俳句庵

季題 12月「短日」

  • 短日の汽笛短く船発てり
  • 神奈川県     井手 浩堂 様
  • 老いどちに児童公園日のつまる
  • 東京都     鈴木 眞由美 様
  • 短日や動く歩道を足早に
  • 神奈川県     佐藤 博一 様
  • 猫の目に安らぎ求む短日や
  • 滋賀県     村田 紀子 様
選者詠
  • 短日のうしろ暮れゐる机辺かな
  • 安立 公彦

安立公先生コメント

今年最後の兼題「短日」について。傍題には、日短か、日つまる、暮早し、などがあります。冬至をピークとして、冬は日暮れが早く、一日があわただしく暮れてゆきます。今年のような寒さの厳しい日は、暮早しの思いがひとしお身に沁みます。
 優秀賞の井手さんの句。横浜港の嘱目でしょうか。碇泊していた船が、今しも汽笛を鳴らして出航して行きます。豪華客船であれば「汽笛を重く」とするところでしょうが、「汽笛短く」ということで、それなりの船と推定されます。「短日」が効果的です。
 鈴木さんの句。余り広くはない公園。夕近く、遊んでいた子らは家に帰り、散歩の途中で寄ったのでしょうか、居合せた老人たちに日暮れが迫る。「老いどち」が、一抹の寂しさと共に、短日の感じをよく出しています。
 佐藤さんの句。都心で見かける「動く歩道」。その動く歩道を「足早に」という形容が、心急く思いを正確に表現しています。
 村田さんの句。朝から気持ちの晴れない一日。その一日も暮れようとしています。鬱屈した思いでいると、わが家の猫がやって来た。その猫を見る作者。そのうち猫の目の愛らしさに思わず見入ってしまいます。それは恰も安らぎを求めているかの如く。
 今月は、高校生の皆さんの句が109句ありました。句の対象も変化に富んでいて、興味深く拝見しました。その中で、〈短日の部活帰りの空に月  小島快斗〉の句に注目しました。部活で疲れている生徒さんたち。しかし作者は中天の月を仰いでいます。爽やかな句です。

◎ 優秀賞、入賞に選ばれた方には、山本海苔店より粗品を進呈いたします。