俳句庵

季題 10月「渡り鳥」

  • 渡り鳥見やる縄文土偶かな
  • 長野県     木原 登 様
  • 捨てられぬ生家の重み鳥渡る
  • 東京都     岩川 容子 様
  • 再生のみちのく平野鳥渡る
  • 東京都     岩崎 美範 様
  • 鳥渡る空に国境無かりけり
  • 神奈川県     佐藤 博一 様
選者詠
  • 渡り鳥仰ぎし夜の深ねむり
  • 安立 公彦

安立公先生コメント

今月の季語「渡り鳥」は、秋に北辺の地から渡って来る鳥を言います。反対に「鳥帰る」、「帰雁」、「鳥雲に入る」などは、日本で越冬した鳥が、春になって北辺の繁殖地に帰ることを指す春の季語です。「渡り鳥」には、久闊の友を迎える心待ちの思いが、「鳥帰る」には、去りゆく友の無事を祈る思いが、言外に籠められています。
 優秀賞の木原さんの句。「縄文土偶」という、遥かな時代に作られた土偶との取合せが発見です。命の無い土偶に、「見やる」という思いやりの言葉を用い、高空を渡る鳥の一群を描写したのは立派です。
 岩川さんの句。「捨てられぬ生家の重み」が全てを語っています。「家」という問題は、現代でも根深く残っています。
 岩崎さんの句は、東日本大震災を詠った作品。「鳥渡る」により、「みちのく平野」の復興の様子がよく浮かんできます。
 佐藤さんの句。厳密な意味では、越境という問題は生じますが、ここに言う「国境」は人為的なものでなく、渡り鳥の往き来が
フリーパスであるということです。「無かりけり」の断定が功を奏しています。
 今月も他に、〈渡り鳥群れて水面の重たかり 安西信之〉、〈行くあてのある幸せや渡り鳥 林とみ代〉、〈東京の空は夕焼け渡り鳥 天野昭正〉など佳句が多いでした。
 この他にも秀句はありましたが「渡り鳥」とは別項の季語でしたので、全応募作品の発表には加えましたが、選からは外しました。

◎ 優秀賞、入賞に選ばれた方には、山本海苔店より粗品を進呈いたします。