俳句庵

季題 4月「蝶」

  • 蝶舞ふや静かな刻の移りゆく
  • 三重県     後藤 允孝 様
  • まどろみの妊婦を起こす蝶の影
  • 愛媛県     加島 一善 様
  • 青年のコンビニ弁当蝶の昼
  • 愛知県     斉藤 浩美 様
  • 初蝶や折目新し巫女袴
  • 神奈川県     三好 康子 様
選者詠
  • 葛飾や荷風忌近き蝶の昼
  • 安立 公彦

安立 公彦 先生 コメント

 「蝶」を辞書に当たると、「蝶目の蛾以外の昆虫の総称」とあります。種類も多く日本だけで約二五〇種を数えるとのことです。俳句では「蝶」とあれば春季を指しますが、夏の蝶、秋の蝶、冬の蝶などと、それぞれの季節の蝶も詠まれています。<うつつなきつまみごころの胡蝶かな 蕪村>。<夏の蝶高みより影おとしくる 万太郎>。揚羽蝶は夏の蝶とされています。
 優秀賞の後藤允孝さんの句。(流れゆくは移りゆく)。庭前の景でしょうか。一匹の蝶が舞う深閑とした昼下りの庭です。考えごとも、その蝶を見ている内に消えてゆく思いがして来ました。生活の中では、こういう一時を持つことも必要です。
 加島一善さんの句。まどろんでいる妊婦。二階にある寝室のベッドが相応しいです。ふと目覚めた妊婦。その時一匹の紋白蝶が舞っているのが見えて来ました。妊婦はその蝶をじっと見詰める。まどろんでいる妊婦と窓外の蝶の取合せが効果的です。
 斉藤博美さんの句。コンビニエンスストアが日常化してから如何ほどの歳月が過ぎたでしょうか。今では殊に若い人達に利用者が多いようです。「青年のコンビニ弁当」が全てを語っています。「蝶の昼」も良くその背景となっています。
 三好康子さんの句。一転して「巫女」の句です。巫女といえば緋色の袴が目に浮かびます。神社の境内を往き来する巫女さんの姿は清楚で印象的です。その巫女さんの緋袴の折目に注目したのが善いですね。初蝶との取合せも新鮮です。
 今月の佳句。〈起重機の組む鉄骨に蝶の影 金子加行〉。〈ちちははの魂か墓前に黄蝶舞ふ 勢田清〉。〈窓越しの蝶に手を振る赤子かな 村田紀子〉。鉄骨、墓前、赤子、それぞれとの取合せが良く出来ています。

◎ 優秀賞、入賞に選ばれた方には、山本海苔店より粗品を進呈いたします。