俳句庵

6月『蛍』全応募作品

(敬称略)

京都府     中村 万年青
源平の蛍もとから争わず
蛍住む奥山駆けるは鳥獣
蛍の火亡母の魂連れて来い
手の中の蛍よ語れ恋の夜
追ふほどに深みにはまる蛍狩
神奈川県     佐々木 僥祉
蛍一神宮の森に夜の湧く
谷地田みち吹き抜く風に蛍消ゆ
暗闇に蛍交うなり小川筋
愛知県     石川 順一
下見来て蛍男が場をしきる
タワー来て母下女と化す蛍かな
風呂で呼ぶ母は過去負ふ蛍かな
蛍見に旅の下見も兼ねて行く
窓外の這ふ何ものか蛍かな
東京都     橘 郁
ほうたるやさみしいなんて言へません
夕蛍牛乳瓶の宿に入る
東京都     安西 信之
枕辺の朝にさびしき蛍籠
ほうたるの灯を消すほどの雨
蛍狩り餓鬼の如くにつらね
ほうたるの淡き明滅魂のやう
谷底に落ちゆく平家蛍かな
岡山県     純子
光てふ言の葉交はす恋蛍
水の香を星へ届けに行く蛍
東京都     写俳亭みの
母が居て父もいるはず螢らに
スマートフォン揺れる灯りとほたるかな
岡山県     土屋 徹三
ほうたるや丘から下る光る川
ほうたるや光流るる森の中
闇の中蚊帳の蛍を見て眠る
ほうたるや虫かご光る金の粉
ほうたるや語らい合いて夜は更けぬ
群馬県     クズウ ジュンイチ
再生は蛍の中にこそあらめ
埼玉県     哲庵
東京の水は甘いぞ螢来い
旅の宿つがい螢の迷い来る
螢川元に戻るの便りあり
螢籠駐在さんに吊しあり
大蛍ゼブラゾーンを渡り行
埼玉県     小玉拙郎
手渡せば蛍をつぶす手つきの児
村人の秘密漏らさぬ蛍池
千枚田裾をめぐるや群れ蛍
垣根越え蛍出てくる大屋敷
神奈川県     秋山 直子
天井の蛍火を追う幼き目
恋もする蛍七日の命とて
真夜中の田んぼはじめて蛍狩り
蛍の夜都会のホテルディナーショー
捕まえた蛍手の中そっと見る
埼玉県     阿部 亮子
ある夜に 家族みんなで 蛍見た
神社の お庭に放つ 蛍達
停電時 電気の代わり 蛍達
広島県     永野 昌人
蛍棲む深泥が池と申しけり
玉なして蛍吹雪となりにけり
手に囲ふ蛍わが手を更に添へ
運命線辿りて蛍失せにけり
とらへしがそのあと難き蛍かな
栃木県     長浜 良
蛍の夜流れ時々光りけり
赴任地のカーテンのなき蛍の夜
瀬音より川の始り蛍の夜
北海道     伊藤 哲
青春の恋は蛍の火の如し
蛍火の明日といふ日つれてくる
埼玉県     守田 修治
大空を星に返して螢消ゆ
特攻の兄は螢で帰還する
ほたる舞う小さきけれど希望の灯
ほつほつと唄う螢とすれ違う
蛍狩りたった一度で恋育ち
千葉県     犬槇庵 光晴
せせらぎの音おほどかに初螢
東京都     鈴木 眞由美
ほうたるの骸を濡らすひとしずく
蛍火や家を出られぬ吾ここに
竹ひごの棘と刺さりぬ蛍籠
東京都     豊 宣光
明かり消し光る蛍を楽しまむ
蛍火に亡き人想ふ闇夜かな
胸中に蛍火ひとつ灯すなり
あの世へと誘はれさうな蛍狩
明滅の早き蛍の孤独かな
東京都     水野 二三夫
亡き人やほうほう蛍わが前に
したもひは闇ふかきほど蛍の夜
前九年後三年の役舞ふ蛍
東京都     笹木 弘
点滅の蛍に蛍寄り添へり
蛍火を目で追ふ沢の湯宿かな
囲いたる手にこそばゆく蛍這ふ
魂を闇に残して蛍舞ふ
せせらぎの草の茂みに蛍の火
福岡県     河瀬 周治
螢見や船頭の声水伝ひ
螢火や闇の中なる深き闇
螢舟舷越ゆる靄のあり
螢舟知らず識らずに声ひそめ
東京都     石見 光夫
ちんまりと刀自座りをり蛍の夜
ああと言う声に消えゆく蛍かな
ブラジル     林 とみ代
源平の蛍合戦見る川辺
里帰りの目的にあり蛍狩
僻地なれどなつかしきかな蛍飛ぶ
古里に別れを告げし蛍の夜
蛍火に学びし偉人物語
東京都     蘭丸
白球をグラブに仕舞ふ蛍の夜
往診の自転車を追ふ夕蛍
東京都     右田 俊郎
指さしてほたる追ふ子や闇のます
両の手につつむほたるの灯のもれる
手を握り肩寄せおうて蛍の夜
徘徊の父のあと追ふほたるの夜
舞ふほたるとどまるほたる仄かな灯
東京都     丸山清子
蛍飛ぶ七十年といふ月日
ほうたるや生死わかつは川ひとつ
大阪府     永田
蛍とて声あげ鳴きたきときあらむ
東京都     北川 京子
あの蛍今も光っているだろうか
東京都     二十日LED
蛍火や 人と交わる 心なし
蛍飛び 運命論を 力説す
東京都     甘苦泉
暗闇の 綻び蛍 明示する
粋潜め 蛍の機嫌 気褄とる
東京都     甘紫
蛍火や 暗闇穿ち 自己主張
蛍飛び 導火線へと 点火する
東京都     近田 吉幸
あえかなる色青みゆく夕蛍
初蛍億年前の光る星
神田川蛍祭りの人人人
蛍狩り諸行無情の響あり
蛍火や月と木星ランデブー
千葉県     隼人
初蛍川辺踏み入る老ふたり
ちちははの蛍となりて夢の如
東京都     岩川 容子
いわくある落人村に蛍飛ぶ
蛍火やゆっくり回る大水車
過ぎし時巻き戻したる蛍狩
峡の宿下駄音ひびく蛍の夜
野菜籠ほたる一匹紛れこむ
東京都     飯塚 佳代
暗闇を切り裂き進む蛍かな
蛍の光の軌跡なぞる指
まれびとに見えし光や蛍の夜
熱き思い抱きし蛍冷たき火
舞う蛍身ごもりしより物静か
北海道     飯沼 勇一
蛍火の自由奔放闇の中
星空へ吸ひ込まれ行く初蛍
一村は平家の領地蛍舞ふ
ほうたるの群れなし護る棚田かな
ふと会話途切れし先を蛍飛び
富山県     岡野 満
ふるさとの蛍知らせる電話かな
夜更けへと蛍の数の増えにけり
蛍狩恋路遮る団扇かな
蛍火や一夜限りの身を焦がす
婚活のサインを点す蛍かな
広島県     藤井しげ
背屈めては背伸びしてみる蛍の夜
岡山県     渡辺牛二
ほうたるのこの世の果てと想ひけり
広げたる手より蛍のいずことも
灯を消して厨の窓の蛍の火
現とも夢とも蛍川となり
東京都     村上 ヤチ代
蛍飛ぶ子等の未来を導きぬ
北海道     江田三峰
観光の目玉養殖蛍かな
蛍宿庭に蛍を放ちけり
帰り道足元照らす蛍籠
疎開せし田舎の一夜初蛍
瀬音する闇深まりぬ蛍川
大阪府     太田 紀子
疎開先数へ切れない蛍かな
解体の廃家の跡に蛍かな
山口県     ―
ぬばたまの闇に一縷の蛍かな
埼玉県     長澤 千鶴子
蛍火や母の手のぬくもり感じ
蛍火や谷間を渉り闇に消へ
谷間風目覚めて闇に蛍かな
神奈川県     ギザギザ仮面
外は雨 源氏蛍の 物語り
蛍来い 夜の夜中に 道案内
今更に 蛍の墓の 墓参り
一筋の 蛍の光を 目印に
輝きて 蛍の光の 最終話
東京都     千原 櫻子
吾もまた小さく唄っている蛍
埼玉県     櫻井 玄次郎
一閃の残像揺れる蛍かな
静岡県     池ヶ谷 しょうご
変貌を遂げて粗食の蛍かな
成虫に遂げて粗食の蛍かな
一生の善き日善き時蛍舞う
呼び交わす声もしっとり蛍狩り
水含む頬の一吹き蛍籠
東京都     三浦 靖男
疎開先記憶の淵に蛍舞い
妻誘い蛍見たくて山の宿
蛍舞う日本の平和いつまでも
ほたる来い過疎の小川に子等が声
おぼろげに蛍の光あれはいつ
三重県     平谷 富之
源平の光合戦蛍かな
蛍狩り闇夜の中の二人かな
兵庫県     吉祥寺友子
四、五人の童を連れて蛍狩り
故郷に今も小流れ蛍飛ぶ
蛍に人の大きさ見えていず
隣より来る蛍は返さざる
大鳥居蛍を追うてくぐりけり
埼玉県     米田 哲
舞う蛍 無垢のひかりや 杯を酌む
遠ち近ちの 夜さりつ方に 蛍かな
聚蛍や 車胤ほどには 勤しめず
蛍追ふ ゆったり大きく 菜殻かな
夜水入れ 足下を照らす 蛍かな
大阪府     山下 みゆき
闇溜まり蛍笑うや頬に触れ
蛍火に鼓動と瞬き重なりて
取落とすビールまろびぬ酔い蛍
蛍光に宇宙の消えし日を想う
抜け出でた魂追う遊びや蛍狩り
長崎県     グレイスめぐみ
水面に 眩く映る 蛍かな
蛍こい 子らもはしゃいで 飛びまわる
静かな夜 優しく光る 蛍かな
蛍こい 両手でそっと すくいけり
美しき 蛍の光を 見つめる夜
神奈川県     矢神 輝昭
幽玄の一縷の舞や蛍の火
初恋や今も蛍を胸の内
源平の蛍の陣地棲み分けし
蛍火の青息吐息救急車
蛍追い賢治の世界にいざなわれ
東京都     花泉
眠る子を見守つている蛍籠
千葉県     二階堂 脩一朗
旅おえて近江に放つ初蛍
山口県     山縣 敏夫
夕闇の川の辺をホタル舞う
源平のホタル舞い今盛りなり
連れ合いと蛍籠手に家路急く
ふる里の山の辺りに蛍の灯
夕闇の棚田の畔に蛍舞う
東京都     かつこ
さわさわと水の音に飛ぶ蛍
蛍来い水の流れに靴の音
東京都     淵田芥門
をちこちと蛍や風に何を聞く
蛍火の分けても光る稚児の手に
わすれまじ蛍の恋も我がむかし
東京都     石井 まゆみ
暗谷に朧のふぶきな蛍なり
昼深し草に隠るるほたるかな
濃き闇に光を曳いて草蛍
タイマーや理科系女子の蛍狩り
蛍来い玻璃窓解きたり甘し水
北海道     佐藤 武
その闇にまたその闇に蛍かな
北海道     小山 まりえ
夜に泣く赤子の瞳に蛍居り
黄昏の空の隙間に蛍舞う
土壁に光散らせる蛍の火
闇の中火の粉のように蛍散る
闇灯す炎のように初蛍
千葉県     伊藤 和幸
暗闇に揺らせて見せる蛍籠
せせらぎの音を頼りに蛍狩り
手を伝ひ蛍の光こぼれけり
香川県     郡さと
蛍見や竹馬の友の集まりて
蛍狩幹事のふうちゃん古希になる
蛍も山河も人もみな宝
蛍の闇にそれぞれがかくす過去
蛍の明滅歩いて来た月日
神奈川県     井手浩堂
源流を訪ねし径や夕蛍
川沿ひの庭に蛍の来る住処
「ほたるこい」の唄思ひ出す蛍狩
化粧の香指の蛍を受くるとき
ふたりして見やれば寄りぬ恋蛍
大阪府     弗椿
蛍指す母子の頬の近きかな
カナダ     花里真希
幼子に追われ上へと蛍舞う
幼子の帽子に光る蛍火よ
闇中にモールス信号蛍かな
北海道     みなと
父を待つ真ん丸卓袱台夕蛍
外風呂のサンダル硬し草蛍
蛍逃げ蛍のやうに彷徨えり
蛍火の近づくと見せ引き返す
湯の町を独り行くべし恋蛍
福井県     岡本 紅
おさな児のひと筆書きやほたる舞う
福岡県     西山 勝男
源平のいくさ跡とや蛍飛ぶ
遠き日の恋に焦がれし蛍の夜
蛍火に闇をいよいよ深くせり
蛍狩嫁ぎゆく子を傍らに
初瀬川の瀬音まくらに蛍宿
東京都     斎藤 洋伸
蛍群れ優越感を漂わせ
せせらぎに蛍の見えず仰ぐ星
暗黒の宇宙の星よ蛍こい
蛍こいこっちののりは金色ぞ
福岡県     桑田 勲
産土に一蝋加へ初蛍
蛍火の招く行く手の大手門
指笛に源氏蛍の乱舞かな
蛍火に雪女郎舞ふ孫の国
ランタンを揺らす蛍の乱舞かな
岐阜県     ときめき人
たましいとたましい出会ふ蛍川
岡山県     岸野 洋介
棚田みな水ゆきわたり蛍飛ぶ
明滅に心ときめく蛍狩
つなぐ手を強く握りし蛍狩
暗闇の郷は声なく蛍舞う
ほうたるの戻り来しかと目を凝らす
長野県     木原 登
声掛けて妻と見にゆく螢かな
より深き闇へ闇へと螢かな
ほうたるの恋に門限ありにけり
ほうたるの飛ぶはこの世か黄泉の世か
祭果て螢は星となりにけり
東京都     直木 葉子
土佐山の森の闇より姫蛍
埼玉県     ふみ
露草を かごいっぱいに 蛍とる
孫連れて 蛍をとりに 今昔
神奈川県     佐藤 博一
渡されてかくまで軽き蛍籠
目つむれば遠き日のある蛍かな
前の世は蛍であったかも知れず
少年と少女のむかし蛍来い
囲む掌に水の匂へる蛍かな
大阪府     津田 明美
星こぼれ蛍となりぬ知覧の夜
闇の夜の奥行き知らぬ蛍かな
私にはわかるよ君が蛍でも
現し世の身を焦がしつつ恋蛍
生き惑う残り火燃やし蛍舞
静岡県     あきひこ
幼子の手に囲われし蛍かな
残像のすでに眼にあり蛍舞ふ
招魂の灯とも蛍の舞ひ募る
荒れ庭にいつの間に来しほたる草
孫あらば蛍ぶくろの噺せむ
兵庫県     岸野 孝彦
逢いたいと想う人逝く蛍かな
蛍草霧吹き濡らす砂糖水
蛍飛び神社に消ゆる奥秩父
蛍追う夢で目覚めて妻の顔
初蛍初恋の君ささやけり
埼玉県     柏木 晃
生前は蛍だったのグーチョキパー
人の欲広げて消した蛍の灯
むらさきの母と蛍は過去になる
空欄に蛍を置いて夢の中
溜息のダウンライトに蛍篭
神奈川県     塚本 治彦
口に出る水子の名前螢の夜
父の手のマッチ箱から螢の火
螢火や一つ月へと上りゆき
黄泉路への口開くごと螢の夜
螢火を覗く掌緩めけり
神奈川県     猪狩 千次郎
二度と会ふことのない蛍放てり
初蛍背中の曲り父に似て
蛍籠枕辺に置き夜は更けず
蛍火のごときはがゆさこれも恋
東京都     岩崎 美範
蛍追ふ老老介護の車椅子
先人は書を読むといふ蛍火に
求婚は面影橋の蛍の夜
あれは父これは母かな蛍飛ぶ
この恋は蛍となりて成就せむ
岐阜県     金子加行
吊橋のへつぴり腰に蛍来し
ふるさとの蛍に会ひにひと家族
傾きし森のはざまに蛍とぶ
風止みて蛍の沢の舞台成る
瞑想の道の更ければ恋蛍
神奈川県     川島 欣也
蛍(ほうたる)を数え始めてやめにけり
ほうたるへ嘘をついてはいけないよ
西に住む源氏蛍や気短
闇の夜の星とみまごう蛍かな
蛍舞う舞台へ降りる闇の幕
千葉県     柊二
手の椀の蛍火を子らに盛ってやり
蛍の一火や胸に鼓動して
蛍火や闇の深みを欲しげなり
飛ぶ蛍水面に落とす灯もありて
蛍火や顎に赤緒の源氏かな
神奈川県     守安 雄介
止まり来し指の蛍の四面楚歌
星一つ流れて帰る蛍狩
蛍火の指に残せし温かさ
獄中の蛍楽しむ良き時代
福岡県     紙田幻草
ゆつたりと現れ出でし大蛍
蛍火の一斉に点き消えにけり
蛍火の浮かびあがりし水の闇
蛍狩潤みがちなる月上る
光るもの星と蛍と飛行機と
神奈川県     荻原 季美子
螢夜の擦過は後の世のわれか
晩鐘の紫めきて螢狩
いや増せり平家螢の闇の嵩
沢螢尼僧となりし友の文
父の忌やひとつ螢の照らしめよ
兵庫県     岸下 庄二
決断を明日に持ち越す蛍の夜
蛍の光り縺れる宵の口
蛍を搦め捕りたる竹箒
ほうたるの息する度に増す光
暗闇に人の行き交ふ蛍狩
新潟県     近藤 博
ゆくりなく閨に舞ひ入る蛍かな
蛍追ひ転ぶ幼子親が追ふ
捕虫網被せどさつと蛍逃げ
蛍火や闇にじぐざぐ群をなし
さざれ川辺り乱舞す蛍かな
石川県     森田 香津美
群青の川べり密か螢の火
水草に光落ちたり螢の香
水郷の静寂搖らぎて螢の火
ほうたるや静寂儚く消えゆきぬ
夜の香の清竜ほのか螢舞う
山口県     ひろ
ほうたるや暗き心へ灯をともし
過疎となる川を守りし蛍かな