俳句庵

7月『香水』全応募作品

(敬称略)

香水や魔性の単衣羽織りけり
香水やまだ見ぬパリにあこがれて
香水のひと信号を右に折れ
香水や君は近くに居るらしき
大人びて香水の瓶透かし見る
香水や遠き記憶を抱きしめて
歌劇観る香水の香の隣より
ふりかえる香水の香の似合ふひと
香水や受付嬢の深き礼
銀ブラや香水の香の似合ふ街
香水のつけどころなき褥暑かな
香水や自分の好みひとつあり
香水のつけどころなき天女かな
会釈され香水の香の気にならず
香水のつけどころなき庵かな
香水の強かる娘気も強し
母さまのミツコの香りティータイム
香水や病院坂の夜勤明け
弟にあげる香水選びをり
香水や忠魂碑は茜色
香水がかすかに残る彼の部屋
香水や文庫本より立ち上がる
小麦色フィジーが似合う海辺にて
頼りなく香水残る瓶倒る
耳の裏少し香水つけて出る
香水や母の形見の香りゆく
脱皮するたびに香水代わりをり
香水や人柄ほのと匂はせて
香水や口付け阻む香の強く
香水の兄嫁遺し小さき瓶
鏡台に香水びんの雑多なる
香水の毒と名乗りて誰と果つ
君抱けば香水ぷんぷん遠き日よ
香水に誰のどこぞの土産かな
香水や悪女願望しかとあり
呼び覚ます香水吾とすれ違ふ
香水に嘘をかくして君と居る
移り気の香水窓を開け放つ
香水を少し濃くして憂さはらす
褌にシャネルの五番ひとたらし
香水瓶空になるころ恋もまた
香水の洪水女性専用車
さよならの香りは今もこの香水
封切らぬ香水瓶を遺したり
瞑想を香水の香が乱しけり
香水を一吹き妻はクラス会
香水を 盾とし今日の 人となる
香水の匂う柔道部室かな
香水を 友とし今日の 人となる
今夜また忍法香水霧隠れ
膝曲げて香水つけて妻変わり
おもてなし香水の香と京ことば
伯母が来た応接間にはあの香水
大原野香水の香のいずくより
「毒薬」と呼ばれた香水いま何処に
香水や貴婦人のごと演じたし
香水が後に並ぶ参観日
香水の香隣席越しにひそやかに
香水のこつこつ靴を鳴らしたる
香水の香で育ち来し旅役者
香水やこの頃私語の多かりき
朝と夜香水変えて出勤す
香水を閉じ込め1ミリシーベルト
待ちぼうけ香水の香のうすれゆく
香水と銀行印と並びけり
香水や女心のうらおもて
香水や半分からは早く減り
香水の一滴セーヌ川の水
香水をつけ大胆なことを言ふ
香水や老いにもありし恋ごころ
香水の小瓶の底に過去の夢
いただける香水使わず減りにけり
介護士の来る日香水かけて待つ
香水の瓶の鏡に映りをり
潮の香の次は香水夜の貌
香水や隠しきれざる首の老い
容なき香水ふって美のかたち
香水の瓶の余白を過去といふ
香水に追われて逃げるシャンゼリゼ
香水の母を遠ざく少年期
香水で感情までが気化をする
香水のほのかに乙女さびにけり
袖触れし香水の香や仄かなり
天寿なる母の遺品に「タブー」の香
香水をつければドラマあるやうに
控えめな香水付けて魅力上げ
香水に縁無き妻を愛ほしむ
香水に隠されている恋心
香水の かすかな涼風 通り過ぎ
風ととも香水君に届くけり
劇の題 見て香水を 定めをり
シャガール展かの香水とすれ違ふ
香水の 香が入り混じる 専用車
香水を掛けて想ひはシャンゼリゼ
還暦に 似ぬ香水の パリみやげ
香水や致死量秘めし琥珀色
婚活に 新香水の 仲間入り
香水の壜に透けゆくパリの夜
香水を 公園デビューで 試す朝
香水が一歩遅れて自己主張
香水で君だとわかる仲となり
香水と言ふ透明の軽い服
ないものか地球汚染効く香水
一滴のシャネル五番に抱かれをり
香水を私も付けてとマネキンが
風穴に香水の香やわれ先に
日差し避け石山にしみる香り水
それぞれに思ひ出すこと香水瓶
香水のほのかな席を譲られる
女子会の幸せ求む香水瓶
プレゼントされし香水持て余し
香水や会ひたき人に出会ひけり
手付かずの香水遺し母逝けり
香水や思ひ出したくないこともあり
泥濘に香水の瓶覗きけり
不幸呼ぶ香水も確かにありぬ
石鹸の香水となる被災風呂
魔女となる香水作りてニヤ笑ひ
あの夏を想い起こせしシャネルかな
香水やエレベーターといふ個室
苦潮にシャネルの瓶の漂えり 
香水といふ小悪魔をいとしめり
香水とともに去りゆく緑髪
香水の香りふんはり昇降機
香水を味方につけし妻の脇
香水を纏ふ小悪魔やつて来る
香水の似合ふ一日や誕生日
香水やプラハの路地のハイヒール
香水を米寿の母は選びをり
香水や新派女優の鼻濁音
一滴の土産の香水布団寄せ
身のほども知らぬ少女の初香水
香水の好み違へて姉妹
すれ違う香水どちらもゆずらざり
香水の母を一度も知らざりき
香水をピシッとまとうシャツである
亡き母の文箱に空の香水瓶
香水の軽き一滴句会かな
香水のすれ違ふとき敵意あり
青き日の緑のインクや香水瓶
香水やときには夜叉ともなるをんな
香水や並木の朝のクールビズ
鏡台に減りもせぬまま香水瓶
宙覆う微笑む美女や香水瓶
地下鉄の風に香水かすかかな 
タップ踏むたびに香水濃くかおる
モンローの纏いぬ香水伝説に
香水やファッションモデルのターニング
香水や銀座の夕はそろそろと
舞踏手の躍動香水濃く匂ふ
パヒュームのひと押し舞つて夕の霧
香水や胸のブローチきらめけり
香水の香を残しゆく柳腰
香水やきらりと光るネックレス
香水を小指につけて耳たぶへ
再会の女の香水同じもの
香水を変へ人生の転換期
午前9時香水瓶に射す光
香水や友の似合わぬ厚化粧
花開くクチナシは香水を振る
香水や姿勢正して出番待つ
服よりも高価な香水まとうひと
香水の減らぬ子育て世代かな
風ゆるく立ち去りし人の微香水
香水の香の混ざり合ふ控室
月低く夜はこれから微香水
香水を変へて勝負の年とする
奥箱根湯気に香水差し交じる
香水の曰くありげな名前かな
香水や背筋伸びたる後ろ姿
香水の仄かに残る余韻かな
香水やときめき抱き逢いに行く
香水の作法教わる如くして
鏡台の香水ビンに偲ぶ母
香水の目立たぬような自己主張
残り香を残し静もる夏座敷
デパートの入れば香水売場かな
練り香に好み夫々京土産
手掛かりの香水の香を残し行く