俳句庵

3月『雛祭』全応募作品

(敬称略)

愛知県      岩田遊泉 (ゆうせん)
この雛は祖母の嫁入り道具なり
土雛を軒に飾るや塩の道
集ひたる人々やさし雛の宿
なかんづく明治の雛の気高きや
去年より女雛少しく臈けぬ
岐阜県      金子加行
山宿の並ぶ土雛欠けしあり
山里に土のひひなの目覚めたる
母九十並べし雛に優し指
ひひな様見たき会ひたき子の戻る
園児書きおひなまつりの招待状
新潟県      近藤博
古雛孫に継がせて段飾る
嫁せし娘(こ)の古雛なれど飾りけり
取り出せど段に惑ひて雛飾る
嫁せし娘(こ)の幼時を偲び雛飾る
雛飾る灯火艶めく奥座敷
宮城県      石川初子
雛祭ひなも等しく老いにけり
神奈川県      石鎚 優
雛祭貧しきことの美しき
雛壇の無きを詫びるや雛祭
雛壇の無き貧しさも雛祭
他人の子をふと抱きにけり雛祭
をなごのみ産み老いにけり雛祭
千葉県      柊二
包み解く子らの手に雛の国見せ
香川県      紅緒
少年の照れ笑いする雛祭
父に似た右大臣が好き雛祭
赤き紅雛と一緒に嫁ぐ朝
神奈川県      佐藤博一
雛の間に雛のやうな子の眠る
ひととせのひかり新たや雛飾る
餓鬼大将けふ神妙に雛の客
戦争に手足欠けたる雛飾る
ここだけの話始まる真夜の雛
石川県      松田 文女
イケメンのお内裏様よ雛祭
雛祭赤い紅さすおちょぼ口
留学生珍しきかな雛祭
赤い足袋ぴょんと跳ねるや雛祭
オルガンもお歌も上手雛祭
沖縄県      輝 龍明
子守歌さびしややはり雛祭
生きてこそなお楽しけれ雛祭
雛出せば鼻歌の出る雛祭
神奈川県      白銀
オルゴール 奏でふす間 雪洞で
おいし3月  心響く  雛祭り
古の 雛人形  内裏有り
甘酒を 二人飲む  雛祭り
雛あられ さくさく味が 賞味あれ
大阪府      金成愛
混ぜごはん大盛にしてひな祭り
東京都      S.A.Y
雛祭り準備す母の輝けり
おひな様祖父が見定む品ありや
雛祭りお内裏様の恋に恋
雛祭り三人官女に肩入れす
雛人形母が愛しく見つめおり
神奈川県      海野優
雛祭主をさなき点前かな
雛の間に親もとまどふ主かな
雛の間に老いたる夫婦さしむかふ
同い年にはかの大人雛祭
雛祭先ず招かれし父と母
滋賀県      了庵
美しき闇従へて雛飾る
雛祭一重瞼の姉いもと
雛祭小さな靴の並びけり
雛祭白寿の母の薄化粧
赤ん坊の握りしめたる雛あられ
愛知県      岩田美津治
悲しみは消えぬまままた雛飾る
雛祭り祝ふ親子の皺と皺 
変わりなき雛の眼差し母の愛
雛飾る宇宙旅行を夢見る娘
神奈川県      金城シュリ
遠き日の夢を見ている雛人形
忘られし雛人形は夢も見ず
雛あられ減るは子鼠運ぶから
雛人形夢見続けて時は経ち
雛人形音なき部屋で何思う
東京都      内藤羊皐
人形の髪の艶めき雛祭
乱暴に嬰の駆け出す雛祭
雛祭遺影の母の加はりぬ
うたた寝る婆さま三人雛祭
団居せる女はらから雛祭
ブラジル      西山ひろ子
雛の間に祖母と寝まりし大昔
住み古りて吾れも移民や雛祭
ままごとに遊びし昔雛あられ
外つ国に根付き愛され雛祭
来し方を子等と語りて雛飾る
愛知県      ビビサン
手話の子は手話ではしゃぎて雛祭
雛祭デイサービスの施設にも
高齢の母は少女に雛祭
先生に取り上げられて紙雛
雛の間に靴もそろえず上がり込む
兵庫県      紫 桔梗
ケーキ屋に長き行列雛祭
畏まり小さき正座の雛祭
御招ばれの男の子大人し雛祭
雛祭定時退社の家路かな
雛祭女の子に縁の無き家系
新潟県      守安雄介
古雛を凌ぎ乱るる共白髪 
雛祭り娘の部屋の眩しかり 
白酒や娘の客の初々し
ゴロ石の川に船酔う流し雛 
父方の祖父母の見てるお雛様 
京都府      欲句歩
言わぬけど髪染めたらし雛祭り
岩手県      堤久夫
雛飾る晴れの舞台よ雪の夜
古代色晴れ着の雛や恋い焦がれ
内裏雛家族の思いいまいずこ
子ら遊びしいつもの場所に夜の雛
まほろばやこのふるさとに出ずる雛
兵庫県      岸野孝彦
日は昏れて想いは重き雛祭
雛祭白亜の城の城下行く
雛祭飾る手つきに白き雨
三日間大試験受けし雛祭
雛祭善根宿の土佐路かな
新潟県      のばら
桃の花いつか恋する子と見ゆる
三歳児紅さしたがる雛祭り
雛飾り出すまで姉妹のかしましさ
幼き日祝いし雛と嫁ぐゆく
来ぬ人を雛と待つ夜の長きこと
宮城県      林田正光
踊場を舞台に飾る内裏雛
今風のピザとパスタの雛祭
雛祭一家揃って写真館
代々の由緒を背負ひ雛飾る
雛飾るやはり和室が似合ひけり
宮城県      福田良光
飾りには添へ忘れずに雛あられ
女児生れし雛人形や笑み浮かべ
内裏びな玄関先に華やひで
紙雛を折りて祭りに色をたす
嬰児や女雛のごとき寝顔して
長野県      木原登
柱時計ゆるく時打つ雛の間
雛祀り雛なき母の時おもふ
軒までの雪の昏さに雛灯す
天変も地異も経てきし雛かな
吊し雛小さきを子への土産とす
長野県      秀山
おひなさま はやくかざろう せがむ姪
愛媛県      KAZUピー
雛祭振り袖纏い燥ぐ子ら
雛祭あられ転がる緋毛氈
扇越しそっと囁く雛祭
微笑みて微笑み返す雛祭
雛祭孫膝に乗せはいチーズ
奈良県      平松洋子
子も育ち孫も育ちて雛祭
内裏雛より添ひつつや頰を染む
皆可愛い展示の雛の品の良さ
大阪府      中島靖子
雛祭り夢に拍手を惜しみなく
ディの日や人それぞれの雛祭り
雛祭り時の流れを煌めゆく
祖母成りてお雛祭りは夢の園
持つ記憶貧しき中の雛祭り 
兵庫県      山地美智子
正客の祖父にはビール雛祭
嫁かぬ娘にいつまで飾る雛かな
音合わせしている五人囃子かな
雛の箱出し仕丁に傘持たす
金屏風男雛女雛の向き合わず
千葉県      安藤風子
はじめての海光まぶし転居雛
薄紙の喃語に包み雛納め
流れ藻は磯の香濃くす雛まつり
聞き役の電話の視線お雛さま
町内の誰より早く雛飾る
神奈川県      川島欣也
殿上のみやび伝える雛祭
見目形時代をうつす雛の顔
古雛をみな出しあいて町興
中のよき鳥きて祝うひな祭り
つつがなき再会約す雛収
三重県      西井治男
艶やかさ下呂の土雛おもてうら
おてんばさん雛の前では正座する
姉妹にはひいなあそびも祝い膳
神奈川県      井手浩堂
灯を消してなほ鮮明に雛の顔
富士望む丘の古民家雛祭る
松の葉に雨粒ひかる雛祭
子ら嫁して妻のいつもの紙雛
雛祭子らのはしやぎしこと遥か
東京都      紫橘
男坂 白酒買いて 女坂
雛出せば ひと月ずっと 同期会
雛の間や 大音量の レディ・ガガ
東京都      紫仕丁
白酒や ほろ酔いてみな 姦しく
雛祭り 娘(こ)の畳紙(たとうがみ) 解き愛でる
雛出すと 急に時間に 羽根が生え
東京都      紫笏
それぞれの 彩(いろ)に取り分け 雛あられ
雛の間や 口に手を添え 大欠伸
白酒や 屠蘇器ふたたび 愛でて酌む
三重県      後藤允孝
雛祭終へて淋しき一人つ子
雛祭る吾が子の姿母に似て
三姉妹老いを忘るる雛祭
フィナーレは皆でカラオケ雛祭
女つ気なき吾が家の雛祭る
愛媛県      高橋美弥子
ほろ酔いの吾の恥ずかしや雛祭
吾が里は四月三日や雛祭
行き遅れ皆に笑はれ雛祭
大分県      門上倶子
若き日の六畳一間の雛祭り
桃の花まんまる笑む娘とパネル雛
娘のために千代紙切りてパネル雛
半世紀創りし紙雛写真のみ
夫往きて老い日懐かし雛祭り
滋賀県      村田紀子
闇の中雛は静かに時を待つ
暖かや母が描いた雛を出す
ぼんぼりが映し出したる大家族
年を経て父母に似てきた内裏雛
雛飾り部屋の空気は萌黄色
東京都      岩崎美範
細き目に妣の重なる享保雛
賑やかな在りし日しのぶ雛の間
古雛に妣愛用の紅をさす
姉しのび香焚きしむる雛の間
ちちははもかくありしかな女夫雛
埼玉県      よしこ
高らかに五人媼の雛祭
束の間や姉妹揃いて雛祭
三世代雑談弾む雛かな
雛段はトレー重ねて緋毛氈
雛祭ひとりの膳も華やかに
山口県      山縣敏夫
妻飾る雛人形の写真撮る
娘(こ)は巣立ち夫婦で祝う雛の宴
娘(こ)は巣立つそれでも妻は雛飾る
雛あられ肴に今宵酒を飲む
夕餉時思いもかけぬ雛の客
滋賀県      一斤染乃
この香り祖母の手順で雛飾る
雛の香や同じ手順を飾りゆく
クレヨンの笑顔並びて雛祭
大口の笑う紙雛母親似
東京都      佐藤博重
自づから雛祭の席決まる
客去りしままの座布団ひなまつり
東京都      住澤義英
朝帰り雛に声掛け床に就く 
雛飾り早く片づけ婿探し
聞かれたか雛に悟られ薄笑い
雛飾り嫁ぐ日かぞえ明けの空
月明かり映る障子や雛の影
岡山県      西村毅
お雛様のぞいてみると癒される
娘たち嫁ぎ雛だけ家飾り
雛まつりしていた頃は笑顔あり
雛まつり平和を願う家族の日
過疎地でもお雛祭りは賑やかに
千葉県      山田隆士
雛祭り千代ちゃん米寿の笑い皺
雛祭り祖母は十八番のちらし鮨
手拍子のよちよち歩きひな祭り
飯台に五色散りばめ雛まつり
神奈川県      塚本治彦
先立たれ一人ぽつちの雛祭
和尚兼保育園長雛祭
雛祭女人の丸き膝頭
お局のごとき寮母や雛祭
雛祭祖母若やぎて華やぎて
佐賀県      古賀由美子
木目込みの雛にやさしき民話あり
お雛様わが子のやふに並べゐる
細き目や何を問ふのかお雛様
お雛様貧しき部屋に灯のともり
はじめての娘に雛の落ち着かず
兵庫県      広部登美子
雛祭 あられほおばる 孫たちの笑顔
大阪府      永田
徳川のひな一国を背負ひけり
埼玉県      岸保宏
雛段を背にゆったりと筆運ぶ
酒を飲む爺が主役のひな祭り
雛達も驚いているホームステイ
京都府      村田高久
ぼんぼりを灯して了る雛飾り
ままごとを始める祖母や雛灯り
雛道具箱の数見て溜息す
四畳半我居無くして雛飾る
飾りても喜ぶ児のなき雛かな
千葉県      伊藤博康
右左ばば忙しなき雛飾
雛道具真綿の中に眠りをり
神奈川県      矢神輝昭
子に願ふ祈り幾年雛祭
雛祭ちらしを愛でて酒肴 
雛祭こぼる口元一文字
雛祭旗日になれと願いおり
雛祭売り場の絵巻目眩く
岡山県      岸野洋介
亡き妻を独りで偲ぶ雛祭
抱きあげてジージと呼ばれ雛祭
新婚や箪笥の上の雛祭
雛祭酢をうつ飯の光り立つ
ゆるキャラも隅に飾られ雛祭
徳島県      笹岡大刀
家事はみな父が済ませる雛祭
雛祭して若返る老夫婦
松の絵のどかんと高し雛祭
眉墨に面影残し雛祭
嫁入の笑顔こぼるる雛祭
岡山県      塩津誠治
軒下へ雛並びぬむかし町
嫁ぐ子へ悲喜交々に雛の酒
小さき手の折って畳んで紙の雛
大阪府      椋本望生
福助の燐寸と蝋の雛祭
ぢいちやんに貰つたものよ雛まつり
ぬひぐるみでんと待たせて雛まつり
あかしべべとつてもにあふひなまつり
ぴかぴかのお天道様と雛まつり
大阪府      津田明美
面影の明かりに揺れて雛祭
古民家の仄と灯りや雛祭
膝小僧並べ神妙雛祭
姉妹生家なけれど雛祭
兵庫県      噂野アンドゥー
蛤の 出汁が効いた 雛祭り
雛祭り 箱入り娘 顔を出す
ちらし寿司 借金まみれの 不動産
桃の花 咲くころ降った ひなあられ
十五歳 卒業式に 雛は飛ぶ
埼玉県      彩楓(さいふう)
円卓を囲む茶房の紙雛
雛飾る嫁ぎたる娘の幸せを
手のひらにガラスの雛飽かず見る
雛飾る図書の返却カウンター
美しき娘に優しき娘にと雛祭り
福岡県      西山勝男
さげもんの日の斑まぶしき雛祭
雛まつるかつて掛屋の蔵のなか
床の間へ雛をかざりて祭りけり
夫婦雛しつらへ老いの雛まつる
名にし負ふ天領日田の雛祭
三重県      遊眠
みちのくや無人駅舎の雛飾
ぬくもりや蔵王のこけし雛祭
朝地震に動ぜず土の内裏雛
大阪府      ひいらぎ
出戻りもほろ酔いとなる雛まつり
墨染を華やかにせん雛まつり
雛まつり待ちわびる刀自てきぱきと
腕白や居心地悪し雛まつり
雛祭り六十四州は夢うつつ
東京都      伊藤訓花
御灯明の前に一対雛かな
張り子雛たかじょの愛す三春かな
小夜更けし香はいにしへの雛飾り
雛の夜や雛の御膳に酔ひにけり
笛太鼓おどる雛のお顔あり
岐阜県      蛙田 環
雛の日や離れ座敷の琴聞ゆ
土雛のおどけた顔に孫おどけ
喜寿迎ふ美声柔らに雛飾る
樟脳の香りほのかな雛祭
雛の日やお抹茶引千切老夫婦
神奈川県      龍野ひろし
雛祭園の主役は女の子
アパートに手のひらほどの雛飾り
北海道      飯沼勇一
男系の家にて無縁雛遊び
賑やかや母系家族のひな祭り
祖母だけが張り切りたるやひな祭り
知らぬ子も居りて近所のひな祭り
デパートの売り場で済ます雛祭り
東京都      豊宣光
初めての口紅引かれ雛祭
亡き祖母の形見の雛を飾りけり
ぼんぼりや白酒に酔ふ内裏雛
厄除けを祈る一家の流し雛
男の子追ひ出されたる雛の間
岐阜県      ときめき人
柔らかき瞳を望む雛祭
千葉県      藤鷹圓哉
流れた子想いの中の雛の夜
埼玉県      哲庵
惑星をつまみ出したり雛あられ
雛飾るホール弦楽四重奏
恙なき日々を寿ぎ雛祭
左大臣誰の心を射とめむか
右大臣顔して廻る雛の市
神奈川県      成田 あつ子
傾きて寄り添ふ影や紙の雛
番犬も座敷に入れば雛の客
灯落せば闇しらじらと雛の間
立雛を寝かせ包めり吉野紙
箱書きの父の字薄れ雛納む
大阪府      太田紀子
誰も居ぬ夜の図書館雛立つ
部屋出でし時や雛に見つめられ
古雛笛吹く形笛のなく
愛媛県      渡邊國夫
雛飾るたった一つの畳の間
配置の図頼りに五人囃子かな
紙雛を吊るせしままや妣の部屋
雛飾る百年の部屋開け放つ
どっと来て雛見物のツアー客
富山県      岡野満
ひと部屋を華やかにして雛祭
飾るたび若返るかな雛の顔
甘い物たっぷり供え雛祭
静岡県      城内幸江
大小の膝並び合ふ雛祭り
雛祭一針ごとのおもひかな
滋賀県      正庵
四代のをんな揃いて雛祭
雛飾り老母の一人棲む山家
雛壇の灯り仏壇真暗闇
ひなまつりいとこはみんなをんなのこ
折紙のひひなは何にでもなれる
石川県      吉村宏一郎
けたけたと 雛に笑いし 孫えくぼ
東京都      かつこ
七段が一段になり雛飾る
骨董屋の雛を眺めし雛祭り
誰もゐぬ広々とある雛まつり
ブラジル      林とみ代
豪華なるひひな飾りし里を恋ふ
異国語の飛び交ひ居りて雛の宴
雛遊異国生まれの孫達と
雛壇にスイーツ供へ今風に
鼻欠けし古雛なれど懐かしき
岡山県      渡辺 牛二
雛の家出でし雛のごとき美女
雛祭明治の雛の色深し
「ようこそ」と雛の笑顔に添へし札
神奈川県      重兵衛
ゆるゆるとひとりで飾る古雛
結納の報告を聞く内裏雛
百段を下から上まで雛飾
ぼんぼりをつけてあげましょお雛様
古びたる母手作りの小さき雛
東京都      中田ちこう
土くさい母の手うかぶ雛の顔
雛を折るつたなさ追うや夜勤明け
烟景やたんぽぽ雛の宴かな
紙雛やままごとあそぶ君いない
東京都      内山 光弘
雛飾りあと幾度か我が娘
雛飾る居間に花咲き笑みあふれ
段飾り母の手作り菓子の箱
嫁姑ひな人形の位置で揉め
お絵描きやママと自分がお雛さま
大阪府      蓼科川奈
小さき手のつまむ能管雛祭
栃木県      長浜 良
空港の日本の初め雛飾
雛の間となりて華やぐニ三日
少年の一人まじりて雛祭
何時からか太刀の失せたり雛飾
雛の間へ小さき足の忍び足
神奈川県      長岡真
雛祭り海の向こうの孫想う
子育てを思い懐かし雛祭り
千葉県      隼人
子は疾うに母となりたり古雛
東京都      岩川容子
玄関に小さき靴や雛の客
雛飾る利かん気の娘も人の親
雛祭りしばし若やぐ老いの家
朱の椀に花麩を咲かせ雛の宴
埼玉県      守田修治
少し酔い少し眠りて内裏様
音羽屋に着せてやりたや雛模様
どの子等もよく喋るなり雛祭
つどいても老人無口雛祭
お内裏に許さるる距離猫ねむる
千葉県      悠理
木漏れ日の皆まろまろと雛祭
雛の日の語尾ゆるやかな男の子
雛の日の闇へ繋がる天袋
埼玉県      琴吹痴庵
雛祭ひい婆ちやんは白寿なり
婆ちやんは八男一女雛祭
床の間に座す兄妹雛祭
貧しさも良き思ひ出や雛祭
ブラジル     広田ユキ
子等去りてあとに零れし雛あられ
ブラジルに老い雛飾ることも無く
いと指の長しと思ふ古代雛
子等折りし紙のひひなのすぐ倒れ
雛飾る立子師の忌と思ひつつ
岡山県      名木田純子
雛の間に言の葉あふれ日のあふれ
其の上の蔵町語る雛かな
千葉県      横井隆和
・闘病や画帳に飾る雛祭り
・雨上がり伊豆路は降る降る吊るし雛
・赤糸に綴る願いや吊るし雛
東京都      まどん
ひな祭り飾らぬ後ろめたさかな
婆々さまの古布縫い合わせ雛祭
千葉県      山田香津子
キッチンに 折り紙講座 ひなまつり
九谷鉢に 加賀麩の煮物 雛の膳
声かけて くるむ吉野紙 雛納め
山梨県      万屋あたる
行かぬのはお前が悪いと雛祭り
ぼんぼりは聖夜のツリー雛祭り
雛祭り見知らぬ親子懇願す
埼玉県      小玉拙郎
京を出て北前船で来た内裏
ざくざくとコーンフレーク様の雛あられ
三男に娘のできて初の雛
京都府      村田稔子
手を合わす 仏顔なり 流し雛
雛納め 華甲の母と 一人娘と
愛知県      -
遠き子の来ずとも飾る雛祭
宅配便最後に入れる雛あられ
老いの手で飾り付けをり雛祭
遠き子へ文に添え入る紙の雛
内裏雛絵手紙にして送りけり
東京都      蘭丸
黙諾の税理士もまた雛の客
男等の去りそれからの雛祭
千葉県      都丸浩美
一面の桜でんぶや雛祭り
衣にも髪にも五十路ひな祭り
モノクロの昭和の笑顔ひな祭り
愛知県      古賀敦子
児等作るひひなの顔の皆違ふ
瓔珞の珠玉の緋色古雛
掌に載せてビードロ雛愛す
鶴の舞ふ金の刺繍の雛衣
雛の宿昼を点せる奥座敷
東京都      右田俊郎
雛飾り六畳一間に持て余す
老妻と白酒を酌む雛の夜
独り言呟きかける内裏雛
夫婦して飾るよろこびひな祭り
灯を入れる妻の遺せる雛飾
奈良県      一人坊
孫一人 じいばあ揃う ひな祭り
じい様は 雛祭さえ 酒の肴
ひな祭り 何に喜ぶ 初節句
孫と行き 格子越しに 雛飾り
ちらしずし 集ってピース ひな祭り
千葉県      築舘英雄
雛祭迎えてくれし北の宿
坂道は走ってはだめ雛祭
雛祭雀が瓦飛び跳ぬる
上の子は叱られ下手や雛祭
雛祭慰霊の花の新しく
福島県      いらくさ
トラピスト1の惑星桃の酒
雛の貝溺るるほどに菓子供う
夕餉に買いし菜の花を雛さまに
惑星はななつあるとか雛祭
シャガールの図録片付けひいなの間
神奈川県      髙梨裕
作り雛折り紙十色雛祭
江戸雛のおはす古民家雛の宴
ひとつ家三代飾る雛祭
だいりさまわたしおひなとひなまつり
ひなまつりうたふ初孫べにほのか
東京都      ゆり
古雛の梳く髪つやや雛祭り
古ひなと飾り御膳や待つ雛夜
広島県     小笠原秋一
雲晴れまいつにすべきかひな飾り
広島県     江川みゆき
どの手かなひいな飾りのたいこばち
白酒はボンボリ型のガラスびん
ひなあられ何色あるの赤白黄
海苔かるくパラリと童女ひなちらし
我家のメス犬だけがひなあられ
京都府      中村万年青
老舗みな時代めきたる雛飾り
手放せし雌雛雄雛に会いたくて
譲りたるめびなおびなや今何処