俳句庵

9月『秋の灯』全応募作品

(敬称略)

京都府     中村 万年青
秋の灯の病院の窓ナースの影
秋の灯や淀みに映る城の跡
秋の灯の目蓋に浮かぶ亡母の顔
秋の灯や夕闇侘し鹿の声
秋の灯や家に灯点る温かさ
埼玉県     小玉 拙郎
秋の灯や万年筆のインク涸れ
秋の灯やLEDという新種
秋の灯や祖父の机に父のペン
秋の灯や小口の黄ばむ文庫本
秋の灯や七手九手の詰め将棋
北海道     澤野 まひる
若き日の日記の誤字や秋灯下
秋の灯や古き書斎の畳の香
秋の灯や窓に映るる人の影
東京都     安西 信之
枕辺の秋灯といふうすあかり
自販機の眩しき家路秋ともし
秋灯や沖の潮路に漁舟
秋の灯や肌着をたたむ母の膝
裁鋏つーと走らせ秋ともし
福岡県     平山 なな子
縁台にぼんやりとして秋の灯よ
秋の灯に 照らされている 今日の我
どこまでも 照らされている 秋の灯に
幸せは 秋の灯 照らす庭
秋の灯に 今日の幸せ 影となり
東京都     鈴木 眞由美
秋の灯や工事了ひの路地曲がる
秋ともし暖簾はとうに仕舞ひをり
秋灯にゆくもとまるもふたつ影
ブラジル     林 とみ代
秋灯下便りしたたむ旅の宿
旅疲れの足をさすりて秋ともし
秋の灯にスナップ写真広げけり
秋灯下ギター奏づる街楽士
秋灯下郷愁起こす母の文
千葉県     横井 隆和
秋灯の路面に映えてピアノJAZZ
秋の灯の下で読み継ぐ「戦争と平和」
秋の灯やビルに一窓人の影
東京都     蘭丸
秋の灯や西口寄りの小劇場
秋の灯や少し痩せたる販売機
岐阜県     ときめき人
隠れ家の秋の灯覆いアンネ記す
埼玉県     哲庵
秋の灯や祖父愛読の立志伝
通販のカタログめくる秋灯下
秋ともし八房の玉我が手にも
終電車見送り消ゆる秋灯
秋灯下什の掟を読み聞かす
愛知県     岩田 勇
秋の灯の少し暗きがよろしかろ
秋の灯や家族写真のセピア色
秋灯のなべて仏間の静かなる
どこまでも秋灯続く岬かな
秋灯や交代勤務の守衛室
北海道     飯沼 勇一
秋の灯や農夫の父の皺深く
妻不在ショパン三昧秋灯
秋の灯や乗客二人の終電車
秋の灯を消せば饒舌星の空
段々とぼやけゆく町秋灯
東京都     石見 みつを
玻璃通し見る秋の灯や昇降機
外国文字並ぶ看板秋灯
愛知県     石川 順一
秋の灯は公園の木々美(は)しく見せ
植物を艶(なま)めかしくする秋灯(あきともし)
秋の灯が靴にも存在意義を足し
秋の灯にフクロウ型のポストかな
秋の灯や警察車両は青白く
埼玉県     守田 修治
秋の灯の小樽運河の川明かり
秋の灯や一人旅なり一人酒
弔問の帰りの路地や秋灯
秋の灯のあすは売らるる牛二頭
床屋より最後の客か秋灯
東京都     笹木 弘
母逝きて秋の灯一つ揺れてをり
秋の灯や涙腺ゆるむ影法師
秋の灯やはんなりと行く京おんな
露天湯に秋の灯ひとつ落ち着かず
秋灯に仏の眼光りをり
神奈川県     川島 欣也
秋ともす同窓会報届きけり
秋灯のまたたき映す星の空
秋の灯や夜空の高き観覧車
秋灯下スマホ片手に女を待つ
亡き父母の文読み返す秋灯下
東京都     服部 かつこ
秋の灯の早寝早起き秋灯
秋灯や昔話の老夫婦
大阪府     瀬戸 順治
秋灯の故郷のやうでありにけり
神奈川県     相模太郎
秋灯の窓それぞれの円居かな
秋の灯を提げて見回る牛舎かな
秋灯の障子明りを外に零し
暗闇を秋灯歩くスマホかな
終電車秋灯曳きて消えにけり
千葉県     ―
かかし見る 勤め終わりの 名月や
夕焼けに 焦げし蜻蛉の 影は散り
月の灯の 光影奏す 鰯雲
夕暮れに 山肌燃やす 紅葉かな
鈴虫の 独奏会に しじま裂け
神奈川県     佐々木 僥祉
何方の晩菜の香ぞ秋灯り
友の書き込みし註や秋灯り
大阪府     太田 紀子
乗換の小さな駅の秋灯
ブログ止め秋の灯に親しめり
病院の廊下に並ぶ秋灯
山口県     ―
秋の灯のレトロな街を訪ねけり
秋の灯や墨跡しのぶ師の個性
東京都     水野 二三夫
秋ともし外濠闇を深うせり
秋灯や恋ひとつ去りまた去りぬ
あはあはとさす影ゆれて秋灯
母訪はな秋のともしの深く澄み
秋灯や進路指導の熱き日々
大阪府     都女
秋の灯や 薄墨滲む 朱印帳
神奈川県     パラレル
秋の灯や盤を挟んで身じろがず
東京都     三浦 靖男
秋の灯やもはや盤面打つ手なく
目刺し焼き秋の灯ともしひとり酒
湯煙が秋の灯包む山の宿
秋の灯や委細面談縄のれん
秋の灯や妻を待ちかねひとり酌む
岡山県     八木五十三
秋の灯や書棚の母の日記帖
瀬戸の島二つ三つ四つ秋灯かな
大阪府     津田 明美
又一つ信号増えて秋灯し
秋灯や帰らぬ人を待つ如く
秋灯や母の祈りに瞬きぬ
古里の母逢魔が時の秋灯し
東京都     村上 ヤチ代
墨の香の筆をすべらす秋灯下
大阪府     黄山木
秋の灯のただ一心の写経かな
秋の灯のまだつづきをりへぼ将棋
秋の灯となりぬ川べり先斗町
神奈川県     佐藤 博一
待つ人のいてこそ秋の灯かな
一つづつ消して一つを秋の灯に
ペン執れば文学青年秋灯下
秋の灯や徒然草をもう一度
食卓は妻の文机秋灯下
兵庫県     山地 美智子
1つ部屋に居て別々の秋燈し
秋燈や手をさすり母眠らせる
秋燈や久に手書きの文書かず
秋燈をつけて戸外のこと忘る
秋燈をつけし途端に夜となる
東京都     きょうやん
豚汁の香りに包まれ秋の灯や
子の写真何度も見てる秋の灯や
秋の灯や万葉集の花の歌
東京都     岩川 容子
刷りたての本の匂いや秋灯
秋灯や山の最終バス帰る
映画館消えし六区の秋灯
秋の灯や白蓮歌集枕辺に
栃木県     長浜 良
母逝きて秋の灯となりにけり
秋の灯や母は明月院大姉
秋の灯の山辺十軒恙なし
秋の灯や野辺の彼方の散居村
神奈川県     むこう
長き夜の 秋の灯 ゆれる街
道照らし ほたるが誘う 秋の夜を
十五夜を 明るく灯す 道しるべ
山口県     山縣 敏夫
秋灯やロダンの如く句を捻る
秋の灯に昭和を想う夜がある
秋燈や夕日が丘の三丁目
愛犬と家路を急ぐ秋の灯に
秋ともし昭和のことはセピア色
神奈川県     井手 浩堂 
秋灯の窓客船の夢の数
釣り船の秋の灯湾を出でにけり
千葉県     隼人
秋灯やひとり銘酒に酔ひにけり
秋灯や心に沁みる書を閉じる
秋の灯にすやすや眠る児の寝顔
東京都     丸山 清子
秋の灯や妻入れし茶に湯気のたつ
岐阜県     雅風
秋の灯や歳時記引いて一行詩
秋の灯のともり団らん家々に
残業の人影動く秋灯下
山あいの秋の灯一つ二つ三つ
秋の灯を消して一日終はるかな
神奈川県     神谷 純子
秋の灯や受験準備を開始せり
神奈川県     神谷 喜美代
寝る前の一句読みとく秋灯し
長野県     木原 登
秋の灯の増えてまた減る諏訪の湖
対岸の一つは汝の秋ともし
秋の灯のともる遠野に着きにけり
目薬をさして読みつぐ秋灯下
秋灯や郡上八幡水の町
愛知県     柵木 充義
虚子を読み子規を語らむ秋灯下
秋灯下友の句集の序文読む
晩学の道なほ遠く秋灯下
秋灯下青畝と誓子読み比べ
智恵子抄我は離さず秋灯下
千葉県     長谷川 公二
秋の燈や書を送りしとメールあり
ディズニーランド秋の燈色に点りけり
東京都     花泉
がうがうと都電過ぎ行く秋灯下
秋の灯を点し釣船戻りけり
対岸に秋灯ぽつりぽつりかな
兵庫県     岸野 孝彦
秋の灯やリリーと寅のあぶく旅
秋の灯や旅愁のごとく汽笛鳴る
秋の灯に誰かが浮かぶ夕べかな
秋の灯がぽつんと赤く流れけり
初恋の娘の里や秋灯り
東京都     妙子
秋の灯に人影交差店卸し
秋の灯にじいんとしみるひとり耐へ
秋の灯に婆の字しみてはしり酒
秋の灯に買わさるるかな秋の灯に
秋の灯の三十路のわびし左指
山梨県     天野 昭正
秋の灯や心の通ふ友を待つ
秋の灯をともし町の小商ひ
秋の灯やまだ見つからぬ木戸の鍵
秋の灯に集ひ娘ら習ひ事
秋の灯や胸豊かなるヴィーナス像
東京都     宗田 利一
秋灯下最期滲ます友の文
秋の灯や山の仲間のほら話
秋の灯や会話途絶えし老夫婦
秋の灯や山の湯宿の薄暗き
遅々として進まぬ読書秋灯下
千葉県     長谷川 公二
山寺の秋の蝋燭点りけり
暁方の秋の燈点る駅舎かな
秋の燈や誕生日てふサブライズ
神奈川県     矢神 輝昭
秋の灯や富士の山小屋閉山す
秋の灯や場末の屋台一番星  
秋の灯を見詰めるほどに自我の中
秋の灯を銀河鉄道掬いおり 
秋の灯やお猿の籠屋日暮れ道
東京都     岩崎 美範
新調の眼鏡ほどよき秋灯下
秋の灯や思ひ出詰る旅鞄
この先も妻と二人や秋灯
神奈川県     野川 喜一郎
秋灯下硯に落す水澄みて
秋の灯や孫に渡さる手巻き寿司
秋の灯や苦き思い出アルバムに
秋灯硯と墨の和音かな
埼玉県     佐藤 茂
秋の灯や三本立てし映画館
秋の灯や採譜に余念なき隣り
東京都     藤 三彩
山小屋の星々村の秋灯し
秋灯しちちりと囁くフライング
山頂に長居は無用秋灯し
古寺巡礼人は独りと秋灯し
秋灯し満員列車の香の異次元
岐阜県     金子 加行
マンションの百戸それぞれ秋灯下
秋灯下いまだ決まらぬ旅支度
雑学の書を積み狭し秋灯下
生き方を叱る著者なり秋灯下
秋灯下知らぬ語並ぶ大辞典
千葉県     本間 順子
秋の灯によむ古ふみは恋とあり
大阪府     高塚 政宜
秋の灯を空に向ければ星の道
秋の灯や今年も集う自炊宿
大阪府     のひろ
秋の灯がこぼれ焼き魚
秋の灯やこの角曲がれば手に入る
秋の灯が溢れし路地の猫二匹
福岡県     幻草
秋灯下拡大鏡を取り出しぬ
生きてゐる合図のやうに秋灯す
防犯灯途切れぬやうに秋灯し
カーテンの模様はっきり秋灯し
兵庫県     岸下 庄二
病棟の長き廊下に秋ともし
露天湯に秋の灯ゆれる山の宿
秋の灯や毛筆で書く御礼状
秋の灯や奥行長き古本屋
秋の灯の点る二階の補修室
埼玉県     岸 保宏
秋の灯や祭囃子に揺れるなり
夢語るわが子の頬に秋の灯や
秋の灯や少し小鳥の声残り
熊本県     貝田 ひでを
趣味違え部屋をちがえて秋燈
残業を頼まれ独り秋燈
赴任地の独り部屋なり秋灯
秋灯下また読み返す師の訃報
初孫を囲み談笑秋灯師下
新潟県     近藤 博
窓洩るる秋の灯待ちゐし酔歩かな
秋の灯を乗せつ今着く終電車
秋の灯や静かな思ひについぞなり
灯火親し妻は寝ねども吾が書斎
秋の灯や叙情ゆたかに作句かな
佐賀県     小野 ゆみこ
秋の灯やあともう少し生きておく
朗読に耳傾ける秋ともし
ガス燈の硝子を磨く秋ともし
秋の灯やひとりは多い子らの影
秋の灯やしばしヴェニスを彷徨ひぬ