俳句庵

8月『残暑』全応募作品

(敬称略)

愛知県     古賀 敦子
教会の鐘鳴り響く残暑かな 
宿下駄に漫ろ歩ける残暑かな
街頭のポスター褪せし残暑かな
交差点の人動き出す残暑かな
作務僧の庭を掃きをる残暑かな
千葉県     いかさ かずまさ
突きあたる道引きかへす残暑かな 
もろ肌に湿るシャツ着る夕間暮
石垣の角に座つてゐる残暑
兵庫県     山崎ぐずみ
宿題を減らす気のなき残暑かな 
予報士の痩せずに励む残暑かな
文机の上片付ける残暑かな
バザールの投げ売り狙ふ残暑かな
残暑撮れと弐拾四駒フィルムかな
千葉県     藤原 純夫
イカロスを焼きし残暑くすぶれり 
8月が残暑なりしはひと昔
節電も建前なりし残暑かな
熱溜まりヒートアイランド残暑かな
地下鉄の冷房寒し残暑かな
京都府     昴弥
ダリの絵の時計熔けたり残暑なほ
千葉県     土井探花
屋根裏のぬんと匂へる残暑かな
千葉県     山田 香津子
新聞紙 束ねる重さ 残暑かな
神奈川県     海野 優
物売りの声遠ざかる残暑かな 
日めくりの半ばまで来る残暑かな
埼玉県     哲庵
屋根薄き仮設住宅残暑の陽 
芭蕉葉の茶色く裂けし残暑かな 
携帯の音姦しき残暑かな 
城壁の崩れ落ちたる残暑かな 
大残暑ビル全体が呻りをり
埼玉県     守田 修治
子だくさん纏り付いて残暑かな 
来ぬバスを待つ間の長き残暑かな
秋暑し町内板に訃の報せ
船ひとつ見えず一湾残暑かな
こめかみに梅干しを貼る残暑かな
東京都     紫汗
健やかな ポケモンGOの 影残暑 
残暑なお ざるそば海苔も すぐ茹(う)だり
シャワー後に 体重計へ 乗る残暑
東京都     暑泉
公園の ベンチは一人 ずつ残暑 
買い物の ずしりと重き 残暑光
残暑なお 蕎麦に多めに 海苔のせる
東京都     紫暑
残暑なお 寒暖計と 対峙して 
茶を啜り 愚痴こぼす祖母 残暑かな
残暑光 背中に浴びし 招き猫
東京都     右田 俊郎
俳画付き残暑見舞いの届きけり 
なほしばし残暑に耐へる日のつづく
じっと耐へひたすら耐へる残暑かな
老いの身に厳しき残暑耐へるのみ
学び舎は廃校となり残暑かな
長野県     伊東 慶子
江の島の鬱蒼と浮く残暑かな
熊本県     貝田 ひでを
なんとなく胃の腑の重き残暑かな 
秋暑し釣果なきまま父戻る
縁談の反故となりたり秋暑し
秋暑し瓦礫の撤去延びのびに
下町に鉄を打つ音秋暑し
岡山県     渡辺 牛二
無精ひげ剃りて残暑に立ち向かふ
山口県     ひろ子
義母逝く日残暑のきびし年忌明け 
水かけて残暑潤す六地蔵
赤子泣く残暑に探す母の胸
蔓伸びて歩道を覆う残暑かな
愛媛県     アリマノミコ
天の陽も道に迷える残暑かな
神奈川県     重兵衛
早口の物売電話秋暑し 
ぞろぞろと歩きスマホや秋暑し
きびきびと総帆展帆雲の峰
D51の厚き鋼鈑残暑かな
棹竹売りの間延びする声残暑かな
東京都     中島 寧寧
病む母の修行のごとき残暑かな 
病む母の残暑乗り越え粥二膳
千葉県     隼人
湯上りの肌にそよ風残暑かな
福島県     いらくさ
字の付く住所に残暑見舞いかな 
染付の草の埃や秋暑し
納屋ひとつ取り壊したる餞暑なり
松一本枯らして慚愧秋暑し
残る暑さ祖母の遺愛の機織り機
東京都     岩川 容子
返さねばならぬ本積む残暑かな 
髪一本顔にまつわる残暑かな
秋暑しバス席のみなまどろめり
解き難き残暑に歩をばゆるめけり
三重県     竹田茶人
厠にて待ちかまえたる残暑かな 
影ひとつ動かぬ午後の残暑かな
千葉県     都丸 浩美
爆心地祈りの鶴の舞ふ残暑 
一夜だけと云ひて酔ひたる残暑かな
この残暑打ち砕きたる太鼓あり
隅田川に大輪散りて残暑くる
義の塩を思ひ起こせし残暑かな
岡山県     土屋 徹三
木仏に蟻の群がる残暑かな 
花街に鯉の浮きたる残暑かな
大黒の笑い忘れた残暑かな
岩砕く雨打つ音や秋暑し
大阪府     太田 紀子
足許に蚊の声迫る残暑かな 
パソコンのフォント小さき残暑かな
残暑の夜子供をしかる父の声
愛知県     川俣 周二
見上ぐれば空未だ燃ゆる残暑かな 
食卓の椅子の余りて残暑かな
〆切に追はれてをりし残暑かな
大阪府     永田
碁敵は残暑ぼやくも長考す 
焙じ茶の熱きを二杯残暑かな
茨城県     栗原 和泉
雨が止み 暑さだらけだ 汗だくだ
東京都     蘭丸
光背の後ろに黙す残暑かな 
サヨナラの出待ちのなかの残暑かな
埼玉県     小玉 拙郎
戦後という二文字の残暑七十年 
群青のインク手に漏る残暑かな
外野手のグラブをはずす残暑なり
滋賀県     村田 紀子
立ち話あまり弾まぬ残暑かな 
草を抜く残暑の風に囁かれ
山風が残暑飛ばして舞っていく
雉の子も青年となる残暑かな 
友に会う残暑に耐えた花一輪
ブラジル     林 とみ代
残暑とて義理ある用の断れず 
山の宿去りがたきかな秋暑し
窓を開け風を通して残暑断つ
孫達の寝相悪しきや残暑の夜
残暑後に古里訪ふ旅企画
ブラジル     玉田 千代美
あるがまま生きて残暑を忍び居り 
残暑の来ると思ひつ病み居りし
気がかりの一つは消えて残暑かな
明方の夢に彩無き残暑かな
宮城県     遠藤 正寿
スカートに風入れる野の残暑かな 
漬樽に梅紫蘇浸る残暑かな
栃木県     優空(はるく)
羽蟲の音絶えぬ小窓も残暑なり
乾麺の木箱にあまり残暑かな
東京都     櫻井 光
耐へ難きを耐へいまだに残暑かな 
植物は語らずに耐ふ残暑かな
千葉県     玉井裕遊
色褪せしシャツ若者の残暑かな 
球場のベンチの隅の残暑かな
鉄道の曲がりくねって残暑かな
コンビカフェ銀杏並木の残暑かな
浮き玉の影ゆらゆらと残暑かな
静岡県     平野 宏
工房にろくろ乾きぬ残暑かな 
喜寿の身の生きる戦や秋暑し
スクイズのホームは遠き残暑かな
秋暑し老いしと思ふ独語癖
残暑かな見放されしか勝負神
和歌山県     中浴 智美
ちぐはぐな会話の増ゆる残暑かな
新潟県     佐藤 繁正
憲法に訛りありとや残暑かな 
裏庭の茶飲み話も残暑かな
東京都     中田ちこう
殉教の残像走る残暑かな
栃木県     長浜 良
亜麻色に替へし長袖残暑かな 
東京へ向ふ電車の中残暑
下校子の列の乱るる残暑かな
物売の露地に来ている残暑かな
北海道     樋口 範子
帰り来て 夕風に座す 残暑かな 
喉元に 泡立つ水を 残暑かな
するすると 残暑を刻む 心電図
秋暑し どこを切れども 熱の色
秋暑し 保冷車に乗り 当て所無し
東京都     豊 宣光
亡き友の残暑見舞の遺墨かな 
船影や残暑の大き日の沈む
上段の構へ残暑を打ち払ふ
夜ごとに風のやさしき残暑かな
一杯の水に残暑の消えにけり
東京都     石井 まゆみ
変え下着今日も一枚残暑かな 
棟梁のうなじに光る残暑かな
昼餉過ぎに残暑うんざり変下着
鳩の群れ灯籠の影に残暑かな
乳くわえベビーの鼻に残暑かな
埼玉県     琴吹痴庵
風見鶏微動だにせぬ残暑かな 
脛に傷叩けば埃ああ残暑
埼玉県     彩楓(さいふう)
エッシャーの密画だまし絵残暑かな 
約束の一つ残暑の陶器市
屋根にある土嚢を下ろす残暑かな
考(ちち)の靴仕舞う残暑のケアホーム
葬列に流るるジャズや秋暑し
奈良県     平松洋子
木陰にて話し終わらぬ残暑なり 
夏野菜食べ尽くしての残暑かな
なんとなく席譲られて残暑かな
神奈川県     龍野 ひろし
爆心の片足鳥居秋暑し 
洛中に支那人の声秋暑し
手と足で泣きし赤子や残暑なほ
地下道に昭和の匂ひ残暑なほ
神奈川県     成田 あつ子
潦濁りて街の残暑かな 
旅終へし残暑の街へ一歩かな
断捨離に悔いの残るる残暑かな
幾たびも眼鏡拭きゐる残暑かな
前掛けの紐よれよれの残暑かな
愛知県     浅野 敏子
一の字の猫をまたぎぬ残暑かな 
ぬか床の糠のやはやは残暑かな
埼玉県     やまちゃん
飽き飽きの一日過ぐるる残暑かな 
雑踏で残る暑さに迷ひけり
決め事も忘るるままの残暑かな
コーヒーを残る暑さと飲みにけり
季の神の怠慢なるや秋暑し
岐阜県     ときめき人
せせらぎに裾をまくりて残暑かな
千葉県     横井 隆和
野には風残暑の終わる頃が好き
岡山県     岸野 洋介
一句添え残暑見舞いの返書かな 
残暑にも元気がとりえ老い鰥夫
一雨に残暑やわらぐ苫屋かな
鳴きあって鴉残暑のごみ突く
縁台の将棋に負けて秋暑し
三重県     後藤 允孝
干網の匂ふ砂浜残暑かな 
やうやうに過ぐる残暑のにわか雨
薄縁に身を委ねたる残暑かな
古書積まれセピア色して残暑光
残暑なほ厳しき中の野良仕事
岡山県     名木田 純子
秋暑しせめて挨拶歯切れよく 
逃げ込みし森の中より見る残暑
秋暑し遅れがちなる花時計
東京都     楠田 伸彦
掌に陽射しを置きし残暑かな 
風列の暫し乱れて残暑かな
故郷の遠のいていく残暑かな
神奈川県     川島 欣也
口の端にかける残暑の長電話 
電柱の動く残暑の小蔭かな
残暑なお上毛三山雲を呼び
快晴や残暑はじまる朝ぼらけ
電車バス降りる残暑の迎えうけ
大阪府     樽見 拓
機織りに残暑まどろむリズムかな 
ネオン街残暑に惑い朦朧と
SLや残暑混じりの煙吐き
アメ横の残暑にむせび声や交い
鴨川や残暑の京都抜けてゆき
神奈川県     矢神 輝昭
手付かずの宿題よぎる残暑かな
太公望浮子の動かぬ残暑かな
旅疲れ芭蕉の像に残暑かな
檻の虎右往左往の残暑かな
連れられてデパート巡り残暑かな
三重県     吉田 博實
海の家の旗のでれりと残暑かな 
フナムシの歩行忙しき残暑かな
波ぎはに貝打ち上げられて残暑かな
秋暑しサーフボードの深き疵
さそり座のアンタレースや秋暑
東京都     雨不埒
校庭に人影もなし残暑かな 
洗濯や残暑のお陰で数こなし
家中に逃げる場所なし残暑かな
公園に声も響かぬ残暑かな
赤信号長く感じて残暑かな
富山県     津田 明美
ご無沙汰の残暑見舞いが届きけり 
名所へとガイドの旗や秋暑し
気怠さを纏うがごとき残暑かな
神奈川県     猪狩千次郎
身の上の話にもどる残暑かな 
棒キャンデー箸にも使ふ残暑かな
手拭ひの端ほつれたる残暑かな
灯台のなほも点らぬ残暑かな
革靴に畳に残る暑さかな
埼玉県     櫻井 玄次郎
蕎麦啜る箸の重きが残暑かな
愛知県     佐藤 三郎
水着あと暑さの土産残暑かな 
網張りて落鮎狙う残暑かな
盆すぎて日傘が並ぶ特売日
山口県     山縣 敏夫
クーデターニュース飛び込む残暑かな 
松山の予選落ち聞く残暑かな
秋暑しパチンコ店に客集う
スーパーにへたり込む客秋暑し
残暑いまテレビニュースの華となる
神奈川県     塚本 治彦
紙おむつはいて寝る夜の残暑かな 
秋暑し老の小便長々と
秋暑し焼き場にかかる大時計
失禁の雑巾がけの残暑かな
閉ぢこもる便秘の厠残暑かな
東京都     三浦 靖男
かあさんやいかが残暑どぜう鍋 
残暑やうなぎやの暖簾焦がしおり
残暑は冷麦がよしでも飽きた
もつ鍋の煮たぎる地獄残暑かな
焼き鳥やけむり地を這い残暑かな
大阪府     森村 冨美子
バス降りて散らばる残暑身にうけし 
空眺め一雨望む残暑かな
最北へ残暑の見舞い書いており
神奈川県     泉水
トンネルを抜ければ故郷残暑の香 
里山の噴井ほとりに残暑避け
枯葉乗せ水面も残暑照り返し
まだ残暑故郷より来て街の道
暑し秋街路樹の陰選びつつ
東京都     岩崎 美範
挨拶を目と目で済ます残暑かな 
ひもすがら母の愚痴聞く残暑かな
孫四人どつと訪ひ来る残暑かな
九回裏二死満塁の残暑かな
茨城県     ―
ひとりカフエ和みの時間残暑かな 
ワクワクと白ワンピース残暑かな
オーボエで奏でる未完残暑かな
秋暑 しイチゴジャムよりママレ-ド
最後までキラキラキラと残暑かは
大阪府     椋本望生
円光を放つ亀頭や秋暑し 
大飛球あわや残暑の火の中に
大鍋にカレーを煮込む残暑かな
矢印に入るや残暑の大渋滞
静岡県     柳谷 益弘
ゴーヤの葉隠しきれない残暑かな
神奈川県     井手浩堂
降り立ちて駅のホームの残暑かな 
路地ひとつ曲がりそこねて秋暑し
残暑なほ手紙の返事のびのびに
立話長引いてをり街残暑
番犬の吠ゆる素振りもなく残暑
茨城県     大洋太郎
残暑はぐらかすつもりの親父ギャグ 
車椅子押し和らげる残暑かな
薬瓶青き炎の残暑光
言ひ足りぬ思ひ残暑の飛行雲
がぶ飲みのカルキが臭ふ残
神奈川県     佐藤 博一
昨日言ひ今日も言ひ合ふ残暑かな
バスを待つ列の後ろにある残暑
石段の一段ごとの残暑かな
雑然と机上に積まれし残暑かな
温暖化進む地球の残暑かな
香港     インイン
買って来たセーター着ずに残暑かな
福岡県     西山 勝男
焼香のけむり染み入る残暑かな 
濡れ足に砂浜歩く残暑かな
老犬の吐息あらだつ残暑かな
残暑なほ水禍の跡をまざまざと
胆を据え野良へ下り立つ残暑かな
滋賀県     東野 了
シーサーの歯を食ひしばる残暑かな 
残暑なか上がって降りる歩道橋
母訪へばあんたはだれといふ残暑
飛石の石の不揃ひ庭残暑
猫の目の少しずれたる残暑かな
東京都     直木 葉子
子の頬のおべんとつまむ残暑かな
滋賀県     入野 隆治
つくつくの これが最後と 鳴く残暑 
つくつくの 別れが響く 残暑かな
雲ひとつ 想い出残る 残暑かな
影深く 残暑に忍ぶ 秋夕暮れ
山口県     佐藤洋
言ひわけも口ひらかずに残暑かな 
行つて来ゐ今日は帰りの残暑かな
神奈川県     ―
亡き父母に告げたる古稀や秋暑し
福井県     半田 信和
やるべきとやりたいことと残暑かな
神奈川県     河野 肇
主待つ犬吠ゆる夜や秋暑し 
小さき蛾の書架に飛び入る残暑かな
ごみの日のカラス呼び合ふ残暑かな
美男美女だけの選挙や秋暑し
舌を焼く珈琲を欲る残暑かな
京都府     宮脇 詩織
もう少し 風鈴の音で 眠りたい 
秋海苔が 美味く感じる 気温かな
不意に来る 残暑見舞いに 胸弾み
隣人の 蚊を叩く音 うめき声
福岡県     紙田幻草
秋暑し年金生活の身なれども 
思はずも口に出したる残暑かな
残暑見舞普通ハガキで返信す
なす事の無き毎日や秋暑し
上半身下着で過ごす残暑かな
茨城県     文海胡
達筆な 残暑見舞いに 見る決意  
残暑にて 日暮れまで待つ 犬散歩 
残暑超え 次の季節の 植木鉢
宿題の 済まぬ夢見る 残暑かな
母想う 残暑厳しき 生まれ月
兵庫県     岸野 孝彦
逝く人を惜しむがごとき残暑かな 
弔いの水琴窟の残暑かな
葬儀終え駅を重ねし残暑かな 
試験終え抜け殻となる残暑かな
奥穂より紀美子平の残暑かな
東京都     かつこ
奥の間の畳が焼ける残暑かな 
通帳の残高かすむ残暑かな
東京都     石川 昇
日捲りを剥がして絶える残暑かな 
残暑とて高校球児の土まみれ
老いの身に何がどうしてこの残暑
山形県     白雅
秋暑し思い出せずにうろうろす 
雑草や残暑の中で生き生きと
年老いし汗さえみせぬ残暑かな
こうろぎととも寝する残暑かな
大阪府     太田 省三
極楽に遠き御堂の残暑かな 
遮断機の音に残暑の極まれり
大盛の辛口カレー秋暑し
トラックの荷台に丸太秋暑し
窓開けて残暑の風を逃しけり
大阪府     瀬戸 順治
残暑今スカイツリーに果てにけり
埼玉県     岸 保宏
野良犬も日陰を選ぶ残暑かな 
郷の母又思う頃残暑かな
拡声器残暑二倍三倍に
京都府     欲句歩
見舞来て気遣いされている残暑
東京都     沖田顫童
秋暑し神保町の交差点
宮城県     林田 正光
絵手紙の残暑見舞いを受け取りぬ 
メニュー見て冷やし中華といふ残暑
残暑かなクーラー止まる午後六時
残暑かな台風一過その後に
残暑なお厳しくなりぬ甲子
兵庫県     岸下 庄二
自治会の議事の進まぬ残暑かな 
野良の猫河岸の残暑をさ迷ひぬ
残暑にもただ黙々と盲導犬
辻違へ残暑の中を引き返す
風見鶏ゆるり振り向く残暑かな
東京都     西谷まさる
秋を待つ砂のほこりの薄茶かな 
空蝉や今宵そなたと燗の酒
うつせみやさやかなる葉のレクイエム
一陣のせみの抜け殻風車
大回り蝉の脱け殻蟻の道
千葉県     柊二
火の国の城に攻入る残暑なお
静岡県     金子加行
耐へ抜きて残暑の週の金曜日 
電気代なほも食ひ込む残暑かな
残暑なほ職探す身のスーツかな
厳しきと残暑みな言ふ客の来し
残暑なほ工期遅れしビル伸びる
長野県     木原 登
桜古木の脂うつくしき残暑かな 
磨崖仏残る暑さにおはしけり
赤松のひとしほ赤き残暑光
まつさらな切株三つ秋暑し
一病に一病ふえし残暑かな
東京都     笹木 弘
両国に力士行き交ふ残暑かな 
喫水線すれすれに揺る残暑かな
平行の線路が光る残暑かな
俳句して元気な残暑見舞かな
隣からカレーの匂ふ残暑かな
東京都     内藤羊皐
少年の腓に勁き残暑かな 
古書街にカレーの匂ふ残暑かな 
秋暑し母の忌日の水塔婆 
秋暑し厠に出でぬなめくぢり
逆縁の葬となりたる残暑かな
愛知県     岩田 勇
酷暑耐へ一息つきて残暑かな 
痩身にこたへる秋の暑さかな
豆腐屋のラッパかするる残暑かな
警官の帽子のあみだ秋暑し
秋暑し長き読経の終はらざる
愛知県     紫四季兵衛
晩酌の量を気にする残暑かな 
ゆとりには残暑の意味すら解るまい
特別な日の空に入る残暑かな
残る命(めい)咲き競べかな残暑の日
残暑の日名も知らぬ花見て涙
埼玉県     飯塚 璋
抗ガン剤窓に残暑の照り返し。
新潟県     近藤 博
季は移りなほも不快な残暑かな 
寝ねがてや一再閨離る残暑の夜
日の暮るに残る暑さのもどかしく
退けもせでいつに終はるかこの残暑
夕まけてなほも居座る残暑かな
千葉県     伊藤 博康
溜息と愚痴が混ざりて秋暑し 
暦には残暑終りし文字の無し
日頃見ぬ温度計見る残暑かな
人に会ひまず苦笑い秋暑し
力無くカーテン下がる残暑かな
宮城県     石川 初子
宿題のまだ終わらない残暑かな 
窮屈の文字を見ている残暑かな
神奈川県     白銀
遺詠残る 猛暑日の汗  口惜しず 
石清水 敲いて渡る   残暑の影
風鈴火山 熱さあまり   目を覚ます
耳たぶに残る 汗まみれになる 祖母の残像
過去未来  疎開の遺影 自衛権
神奈川県     森山 茂
点滴の耐え難き耐え残暑かな
東京都     滝 慧
汗ばんだビラ手渡されまだ残暑
眼に汗のしみる残暑の別れあり
残暑ゆえ輪ゴムでくくる母の髪
残暑の気ひきしめパトカーかけぬける
残暑の美子は足の爪黄に染めて
茨城県     塚本 洋子
風鈴に暑さのこして夏終わる
神奈川県     髙梨 裕
晩学や残暑休みの欲しくなり
遠来の客黒を着る残暑中
出品の筆ままならぬ残暑なり
祖母の背に残る暑さを労いし
プロ野球残暑の空へ快打かな
京都府     中村 万年青
首筋につらつらまとふ残暑かな
氷屋の旗も汗かく残暑かな
かき氷食べずに惜しむ残暑かな
地蔵会や大人忙しい残暑かな
生ぬるひ湯船に浸かる残暑かな
大阪府     津田 明美
一陣の風を切り取る残暑かな
風過ぎて残暑をたたむ写真集
少年の挑戦終わる残暑かな