俳句庵

3月『さくら』全応募作品

(敬称略)

あの人をさくらのころにまた想ふ
桜咲くこと送辞にも答辞にも
南から北へとさくらおひかける
花疲れまづ腕時計はづしけり
夜桜やふたりに言葉など要らぬ
隧道の上の古道の山桜
うす桜あの人何処にをるのやら
雪洞が点され花の濃くなりぬ
雪洞の明かりで愛でるさくらかな
夢覚めて朝の桜は散り初むる
さくら咲く待ちに待ちたるその報せ
定年に桜の花は優しかり
夫に留守たのみて外出花の昼
朝ざくら 潮目浮き立つ 音戸の瀬
はじまりは夜のさくらとむつみあう
今年また千鳥が淵の桜かな
さくらさくひとなみふたなみさくらさく
桜狩鞄の中の江戸古地図
さくら咲く小さな歓び大事なり
墨堤に数多の橋や桜狩
さくらさくらボートで恋の千鳥ヶ淵
羽衣を拡げ三春の滝桜
弁天の涙を砂にさくら貝
咲き満ちて散るを惜しまぬさくらかな
さくら二分残りを咲かす心かな
桜咲く晴れ着の千代の生家かな
焼きそばのソースが誘ふさくら祭り
子育てを楽しむための桜かな
さくら貝引き寄せてゐる白き波
城の堀さくらに満ちて病癒へ
さくら湯のゆつくりひらく大安日
病室より城の桜を愛でてをり
満開のさくらに空の隠れけり
満開の桜の愁ひシャンパン飲む
満開の桜零るる築地塀
デートにも決まりのありて初桜
眼前をさくら前線歩みをり
夜桜の咲きあふれジャズ聴ひてをり
あの人と見たいと思うあの桜
空高くあまた蕾の山桜
君に舞う桜が僕だずっとそば
しだれ桜真下に入りて羽音聞き
桜だね桜ですよの声は風
み吉野や山また山みな遠桜
桜待つ心はいつも桜色
八重桜夕日射し来て華やげる
桜湯や花の鱗の人魚出(い)ず
大空に膨らみしかと桜の芽
約束の桜の下で吹かれけり
遠山の空黄昏て八重桜
女子校の庭のさくらや散るもよし
新しき席から見ゆる桜かな
ご維新の戦偲ぶる花明かり
乳母車桜の下に来て止まる
暁の闇に開けり花の色
石仏の埃を払う花吹雪
散るも好し 極楽浄土や 滝桜
花吹雪弁当箱のご飯粒
城閣へ 火の手と迫るや 山桜
ネクタイを外して歩く桜かな
隅田川 橋をつづらの 桜狩り
吉野来て夢のひとつの桜かな
散るに散る 桜や風の 舞い姿
故郷の桜並木も盛りかな
御手洗へ 舞い込む桜を 分けにけり
振り向けば桜吹雪の中の君
別れ舟 さくら吹雪きの 惣五郎
現(うつつ)てふ夢の続きや花の夜
夕桜選ばれ鬱と暮らしをり
約束は桜咲く頃だつたはず
こともなく過ぎし一年桜咲く
桜咲く美(は)しき日本に生まれけり
ローカル線いずれの駅もさくら満つ
今年またわが一本のさくらかな
カンバスに描く桜にさくら散る
地より湧く限界集落のさくら
障子窓開ければさくら溢れくる
ひとひらの桜薫るや源氏香
散歩より戻りし犬の鼻に花
婚の膳 端にさくらの 二三弁
トンネルを出ればさくらのトンネルに
長らえる 一つの秘訣 桜見る
県境の吊橋渡って桜来る
被災地の 心を癒やす 桜かな
化粧濃き女の庭の八重桜
病む母に 見せてやりたき 桜かな
今日辺り誰か見に来よ庭桜
早朝のさくらの私語を聴きに行く
里桜いつも自由に撞ける鐘
美化されて桜と散りし特攻隊
八重桜生きて楽しむ戦中派
読本に咲けし桜や一年生
朝桜見上げて急ぐ勤め人
老健の軍歌も出で来る花見酒
背景の空の青さや初桜
花弁や詩集に押され五十年
山桜夫に従ひ男坂
おい狐紙幣に変えろ八重桜
空の色川の色変へ桜散る
闇に浮き闇に吸わるる滝桜
万色を舞はせる如く桜散る
介護士に桜湯頼む寝起きかな
花蘂に潜むや日本人の恋
滝桜朝の静寂を流れ落つ
花といふ少し後より香るもの
押花や桜の栄華閉じ込めぬ
夜桜に明日を信じて疑はず
大桜樹齢百年母百歳
桜散りやつと踏み出せたる一歩
老さくら崩れる形に土手を埋め
桜咲く吉報を待つ受験生
夜桜や東京音頭で散り急ぐ
復興と満開を待つ桜かな
ああ三鬼城にさくらはよく似合う
宴会の花咲乱れお花見で
握手して桜の下の別れかな
寒さにも必死で開花の時期を待つ
さくらさくら詩情の方へなだれ咲く
西からの開花予想あと少し
読本は「みんなよいこ」や初ざくら
去年に似て去年にはあらぬさくらかな
樹皮のみとなりしさくらの咲きにけり
日本の津々浦々を愛でる花
乗り継いでさくら見にゆく根尾の谷
地に化粧するがごとくに咲くさくら
親疎むことのさみしき夕ざくら
黙すひと声あぐるひと見るさくら
マドンナを真中に友やさくらの夜
ベビーカー花愛でるごと小さき手
蝶もろとも川越すさくらふぶきかな
集合の写真に合わせ待つさくら
凛々と桜道中花魁や
さくら咲き厨に母の音のせる
一隅を白く大島桜かな
ふたたびは開かぬ窓に桜花
肩たたきさくらの空にわらべ唄
さくら待つ父を朝に呼びにけり
荷車のわだち残りし山桜
夜桜やあと一杯と酔ひにけり
朝桜カタンカタンのランドセル
海を越へ誰ぞ伝へし櫻花
桜餅笑い上戸の児と食べる
みちのくを奮い立たせるさくらかな
孫通ふ 車窓の母校 さくら五分
さくら咲き大きな村となりにけり
人生の節目を飾るさくらかな
桜咲きうずうずしてる旅鞄
春酔いや 降る朧月 散る桜
名物は限定五十個サクラパン
一年を 一日に散る さくらかな
桜咲き釘打つ音の小気味よさ
さくら五分 夢を埋めたる 秘密基地
桜咲く去年は二人で見た景色
目つむれば遠き日のあるさくらかな
桜咲きひとつ手前で降りるバス
国破れ統治変われど桜咲く
文人の墓に手向けのさくら咲く
花吹雪毀誉褒貶の人生さ
小昼とる桜の下の農夫婦
筵敷き沢庵齧る花見かな
さくら咲く一年生の前ならへ
英霊を偲ぶ遺族に桜咲く
鎮魂の桜吹雪でありにけり
みちのくに勇気与える花便り
夕さくらソース焼きそば山のごと
桜咲く内定通知を母に出し
さくら舞ふ古城の濠の大舞台
惜しまれて惜しまれ桜散りにけり
風葬の山より桜吹雪かな
山里が桜に押され動き出す
曳き売りの婆の魚屋に花吹雪
山近く桜に埋まる本籍地
花散るや身ぬつ流るる川を堰く
農作のサインくつきり桜咲く
羅漢さま石の福耳桜のせ
列島は良きと桜の列車旅
ものごしのゆかしき尼や遅桜
旅カバンさくら花片を持ち帰る
露座仏の半眼ぬらす花の雨
山桜咲く山中に訪う父母の墓
どこまでも川を抱きて桜咲く
ワイパーにこぼるる花の二三弁
さくら散る今わの際の美しき舞
すれ違ふ人も旅人さくらかな
染井の名残りし町の桜かな
花衣袖を通さず母逝きぬ
校門に出会いと別れみる桜
切れ長の目の御仏や花の寺
夕桜ひと駅だけの恋ごころ
逢う人のみな辞儀深き花の昼
靖国の貴様と俺の桜かな
深山の桜明りのひとところ
火の爆ぜて花眠らせぬ花篝