俳句庵

季題 3月「雛祭」

  • 住み古りて吾も移民や雛祭
  • ブラジル     西山 ひろ子 様
  • ひととせのひかり新たや雛飾る
  • 神奈川県     佐藤 博一 様
  • 初めての口紅引かれ雛祭
  • 東京都     豊 宜光 様
  • 傾きて寄り添ふ影や流し雛
  • 神奈川県     成田 あつ子 様
選者詠
  • 午後の刻ゆたかに移る雛かな
  • 安立 公彦

安立 公彦 先生 コメント

 歳時記には、四季折々各地で催される行事が記載されています。その中で、「雛祭」ほど古くから人びとに愛され親しまれて来た祭は他に類を見ません。雛祭と並び称されて来た端午の節句は、男子の節句として名が通っていますが、生活に密着した祭としては雛祭に一目置くところでしょう。本来は旧暦三月三日の祭でしたが、現在では大方の地域で新暦の三月三日に行われています。今回もさまざまな雛祭の句がありました。雛祭はその内容も、また俳句の作品としても、広く深く、そして懐かしい行事の一つです。
 優秀賞の西山さんの句。「移民」という言葉には、作者の来歴と移り住む国の歴史が二重に感じられます。それを作者は「住み古りて」と表現しています。的確な言葉です。「吾も移民や」にその思いが出ています。「雛祭」が豊かに息衝いている句です。
 佐藤さんの句。「ひととせの」は、昨年納めた雛を一年後の今取り出す瞬間を指します。「ひかり新たや」に、雛への深い思いが感じられます。雛を飾るという悦びは、雛祭という長い行事の歴史に、更なる思いを重ねることとなるのでしょう。
 豊さんの句。「初めての口紅」が、可憐でいじらしいですね。幼い女の子。今日は雛まつりだからということで、そのお子さんに母親が口紅をさしている景です。口紅を引かれているお子さんの、緊張した愛らしい顔が見えてくるような一句です。
 成田さんの句。下五は「紙の雛」を「流し雛」と読み替えました。紙で作られた雛人形を形代として、三月三日の夕方、川に流す行事です。この句、「傾きて寄り添ふ影」が、「流し雛」の実態をみごとに捉えています。新鮮な実態です。
 今月の佳句。〈軒までの雪の昏さに雛灯す 木原登〉。作者の住いは長野。雪は軒の高さに積るのでしょう。「雛灯す」がいいですね。〈若き日の六畳一間の雛祭 門上俱子〉。「六畳一間」が千言の重さを物語っています。〈朱の椀に花麩を咲かせ雛の宴 岩川容子〉。「朱の椀、花麩、宴」、夫ぞれの言葉が雛祭の愉しさを連想させてくれます。

◎ 優秀賞、入賞に選ばれた方には、山本海苔店より粗品を進呈いたします。