俳句庵

9月『月』全応募作品

(敬称略)

埼玉県     ―
今生の舞台を照らす月明り
背泳ぎや真上にありし昼の月
月面に空気なかりし星条旗
岡山県     名木田 純子
湯中りをするも野風呂に月を待つ
月影を乱して船の通り過ぐ
月明りたよりに辿る鄙の宿
埼玉県     小玉 節郎
名月の貼り付いたまま赤城山
ゴロリ寝て中窓障子に月を見る
記憶から月を掻き消す酩と酊
月ひとつ月の名所は数知れず
東京都     蘭丸
名月や借家の床の傷目立ち
裏木戸にリア王が立つ月見かな
上戸さえ幾多呑まるる月見舟
東京都     安西 信之
月光や怨み辛みは人の常
外遊の豪華客船月天心
ほろ酔へば月の潮路を行く如し
もう一つ月がほしいと泣く子かな
漁火に魚群閃光月天心
愛知県     野村 修三
月明や一家で窯に火入れ式
月明やゆるりと廻る観覧車
月明や一音に賭く調律師
中天の月や水郷句碑の群れ
月明や河の流木岸に着く
千葉県     横井 隆和
靴跡の 残れど今宵も 月は月
欠け行くも 満ち来る月も 楽しけれ
銀ブラに ネオンが灯る 夕月夜
満月に 魅せられ登る スカイツリー
大阪府     永田 蓮葉
月さして社はさらに清らなり
長野県     秀山
日中の 酷暑忘れる 月あかり
埼玉県     哲庵
湯上がりの君待つ刻や月涼し
月天心銀座服部時計店
月の海携帯電話群れ泳ぐ
月光を浴びて変身磨崖仏
仮設窓開けて月光差し入れぬ
島根県     清水すず
中天に半月赤き終戦日
月を待つ湖上にゆるる船の影
踊り果て櫓に傾ぐ赤い月
大阪府     太田 紀子
名月や千戸の団地照らしをり
名月や終バス去りし停留所
名月や山門固く閉ざされり
名月をともに見し子の便りなし
愛知県     山歩
佐久と諏訪結ぶ峠や月明り
名月や峠の宿の外厠
満月や山の露天湯独り占め
夕月や村のはずれの常夜燈
名月を映す貯水池満々と
北海道     飯沼 勇一
島立ちの児の見おさめの島の月
観覧車月の高さに登りけり
車窓より月のうさぎを見てをりぬ
叔母の通夜月の滲んでをりにけり
見あぐれば鉄骨に月堂々と
栃木県     長浜 良
満月の天空にきて動かざる
天心の月へ背なの子反り返る
三方に不揃い団子望の月
三重県     平谷 富之
どうしても月より君に行く視線
大阪府     文香
山嶺のみな真新し今夜の月
月の浜波をまくらに出でる船
さよならの言葉は言えず月仰ぐ
塀の上に寝そべる猫の月見かな
月天の忌日の娘に語らひぬ
東京都     岩川 容子
名月や茶室に飾るまるき壷
子規庵の路地裏暗き月明り
いくたびの転生なるか満の月
広島県     安冨 正則
名月やほのかに白し州浜かな
東京都     いづみ
大雨の過ぎたるあとの月白よ
待宵の母はちひさくなりにけり
雲の峰同じ色して昼の月
無造作に別れて悔やむ十三夜
月の雨灯りほどけてエアポート
富山県     岡野 満
名刹の伽藍の闇へ月明かり
昇りつつ小さくなって青い月
熊本県     貝田 ひでを
月観つつ残業の父門に待つ
佳き人を駅まで送る月の道
月今宵赴任の父にメール打つ
神奈川県     長瀬 正之
妻の手に残る潤い望の月
月光を溢すことなく飛騨盆地
残業の目途つく窓の外は無月
登り来て姥捨山の望の月
月天心7人の敵大手町
兵庫県     山地 美智子
ひとところぼやけしままに月渡る
黒雲に遮られつつ月渡る
コンビニへ出かけ月夜と知りにけり
月の出や棚引く雲の夜も白し
アルバイト疲れて帰る月夜かな
山口県     ひろ子
窓開けて月光あびる静けさよ
大阪府     瀬戸 順治
月ひとつ浮かべて海の揺らぎけり
東京都     村上 ヤチ代
外つ国も程無く同じ月出でぬ
東京都     岩崎 美範
名月や午前一時の隠れ宿
埼玉県     冨野 泰啓
いつしかに寝息の妻や閨の月
月の夜の訃報書取る手暗がり
静脈をナースの探る月明り
先客の月のこぼるるひとりの湯
寒月へ離陸許可待つブロペラ機
東京都     笹木 弘
月天心真下に歩く影法師
九十九里の波を包みし月の夜
月の底手に届きそう観覧車
気仙沼の海を鎮めて月渡る
波の無き硯の海に丸き月
埼玉県     守田 修治
銀ぶらや絵の具にはなき月の色
月光に濡れるにまかせ少女ゆく
月高く終い湯となる桶の音
神奈川県     佐藤 博一
てのひらに乗せて見たきや今日の月
大阪府     横山 泰典
単身の夫を見送る月の駅
満月やちよつと立ちよるたこ焼屋
雲ひとつなくて不満の月の客
山口県     山縣 敏夫
愛犬に家路を急かす夕月夜
妻は旅今宵手酌の月見酒
千年の君を想うて星月夜
縁側に月見団子がおわします
四十年夫婦の見遣る月見かな
千葉県     伊藤 和幸
澄むこころ月のしずくに濡れるごと
月天心息をひそめて吸ふ空気
黒猫の舞台が似合ふ月の夜
弓張月火の見櫓は古びたり
東京都     ―
名月や 雨戸一枚 閉め忘れ
望乱す 鯉の背鰭の もどかしく
東京都     紫泉
消し忘れ ラヂオが望を 吹き替える
名月や 読み止(さ)し頁へ 栞さす
東京都     本田 しおん
居待月 アルルの女 聴き浮かれ
窓吹くと 望なお更に 真ん丸く
大阪府     三木 由紀子
救急車はたと止まりて無月かな
神奈川県     村上 芳子
黒雲よどけと現る梅雨の月
出てみれば道いっぱいの盆の月
月の下夜間飛行機灯が流る
明朝の酷暑思わす赤き月
熱り残る瓦の上に月赤く
大阪府     津田 明美
大沢の池を手酌で月掬う
十五夜と二人三脚影法師
雲散らし荒磯の岩に夜夜の月
全て世はこともなきかな月明かり
二人して影絵となりし良夜かな
長野県     木原 登
愛犬の墓にも供華を盆の月
白樺に降る月光の無尽蔵
北アルプス雲の平の今日の月
みちのくの旅は一人の月の秋
徒労てふ言葉つぶやく十三夜
埼玉県     大野 美波
名月やみんなこぞってもぎにけり
月光と愛がしずしず降ってくる
名月や変わらず想ってくれる母
名月や名を残したる偉人達
少年のランプの灯秋の月
兵庫県     紫水
月蒼しテントを揺らす風の音
高遠の月と流れし絵島かな
月の夢幽かに残す朝茜
岩峰や兜のごとく月凛と
三日月や山山山の信州路
島根県     よし
満月のかぐや姫かな月下美人
神奈川県     守安 雄介
月夜道終の住処へ二十分
三日月やテロ無く過ぎしニューヨーク
見えずとも手と手で深む星月夜
百億年前の火も見ゆ星月夜
地球の出宇宙時代の月景色
神奈川県     佐藤 博一
灯を消して月の光を食卓に
東京都     岩崎 美範
故郷の母は達者か夜半の月
神奈川県     川島 欣也
山峡の月天心へぬーつと出で
地震の痕物陰失せし月明かり
灯りけし月の明かりを招き入
黒猫の横切る甍月天心
上弦の犬の遠吠え月赤し
神奈川県     佐藤 博一
これよりは月の名美しき夜夜となる
千葉県     飯島 史朗
月明かりマーラ―聞きつつ歩幅伸び
北の大地で見た月の大きさよ
銭湯の帰りはいつも父と月
新潟県     近藤 博
寝,(い)ねがてや飽きざるほどに今日の月
たたなづく峰にあまねし月昇り
月影や湯面にただよふ露天の湯
月渡り光の帯や信濃川
可惜夜(あたらよ)やいくたび床離(か)る月今宵
山口県     ひろ子
尺八のながれし境内月を待つ
満月を知らせて母と長電話
埼玉県     岸 保宏
月の出や牛食む草もまだ温し
稜線の一瘤あたり月出ずる
月満ちてラジオの寄せも落ちとなり
月と山持ちつ持たれつ酒談義
神奈川県     佐藤 博一
名月を天上桟敷の客として
岐阜県     金子加行
全開の一晩とする月のドア
残業に月を友とし耐へてゐる
留守番を月に守られ独り寝る
終電で帰れば月が出迎える
ふるさとにさらに大きな月が待つ
東京都     杉本 とらを
満月の下にジョギング二三人
ふるさとの旨酒あふる盆の月
名月を取りて届くる得意先
神奈川県     佐藤 博一
月満ちて銀河鉄道発車せよ
熊本県     貝田 ひでを
妻と手をつなぐも久し月今宵
背の児に月の真実説き聞かせ
埼玉県     柏木 晃
戦無き空に母似のお月様
路地裏の四角い空に望の月
中天の刻印として今日の月
背なの子が指さし歌う望の月
屋台酒コップに浮かす小望月
千葉県     高橋 三恵
ゆったりと月に語らむ至福時
岐阜県     ときめき人
満月に原爆ドーム照らされて
北海道     江田三峰
知床の五湖に映しぬ今日の月
摩周湖の霧も遠慮や月今宵
フルムーン寝台列車月今宵
玉砂利の声聞く伊勢の観月会
龍笛や俄かに曇る今日の月
愛知県     石川 順一
一日に仮眠三回月のごと
月を見て全てを韜晦したくなる
月に居る動物新たに選びたし
自らが月であるなり昼間から
月に石投げる気も無く歩き行く
宮城県     石川 長二
縁側の水桶覗き月見かな
自転車で月を追いかけ家路かな
年老いて妻と歩きし月夜かな
宮城県     石川 初子
残業や月のあかりと帰りけり
愛知県     鈴木哲也
朧月アンソロジーで作ります
食後にはコーラ一本夏の月
月灯り文字を調べて四苦八苦し
朧月おくび出る出るつまらない
夏の月コツコツ励む実用書