俳句庵

11月『美術の秋』全応募作品

(敬称略)

美術の秋感傷的な夜を待つ
二科展の理解しかねる女人像
色彩は美術の秋に甦る
絵手紙は母の楽しみ美術展
ベレー帽美術の秋に繁殖す
芸術家おらぬ一族美術の秋
ここだけはコンテの匂う美術の秋
美術展そこそこにして京の茶屋
百号の額縁彫って美術の秋
美術展芸大の子の握り飯
照明を美術の秋に曲げている
関係者多くて子らの美術展
カンヴァスは白いままなり曼珠沙華
搬入の車激しや美術展
風さやか箱根の森の塑像たち
秋の日の展覧会のロビーかな
土を捏ね窯に火を入れ秋の風
芸術の秋と呼ばれて久しかり
準備だけ卓にたわわの秋野菜
電車去り広がる景色美術の秋
カンヴァスに秋の光りを織り込みぬ
絵心を そそる紅葉の 昇仙峡
秋澄むやモンマルトルに画家集う
目にせしがすべて美術の秋となる
シャガールの絵に踊りだす愁思かな
旅ゆきて美術の秋や舌鼓
美術の秋クジャクの拡ぐ尾羽かな
色燃へて美術の秋の立ち尽くす
美術の秋人垣出来る裸婦の像
白黒の棟方志功美術展
美術の秋羅漢も被る赤ベレー
浮世絵の二人蜻蛉を眺めをり
美術の秋デジカメを持つ石羅漢
金沢の乗って潜って美術の秋
美術の秋洩れなく揃う絵の道具
美術の秋油絵の具の匂ひかな
美術の秋青空の待つ絵描き鳥
ハイヒールこつこつ秋の美術展
上野いま美術の秋の真っ盛り
臨月の婦人も秋の美術展
呼立てば美術の秋の谺せり
色付いたイチョウ並べて紋黄蝶 
子の絵筆借りて美術の秋一夜
父真似て陶工気取り小鳥来る
秋天に孤を描きたるジェット雲
秋晴や日曜画家ら駅に会う
空撮の夜景の灯り秋の月
白鳥や重装備してカメラマン
美ら海にマンタの兆しうろこ雲
秋嶺に絵の具をやおら混ぜてみる
武蔵野の川面を渡る秋の風
キャンバスの 中を歩いて 紅葉狩り
七草を提げて婆行く遍路道
秋風に 彫刻の匂い 感じ取る
秋の暮れ一人佇む広場かな
紅葉の ゲートをくぐり 美術館
美術の秋 上野世田谷 六本木
秋山に 紅い絵の具で 彩りす
美術の秋 カンバス抱えて 西東
キャンバスに 紅葉の山 記録する
食欲に 読書スポーツ 美術の秋
キャンバスの 落ち葉の道を 散歩する
遠き日の美術の秋や文化祭
陽気に誘われ霧ヶ峰で言葉溢るる
文化祭 妻だけ褒める 路を描く
背を向けて 美術の秋に 裸婦は立ち
柿見つめ 柿頬ばりて 静物画
咳一つ 美術の秋の 裸婦あたり
紅葉色 パレットに足す 朱と茶の具
膝頭 美術の秋に 裸婦汚す
ベルニーニ ベルリーニだっけ? ベルニーニ
口紅を 美術の秋に 裸婦落とし
みんな言う 来世こそは 芸術家
腕時計 美術の秋に 裸婦外す
古都京都 先端美術は 京都から
首ひしゃげ 美術の秋よ 裸婦哀し
頭垂れ捻る字面に実る秋
吊るし柿日曜画家の筆を待つ
筆取るがため息ばかり美術の秋
空の青額絵になじむ紅葉かな
美術の秋広告誘う見ず走る
窓越しの紅葉額絵に納まりぬ
思い出す美術の秋や二科祭
ピカピカの床の映せる紅葉かな
美術館 出て夕焼けと いうアート
秋富士を真つ向にして画架立つる
秋雲の 食べ物見えるも アートかな
美術館出づれば秋の浅間山
秋の夜に 書いた恋文 最高作
美術館出でて浅間の秋の雲
子には子の美術の秋や鶴を折る
キヤンバスに飛んで来たりし螇蚚かな
小さくも美術の秋や児童画展
美術の秋黒きベレーの日陰干し
二科展を観んと高速走りをる
美術の秋紙いっぱいのママの顔
我が家にも美術の秋あり額並ぶ
美術の秋絵画展よりの寡黙
院展を巡り館出づ日暮れかな
美術の秋ピカソムンクに孫娘
孫描きし美術の秋や爺似顔
おのが手の赤絵茶碗にキノコ飯
日展に迷惑なれど立ち止る
袷着て上野へ喜寿の三人展
美術展 薄紅葉道 並ぶ列
秋日さす銀座新作江戸小紋
筆先の 邪魔をしている 赤とんぼ
文化の日約す茶会は喜寿という
待ちきれず デッサン終えて 秋を塗る
コスモスをデザインに入れ江戸小紋
楢紅葉 画板に押し込み 空見上げ
ブログには美術館好き風立ちぬ
手分けして 写生地見つけ 照る紅葉
東福寺 絵画のような 紅葉だ
写生会 モデルを包む 秋の雲
この秋を生きて美術の秋とせむ
夜長し江戸百景に迷い込む
画家めざす美術の秋や古稀迎ふ
秋深し 美術展を 巡り行く
絵手紙や美術の秋をやり取りす
パレットの 赤黄の背丈 短かけり
絵の具買ひ美術の秋に備へけり
騒ぐ子ら 美術の秋に しんとなる
ケーブルカー美術の秋に分け入りて
この景色 息吹吹きかけ 秋染める
空青し美術の秋の貌になる
日展に疲れ上野のベンチかな
伎芸天めぐる 美術の秋の旅
スケッチの モデルに見とれ 頬染めて
庭に出て 美術の秋の骨休み
紅葉が 山の用紙に 色をつけ
はろばろと恩師の名ある美術展
里山を 被写体にする 秋の空
秋の色描ききれずに絵筆おく
赤と黄の 画材片手に 秋の山
美術館めぐり上野の森の秋
田園に 案山子着飾る モデル並み
カンバスに絵の具かさねて秋を描く
描きたいな 山のお洒落と お化粧を
イーゼルを手に秋を追ふ芸大生
天高く 芸術意欲が 肥える秋 
日展に入選したとメールくる
友からの美術の秋の案内状
画架たてて絵筆をふるふ秋の山
百号のマッターホルン美術展
美術の秋空は大きな額となり
待ち合わせして二科展へ入りけり
院展を出れば墨絵の夕間暮れ
絵の模範自然が描く秋景色
学童の気宇の書体や書道展
秋麗ステンドグラス洒落たカフェ
二科展に教え子の名をみつけたる
裸婦像のふくよかなる美術の秋
写生会空の青より塗り始め
ミレーより美術の秋を教わりぬ
日展を出でて昂ぶる芸術論
美術の秋黄金のベレー帽被る
思い出を心に描く里の秋
十時より美術の秋の開館す
月で観る秋の地球美術環
彫像の 肩にもみじ葉 降りかかる
秋の風絵本を捲る追い風に
硯石の 海静まりて 秋深し
山の秋孫とクレヨン譲り合う
油絵の 中の少女の 夜長かな
地の色に近付く秋を背に写す
秋冷を 裂きて進むや 器楽隊
海の外一葉描いて秋送る
空の青美術の秋の来たるかな
幼子は 美術の秋より お饅頭
西郷どん美術の秋の上野かな
青赤黄 美術の秋の 山模様
日展を廻り一人の喫茶店
山歩き 美術の秋を  みつけたり
天才か美術の秋の孫壁画
古美術の秋の斑鳩飛鳥寺
色重ね美術の秋の空の蒼
天平の甍や美術の秋高く
月照らす すすきを筆にと 思い込め
足繁く美術の秋の上野山
秋暑し 思い起こせば 霜がおり
一山を美術の秋に染め給ふ
空見上げ 思いふけると 渡り鳥
紅葉の わびさびに乗り 筆はしる
絵襖のみすずの鰮群れ泳ぎ
農を継ぐ寡黙な町の美術展
実柘榴や木彫りする人描く人
自画像が人待ち顔の美術展
老芸妓容極まりて秋扇
二科展の裸婦を仰ぎて十余人
ピカソ展秋の迷路に迷い込み
日展を出ていっぱしの絵画論
裸婦像の豊かな乳房桃のなる
日展にゴッホの顔も来ていたり
金木犀香る煉瓦の美術館
たいくつでかくれんぼする美術展
鰯雲にわか画家なる空の下
市長賞燦然秋の美術展
赤々と紅葉燃え立つ画廊かな
ひまわりや美術の秋のゴッホ展
キャンパスに秋の果実は実りけり
秋の日の桃山障壁画展混む
根岸より上野の秋や写生行
日展に師の名を見つけ美術の秋
美術館上野はいつか紅葉なり
美術展俳画の秋として参加
絵が好きな娘描きし赤とんぼ
加齢臭消して美術の秋と成る
シャガールの実りの秋や天使翔ぶ
絵手紙を美術の秋とはあまりにも
ゴーギャンの究極の問い鰯雲
この時ぞ所蔵の名画の秋展示
エッチングまだやってるか秋の空
ベレー帽似合う人らの秋展示
美術館 心の秋に 立ち止まる
秋の日や高齢パスで見る名画
待ち合わせ 落ち葉に埋まる 美術館
紅葉の 湖畔で開く 写生帳
モネの絵に 憧れ寄せて 秋を観る
秋風や 眺めるだけの 画廊前
秋麗ら 歩調を合わせる 美術鑑賞
押入れの 絵筆取り出す 秋の夜
向こう山 紅葉遠し 美術館
名画見る横顔涼し秋の暮れ
肖像画 心にしみいる 美術の秋
ユトリロの街に秋の燈灯しけり
北斎と小布施によって浪漫する
裸婦像のつま先秋の陽を描く
青春の美術の秋や古寺めぐり
裸婦像の最後の衣や台風裡
美術展自画像一人未提出
自画像に愁思の余白残しけり
美術の秋賞に縁なき我が暮らし
午後の部やダリの時計にある残暑
美術の秋我にも小さき志
嫁入り用箪笥てふ桐黄落す