俳句庵

8月『新涼』全応募作品

(敬称略)

愛知県      西谷寿
真夜中に寝れず新涼求め起き
早朝に新涼恋し息苦し
新涼や水を求めて熱さます
真昼間に新涼求め陰に行く
真昼中新涼探し地下もぐる
愛知県      岩田勇
新涼の高原の風いと甘き
目覚めたる児(やや)のあくびの涼新た
新涼やひねもす揺るる舫ひ舟
隣家より響く御倫秋すずし
新作の仏像彫刻涼新た
千葉県      柊二
新涼や血圧計の腕の音
新潟県      近藤博
すがすがしひと雨ごとに涼新た
朝さやに涼新たなる散歩かな
四阿にしまし腰据え秋涼し
新涼や宿下駄からころ夜の湯町
新涼や灯火明かき書肆に入る
東京都      内藤羊皐
秋涼の妙正寺池の水輪かな
鬼怒川の瀬音轟き涼新た
太鼓橋渡る影とて秋涼し
新涼の目薬を受く眼かな
新涼や麻婆豆腐の花椒効き
東京都      石川昇
新涼の餃子の街に餃子像
新涼やベルトに馴染む万歩計
神奈川県      川島欣也
新涼や酒をちびちび江戸切子
新涼やふと擦れ違ふ風の中
庭仕事首すぢとおる秋涼し
新涼や頭に浮かぶ旅姿
新涼や錫杖のつく石畳
神奈川県      白銀
旅人や シーズン送り 新涼
新涼の 境目奥山の 紅葉風
新涼や 夏の日の祝い お歳暮で
もう少しで 新涼かな 緑の森
春過ぎに 吹き風ここち 新涼
宮城県      福田良光
新涼や干からぶ蛙踏む朝
捲れたる文庫のページ涼新た
涼新たカタンとドアの閉まりけり
アメジスト指輪直して涼新た
新涼や川の流れのモノトーン
千葉県      伊藤博康
新涼の風さわさわと山包む
三の橋二の橋の次涼新た
新涼や豆腐屋の桶水溢る
新涼や川底見へし街の中
新涼や出がけに一枚抱へけり
神奈川県      守安雄介
新涼に長袖のシャツ選びけり 
新涼や野原に充つる大合奏
新涼や家族残して都落ち
新涼や腰の長袖解きにけり
神奈川県      佐藤博一
新涼や百葉箱に今朝の風
秋涼し旅の誘ひの来る頃か
聴くたびに涼新たなるバッハかな
新涼や忘れしことを思ひ出す
新涼や海一望の無人駅
埼玉県      飯塚璋
新涼や山風入れてシャトルバス
山口県      ひろ子
新涼や写経の文字のととのいぬ
新涼や親しき仲の盆点前
岐阜県      金子加行
新涼に窓の位置よし設計士
新涼やグラスに注ぐ大吟醸
新涼や寄り道したき美術館
新涼や確かな深夜戻り来し
新涼や歩幅拡げしウォーキング
宮城県      林田正光
新涼や古地図片手に江戸探し
新涼や銀座の街で初個展
新涼やサイクリングの下り坂
始発バス新涼の風乗せて来る
新涼の候と書いては思案かな
長野県      木原登
新涼の手庇で見る城下かな
爽涼の魁夷の「道」を歩きけり
涼新たなり朝々のふくらはぎ
畳よし素足またよし秋涼し
ももいろの栞紐さへ涼新た
兵庫県      噂野アンドゥー
日本の 古き新涼 すだれかな
新涼や アニメ求めた 水着回
新涼が 求めた夜の 肝試し
定食屋 冷やし中華 始めました
新しい 食感始めた かき氷
兵庫県      紫 桔梗
新涼の風を纏ひて浜の道
開け放つ画廊の出窓秋涼し
新涼の境内を掃く巫女二人
嵯峨野路の豆腐御膳秋涼し
新涼の山湖にさざ波風渡る
兵庫県      ふうり
新涼が首筋撫でて日傘閉じ
トンネルを新涼通り道をゆく
新涼や早や夕暮れて帰る子ら
新涼やホラー映画の終わりたる
耕人の眉間のあたり涼新た
東京都      岩崎美範
新涼の古書肆に集ふ手話の会
新涼の風をそびらに厩橋
新涼やとんぼと渡る厩橋
新涼やまだ見ぬ国に思ひ馳す
新涼の湖にたゆたふ舫船
福岡県      たこ
新涼や 縁台すえて 将棋指す
新涼や 赤きサンダル 隅にあり
新涼の朝 遠くから豆腐売り
新涼や 一枚手繰る 朝寝床
新涼の 風つのらせて うねる波
ブラジル      西山ひろ子
新涼やコーヒーの香の満つ厨
夫の小言大らかに聞き涼新た
新涼や宙吊りにして売る新車
新涼の湯気立つ飯の旨さかな
焼き海苔の香に新涼の朝餉かな
千葉県      吉澤美佐枝
松籟の颯々として秋涼し
新涼の風を孕みて帆引き船
新涼や枯山水の石の黙
新涼や岩崎邸のエンタシス
新涼やひとり誦する李白の詩
神奈川県      井手浩堂
気に入りの靴や新涼踏みしめて
新涼や日々の茶碗を新調し
新涼の朝餉地鶏の卵かけ
吊橋や新涼の風ほしいまま
新涼や渚を辿る足の裏
三重県      遊眠
新涼や耳滓ごそと掻き出せり
新涼や減量グラフ右下がり
新涼や朝の目薬滲みわたる
愛媛県      加島一善
秋涼し素麺残る硝子鉢
新涼やトリートメント入荷増す
新涼や子ら姿消す月の末
人去りて新たに涼し砂の浜
自販機のホット数増す初涼かな
熊本県      貝田ひでを
雲水ら新涼の庭履き終へる
豪快な墨書の軸や涼新た
庭を掃き新涼の風呼び込みぬ
富士映す湖面閑や涼新た
新涼や地震の瓦礫のひと段落
神奈川県      原川泉水
新涼や目覚めうながす朝の風
新涼や皇居の堀の波静か
新涼や閉山告げる掲示板
人去りし浜に寄せる気涼新た
賑わいし駅舎に新涼しのび入る
神奈川県      塚本治彦
新涼や衝立だけの露天風呂
新涼や薄墨色の女文字
新涼の細螺の楊枝立てにけり
新涼の瘡蓋つるり剥がれけり
新涼や老母の美しき箸使ひ
石川県      幸風
新涼や介護施設の夕明かり
新涼や写経の文字をなぞる午後
新涼や無心に雲の行方追ふ 
長崎県      内野 悠
新涼や真珠を量る棹秤
働きしタオル洗ひて涼新た
病む妻へ新涼の風入れてをり
新涼やラジオで届く映画券
新涼や漁師の顔の祖父来る
大阪府      津田明美
新涼や命のすきま写しゆく
新涼や命まっすぐ嬰児の眼
新涼や素顔のままの君で良し
新涼や思い出行きの始発バス
新涼や街並み全て覚醒す
三重県      治もがり笛
新涼や木津の堤防ふたり連れ
新涼の飛行機雲に願なぞる
神奈川県      矢神輝昭
新涼よその後のあいつ訪ねみて
新涼に装ふ人のよそよそし  
新涼や吾を励まして初七日
新涼や砥石の水にさざれなみ
新涼に酒蔵勤しひやおろし
岡山県      岸野洋介
新涼やカレーの匂う新所帯
新涼や赤き鳥居の路地稲荷
新涼の朝餉に熱いおみおつけ
新涼となりて再び朝歩き
ビル街に新涼の風そっと吹く
神奈川県      河野肇
父母の揃ふ夕餉や涼新た
飯よそう母の素顔や涼新た
新涼や母の味する米の飯
卓袱台の母の腕や涼新た
新涼や少女のごとき母の顔
ブラジル      林とみ代
新涼の狭庭にお茶のおもてなし
よべの雨に濡れし庭園涼新た
新涼の大河行き交ふ遊覧船
さりげなき宿のもてなし秋涼し
新涼の風を伴ひ滑り台
山口県      山縣敏夫
新涼の駅を一番列車発つ
朝起きて我が家の庭に涼新た
秋涼の都大路を闊歩する
秋涼し孫の顔にも笑みが出る
里の駅下りた途端に涼新た
山形県      斎藤碩志
新涼や机に向かい本開く
新涼やわが頬撫でる木漏れ日よ
新涼に抗がん剤服し段降りる
出羽の里台風一過秋涼し
新涼の風に合わせて事始め
東京都      坂田誠太郎
新涼や佃小橋は小粋なり
新涼や神社の屋根も川波も
散髪を終え新涼の町に立つ
新涼の丘より街を一望に
新涼の坂降りてくる佳人かな
東京都      佐藤博重
新涼やルーペのメガネかけ直し
新涼や行方定めず二人旅
新涼の故山は雲を脱ぎにけり
兵庫県      山地美智子
新涼の挨拶交わす垣根越し
新涼や見ればゆるゆる雲動く
新涼や朝の血圧正常値
新涼や座れば煙草出す男
新涼やポツポツと押すキィーボード
東京都      豊宣光
遠明かり澄む新涼の夕べかな
新涼の文字あるところ風立ちぬ
湯上がりに新涼の風やはらかし
新涼や会席の膳改まる
新涼や日記に残す海の恋
千葉県      吉澤幸夫
鳴龍に打てる柝の音の涼しさよ
蝉涼し奥の院へと百磴を
蝉涼し五重塔の心柱
石走る白一条の滝涼し
そこここにちさき甌穴風涼し
東京都      伊藤はな
秋涼し雨後の木立に日の斑
雨けぶる町家の屋なみ秋涼し
新涼や藁葺屋根の風の路
空ほのと明るみ始む涼新た
爽涼の木立に日差し風立ちぬ
福岡県      西山勝男
裸婦像の艶はさだかに凉新た
新涼や朝のお勤しずしずと
新涼や遠の朝廷へ歩を連ね
新涼や菜園の土の黒黒と
新涼の神杉よりの霊気ふと
奈良県      平松洋子
新涼や鉢の植え替えお手のもの
新しき服を揃えて涼新た
新涼に名のある酒を一人呑む
ブラジル      原はる江
新涼を連れ来る雨は遠く去り
新涼の山家はしずか安らげる
新涼の蔬菜の山積み人見えず
植樹なる山々街道秋涼し
新涼や白寿目ざして庭手入れ
東京都      腹胃 壮
古寺の木魚のリズム秋涼し
味噌汁の湯気の香りや秋涼し
新涼やはじめましたを剥がしをり
新涼や新宿駅の人いきれ
ハーレーの咆哮音や秋涼し
新潟県      大山賢一
涼風と 海苔の香りで 浜想う
貝拾い 磯の香りで 深呼吸
心地よく おにぎりを手に 雲の海
まちかどの 風鈴の音で とまる足
小鳥鳴き 見上げた青空 森の中
岐阜県      ときめき人
すれ違ふ新涼の風子規の風
埼玉県      彩楓(さいふう)
新涼の机に考のインク壺  考(ちち)
新涼や墨文字太き朱印帳
新涼や風の渡らふ千曲川
新涼や神降る野外能楽堂  
新涼や夫婦二人の厨ごと
埼玉県      よしこ
新涼や風に押されて従ひぬ
新涼や取れてる釦二つあり
新涼やほかほかパンとコーヒー香
新涼や朝まだき土手ひとりゐし
新涼や通勤バスの忘れ傘
滋賀県      東野了
新涼やきりりと締める男帯
新涼や素足になじむ青畳
新涼や川までとどく蔵の影
新涼や瀬音にまじる人の声
新涼と聞けば少しは身も軽く
神奈川県      龍野ひろし
新涼や研師の指の軽やかに
新涼の山を間近に有馬の湯
新涼や昨日と違ふ今朝の風
千葉県      横井隆和
涼新たシーツも新た糊の香よ
爪そろえ心ととのえ涼新た
新涼に暮れる家路や書店入る
東京都      岩川容子
新涼や海に別れの余熱あり
新涼や珈琲ミルの挽き心地
新涼や散歩うながす犬の声
大阪府      太田紀子
新涼や土手に伸びゆく葛の蔓
新涼や岨に沿ひつつ風流る
岩走る水音高く涼新た
三重県      後藤允孝
新涼の波穏やかや海女の海
新涼や川面に低き風渡る
緑広げ御油の松並涼新た
新涼を肌に感じる朝の風
新涼や少年棋士の詰将棋
千葉県      飯島史朗
新涼のスカイツリーやなほ高く
色かほり重さも変えてこの新涼
新涼の南の空行く定期便
東京都      かつこ
新涼やトンネル抜けし風の彩
新涼や散歩に探す風の色
新涼や起きて水飲みウォーキング
神奈川県      海野優
新涼や栞挟めぬ電子辞書
新涼や辞書にはみへぬ栞紐
埼玉県      守田修治
新涼や印象派展の列につく
新涼や棚田あるべき顔をして
新涼に大助かりとお隣と
新涼や空に消えゆく大合唱
新涼に名物風呂屋廃業す
三重県      平谷富之
新涼や 買物行く道 心地よく
千葉県      山田香津子
新涼のピアノ奏者と握手せり
新涼を湛ふる雨や夕支度
新涼や写経の文字のはしり行く
東京都      中田ちこう
汐の香の薄れるシャツや涼新た
島根県      湧雲文月
早涼の非常階段風わたる
二の腕のさらさら具合秋涼し
新涼の街を駆けゆく犬と人
並木道歩きて気づく秋涼し
新涼や次の旅先相談す
神奈川県      成田あつ子
新涼や足さばき良き桐の下駄
新涼の藍ひと筋の玻璃の皿
新涼の花舗に流るるシューベルト
新涼や藍の刺し子の白き糸
湯通しの魚しろじろ涼新た
ブラジル      広田ユキ
秋涼し日本語うまき神父さま
新涼や岩肌にある聖母像
新涼やポーチに置かれ白き椅子
新涼や一日一章読む聖書
新涼やレマン湖畔も陽翳りて
東京都      早川高典
新涼や明日伯母が無事退院す
新涼や石英となり胸触るる
東京都      安西信之
見送りて返す踵(きびす)や涼新た
舞ひながら沈む小皿や涼新た
愛媛県      アリマノミコ
卑弥呼すむ館の御簾に涼新た
涼新たクロワッサンの今日のでき
ブラジル      玉田千代美
新涼やガスのとろ火に煮炊きして
新涼の母国の夢に老悲し
新涼にももつれし心癒されず
秋涼し心外なれど気に止めず
新涼や甘さ控えの菓子を食ぶ
神奈川県      重兵衛
新涼や序の舞舞ふ娘の立ち姿
新涼や白きうなじにほつれ髪
涼新た電車待つ間の足湯かな
新涼や伊豆の足湯に富士眺む
新涼や橋のたもとで待ち合わす
千葉県      隼人
涼新たよく歩きよく眠りけり
新涼や滴に光る日の光
新涼の埠頭に立てば頬に風
東京都      新保徳泰
新涼や筧の水の音さやか
静岡県      城内幸江
前髪は新涼という形かな
新涼や風は波紋を押し流る
新涼や猫あつさりと塀の上
群馬県      十八番
新涼や嬰むづからずに眠る
新涼や読みさしの本二三冊
新涼の路地よりランドセルの列
新涼や青さ蒼さの山の波
新涼や包丁のよく研ぎあがる
香川県      坂井裕
新涼や屋島山上瑞気満つ
新涼や目覚めの一杯ブラックを
新涼や心も軽く身も軽く
波裏の白い海峡涼新た
朝の陽と新涼の風病む人に
滋賀県      村田紀子
浜駆ける子等の歓声涼新た
新涼や山に木霊す鈴の音
青空と猫と会話す涼新た
新涼や駅に溢れる白いシャツ
神奈川県      四万歩
新涼や岸に幾たび潮がしら
新涼や寝覚めの縁に波の音
濡れそめて屋根の明るき涼新た
新涼やしっとり濡れる土竜塚
新涼の巫女の手にある榊かな
岡山県      うさぎまんじゅう
新涼やワルツを奏でるユーチューブ
新涼や抹茶茶碗のあたたかき
新涼や和菓子教室かよう朝
新涼や川面に光る翅あまた
新涼やシェークスピアを読み耽り
大阪府      椋本望生
せせらぎの風新涼の雲白し
新涼や為さねばならぬとは言へど
新涼の風向き探る庭師かな
新涼や電子辞書よりつと戦ぐ
空を掃く竹のささやき涼新た
兵庫県      山崎衣玖
新涼や湯呑の数の笑ひ声
新涼や薄紫の眼鏡買ふ
新涼の制服くるぶしの見えて
新涼の木陰を走る園児かな
新涼までちさき約束伸ばしけり
東京都      碩真由美
髪の色すこし明るく新涼に
キーボードたたく新涼の指先
千葉県      下総真里
新涼と我を吐き出す改札機
空を向く子牛の鼻輪秋涼し
新涼や苦手な人と立ち話
埼玉県      哲庵
秋涼し帰郷叶いし被曝村
新涼や定期投薬一つ消え
秋涼し角磨り減りし百度石
涼新た洗はれている金次郎
新涼やパンダの子ども乳離れす
神奈川県      髙梨裕
新涼や電柱消えた町歩く
新涼や利き酒ありと紺のれん
新涼の鎌倉山や星光り
新涼やコップの水も妻は亡き
新涼や水道水の朝の水
京都府      中村 万年青
新涼や夜風仄かに線路沿ひ
秋涼し温い茶欲しとお年寄
蓮池やゆれる浮葉も涼新た