俳句庵

9月『衣被』全応募作品

(敬称略)

神奈川県     佐々木 僥祉
夕餉までしばし間のあり衣被 
一粒の海塩堅き衣被
まず湯気を食む楽しさや衣被
御馳走は土から生るる衣被
幼子の手づから授く衣被
ブラジル     林 とみ代
混血の娘等たくましき衣被 
乙女等のはじける笑ひ衣被
隣人と昔を偲び衣被
ブラジルに子孫増やして衣被
東京都     かつこ
大皿に衣被盛るや老夫婦
兵庫県     山崎ぐずみ
衣被剥ひて残つた皮の味 
角とれてほつとする味衣被
山合いを駆ける蒸気や衣被
洒落た爪フィンガー・フードのきぬかつぎ
釈明の記者会見や衣被
福島県     いらくさ
限界の村灯したり衣被 
山家には新米鰥衣被
荒くれの人差指に衣被
衣被丼に盛る鰥住み
衣被立ったまま引くプルトップ
千葉県     山田 香津子
総に生れ 総に住み継ぎ 衣被 
三世代の 親しみ疎み 衣被
子が母に 教わる和裁 衣被
埼玉県     守田 修治
縁側に漱石本と衣被 
つどいても託児は孤独衣かつぎ
衣被帽子にもらう里歩き
雨やまず無口な妻と衣被
山形は旅の終いの衣被
神奈川県     龍野 ひろし
衣被食ぶ寺町の料理茶屋
千葉県     土井探花
短調の国歌夜に沁む衣被
岐阜県     ときめき人
衣被老後の不安後回し
神奈川県     重兵衛
不揃ひと言ひつ出される衣被 
佳句できてお銚子一本衣被
接客はなしといふ店衣被
カウンター独り占めして衣被
割烹着姿の母や衣被
岡山県     岸野 洋介
お通しに衣被でてついほろり 
衣被妻ありし日を思いけり
衣被酔うと口つく国訛り
衣被友ふるさとを自慢せり
一緒にはなれぬお方と衣被
東京都     岩川 容子
衣被小さきならわし母ゆずり 
悪友も角がとれたり衣被
衣被剥くたやすさとおだやかさ
東京都     蘭丸
いつそのこと始発まで待つ衣被 
方人の去り際を知る衣被
埼玉県     小玉 拙郎
衣被老いた女将の蒸し加減 
地の味のほのかに甘き衣被
読めもせず味も知らずや衣被
岡山県     渡辺 牛二
衣被食はすと言はれそれつきり
東京都     中田ちこう
こんもりと盛る衣被飲掛かる
熊本県     貝田 ひでを
きずかつぎ妻食卓を文机に 
衣被文芸好きで理屈好き
衣被酒は頑固に灘好み
大阪府     八王寺宇保
衣被腰のケータイまた跳ねる 
兄在さば卒寿の祝ひ衣被
衣被昨夜より雨のつづきけり
衣被渓の真水の重みあり
一陣の風に流るる衣被
埼玉県     彩楓(さいふう)
衣被筒井筒なる夫とゐて 
父母と四万十の宿衣被
薄紅の岩塩パラリ衣被
この年のまだ知らぬ事衣被
大黒の作り立てなる衣被
山口県     ひろ子
晩酌のすすむ一皿衣被 
衣被供え月待つ縁側に
塩味をきかせてほくほく衣被
滋賀県     村田 紀子
指先が子供に戻るきぬかつぎ 
亡き父に初物だよと衣被
小さき手に魔法をかける衣被
兄もいたちゃぶ台の味きぬかつぎ
雨上がり今日は美人よ衣被
埼玉県     櫻井 玄次郎
衣被渋皮脱ぐや玉の肌
東京都     石井 まゆみ
母が荷やチラシに包む衣被 
獺祭酒頬そまりたる衣被
夫が顔衣被つるりとのぐもる
東京都     右田 俊郎
熱々を我慢してむく衣被 
衣被皮むく手間も惜しいほど
声もなくひたすら頬張る衣被
留守番を頼むのメモと衣被
焼くもよし茹でる蒸かすも衣被
栃木県     優空(はるく)
収穫の苦節に沃野きぬかつぎ
神奈川県     成田あつこ
衣被湯気の香にある昭和かな 
ぬくもりに小さき寂しさ衣被
衣被昔三時のおやつなり
割烹着真白き母の衣被
わだかまりするりと消ゆる衣被
三重県     後藤 允孝
しがらみも共に剥ぎたや衣被 
老巧のきつぷの良さよ衣被
一合の酒に合わせて衣被
試合終え奥歯噛みしむ衣被
含みある笑みを浮かべて衣被
神奈川県     川島 欣也
並び食ぶ嫁に行く子と衣被 
衣被ほど良くつまむ指三本
光頭の面影うかぶ衣被
添える箸使わずじまい衣被
衣被食まば寡黙な人となり
千葉県     横井 隆和
親離れ馬子にも衣装や衣かつぎ 
臍の緒の絆ひと傷衣かつぎ
長けりたる土垂れの秘蔵っ子衣かつぎ
衣かつぎ初値に財布を覗きけり
千葉県     隼人
知らぬまにやみつきになる衣被 
川風が厨をぬける衣被
衣被つるりつるりと喉を過ぐ
下戸の吾にも頃合ひや衣被
いま来世真砂女を思ふ衣被
大阪府     津田 明美
妣の齢とうに越えたり衣被 
母の齢いつしか越えて衣被
主語の無き会話の行方衣被
大阪府     永田
順調に術後過ごせりきぬかつぎ
大阪府     樽見 拓
衣被 小町もやをら はぎしかな 
衣被 皮にたじろぐ 力士かな
衣被 女将皮はぐ 語りつつ
衣被 子らの皮はぎ 興入りし
衣被 宴(えん)のさなかで 皮をはぎ
神奈川県     矢神 輝昭
三本の指から生まる衣被
三方へそっと手が伸び衣被
衣被太古の人のDNA
風呂に入る嬰児つるりと衣被
腕まくりどんぶり抱え衣被
愛知県     佐藤 三郎
衣被団子に添えて月見かな 
親子煮て孫の里芋衣被
年寄りの思い出の味衣被
埼玉県     哲庵
参拝を済まし名物きぬかつぎ 
きぬかつぎアンデスの塩たっぷりと
マニキュアの爪深々と衣被 
衣被ちゅるんちゅるりと逃げていく 
母の忌や皿大盛りの衣被
東京都     直木 葉子
ふるさとの土のにほひや衣被
愛知県     岩田 勇
老班は気にせぬが良い衣被 
これがまあ縁と言ふもの衣被
穏やかな父母の遺影や衣被
衣被山の冷気のひた寄する
足るを知る暮らしに慣れて衣被
東京都     吉川 克己
衣被塩を選んで滋味深し 
こざっぱり鎧脱ぎたる衣被
衣被匂いの充ちる狭き家
白頭の歯茎で咬める衣被
外灯下残一山の衣被
東京都     坂田 誠太郎
大皿に茹で上がりたり衣被 
近況を語り合いつつ衣被
衣被つるりと口に二つ三つ
虎刈りの孫の頭も衣被
衣被網戸より来る外の風
神奈川県     河野 肇
漱石の膝に乗る猫衣被 
書家の妻はなべてすっぴん衣被
初恋は百済観音衣被
地球儀の小さな日本衣被
野分来て荒れ狂う夜や衣被
滋賀県     入野 隆治
衣被 我とたわむる 鉢の中
衣被 我を嫌うか 箸笑う 
衣被 口の中でも お道化てる
滋賀県     東野 了
月を誉め地酒を誉めて衣被 
衣被茹でて二泊の妻の旅
真砂女より少し幸せ衣被
衣被剥くやシンプルイズベスト
五十年夫婦円満衣被
神奈川県     井手浩堂
疎開地に話の及ぶ衣被 
皮をむくときの感触衣被
縁側に月さしゐたり衣被
衣被フランス産の塩を添へ
眞砂女とは遠き人生衣被
岡山県     名木田 純子
衣被ふるさと想ふ旅の宿 
暮れてゆく空を見上げて衣被
一献に尽きぬ夜語り衣被
大阪府     椋本望生
損ねたる機嫌糸引く衣被 
ひと株は父母に見せたき衣被
あと十年喰ふてみせるぞ衣被
東京都     三浦 靖男
衣被茹で立てむけばふるさとへ 
疎開先家族が囲む衣被
湧き上がる雲茹で上がる衣被
古代史を広げて食べる衣被
神奈川県     猪狩千次郎
紋付を脱ぎ捨ておいて衣被 
亡き父の湯呑借りたり衣被
渡し場はビルの狭間に衣被
きぬかつぎ夜道を問うて送らるる
ふるさとと師を恋ひつつも衣被
神奈川県     月小町
衣被遠きふるさと母の味 
衣被酔ふと小躍り箸と舌
奈良県     平松洋子
衣被ザルいっぱいに湯気上げて 
お隣と仲良く分かつ衣被
真っ先に喉に飲み込む衣被
神奈川県     泉水
祖母の影想い浮かばす衣被 
今昔変わらぬ男に衣被
衣被食べ合わせ好し茹卵
衣被覆い脱せよきぬかずき
衣被外皮剥がす香ばしさ
東京都     笹木 弘
塩振って味がまろやか衣被 
想ひ出は真砂女の「卯波」衣被
止まり木に独り愉しむ衣被
母のこと素直に聞きて衣被
割烹着の女将が剥きし衣被
神奈川県     塚本 治彦
小食となられし老母衣被 
岩塩を削る小刀衣被
縁側に野良着のままや衣被
親方へ杜氏の土産や衣被
山家にも客のありけり衣被
静岡県     柳谷 益弘
別腹にひとつ進ぜる衣被
神奈川県     きよ
指で圧しすっぽり口に衣被
神奈川県     佐藤 博一
あるがまま生きて飾らず衣被
あの人にあんな特技や衣被
微笑みは母の言の葉衣被
衣被つい口に出る国訛り
夫婦とて言葉つつしむ衣被
宮城県     林田 正光
一人酒妣の味する衣被 
つるつるとすべってしまう衣被
まかないに一品足して衣被
ふるさとの土の匂いや衣被
砂糖味塩と間違え衣被
埼玉県     琴吹痴庵
親と子で蒸す派茹でる派衣被 
ふるさとの談義は尽きず衣被
あんなことまたこんなこと衣被
東京都     石川 昇
衣被残るひとつを孫の皿 
亡き父母の写真の笑顔衣被
衣被するりと逃げてしまいけり
東京都     内藤羊皐
衣被同級生は二歳下 
衣被市原野辺の小町かな
おほどかな欠伸残して衣被
煩悩の犬ともなりて衣被
衣被鬼一口と恐ろしき
長野県     木原 登
死後もなほ母は不滅や衣被 
衣被つるりほろりと喉通る
たれにでも晩年はあり衣被
老には老の塩味のあり衣被
衣かつぎ初恋の日の遠し遠し
東京都     岩崎 美範
二人して丸く老いたり衣被 
臨月の白き裸身や衣被
美食家の行きつく果てや衣被
辛き日は二合の酒と衣被
衣被百弐で逝きし母のこと
岐阜県     金子加行
器用なる子の指先や衣被 
この土地の味噌の辛さや衣被
一合にとどめし酒や衣被
雨激し漏る天井や衣被
母子の似る指先なるや衣被
兵庫県     岸野 孝彦
衣被母の口へと運びけり 
父母がいて兄と囲みし衣被
母の味超えしもの無し衣被
白肌の娘生まれし衣被
衣被ぬるめの燗でもてなされ
京都府     欲句歩
長靴の儘の縁側衣被 
持寄りの被る井戸端衣被
千葉県     柊二
もろはだの歌舞伎役者や衣被
千葉県     伊藤 博康
衣被三粒もあれば酒一本 
付け過ぎの塩を払ひて衣被
脱衣所の子供のやうに衣被
嫌なことすぐに脱ぎたし衣被
衣被少し毛のある口触り
静岡県     悉太郎
衣被親芋小芋孫よろし 
衣被今日は回さぬ芋車
しなやかに剥く指白し衣被
お通しに並ぶ小ざっぱり衣被
女房へ礼の一言衣被
兵庫県     岸下 庄二
衣被つるりと口に放ちけり 
三つ指で摘んでいただく衣被
倖せもいろいろありて衣被
衣被だんだん祖父に似る頑固
衣被ら抜き言葉を忌み嫌ふ
新潟県     近藤 博
婆(ばばあ)達団居談笑衣被 
波の花ちょとひと振り衣被
皮剥くに衣脱がすごと衣被
なほ熱くふうふう吹きて衣被
茹でたての指(および)触れ得ぬ衣被
神奈川県     zattuku
衣被 故郷思う 1食えば 
倉掛の 金衣被 憂いあり
夏至くえば 寵愛なり 衣被
奥山の  段々畑 ほのめかさ
十五夜 蟷螂餡と 衣被 
神奈川県     守安 雄介
長爪を口に逃れし衣被  
マニキアに驚いて脱ぐ衣被
襤褸衣(ぎぬ)の餅肌愛し衣被
炒胡麻の香りを纏う衣被
衣被胡麻をあしらい児の顔
奈良県     堀ノ内 和夫
母のつるりと食べ見する衣被 
お昼時全員揃ひ衣被
宮城県     石川 初子
衣被ころげて祖母の気配あり 
満月の使者でありけり衣被
東京都     ゆり
雨空に天心どこと曼殊沙華
曼殊沙華手折って飾って見たものの
お社はちらりほらりと曼殊沙華
神奈川県     髙梨 裕
愚直にも生きた父の背衣被
脇役は脇役の顔衣被
義理姉の妻を忍びし衣被
つつがなく灯る夕餉や衣被
衣被祖母のいた頃土間の家
京都府     中村 万年青
衣被昭和の母は子だくさん
東京都     滝 慧
若嫁が義母にならひてきぬかつぎ
冷酒添え月見ぬ義父へきぬかつぎ
月光を透かし見る戸のきぬかつぎ
きぬかつぎ義母ひとつ取り義父ふたつ
特養も秋定番のきぬかつぎ