俳句庵

12月『行く年』全応募作品

(敬称略)

京都府     中村 万年青
行く年も来る年もなほ平和なれ
雪に明け温し師走の京かな
行く年や巡る季節のいや早し
行く年の巷の賑わふ暮れの街
行く年や世相の暗き青い星
ブラジル     富岡 絹子
行く年や祖国を離れ五十年
行く年も暑さに耐へる異国かな
神奈川県     佐々木 僥祉
行く年の積もりて払ふ負い目あり
行く年や湯気のゆくへに露ひとつ
ゆく年や巡りて遊ぶ水の星
行く年の火こそ鎮めや箱根山
渋色の鳥ぞ飛びゆく年の末
東京都     水野 二三夫
原節子加藤治子や年は逝く
職退くや年逝けばなほ虚ろなり
あたらしき呱呱の声聞く年ゆけり
東京都     紫煤
行く年や 帳尻合わせ 忙しなく
行く年や ボジョレー呑み止(さ)し 神神し
東京都     紫懐
行く年や 歯磨きチューブを 思い遣る
行く年や 仏頂面の 信号機
東京都     去未
行く年や 日めくり残余 愛おしむ
東京も 行く年慣(な)らい 疾走す
埼玉県     長澤 千鶴子
行く年や貨車は静かに駅通過
行く年の真心込めて礼状書く
橋に立ち流るる年の波の音
コ-ヒ-のカウンタ-あり去ぬる年
行く年や愛犬の爪パッチンと
東京都     安西 信之
行く年の火の粉舞ひたる神社かな
ペンライト左右に振りて年送る
行く年のアメ横今も賑はいぬ
行く年や父五十年の忌を修す
埼玉県     哲庵
年行くや喪中葉書を出しそびれ
行く年や偽装疑惑のそのままに
行く年や母に新車の車椅子
行く年の川下りゆく松葉杖
行く年や女系家族に囲まれて
三重県     平谷 富之
行く年や カレンダーにある 思ひ出よ
埼玉県     守田 修治
行く年や閂ぴしゃり大使館
ささやかに馬券的中年行けり
行く年や回覧板に訃の報せ
行く年やぶっきらぼうの立ち話
行く年やまたおいてゆかれるじぶんかな
東京都     鈴木 眞由美
閑暇得てモカの香りに年流る
手伝ひを乞ふ程もなく年逝けり
行く年やこの水菓子が買ひ納め
吾越えて流るる年のにぎやかに
滋賀県     濱本 勝美
ゆく年を無聊を託つ蕎麦焼酎
行く年や良きも悪しきも逝く年や
ゆく年や切なき巴里へ鐘の音
ゆく年や遣る瀬なき世ゑ百八つ音
ゆく年や過ぎし速さをまた歩く
石川県     藤谷 幸恵
行く年や熊に注意の立て看板
行く年や寄席の舞台の帯戸かな 
行く年や頬かむりする朝市女
東京都     岩川 容子
土だけの鉢すてられず年行けり
行く年やなげしに吊るす娘の晴れ着
行く年の人こぼしつつ終電車
行く年やひっくり返す砂時計
東京都     中田地溝
行く年やあすの光をはらむ夜
東京都     村上 ヤチ代
行く年や血潮を繋ぐ孫生る
奈良県     吟梵
よしあしを袋につめて年行けり
橋わたる八十路の足や年流る
よしあしを袋に入れて年行けり
埼玉県     米田 哲
行く年は遊行柳に出会へけり
行く年や阿蘇が怒ると手帳閉じ
行く年や無事なる日々を感謝して
行く年や行くなと言ふても詮の無し
行く年に全てを託し送り出す
神奈川県     川島 欣也
年流る億光年の果てまでも
年毎に逝く年足を速めけり
役目終え名跡消える年惜しむ
ゆく年や異国五年の吾子帰る
行く年や知恵三災に及ばざる
愛知県     川俣 周二
行く年の音を立てたる配達夫
行く年の気配を消して過ぎてゆく
行く年の日めくり紙の薄さかな
青森県     飯沼 勇一
行く年や市立図書館閑散と
行く年や鳶の飛ぶ影早きこと
行く年や急に退院希望増え
小事件百回あって年の行く
忌中の字掲げる角や年歩む
東京都     蘭丸
行く年や医師の仰せに人心地
行く年や語れば長し釣り自慢
神奈川県     白松 妙子
行く年や帰省する子の部屋掃除
行く年やテロに失う命有り
行く年や生き方も見ゆる春画展
行く年や蕎麦屋の屋号夜明け前
行く年や骨無き壺の七十年
岡山県     渡辺牛二
行く年の駅頭に待つ子の帰り
歳の差の変ること無し年歩む
岡山県     岸野 洋介
行く年の暦ゆっくりはずしけり
行く年や妻の遺影に独りごと
行く年やパソコン日記読み返し
柚子の湯にひたり行く年思いけり
行く年や酒宴の席に流行語
大阪府     津田 明美
行く年や遺品となりしお六櫛
行く年の性を背負いて人送る
行く年や風の向こうを駆け抜けて
行く年の風吹き過ぎる分譲地
兵庫県     松本 恭昂
行く年の湯にやはらかくつかりけり
行く年の地になつきたる日向猫
行く年の湯気立つ鍋を覗き込み
福岡県     風有路
行く年や我を誘へる招き猫
年流る甲板(デッキ)に見入る泡の筋
立読みの占ひ本や年歩む
年送る厚みの減りし妻の寝姿
年逝くや路地に売家も干し物も
山口県     ひろ子
行く年や鬼籍の人を偲びけり
行く年や無病息災ありがたし
流行語反芻しつつ除夜の鐘
山口県     山縣 敏夫
行く年や初めての古希やって来る
我に早や七十回の年流る
行く年や如何なることが待ち受ける
年ゆくや旧アルバムを仕舞いけり
行く年や過ぎしこと早やセピア色
東京都     豊 宣光
行く年の汚れを落とす長湯かな
行く年や残るいのちの日を数ふ
行く年や砂利を踏みしむ日和下駄
行く年や替はる年神すぐそこに
行く年を連れ戻したき未練あり
大阪府     太田 紀子
行く年や京都へ向かふ灯の電車
行く年や団地の全戸に明るき灯
兵庫県     山地 美智子
行く年や未だ下五が気に入らぬ
行く年や終の住処となりし家
行く年や我にもう出ぬ国訛
行く年の孤独を照らすつくえの灯
行く年や夫の机に文庫本
東京都     三角 成彦
行く年や火灯し頃の窓の雨
行く年の水滾々と流れけり
雨過ぎし並木の上や年行けり
行く年の町広々とあはれかな
弟の高き嚔や年は行く
神奈川県     塚本 治彦
年行くや大河の海へ落つるごと
行く年や牛反芻を繰り返し
年行くや薬の苦さ残すごと
行く年や口中に飴残りをり
行く年や忘れ物せし子のごとく
岐阜県     ときめき人
行く年や先手先手が後手後手と
埼玉県     櫻井 玄次郎
行く年や白髪混じりの髭当たる
群馬県     千島 宏明
行く年や赤子はすでに眠りたり
行く年の煙草の灰はうずたかし
行く年を数えて日記のきりもなし
行く年の古書に埃はそのまんま
行く年のどこやら聞こえる話し声
滋賀県     奥村 僚一
行く年や川の流れの速さかな
行く年の健やか生きておりにけり
行く年や幸い多く顧みる
行く年の鐘なる夜の静かなる
栃木県     栃木県
行く年や小銭の多き皮財布
行く年の灯火またたく人だかり
行く年の別れは永久の心地して
神奈川県     矢神 輝昭
行く年に竿の刺せぬの無情かな
加速して行く年止まらず干支廻る
行く年を送りてけじめ喜寿となり
行く年や闇に漂ふ残り香と
行く年を平和に繋げバトンパス
東京都     右田 俊郎
行く年やわずかながらも残る悔い
行く年や禍福さまざま糾ひて
大いなる禍根を残し年のゆく
行く年や時の流れに逆らはず
豊かなる思ひ出あまた年のゆく
神奈川県     猪狩千次郎
年送るきつね尻尾を振りながら
年行くや鐘も鳴らさぬ浮世寺
年行くやインプラントの歯の白さ
ゆく年の煮〆て黒き大根かな
ゆく年ややせ馬に振る鞭の音
富山県     岡野 満
木枯らしに吹かれ行く年惜しみけり
行く年や喜怒哀楽は過ぎて夢
行く年の流れに渦の二つ三つ
宮城県     林田 正光
行く年の 喜怒哀楽を 封印し
行く年や 目標未達と なりにけり
行く年や 母逝く年と 重なりぬ
身勝手に 流るる年は 過去となり
日めくりの 残り一枚 年惜しむ
神奈川県     石鎚 優
行く年や「せんろはつづくよどこまでも」
行く年の浮雲に似てオキナワは
行く年や卓袱台一つ暮れ残る
行く年や海のかなたの自爆テロ
行く年の鉄棒カラスに鳴かれをり
東京都     鈴木みのり
行く年をつげる本屋の暦売り
行く年の片手ばかりの成果かな
行く年や腹におさめる日本蕎麦
行く年に見返しながむ手帳かな
行く年やさよならばかりの年が行く
東京都     岩崎 美範
行く年やジャズを奏でる小三味線
初恋の余韻残して年逝けり
母の焚く五右衛門風呂や年流る
安産を祈る母娘や年歩む
行く年や故郷指して深夜バス
滋賀県     村田 紀子
行く年や南天を手に急ぎ足
行く年に市場行き交う白い息
行く年を送るがごとく山に雪
行く年に猫も子供も忙し気
黒豆を煮る火見つめて年送る
神奈川県     井手浩堂
行く年や絵巻見るごと振り返り
行く年のよきこと妻と拾ひけり
列島に噴火の多き年送る
年行くや世に内戦の絶えぬまま
埼玉県     岸 保宏
本晴れ禁煙誓う行く年や
行く年や形くづせし花時計
行く年や漢字一文字思案する
熊本県     貝田 ひでを
行く年や鬼籍の友のまた増えて
成し難き一日一善年流る
顧みて可も不可もなき年送る
遺す句のほんの二三や年送る
行く年の大樹の下に腕組みし
神奈川県     佐藤 博一
地球儀のくるり回りて年行けり
行く年をベートーベンと送りけり
行く年を昨日のやうに惜しみけり
年行くや古墳は時を眠らせて
人と逢ひ人と別れて年送る
長野県     木原 登
年逝くやすでに根雪の母の墓
行く年の雲の言葉を聞かむとす
千曲川倦まず弛まず年送る
老いたれば年の歩みも石火にて
旅宿に寝ねてひとりの年逝かす
千葉県     柊二
行く年や肩書のなき面かな
東京都     内藤羊皐
行く年の子に逸れたる渋谷駅
行く年の般若の面は息吐きぬ
行く年や鱗眠れぬ昏き海
大阪府     高塚 政宜
行く年や笑みの溢るる写真立て
行く年や所狭しと写真立て
千葉県     伊藤 和幸
吾もまた過客の一人年逝けり
行く年や川には出来ぬ後戻り
流れ行く雲は戻らず年逝かす
千葉県     麻眠
行く年や 妙義登りて 深呼吸
生業に 追われ行く年 忘れたる
行く年や 吾子の未来 祈りけり
行く年や 蕎麦片手に 反省会
行く年や 一句捻りて 眠りけり
神奈川県     守安 雄介
晴れ着から春着に変わる終電車
行く年の空音をつきし縛り鐘
行く年の未練を捨てて旅に出る 
行く年の終電に乗る門出猿
行く年の石段で見るスマホかな
兵庫県     岸野 孝彦
行く年やさよならだけが人生さ
行く年やセーラー服の胸辺り
行く年やスカイツリーも空仰ぐ
行く年や花は紅鎮魂碑
行く年や六十度目の影を曳く
兵庫県     岸下 庄二
行く年や来し方変へず古稀迎ふ
行く年や喪中葉書のまた来たり
行く年や余生の余白狭まりぬ
行く年や一年の計まだ半ば
行く年や柱時計の螺子を巻く
岐阜県     金子加行
行く年に眠りこけたる夜行バス
指折りてよきこと多し年の行く
行く年や恋は難関越えぬまま
行く年や忘れてならぬ人の恩
捨て切れぬ想ひと品や年の行く
愛知県     岩田 勇
行く年の入り日しばらく眺めゐる
医療費を締めて合計年送る
燈明をしばし見詰めて年送る
騒音の徐々に消えゆき年の逝く
舫綱締めて船小屋年逝かす
茨城県     たいようたろう
さりげなく行く年妻のメモ用紙
行く年の破顔そろへしジャズライブ
サイフォンの音のポコポコ年行けり
年行かす生花アレンジメントして
年行かす父母の星またたかせ
新潟県     近藤 博
偕に老い来し方偲び年送る
行く年や柱時計の音侘し
行く年やちぢに心ぞ尽きもせで
行く年や哀あり歓ありふり返る
戻らぬは時の流れよ年送る
東京都     直木 葉子
行く年の湖淼淼と暮れにけり