俳句庵

9月『曼珠沙華』全応募作品

(敬称略)

長野県     中田 博美
思い出が まだ燃え残る 曼珠沙華
岐阜県     金子 鋭一
曼珠沙華棚田と棚田区切る色
雑草とされず道ばた曼珠沙華
たましひの揺るると見しや曼珠沙華
田の神に刈り残したる曼珠沙華
民俗を学びて撮るや曼珠沙華
新潟県     近藤 博
赤き花しく色ぞなき曼珠沙華
曼珠沙華夕暉に蘂のなほ赤く
昼なるに万灯とも見ゆ曼珠沙華
赤く燃ゆ燭台のやう曼珠沙華
赤き蘂畦を余さず曼珠沙華
神奈川県     守安 雄介
友逝くや千千に乱るる曼珠沙華
激しさに実の結ばざる曼珠沙華
古タイヤ真中に抱く曼珠沙華
駅前の残土に咲きし曼珠沙華
曼珠沙華草食系の吸血鬼
神奈川県     佐藤 博一
我思ふ故に吾あり曼珠沙華
群れ咲いて紅蓮の焔曼珠沙華
田の神の紅き隈取り曼珠沙華
氏も無く素性も知れず曼珠沙華
豊作を寿ぐ焔曼珠沙華
福岡県     幻草
ぞつくりと草の中より曼珠沙華
防人の守りし大地曼珠沙華
泣いた子がもう摘んでゐる曼珠沙華
思い出の中に姉あり曼珠沙華
曼珠沙華古墳いくつも続きをり
千葉県     柊二
曼珠沙華刈られ稲穂の枕花
畦を踏む影に縺れて曼珠沙華
茨城県     たいようたろう
獣道果て狂乱の曼珠沙華
曼珠沙華狂気の虫を飼い馴らし
充電の時の沈黙曼珠沙華
城跡の礎石累々曼珠沙華
鬱屈の果ての放心曼珠沙華
群馬県     麻眠
曼珠沙華 スカーレットの 香立ちぬ
黄泉の国 道しるべなる 曼珠沙華
灰色の 空見下ろせば 曼珠沙華
曼珠沙華 どこから来て 何処へ帰る
曼珠沙華 静寂の丘 佇まん
兵庫県     八家 英六
綺麗だが持ち帰るなと曼珠沙華
故郷は昔のままに曼珠沙華
揺れているかんざしに似たり曼珠沙華
あぜ道のかんざしのごと曼珠沙華
年代も移り変わりて彼岸花
山口県     ひろ子
寿命つき野辺の送りや曼珠沙華
球根の漢方なるや曼珠沙華
神奈川県     塚本 治彦
その先は黄泉つ平坂曼珠沙華
曼珠沙華打ちて哀しみ募りけり
曼珠沙華東塔背伸びしたるごと
曼珠沙華摘みし幼の叱られて
華やぎて落つる日のごと曼珠沙華
広島県     有馬 未知
曼珠沙華子どもながらに感じ入る
東京都     岩崎 美範
曼珠沙華往時を偲ぶ古戦場
曼珠沙華摘んでおしやべり姉妹
父と来し畦に一本曼珠沙華
跋扈する魑魅魍魎や曼珠沙華
曼珠沙華摘めば妹に会へるかも
長野県     木原 登
天守より見やる田畦の曼珠沙華
父恋はなくて母恋ふ曼珠沙華
落日と揚羽をとどむ曼珠沙華
散歩道いま曼珠沙華曼珠沙華
飛火して群増す野路の曼珠沙華
兵庫県     岸野 孝彦
限界の村と呼ばれて曼珠沙華
明日香にて茜に染まる曼珠沙華
曼珠沙華こけしの里のこけし花
忠魂碑赤誠知らぬ曼珠沙華
持ち帰り叱られ捨てし曼珠沙華
福岡県     西山  勝男
対岸を越へて飛火の曼珠沙華
札所へと畷伝ひに曼珠沙華
首塚や今を盛りの曼珠沙華
曼珠沙華解脱の塔を燃へたたす
空濠に哀話ひもとく曼珠沙華
岡山県     岸野 洋介
大王の眠る古墳や曼珠沙華
歌碑のそば木漏れ日止まる曼珠沙華
曼珠沙華群れて咲くよし孤立よし
黄金田を区切りて燃ゆる曼珠沙華
前触れのなくどっと咲く曼珠沙華
長崎県     内野 悠
千年の地層は一重曼珠沙華
日帰りで行けるふる里曼珠沙華
赤き血は家族に流る曼珠沙華
日暮には汚れて帰る曼珠沙華
曼珠沙華胸にクルスの異国兵
大阪府     石英
引き潮は緩やかなるや曼珠沙華
処置中のライト眩しや曼珠沙華
給水の音軽やかに曼珠沙華
曼珠沙華喀痰多き父眠る
曼珠沙華子等は居場所に帰り去ぬ
静岡県     柳谷 益弘
不条理を消し去る色や曼珠沙華
神奈川県     井手浩堂
野仏に風やはらかし曼珠沙華
畦道に火を点じたり曼珠沙華
白樺の木の間木の間に曼珠沙華
火の見櫓ありしあたりや曼珠沙華
D51の汽笛遠のく曼珠沙華
愛知県     井深 靖久
気がつけば顰に倣う曼珠沙華
意気盛ん地に足着いた曼珠沙華
居並びて黙とう捧ぐ曼珠沙華
兵庫県     たちばなかおる
山門に続く農道曼珠沙華
愛犬を埋めし庭先曼珠沙華
ブラジル     林 とみ代
曼珠沙華清姫荘に咲き乱れ
曼珠沙華熊野古道の道標
放射状に飛び跳ねるかに曼珠沙華
情熱をはじき咲かせて曼珠沙華
曼珠沙華の毒にかぶれて泣きしかな
兵庫県     山地 美智子
この先に石舞台あり曼珠沙華
岡山県     純子
手をつなぎ睦び咲きけり曼珠沙華
地に空に約束果たす曼珠沙華
大阪府     永田
佳人あり曼珠沙華が好きといふ
大阪府     高塚 政宜
争ひはこの星の性曼珠沙華
この星の争ひ絶えず曼珠沙華
大阪府     山下 みゆき
アスファルトの国より落ちて曼珠沙華
土砂降りの飛鳥路赤し曼珠沙華
雨粒のシャンデリアなり曼珠沙華
猿石の猿を知りしや曼珠沙華
曼珠沙華無き国へ連れしバス来たる
山口県     山縣 敏夫
里山の棚田の畔に曼珠沙華 
坂の上母の墓前に曼珠沙華
彼岸花ここを先途と土手に咲く
街道を抜けた辺りに曼珠沙華
ふる里の園一面に彼岸花
大阪府     津田 明美
逝く道は字で足りけり曼珠沙華
黄泉坂は字番外地曼珠沙華
結界は摘まずにおきぬ曼珠沙華
妖かしの謂われも矜持曼珠沙華
残照の刹那切り取り曼珠沙華
埼玉県     岸 保宏
平和の世朱さを増して曼珠沙華
寺門で背筋伸ばせし曼珠沙華
曼珠沙華避けし見事に獣道
東京都     村上 ヤチ代
傾城の簪数多曼珠沙華
埼玉県     櫻井 玄次郎
浄土への橋渡しかな曼珠沙華
辻堂の地蔵侘びしや曼珠沙華
神奈川県     鹿毛 里美
乗る風を待ちたる今朝の曼珠沙華
曼珠沙華暫し夕日に隠れをり
せせらぎは会話のごとし曼珠沙華
なほ風の子守歌とも曼珠沙華
三重県     平谷 富之
天上も白く染めたる曼珠沙華
我が思ひ天まで届け曼珠沙華
神奈川県     川口 祐子
情熱をすつくと擡ぐ曼珠沙華
曼珠沙華くるりカールでお洒落さん
強情な長女の好きな曼珠沙華
古刹には音無き音と曼珠沙華
よそ行きの顔ばかりなり曼珠沙華
東京都     豊 宣光
曼珠沙華空の青さと競ひ合ふ
曼珠沙華赤き敷布となる野かな
亡き父母の夢を見にけり曼珠沙華
絞首刑茎のみ残る曼珠沙華
曼珠沙華群れる中なる地蔵かな
岐阜県     ときめき人
曼珠沙華猛火戦火をくぐり抜け
千葉県     犬槇庵 光晴
労農夫憩へる畔の彼岸花
東京都     中田地溝
掘割の白曼珠沙華南無の声
下駄の音近づいてくる曼珠沙華
山形県     真木 純子
曼珠沙華棚田の畦や大夕焼け
曼珠沙華通勤道の星灯り
天翔ける絵馬なる筆や曼珠沙華
七曲がり超えて阿弥陀の曼珠沙華
追分や弓手街道曼珠沙華
滋賀県     村田 紀子
駆け抜ける白いドレスに曼珠沙華
母が来る道を染め行く曼珠沙華
黒猫に声かけられた曼珠沙華
曼珠沙華残し草刈る翁かな
曼珠沙華幼き日々を連れてくる
千葉県     藤鷹 圓哉
とうに過ぎ父の歳から曼珠沙華
病院のむかう道に見える曼珠沙華
熊本県     貝田 ひでを
曼珠沙華踏みつけられて赤くなる
山火事と見紛麓曼珠沙華
曼珠沙華落人村は寝静まり
滋賀県     濱本 勝美
母の笑み癒す畦道曼珠沙華
曼珠沙華ゆれて嬉しや千の風
巡る日々曼珠沙華咲くふたたび野
曼珠沙華魅かれて見えぬ紅い影
妖しさが君に重なる曼珠沙華
福岡県     風有路
潮騒の棚田を囃し曼珠沙華
灼爛に衰きざす見ゆ曼珠沙華
埼玉県     米田 哲
昏れ残る故山の森や曼珠沙華
入り日射す故山の森や曼珠沙華
曼沙華珠夢二彦乃の二寧坂
曼沙華珠入り日射し入る森の黙
岡山県     貫徹
停車場に愛猫眠る曼珠沙華
藁葺きの倉庫浮かびし曼珠沙華
十字路で行き先を言ふ曼珠沙華
道を問ふ指差す先に曼珠沙華
空耳の振り向く先は曼珠沙華
千葉県     二階堂 脩一朗
陽にはゆる棚田百枚曼珠沙華
石地蔵だれの供花ぞ曼珠沙華
捨て墓地の周り一面曼珠沙華
東京都     蘭丸
曼珠沙華明け渡す日のかくれんぼ
曼珠沙華ポケットに隠すかすり傷
大阪府     太田 紀子
畔道を縁取つてゐる曼珠沙華
この山の向かふにも曼珠沙華
曼珠沙華また曼珠沙華野道行く
北海道     飯沼 勇一
友の墓線香タバコ曼珠沙華
別名を知らず子ら摘む曼珠沙華
住人はいずこへ廃墟の曼珠沙華
父の墓誓ふ不戦や曼珠沙華
野地蔵の褪せし前掛け曼珠沙華
東京都     かつこ
今生に妣の咲かす曼珠沙華
曼珠沙華水子の石に手を合す
愛知県     川俣 周二
森を抜け畦一面の曼珠沙華
海底に朽ちゆく艦や曼珠沙華
かさぶたを剥がして滲む曼珠沙華
火傷痕何処で付きしか曼珠沙華
ぐづぐづと家出のできぬ曼珠沙華
栃木県     長浜 良
野仏や忽然として曼珠沙華
坊様のてくてく歩き曼珠沙華
山門へ道真直ぐや曼珠沙華
東京都     岩川 容子
この村に狐狸のうわさや曼珠沙華
落暉いま火種となりし曼珠沙華
早世の姉の戒名曼珠沙華
西国の畦道続く曼珠沙華
曼珠沙華はらりと棒になる覚悟
埼玉県     哲庵
曼珠沙華血は水よりも濃きものや
交はれど染まず白花曼珠沙華
妻の影踏み踏み帰る曼珠沙華
地の力噴き出してをり曼珠沙華
老いらくの恋や白花曼珠沙華
東京都     石見 光夫
天空に通ずる棚田曼珠沙華
休み田に佇むふたり曼珠沙華
神奈川県     佐々木 僥祉
防人の守りし塁や曼珠沙華
埼玉県     長澤 千鶴子
青空を白雲走り曼珠沙華
曼珠沙華燃えつきるまで古墳塚
天国へ続く道なり彼岸花
曼珠沙華地平線まで咲きのぼり
曼珠沙華たどりて行けば浅間山
北海道     北浜 哲
曼珠沙華究極の紅止めおり
畦道のレッドカーペットか曼珠沙華
東京都     水野 二三夫
のんのんの空はるかなり曼珠沙華
曼珠沙華日光街道一里塚
この道を父母行きにけり曼珠沙華
東京都     鈴木 眞由美
曼珠沙華このままの明日願ひけり
足萎へて留守居の父や彼岸花
吾をでぶと呼ぶは父なり曼珠沙華
したまがり諸手で擦る指のあり
埼玉県     守田 修治
曼珠沙華嫌われるほどの赤哀し
曼珠沙華酔いざめ日記白いまま
曼珠沙華コールドゲームで去る母校
どことなくカルメンに似し曼珠沙華
おてんばも摘むのを止める曼珠沙華
兵庫県     -
学校の始まるチャイム曼珠沙華
塚守と呼ばるるあはれ曼珠沙華
烏鳴き土手に叢生う曼珠沙華
曼珠沙華灯点し頃の帰り唄
面伏すや可憐に見ゆる曼珠沙華
東京都     直木 葉子
だあれにも逢ひたくなき日曼珠沙華
曼珠沙華反る富士塚の一合目
神奈川県     相模太郎
野の川に踊る太陽曼珠沙華
遊ばせて田に曼珠沙華ほしいまま
水漏れの乾び閼伽桶曼珠沙華
噴煙に慣れて仕事す曼珠沙華
さらさらと流るる野川曼珠沙華
東京都     安西 信之
曼珠沙華摘むも摘まぬ哀しけれ
天上は紺極めけり曼珠沙華
愛知県     石川 順一
曼珠沙華咲くまで踏まれて居る聖者
墓場まで踏まれし曼珠沙華凛々し
恋の歌曼珠沙華でも千切らうか
曼珠沙華圧倒的な演歌聴く
曼珠沙華車を降りて散歩する
京都府     中村 万年青
秋彼岸畦に赤帯曼珠沙華
赤々と夕日を染めて曼珠沙華
葉の緑花に遅れて曼珠沙華
夕暮れにやさしく揺れて曼珠沙華
稲穂背に飛鳥の里に曼珠沙華