俳句庵

季題 3月「春の灯」

  • 春灯下まだ見ぬ国の地図ひろげ
  • 東京都     岩川 容子 様
  • 春灯のひとつ増えたる過疎の村
  • 岡山県     純子 様
  • 春灯や父の手擦れの和綴本
  • 神奈川県     佐藤 博一 様
  • やはらかき時間ひとりの春灯
  • 茨城県     たいようたろう 様
選者詠
  • 春の灯の一つはわが家歩を早む
  • 安立 公彦

安立公先生コメント

「春の灯」という言葉には、気候の暖かさとともに、日常の生活の中に、こころの華やぎを感じさせる語感があります。
 優秀賞の岩川さんの句。これから訪れようとしている国、それは外地でしょう。その国の地図を卓上にひろげ、あれこれと語り合っている姿が見えてくるようです。春の夜の灯明りがことに印象深く感じられます。
 純子さんの句。現在地域によっては、人口の減少が著しくなってきています。過疎化です。この句、そういう地域の村に、入村者の一家が来た。若い人ならもっと喜ばしいことです。この「春灯」は、希望と期待の明りとなることでしょう。
 佐藤さんの句。書架に大切に仕舞われている本、それは「父の手擦れ」の和本です。その和本を手にする作者が見えて来ます。
 たいようさんの句。「やはらかき時間」が、ひとりの春灯とよく解け合っています。時間をやわらかいと見る感性が善いです。
 今回も佳句が多くありました。〈盛り塩や春の灯淡き神楽坂 笹木弘〉、〈春の灯や顔優し千手仏 津田明美〉、〈春の灯の下に子が待ち妻が待つ 井手浩堂〉、〈白秋の遺愛の机春ともし 西山勝男〉。それぞれ対象をよく見て作ってある句です。

◎ 優秀賞、入賞に選ばれた方には、山本海苔店より粗品を進呈いたします。