俳句庵

2月『余寒』全応募作品

(敬称略)

神奈川県     佐々木 僥祉
余寒の子早う帰れと急き立てる
県庁へ転ずると告ぐ余寒の日
東京都     蘭丸
細腕が捌く余寒の古書の市
抑留の詩に噛みつかれ余寒あり
散骨の舳が揺れて余寒かな
東京都     ゆり
富士の山 なおくっきりと 余寒かな
余寒なほ お茶を注ぎし 魔法瓶
受話器越し 声透き通る 余寒かな
焼き餅の リクエストあり 余寒かな
大島に 長手袋の 余寒かな
神奈川県     溝口 努
地を舐めて 鐘の音冴える 余寒かな
海沿いの 隘路すり抜け 余寒かな
余寒なほ ねこ丸くなる 抜小路
指切りで 眠気の覚める 余寒かな
朽ちてなほ 森厳の松 余寒かな
東京都     鈴木 護修
悴んだ 手を見て笑う 余寒かな
余寒さえ 刹那に消える 青い空
ポスト前 余寒に飢えた 子供達
畦道を 歩く足音 余寒前
悲しみと 喜び混じる 余寒かな
東京都     安西 信之
若気てふ古傷の病む余寒かな
ぎしぎしと余寒に四肢の軋むなり
北陸の鉄路乱るる余寒かな
部屋干しのパンツ犇めく余寒かな
手品師の胸ではと鳴く余寒かな
岡山県     純子
ガス燈の影に潜みし余寒かな
京都府     昂弥
吊橋の綱のささくれ余寒風
髪切れば鋏に残る余寒かな
残寒やブリキの流しボコと鳴る
逢へぬ夜の軋む柱の余寒かな
老ひてなほ狂気うごめく余寒かな
愛知県     山歩
ポストまでやずか二分の余寒かな
新聞を受くる門辺の余寒かな
再開の峠の茶屋の余寒かな
外厠の灯り消えたる余寒かな
家康の生誕の地や余寒なを
埼玉県     小玉 拙郎
窓外の日射し裏切る余寒かな
余寒あり卵とじ蕎麦まずたのみ
光満つ余寒の底を川流る
薄く出た紅茶につのる余寒かな
酒まずく余寒逃れる手立てなし
北海道     十佐
悔み状書き流氷の余寒かな
流氷の隙間に余寒一つあり
詫び状に小さな嘘の余寒かな
嘘もまた許されてゐる余寒かな
晴れ晴れと富士の聳ゆる余寒かな
千葉県     圓哉
あらあらと陽ざしの中に余寒かな
北海道     高橋 まりえ
トーストの香れる朝の余寒かな
掛軸を替へて余寒の部屋に座し
兵庫県     幸紀
うたたねの夢の短き余寒かな
足早の背にかぶさる余寒かな
救急車ふと鳴り止みて余寒あり
微震すぎ座りしよりの余寒かな
人垣の散りて余寒の地べたかな
東京都     石見みつを
日本橋余寒厳しく人急ぐ
なにごとも加齢と言わる余寒かな
不忍の池に残りし寒さかな
海苔茶づけ掻き込み外へ寒残る
蕎麦屋前長い行列余寒かな
東京都     長峯 福太郎
知事戦の清き一票書く余寒
北海道     飯沼 勇一
ひかり増し余寒終はるといふ予感
地下道の靴音高き余寒かな
生徒居ぬ体育館にある余寒
哲学書繰る音響く余寒かな
退院を先送りさる余寒かな
栃木県     長浜 良
作務僧のつむりを包む余寒かな
甲冑の立上がりたる余寒かな
店先の壺に数多の余寒あり
腕組みのままに物言ふ余寒かな
東京都     岩川 容子
わだかまり解けそで解けぬ余寒かな
花時計2分遅れの余寒かな
余寒なお近頃顔を見せぬ猫
靴裏に余寒あつめて早立ちす
山口県     ひろ子
池の鯉動きのにぶる余寒かな
山口県     山縣 敏夫
早歩き行き交う人に余寒なほ
愛犬のうずくまる背に余寒なほ
朝刊を取り出す指の余寒かな
バス停に座りたる背の余寒かな
里山の棚田の嶺に余寒あり
神奈川県     相模 太郎
磨かれし廊下を歩く余寒かな
天心に月をとどむる余寒かな
椀の蓋ひたと吸ひつく余寒かな
黄昏れて官庁街の余寒かな
マラソンが行く手の余寒驚かす
佐賀県     平吉 俊郁
犬ですら散歩ためらう余寒かな
岡山県     塩津 誠治
白菜をざつくりと切り余寒なほ
魚市の糶声白き余寒かな
頬紅し余寒気づかぬ子の寝顔
春生まれ馴れぬ余寒に猫丸し
埼玉県     大野 美波
目が覚めて一人の朝に余寒あり
余寒あり母を気づかう子供かな
釣り鐘は銅でできてる余寒あり
釣り鐘は銅でできてる余寒かな
眼を閉じてしんと静まる余寒かな
岐阜県     ときめき人
凛として姿勢を正す余寒かな
千葉県     藤原 純夫
回廊に 足音凍てる 余寒かな
立つ鳥も 一鳴き凍てる 余寒かな
耳あてに 潜む痛みや 余寒かな
立つ鳥も 忍ぶ余寒に 声一つ
靴先に じわりしみいる 余寒かな
大阪府     津田 明美
一人居のそっと顔出す余寒かな
ターミナル最終バスの余寒かな
茨城県     山形 あゆむ
余寒の身朝湯に深く沈めたる
余寒切る如き薙刀一閃す
余寒の気散歩をせがむ犬連れて
なほ寒き海鳴りの町通りけり
故山見ゆ余寒の窓を指で拭き
千葉県     飯島 史朗
余寒の候好物前に書く礼状
千葉県     入部 和夫
髭剃りの水の冷たき余寒かな
青空に冷たき風の余寒かな
髭剃りの鋭き光余寒あり
松の木のさざめく揺らぎ余寒かな
山梨県     天野 昭正
一本の鱈棒にある余寒かな
恐ろしや家に余寒の居座りぬ
放課後の廊下に残る余寒かな
雨降りて庭の余寒の消えにけり
余寒など気にせず歩く一万歩
埼玉県     岸 保宏
帰省して慣れて慣れない余寒かな
サイレンと犬鳴く声の余寒かな
凪ぎの海動かぬ船の余寒かな
京都府     須田 智昭
鶴首の後 余寒に挑む 東風の音
恵方巻き 作りて緩む 余寒かな
梅に猫 余寒の中で 戯れる
汗流し 灯油運びて 余寒忘るる
自転車に 顔を歪める 余寒かな
東京都     村上 ヤチ代
当直の簡易ベッドの余寒かな
大阪府     瀬戸 順治
すぐそこが遠く故郷の余寒かな
神奈川県     上田 妙子
年賀状 余寒見舞いも LINEかね
神奈川県     井手 浩堂
ごみ出しの肌の驚く余寒かな
余寒言ふ会う人ごとの挨拶に
待ち合はす駅のホームや余寒なほ
大寺の百間廊下の余寒かな
兵庫県     岸野 孝彦
能面の笑み険しき余寒かな
命在り余寒に目覚め眠りおり
切通し余寒とぬけて腰越へ
ヒール音茜の空の余寒かな
鮒釣りの池に佇む余寒かな
東京都     川島 欣也
夜半の雨とどまる余寒流しけり
陽の傾く゛窓からはいる余寒かな
梵鐘の余寒吐き出す夕間暮れ
脱衣所に思わぬ余寒ありにけり
枯山水ながれる砂の余寒かな
東京都     白兎
終電の乗客散りて駅余寒
纏わりて玄関に入る余寒かな
修行僧草鞋の素足余寒かな
帰路急ぐ背なに貼り付く余寒かな
温泉の上がり湯ぬるし余寒かな
長野県     木原 登
寄生木の目覚めそめたる余寒かな
老い母に残る寒さのあるばかり
十二神将かつと目を剥く余寒かな
二月堂も三月堂も余寒かな
余寒なほ逝きたる友の帰るなし
東京都     笹木 弘
長椅子に膝を寄せ合ふ余寒かな
池の面に昇る余寒の水蒸気
手の内を少し見せたる余寒かな
玄関の靴整然と余寒かな
竹の葉に雀の滑る余寒かな
東京都     大槻 実
通勤の 列車遅れ 余寒なほ
背を丸め 朝のごみだし 余寒なほ
もう一缶 石油買い足す 余寒かな
髪を刈り 余寒しみいる 日曜日
神奈川県     佐藤 博一
鳥篭の鳥の巣篭る余寒かな
神奈川県     守安 雄介
空き缶を蹴ればカンカラ余寒鳴る
庭下駄で豆を踏みたる余寒かな
ポケットに逆爪掛かる余寒かな
落つスパナコンクリ跳ねる余寒かな
熊本県     貝田 ひでお
大仏の伏し目がちなる余寒かな
凪となる海も余寒にある蒼さ
子ら去むで余寒の路地の閑かなる
これしきの余寒と云ふも骨に染む
山里に振り売りの来て余寒云ふ
埼玉県     守田 修治
銭湯の煙ほそぼそ余寒かな
校長の訓示みじかく余寒かな
伊豆の湯の素首すくめる余寒かな
アラスカの如く余寒となりにけり
埼玉県     須田 真弓
黒猫の壁に張り付く余寒かな
墓石に写る人影余寒かな
翁の手に残る寒さや土鈴売る
余寒かな牛に見られて後退り
施食堂に猫の集まる余寒かな
兵庫県     山地 美智子
覚えられずメモ持ち歩く余寒かな
板橋を渡る余寒の靴の音
余寒なほ砂紋の尖る枯山水
人通りなき寺町にある余寒
会釈して残る寒さを言い合へり
埼玉県     痴庵
諍いて今朝の余寒を持て余す
カフェラテを淹れて余寒を楽しめり
繰り返すスタートダッシュ余寒の子
調光のスカイツリーにある余寒
古民家の上がり框の余寒かな
千葉県     永井 隆
夜明け前 ペンを走らせ 余寒きる
新潟県     近藤 博
登校児黄帽子耳まで余寒かな
開け閉じに余寒も出入り回転ドア
回転のドアの開けば余寒入る
起きざまにぴりっと肌刺す余寒かな
朝明けの蛇口の難き余寒かな
埼玉県     柏木 晃
余寒なき入院ぐらし千羽鶴
じゃれ合って余寒楽しむ秋田犬
東京都     岩崎 美範
殷賑の大東京の余寒かな
猛禽の目玉に巣くふ余寒かな
火葬場の背にへばりつく余寒かな
汁粉屋を横目で睨む余寒かな
愛知県     岩田 勇
清張の下巻に重き余寒かな
余寒なほ清張通史進まざる
読み終へえし「砂の器」に余寒なほ
清張を読みし余韻の余寒めく
清張の言ふ余寒とは「日本の黒い霧」
神奈川県     佐藤 博一
門を出てマフラーを巻く余寒かな
北海道     江田 三峰
鮭番屋火守の爺の余寒かな
流氷の接岸したる余寒かな
喜寿余る残る寒さや貼り懐炉
櫓干し鱈のまなこに余寒あり
オホーツクの鱈硬直の余寒かな
神奈川県     佐藤 博一
セーターを着ては脱いでの余寒かな
ポケットに探り当てたる余寒かな
岐阜県     金子 加行
押す文字を減らすメールや余寒なほ
無人駅なほ貧相とする余寒
露天風呂顔から上の余寒かな
カップ麺インスタントに余寒消す
余寒とて烏の狙ふごみ置場
神奈川県     佐藤 博一
昨日言ひ今日も言ひ合ふ余寒かな
福岡県     紙田 幻草
手探りに父語りくる余寒かな
傾きし余寒の墓の寄り添ひし
回廊の柱の太き余寒かな
竹林のにはかに叫ぶ余寒かな
湯けむりの高く上がらぬ余寒かな
兵庫県     村山 祥江
亡き祖母の部屋に余寒の響きたる
道端の花震えたり余寒かな
広島県     安冨 正則
残さるる止め石ひとつ余寒かな
広島県     釜山 齊治
ひしひしと余寒おほひし大鳥居
波音のふるさと遠し余寒かな
潮風の余寒をつれし多摩丘陵
ひたすらに毛布をまとふ余寒かな
いつしかに余寒つれくる向かひ風
石川県     塩村 啓二
歌声は余寒の窓の校舎より
畑に人見えぬ余寒の日和かな
武家屋敷余寒の橋を潜る水