俳句庵

2月『きさらぎ』全応募作品

(敬称略)

きさらぎやここが人生分岐点
きさらぎの風に水面の波だてり
きさらぎや不遇な時はじき終わる
きさらぎに入りても減らぬ未決箱
きさらぎやあれこれ迷ふ選択肢
きさらぎや今こそ一歩踏み出さん
きさらぎやまず新しき時刻表
きさらぎや酒が練れたと便りあり
和菓子屋はきさらぎの色あざやかに
きさらぎや雨待つ気持ち軽やかに
きさらぎのオカリナの音弾みけり
きさらぎや元気でいるかと葉書来る
如月や今日もリスボン雨に雨
如月や富士と対峙の観覧車
如月や孤高の猫と同居する
如月や歯食いしばって米を研ぐ
きさらぎや渡るひとなき二重橋
きさらぎや淡き光りの伽藍堂
きさらぎの川面のんぼり糊落し
きさらぎの言葉の端の温かみ
きさらぎや時違へざる大時計
きさらぎの水飲む内視鏡検査
きさらぎや歯科へお礼の園児の文
牛の声きさらぎめいて遠くより
如月の原野抜け来る汽笛かな
きさらぎやベージュの白衣着ける医師
如月や大仏鎮座瞑想す
きさらぎや仮設住宅朝餉時
遠吠えの如月らしくなりにけり
きさらぎの水は冷たし米をとぐ
きさらぎに耐へて明日の北の町
きさらぎや空の端なる一つ星
如月や絵馬ひしめける天満宮
きさらぎの天地かすかな動きあり
きさらぎの陽だまりに置く鉢ふたつ
如月の日ごとに変わる雲の貌
如月の頃には思いだにもせず
如月の袋小路を抜け出しぬ
如月やもうすぐだよと言い聞かせ
如月の小高き丘に来てをりぬ
如月の先送りするあれやこれ
如月のぽつぽつと人増える町
如月の夢や大間の太公望
如月や尾のやや揺れて二尾の鯉
竹割るる生更ぎ遠き名残り雪
きさらぎの赤き実わずか数え得る
如月の響き初めたる山の音
きさらぎの「まず咲く」と言ふ誕生花
きさらぎの朝日まとひて花娘
きさらぎや恋とも知らず小さき胸
きさらぎや明けゆく富士の濃むらさき
きさらぎの刻字深めて憂国碑
きさらぎやネイルアートへ金加ふ
きさらぎや鏡のにきび又三つ
如月や坂を下れば光る海
如月の風に耐えよと風吹けり
如月や娘のメール明日帰省
如月と君が響かす声に惚れ
如月や夜明けと始発あのホーム
ふるさとの如月や夕陽しみ入る
如月のしのつく雪の永さかな
露ふくむカーテンの音二月かな
哀しみはみな如月の涙かな
如月に昔の冬を尋ねけり
逃げる日々追いかけている二月かな
如月や滑って転んでいらっしゃい
如月の夢で逢いいたいあなた哉
如月に明治神宮初詣
如月の眠れぬ夜は俳句詠む
如月やこおりつくよな寒さかな
如月や春は名のみの寒さかな
如月や月と競うか東京タワー
如月に寒さしみじみ感じおり
ピッコロをきさらぎに吹く少女かな
如月や最後の客となりたまふ
衣更着早も仕舞ひし縄のれん
梅見月供へし酒の飲み干しぬ
手土産のチョコの苦きや雪解月
如月の朝は不覚の二度寝かな
寝付かせて初花月の暮れにけり
如月や首都東京にランナー来
如月やどこもかしこも気もそぞろ
如月や富士の稜線緩びをり
如月や書棚に探す山家集
如月や先人の歌思ほゆる
きさらぎや園芸本を買い求め
如月の雪に尼僧の尚白し
如月の雪に籠るや僧の口
きさらぎや校門出づれば途それぞれ
きさらぎやふと口づさむ「早春賦」
きさらぎやことこと都電荒川線
きさらぎや少女はすでに秘密もつ
きさらぎや嬰の両足宙を蹴る
きさらぎの雲に抱かれて夕日落つ
きさらぎや甥もそろそろ思春期に
如月や水平線に富士の嶺
如月や女の口と月のこと
きさらぎのジャズの空気を呼吸する
きさらぎやチョコはハートでリボンして
きさらぎや変はらぬことはそのままに
如月やまだ会わぬ人待つてをり
如月や犬の肉球走り出す
如月の山河を渡る風の色
きさらぎの畑打つ人の影淡し
如月の沖のみ光る海黒し
かたまって如月の鯉流れの底
きさらぎの空響かせて鳥発ちぬ
きさらぎの虹片脚を鉄橋に
きさらぎの種採り大根太き胴
きさらぎや水切り石の届く岸
きさらぎのスカート丈を競いをり
如月や小鳥後追ふ畑仕事
きさらぎの不安は残り一ヶ月
きさらぎの艇庫に巨き南京錠
如月やロダンの像の長き黙
きさらぎや夜更けを返る靴の音
きさらぎや痛み鎮まる予感あり
立話し風もささやくきさらぎや
農夫婦鼻歌混じるきさらぎや
きさらぎや線香の煙ながれをり
きさらぎの語感やさしき文綴る
如月やきりきり回る竹とんぼ
如月や襟で隠せぬ貼り薬
遠歩きまた如月の橋渡る
如月や矯めつ眇めつ楽茶碗
如月や朝の散歩に友出来て
如月や老いて夫婦は手を繋
きさらぎや老いの心もけせらせら
如月や恋の季節の始まりぬ
如月や山本海苔の梅茶漬け
如月やそろそろ鼻の憤りて
如月や隣の美代の色付きて
如月や大人の化粧習い初む
きさらぎや入れては出してランドセル
きさらぎの延命水のほとばしり
きさらぎや墓地より望む海の色
飛翔して旅に備える二月かな
きさらぎの西郷像のたくましさ
如月は命萌え出す季節(とき)招き
風の色風の匂いも如月に
きさらぎは一雨ごとに寒さ押し
如月で浪人生活終止符に
如月や胡麻味噌和えの山の幸
如月や精舎震わす鐘の音
きさらぎの鳩のはばたく善光寺
きさらぎの雲をはるかに潦
きさらぎのポプラは天を恋ひにけり
きさらぎと呟く唇の寒さかな
きさらぎのきらきらきらと伊豆の海
如月の欅へ頬を当てにけり
如月の叔母の銘仙あかね色
如月の音跳ね返るビルの街
きさらぎの風の起こした感嘆符
如月の弦引き絞る弓道部
ブロンズの獅子如月の百貨店
如月のかけ声凛と剣道部
如月や四季ある国の有難き
如月や人事異動のための部屋
如月の乾きしままの植木鉢
如月やうなずくだけの立ち話
臨月は如月なりと答えたり
如月の土手を歩きし昼休み
きさらぎや合格祈願の絵馬の数
きさらぎや旅の誘いの来る頃か
きさらぎに受験生なる身の構へ
きさらぎの海辺山辺に風余る
きさらぎの耐へたる富士か露天風呂
きさらぎの奥美濃の山ただ深し
きさらぎを待ちしか父の葬の列
きさらぎの地に樹に水に息ひそむ
きさらぎや明るき色の帽子買ふ
きさらぎのなほも酷なり禿には
きさらぎや一衣着せたし露座仏
きさらぎや水音かそけきさざれ川
きさらぎや寒さに節電身にしみる