が滲む
盆供養 坊さん車で ホイサッサ
夜の風心して吹け精霊舟
ぼんちかく おはかのくさ きにかかる
茄子の牛日向に向けて並べけり
うら盆え こぞを偲びて 集いける
燈篭もそれぞれの生燃やしけり
ぼんがきて るすにほとけの あのなみだ
盆の月老母と二人縁で見る
ぼんのそら いちばんぼしは むすめぼし
盂蘭盆や会いたい人があまたあり
迎え火や軍服の父直立す
繋がりし未生に戻る盆の夜
迎え火や父に似た人見失う
誰彼も今は笑いて生身魂
十八歳戦死の兄に門火焚く
賑やかに過ぎて今宵の盆踊り
盂蘭盆や悲しいまでに空青き
また会える人たちがいるお盆かな
迎え火や勲章なんかいらんのに
送り火の戻らぬ人を帰しけり
サハリンの沖にゆっくり盆の月
思い出は思い出を呼び走馬燈
を偲ぶ初盆供花かおる
ふるさとは過疎にちかづく盆の月
父母恋し五山の送り火夜を焦がす
大草履 玄関にある 初の盆
子の来ずにひとり出かける迎へ盆
新盆や 墓石にかける コップ酒
盆休みバイクで向かふ実家かな
盆の客 去ってニ階に 風抜ける
聞けばみな六月生まれ盆踊り
盆休み カラスだけいる 丸の内
胡弓の音染み込む柱風の盆
盆踊り アニメソングに 沸く子供
祖母ならひ小さき手合わす盆送り
流灯や遠き想いのさざ波に
新盆や呼ばれるままに地へ降る
一人焚く門火に風の生まれけり
門火焚く毬栗あたまと三つ編みと
門火吹く風こそ亡母であらまほし
子の切符買い足してゐる盆帰り
初盆や笑顔の母の写真拭く
渋滞も年中行事や盆休み
両隣同じ僧なり盆の経
盆過ぎて常の二人に戻りけり
箒目は玄関に向く盆の家
真鍮も磨けば光る盆の家
飲むほどに昔々へ盆の夜
南無南無と児は居眠りの盂蘭盆会
兄妹親に似てきたしずかに盆
ふるさとに大きく出でし盆の月
手土産は母の墓前に盆帰り
早く死にたいが口ぐせ生身魂
耳遠きだけが病よ生身魂
門火して祖霊を迎う三世代
幼名で呼ばれ振り向く盆の径
褒章を胸に矜恃の生御魂
座ること下手な西瓜を供へけり
背を流すごとくに父母の墓洗う
盆支度疎みし姑の指図欲し
盆の墓背を流すごと拭き清む
手慣れたる姑を頼りに盆用意
本流に入る流燈の早さかな
新盆や 四日三泊の 早さかな
盆の月悲しきまでに透明に
ドラッカー書店にならぶ盆の月