俳句庵

3月『春の灯』全応募作品

(敬称略)

東京都     新保 徳泰
春の灯や夜釣の船の二三艘
東京都     右田 俊郎
春の灯や繋留中の貨物船
春の灯のぽつりぽつりとともる里
春の灯や弥勒の指のしなやかさ
春灯先斗町をばそぞろゆく
春灯夜行列車に身を委ぬ
愛知県     石川 順一
木を照らす春の灯周囲を白にして
春の灯や声一つ聞こへぬ静寂かな
自動車が動く春の灯不動なり
春の灯や二人は喋る他は無し
春の灯の効用書きを夢に見る
埼玉県     小玉拙郎
春の灯やいずれ角なき影ばかり
春の灯の中で祭りの煮〆食い
春の灯や温泉饅頭おすそ分け
春の灯と職員室の時間割り
春の灯や一つあまった茶碗蒸し
千葉県     隼人
春灯の嫁ぐ娘に注ぐ酒杯
埼玉県     哲庵
みちのくの仏の笑みや春燈下
春燈美し敦真砂女の銀座裏
春燈や膝抜きのある文机
春の灯や一弦琴のすすり泣き
春の灯や下駄音響く石畳
広島県     石川 和治
ありがとう ほろり春の灯 日和山(ひよりやま)
千鳥足 なつかし春の灯 おぼろ月
さらう波 失くせぬ想い 春の灯に
群馬県     クズウ ジュンイチ
春の灯を研究室のとびとびに
北海道     澤野まひる
昨日より遅い夕餉や春灯下
春の灯やロビーに憩う女ありて
東京都     笹木 弘
春の灯に君を抱きてプロポーズ
春の灯に揺れて酔いたる銀座かな
盛り塩や春の灯淡き神楽坂
春の灯のひとつに温き家路かな
春の灯に夜の更けゆく浅草寺
カナダ     花里真希
春の灯や 障子に映る 朧猫
春の灯は 爪の先まで 照らしけり
細指が 春の灯ともす 四畳半
春の灯や きつねうどんの 湯気立ちぬ
大阪府     永田
春灯少し深めの紅を引く
春灯敵はピンクの似合ふとふ
東京都     雨不埒
春の灯や汽車待つ母の目は彼方
春の灯や行き交う人も軽やかに
春の灯にうっかり歩く家路かな
春の灯や視界良好那覇空港
春の灯や波間に揺れる旅心
広島県     石川 結
春の灯や 宇宙飛行士の 故郷にも
春の灯や 朱の盃に 金細工
口笛が 遠く春の灯 ぽつんぽつん
千葉県     犬槇庵 光晴
春燈下受胎告知のグレコの絵
千葉県     横井 隆和
竹林に春の灯透けて合否待つ
東京都     安西 信之
倹しくも絶えぬ家系や春灯
センサーの人去れば消ゆ春灯
春の灯や塾には塾の良き仲間
晩学のゴールそれどれ春灯
花柄のレースの傘の春灯
東京都     石見 光夫
LEDは平和の明り春灯
日本橋水面に映る春灯
神奈川県     佐々木 僥祉
春灯や孕める妹の帰りをり
春灯下美学講ずる師淡々
春灯やこけら落としの立見席
春灯を水面に散らす氷川丸
菓子職の工夫を凝らす春灯下
埼玉県     一斗
春灯しかつて銀座に真砂女をり
千葉県     冨田 柊二
春燈や湯船に聞こゆ拾の数
春の灯にザグザグとゆく来訪者
ひと房の飴に孕みて春灯し
春灯しチタン瓦の浅草寺
春の灯や巣立の間取貫けり
東京都     内山雪童
春の燈や小雨に匂う島田髷
番傘や春燈にじむ渡し舟
春燈や欠伸殺して文庫本
春の燈や人形少し微笑んで
春燈や髪梳く母の腕白く
群馬県     茂木 好夫
艶やかな大黒柱春灯
春灯や眠りの深き樽ワイン
東京都     紫曙
春灯や 妻の嚏の 透き通る
春燈の 導火線なり 栞紐
東京都     紫霧
春燈に 夫婦の阿吽 試される
春灯や 独り言にも 艶が出る
東京都     紫朧
春の灯や 栞を引くと 点るかと
満天に 三日月ほほえみ 春灯(はるともし)
岐阜県     ときめき人
せつなさの揺れる祈りや春の灯ぞ
東京都     岩川 容子
母となる娘といる厨春灯
春灯下まだ見ぬ国の地図ひろげ
春灯花麩のひらく椀の中
他愛なき嘘もよきもの春灯
北海道     北浜 哲
春の灯は苦労話を包み込み
春の灯や叔母の見舞いの帰り道
春の灯や漆黒の闇に吸い込まれ
寒村の一人暮らしに春灯り
千葉県     藤鷹圓哉
春ともし位牌もりんももの静か
春灯や菓子もて騒ぎ子ら帰る
愛知県     高木 薫
春の灯や 髪引く背子の 影うつす
春の灯や 娘嫁がせ 義父思う
春の灯に 心ほっこり 遠回り
エコー画面 我に宿りし 春の灯や
愛知県     米倉 徹
独りでは非ず一人の春燈
江ノ電の窓ことごとく春燈
ながながと春灯の尾を連絡船
春の灯をしづかに消してゆくナース
親の顔知らずに生きて春燈
山口県     弘中 典子
春の灯や振袖揺れる武家屋敷
埼玉県     守田 修治
春の灯や一番乗りの屋形船
春の灯や雲の切れ間に筑波山
春の灯や銀座に出る人帰る人
野良猫の丸い背があり春灯
春灯森の重たい声を聴く
北海道     飯沼 勇一
ぼんぼりに春の灯入れて旅の宿
春燈を消せば燦然星の夜
春の灯を点けて待つなり下校の子
バスを待つ老婆の髪に春灯し
廃業の医院の門の春灯し
山口県     ―
春の灯や旅情にひたるレトロ館
東京都     鈴木 眞由美
春の灯や同窓会に来ぬ人の
春燈の和紙に地紋の流れけり
衣紋抜く夜は静かに春の燭
目をつむる春灯やわに光りけり
東京都     蘭丸
春の灯の忍び返しの苛めきぬ
春の灯や一礼添へし警備員
神奈川県     守安 雄介
春灯に恥じらいて散る椿かな
春の灯の闇から闇へ小雨降る
春雲に円描きまわる探照灯
復興の春灯灯す二鉄塔
東京都     ―
幼子の 行く先照らせ  春の灯や
愛知県     ナッキーぼんさい
春の灯へ誘い集う金曜日
春の灯よ山降り里へ余生かな
術後経て春の灯光増し
岡山県     純子
春灯のひとつ増えたる過疎の村
春灯の滲める雨の石畳
笑ひ声聞こえ春灯膨らめる
東京都     上田 みの
春の灯やLEDをあかくして
春の灯のそこらじゅうにLED
川沿ひの団地の道や春ともし
人去りて人恋しくて春ともし
春灯や逢魔が時の鐘の音
東京都     村上 ヤチ代
春の灯に影絵の指を羽ばたかせ
東京都     渕田 隆道
春の灯に季寄せを捲る夜毎かな
春の灯や乳やる嫁のたのもしき
古るゝ家に妻の影見ゆ春の灯に
岡山県     岸野 洋介
湯の宿の傘は蛇の目や春灯す
コンビニの袋と帰り春灯す
春の灯に透く乾杯の白ワイン
春灯をめざし海苔船足はやめ
春の灯の点りりて間なき縄のれん
東京都     丸山清子
鉛筆の丸くなりけり春灯下
東京都     石井 真由美
春の灯に 添い寝も深し 育児パパ
春の灯に 育メンパパの 缶麦酒
春の灯に 臨場あふる サスペンス
春の灯に たばこ吹かして 夜の色
春の灯の 煮ゆる匂いに ひとり飯
北海道     北山 尚
春の灯を 寿ぐ 谷の山桜
春の灯に 願いを託す 蒼い月
春の灯を 喜び跳ねた 幼き日
閉塞の 世を照り溶かす 春の灯よ
日の本に 春の灯包み 夢溢れ
大阪府     津田 明美
春の灯や顔優し千手仏
夜学子に母の眼差し春灯し
春灯や太梁の影淡く揺れ
春の灯やいよよ華やぐ中華街
春の灯の闇は静かに中華街
香川県     慎太郎
庭に立ちあおぐわが家の春燈
春の灯やいまし宴の終えし部屋
春灯や古布で縫ひをる小座布団
春燈や祖父の遺愛の煙草盆
マンションの赤青橙春灯
埼玉県     酔月
春の灯の漏れて窓辺のレモン色
春の灯にそっと爪立てる黒猫
春の灯や産声聞こゆ白き壁
ふたり来ていつやら春の灯ともりけり
春の灯や隣はふたり声漏れて
静岡県     柳谷 益弘
春灯に揺れたる影の香り立つ
春の灯やたれを待つやら手酌酒
埼玉県     長澤 千鶴子
春灯や木にのぼる猫爪を研ぐ
春の灯や考える人たくましく
受験の子ピカリかがやき春灯かな
ベランダの干し物ゆれて春ともし
東京都     三浦 靖男
妻が留守春の灯ともしひとり酒
街角や春の日遊ぶ名残り雪
春の灯にわが名誇らし掲示板
君が胸春の灯のぞく露天風呂
春の灯やいい日いいひと旨い酒
大阪府     太田 紀子
マンションの百の春灯乱れなし
御仏の裳裾に金箔春灯
文机に映る春灯にじみをり
神奈川県     佐藤 博一
春灯や父の手擦れの和綴本
絵本読む母転た寝の春灯
春灯や光源氏は御簾上げて
春灯や古筆に学ぶ相聞歌
春灯や絵本片手に寝入りたる
ブラジル     林 とみ代
春灯下指輪交はして婚約す
春灯下孫とおはじき遊びして
ゴヤの裸像なまめかしきや春の灯に
旅帰り夫の遺影に春ともす
春灯下グルメツアーの試食会
兵庫県     山地 美智子
大勢の中の孤独や春灯下
春灯やちょっとたじろぐクラス会
春灯やほどほどに飲む難しさ
春灯や荒れる予感の座談会
春灯や気になる母の独り言
岡山県     渡辺牛二
格子戸の内なる仏春ともし
山梨県     岡部 正行
蕗の薹 緑を纏い 春の灯
広島県     原田 久雄
機首下がり第二の故郷春灯
機窓には第二の故郷春灯
福島県     末永会津子
春の灯や嬰の手にあるえくぼかな
春の灯や畳に零すこんぺいとう
古希といふ曖昧なもの春燈下
東京都     水野 二三夫
春灯やゼームス坂に影ふたつ
ラファエロの聖母子春の灯のもとに
そぞろ酔ふ神楽坂裏春ともし
埼玉県     櫻井 玄次郎
春燈に読経澄めるや御影堂
兵庫県     岸野 孝彦
春の灯や君が名づけし港坂
春の灯や大学寮の若き声
春の灯や深川に揺れる思い出
春の灯の心細しき銀座かな
春の灯や流れ流れて夢の底
東京都     直木 葉子
米粒のごとき歯の生え春灯し
春ともし万葉仮名の妣の軸
神奈川県     矢神 輝昭
回廊を廻るは春灯東大寺
縁日の鎮守の露店春ともし
瀬戸内や春の灯ともし連絡船
春の灯をケーキに灯す誕生日
春の灯やミラーボールから溢れ出て
大阪府     山野 大輔
春の灯(ひ)に 透かした海苔の 美しさ
春の灯(ひ)も われもぼんやり ぼんやりと
草花が 春の灯(ともし)で 薄化粧
春の灯(ひ)の 如き恩師の 絵葉書よ
春の灯(ひ)の 前で可憐な 塵の舞
神奈川県     井上 靖
春の灯に 江の島まわる 老夫婦
春の灯や 夫残して フラダンス
ありありと 日に日に長く 春の灯や
春の灯の 照らし照らされ わが夫婦
春の灯に 鏡に映る わが姿
静岡県     池ヶ谷 章吾
春の灯や猫の道草ひっそりと
春の灯や獣は帰る穴倉へ
春灯し三途の河原遊山かな
春の灯や家出の少女草を噛む
春灯の優柔不断彼がいる
秋田県     ―
舞い落ちる 花びら揺らす 春の灯よ
月光と 春の灯の下 ぬぐだまる
岡山県     岩中 幹夫
春の灯や夜風を纏ひ過去へ跳び
長崎県     西 史紀
春の灯や鑿音響く一軒家
春の灯に大きく笑まふ福の面
春の灯を微かにともし点字読む
春の灯の小さき闇に湯をつかふ
春の灯や和食の膳に銀の匙
北海道     江田三峰
春燈蝋燭点す般若経
春灯の明り札幌時計台
豊漁の鰊番屋の春灯火下
春燈や小樽運河の硝子館
春灯や車窓の明リ寝台車
京都府     北谷 匠
カーポート きしむ声には 春の音
福岡県     河瀬 周治
春の灯や貫之の筆淀みなく
春の灯に想ひをはせし娘二人
春の灯の厨に紅き魚あり
オーブンの馳走を焼くも春ともし
春の灯のLEDとなりし道
埼玉県     米田 哲
春の灯や影を置きたる草の彩
春の灯や明日香の里の寂として
春の灯や漫ろ踏みたる草の彩
春の灯や漫ろ佇む法隆寺
春の灯や川の向こうの舟溜り
神奈川県     塚本 治彦
春の燈や籠の僧の影法師
艶めきて並ぶ塗下駄春燈
春燈やほほゑみゆらぐ朱唇仏
ぐい飲みのぐいと呑まれぬ春燈
弁天の笑みに春燈さゆらぎす
大阪府     弗椿
小春燈眠れぬ枕の傍らに
空襲に春の灯を消し逃げたとか
街の灯に春見せ哀し喜劇王
栃木県     長浜 良
里人の野辺より消えて春灯
山の辺の春の灯に弔ふ灯
人里の春の灯や九十九折り
埼玉県     ―
夜桜に ぼんぼりひとつ 灯りけり
熊本県     貝田 ひでを
趣味異に階下と二階春灯
乙女らのスイーツ談義春灯下
女子会のいよよ華やぐ春灯
春ともし仲人口の褒め上手
神奈川県     井手浩堂
春の灯の下に子が待ち妻が待つ
春の灯の一つ灯台またたけり
客船の窓にうるみて春灯
こぼれ来て神田の路地の春灯
酒の香の神田の路地や春灯
愛知県     古賀 敦子
春の灯や手に未だ慣れぬ電子辞書
春の灯や振子時計の打ち響く
子に送る言葉認め春灯
春の灯や庫裏の呼び鈴ひとつ鳴る
春の灯や鏡の中にある愁ひ
愛媛県     中川 正子
人生は春の灯ほどの重荷なれ
春の灯紙面に貯めつページに手
春の灯に瞳は闇と改めて
春の灯を繰るごと孫の五指遊ぶ
東京都     岩切 義治
十八度という絶妙春の灯や
春灯や神の技あり十八度
春灯のニッポン国の極楽や
春の灯やニッポン国の道標
春燈やニッポン国の道標
山口県     山縣 敏夫
春の灯や連れ添うてより四十年
春燈や留守居の我に犬が添う
連れ合いの白髪眺めて春ともし
愛犬に家路を急かす春燈下
春の灯に何かが弾む旅の宿
三重県     平谷 富之
春の灯が お帰りなさいと 我向ひ
東京都     かつこ
駅前の2DKの春の灯 
色ありて春灯映す明けの川
福岡県     西山 勝男
仰ぎ見る跪座の菩薩や春ともし
推敲の一句に執す春灯下
春燈下叙勲の友と祝ぎの酒
春燈や且つて炭都に思い馳す
白秋の遺愛の机春ともし
山梨県     天野 昭正
春の灯を消し廃校の門を閉づ
春灯す停泊中の異国船
産土の社に春の灯を点す
春の灯の華やぐ街へ帰りけり
春の灯を点せど暗き世相かな
愛知県     佐藤 絹子
春なれば灯ともし頃にゆとりあり
幸来る予感よ当たれ春灯す
東京都     岩崎 美範
母ひとり子ひとりの家春灯
誰もみな家路を急ぐ春灯
春灯や影絵の狐コンと鳴く
煮え切らぬ男の未練春灯下
結納の余韻色濃き春灯下
東京都     のりごん
蝋梅の 香り誘われ けもの道
朧げな 鶯の声 いとおかし
散歩道 春の灯火 一輪の花
白銀の 小さき山に フキノトウ
彩雲に 雫照らされ ユキノシタ
福岡県     平山 なな子
二人連れ追う春の灯のあたたかさ
春の灯(ひ)に 付かず離れず 二人連れ
夜半過ぎ 春の灯(ともしび) 温かい
群馬県     服部かがり
春灯や 還暦の膳 子等と祝ぐ
春灯や 恋人気分 夢気分
春の灯に 恋人になる 老夫婦
兵庫県     季凛
春の灯や早足で買い物して帰る
春の灯の下でうつらの本めくる
春の灯にいつもの夫も良く見えて
春の灯にゆうげのけむり立ち込めて
春の灯をぬって家路を急ぐ道
長野県     木原 登
春の灯を真闇の囲む妻籠宿
鉛筆は4Bがよし春灯
万太郎の句を恋ふ春の灯かな
春の灯に濡るる瞼のありにけり
水飲み鳥倦まず水飲む春ともし
神奈川県     川島 欣也
春灯下一刀彫の刃かな
春灯の鏡見てをり己が所作
面接を終え春の灯のともりけり
春灯す裸電球山家の温泉
春ともる内視鏡検査終えにけり
愛知県     岩田 勇
春の灯のやがて寂しきビルの街
春の灯の少しにじむや路地の宵
春灯や上七軒に三味の音
どこまでも春灯遠き岬かな
春の灯に少しほころぶ不動尊
埼玉県     玉置 道子
春の灯に集う娘らの花やかさ
春の灯や座して待つ芽吹きの音
春の灯に出会い恋めくケアホーム
春の灯や老いの陰影くっきりと
埼玉県     柏木 晃
家族愛滲む春の灯外に漏れ
春の灯にハートの浮いたカプチーノ
春の灯の寡黙を映す池の水
春の灯の等間隔のハイウエィー
しあわせを映す春の灯窓にもれ
埼玉県     岸 保宏
春の灯に胡坐の孫と舟をこぐ
春灯や陸奥こけし笑みの顔
縄を綯う祖父の背揺れる春灯下
愛媛県     宮下 靖弘
春の灯とは還れぬ故郷のひとかけら
哀しみの光に飽和し春の灯に
我を春の灯で除算し何ほどの残れる
系図清書す春の灯の金纏ひつつ
春の灯や来週旅程を時刻表
茨城県     たいようたろう
左手をつつむ右の手は春灯
鬼女棲むといふ山春の灯をゆらし
笑ひころげて涙ぐむ春灯下
やはらかき時間ひとりの春灯
影と影かさねとゆたふ春灯
千葉県     江里口 泰一
春の灯や交番前の人だかり
春の灯や巡査ただいま巡回中
春の灯や俯いたまま長電話
春の灯や予備校生の踏むペダル
春の灯に華やぐ東京駅百年
兵庫県     岸下 庄二
芝居はね帰る夜道の春灯
露天湯の湯気にぼんやり春灯
前略で近況綴る春灯下
機音の洩るる家並みの春灯
停泊の船に春灯汽笛鳴る
岐阜県     金子加行
春の灯や若き案出る村おこし
春の灯に独り暮らしの荷を解く
春の灯の古書肆に並ぶ明治本
春の灯の商店街の百年余
春の灯に許される嘘転がるや
北海道     みなと
春の灯の奥より子らの声溢れ
春灯下別れの前のハグ強く
一塊の百戸の浦や春ともし
春灯やまなぶた太き犬とをり
春ともし子等を遠くに生きてゐる
東京都     福井 よしみ
思い出す 祖母の笑顔と 願いがけ
奈良県     和田 康
春の灯や祖父の形見の俳句帳
春燈下一筆箋を二三枚
春灯に妻の前髪美しく
春燈や良寛坊の俳句集
春の灯に昔の写真取り出して
新潟県     近藤 博
酔ひしれて春の灯うるむ家路かな
春の灯や句座の面々ほのぼのと
商店街そぞろ歩くに春ともし
春灯やうるむ明りのしつとりと
春の灯やうるむ明りの肌撫づる
群馬県     北城椿貴
春の灯にゆれる桜が髪に落つ
京都府     中村 万年青
闇焦がし松明馳せて二月堂
見上ぐれば火の粉かかりて二月堂
修二会や石段登る火龍かな
ぼんぼりの灯りほのかに雛の笑み
夜桜や春の灯闇に浮き
兵庫県     松本 恵子
近づいてきし春の灯に背を押され
春の灯や弟二人もう居ない
新幹線みにきて春灯二歳の子
文豪の痰みたる咳春灯下
春の灯を浴びて心のゆらゆらす
北海道     藤林 正則
春灯の中のひとつは畜舎の灯
実験の続く理科室春灯
推敲の句の起ち上がる春灯
引っ越しの荷造り進む春灯下
一人住む母へ文書く春灯下