俳句庵

季題 12月「行く年」

  • 年逝くやすでに根雪の母の墓
  • 長野県     木原 登 様
  • 豊かなる思ひ出あまた年のゆく
  • 東京都     右田 俊郎 様
  • 年行くや古墳は時を眠らせて
  • 神奈川県     佐藤 博一 様
  • 行く年や祖国を離れ五十年
  • ブラジル     富岡 絹子 様
選者詠
  • ゆく年や使はぬ部屋も点しゐて
  • 安立 公彦

安立公先生コメント

今月の題 、「行く年」には、一年を振り返る思いと共に、来る年への希望や期待を抱くという感じが多分に含まれています。また一方では、〈行年や夕日の中の神田川 増田龍雨〉のように、対象の中に忘年の思いを籠めるという句作もあります。
 優秀賞の木原さんの句。母堂の墓域は雪深い所なのでしょう。歳末のひと日、降り出した雪に、先日訪れた母の墓を思い、まもなくその墓は根雪に包まれると思う作者。雪深い地域に、ひと冬をその雪に抱かれるように眠る墓が目に浮かびます。
 右田さんの句。「行く年」には、冒頭にも書きましたが回想の思いが出勝ちです。しかしこの句は、一年を心豊かに過ごした思い出が数多あるという句です。前向きな感謝の思いが出ています。その思いは来る年に必ずや活かされるでしょう。
 佐藤さんの句。この句は冒頭に引いた龍雨の句に通うところがあります。過日見に行った「古墳」に思いを寄せる作者です。古墳の発生は弥生中期と言われています。悠久の時とともに眠る古墳。「時を眠らせて」が、その思いを深くしています。
 富岡さんの句。過ぎゆく一年を顧みて、改めて日本を離れブラジルの地で暮らした年月の長さを思う作者。「祖国を離れ五十年」にその思いがよく出ています。
今月の佳句。〈行く年や帰郷する子の部屋掃除 白松妙子〉。原句の帰省は帰郷としました。母親としての思いが良く出ています。〈行く年や妻の遺影に独りごと 岸野洋介〉。独りごとに深い思いが感じられます。〈舫綱締めて船小屋年逝かす 岩田勇〉。小振りの漁港の雰囲気が飾らず出ています。

◎ 優秀賞、入賞に選ばれた方には、山本海苔店より粗品を進呈いたします。