俳句庵

7月『晩夏』全応募作品

(敬称略)

愛知県      遊泉(ゆうせん)
三山を巡りて帰る晩夏かな
伊吹山(いぶき)より琵琶湖眺める晩夏かな
微睡めば少しくまぶし晩夏光
農終えしトラクターの列夏深し
晩夏光映えて静まる余呉湖かな
大阪府      藤田康子
一抹の夢かたはらに晩夏かな
哭くことも追ふこともなき晩夏かな
新潟県      近藤博
青の峰たなびく雲に晩夏光
なほ強く晩夏の日差し肌を刺す
草も木も茂り落ち着き夏深し
いくそたび指折りひねる晩夏の句
晩夏光はるか海境(うなさか)落暉かな
兵庫県      岸下庄二
工場のサイレン響く晩夏かな
日めくりの嵩低くなる晩夏かな
故郷の一足早き晩夏かな
単線の特急待ちの駅晩夏
文机に小さき地球儀晩夏光
大阪府      金成愛
晩夏光再た読みだしぬ古事記かな
世界平和あしたもつづく晩夏光
千葉県      冨田柊二
参列の夫婦(めおと)の杖や晩夏光
愛媛県      渡邊國夫
紙漉の町のうだつや晩夏光
一病は長寿の因や夏深し
老犬の小屋の並びて夏深む
ふる里の訛のまじる晩夏かな
愛用の古しワープロ夏深し
東京都      石川昇
素麺を食い尽くしたる晩夏かな
余生にも明暗ありて晩夏光
東京都      岩崎美範
モダンジャズ狂ほしく鳴る晩夏かな
またひとり畏友旅立つ晩夏かな
コーラ飲む原爆ドームの晩夏かな
天使住む新大久保の晩夏かな
果てしなく線路の続く晩夏かな
神奈川県      佐藤博一
雲にまだ力の残る晩夏かな
tシャツもくたびれ果てし晩夏かな
宿題のやっと終わりし晩夏かな
砂の城波が引き去る晩夏かな
老い二人少し息抜く晩夏かな
岐阜県      金子加行
旅鞄疲れの目立つ晩夏かな
点滴に注射に慣れし晩夏かな
大旅行終へたる疲れ晩夏光
耐へ抜きて魂売りて晩夏かな
病む母を慰む努めはや晩夏
長野県      木原登
いつも来る赤松林けふ晩夏
流木に残照われに晩夏光
少年が沖見つめゐる晩夏かな
ゆく雲を追うて晩夏の雲来る
牧牛の遠く草食む晩夏かな
千葉県      伊藤博康
晩夏とは言へど猛るや庭の草
デモに行く気持ち先行晩夏なり
牛啼ひて晩夏の昼を迎へけり
川幅の細くなりたる晩夏かな
忘れ物思ひ出せなき晩夏かな
神奈川県      守安雄介
サンダルの鼻緒の切れる晩夏かな
返事無き友へのメール早や晩夏
ビーナスの笑窪懐かし晩夏かな
浜に積むボートの覆い夏終わる
水切りの二十を超える晩夏かな
東京都      安西信之
老い二人雨の外ゆる晩夏かな
栃木県      鹿沼 湖
鉛筆の短くなりて晩夏かな
海岸の夜気まとはりて晩夏かな
グローブとボールを置きて晩夏かな
中指の包帯ほどけ晩夏かな
食堂の献立減りて晩夏かな
神奈川県      白銀
晩夏の頃 蝉鳴く時期に  夕映えの詩
山からの 雄叫び声は  晩夏に沈む
明け方の その物語   晩夏という
夏が来る 切ない愛の 晩夏歌
晩夏とは  秋暮れている 1人静
東京都      片桐啓之
ふと風の心地好き晩夏の夕暮れ
雲の間の空の青濃き晩夏かな
落日の朱く大きな晩夏かな
アルヘイ棒回り止まない晩夏光
海晩夏寄せ来る男波また女波
徳島県      白井百合子
野の花を生けて一輪晩夏なり
薄着して鼻水すする晩夏かな
とぎ水もバケツに溜める晩夏かな
雨あがり虫賑やかに晩夏なり
宮城県      林田正光
甲子園汗と涙と晩夏光
晩夏とは旅の終わりの静寂かな
晩夏光遊び疲れた昭和の日
青森県      竹浪誠也
腕白きままに晩夏の入院棟
縄文の土偶の笑みや晩夏光
水底の魚影くろぐろ晩夏かな
さよならの残像いまだ晩夏光
ミルク飲めば晩夏の駅のせはしなし
埼玉県      岸保宏
ツアー客大あくびする晩夏かな
無人駅ノート隙なく晩夏かな
けもの道うっそうとする晩夏かな
兵庫県      はなちる
砂浜に陽花の骸晩夏かな
静寂の木に見ゆる影晩夏かな
ビル風の海に向かひて晩夏かな
晩夏光ビンに集めし思い出を
波高くパラソル褪せし晩夏かな
兵庫県      噂野アンドゥー
夕暮れの 暑さが残る 晩夏かな
宿題を 三日坊主で 終わらせる
涼しさや 冷房切った 夏の夜
宿題の 片付け追われる 晩夏かな
夕飯の カレーライスが 夏終える
山口県      ひろ子
暮れなずむ橋にたたずむ晩夏かな
福岡県      紙田幻草
晩夏光墓にありたる墓の影
宮浦てふ大斜坑跡晩夏光
紫の煙の上る晩夏かな
蛇行して潮目の変る晩夏かな
頂上に牛の憩へる晩夏かな
東京都      内藤羊皐
雨煙る甲武信ヶ岳の晩夏かな
はらからを逝きたる里の晩夏風
墓原を水の滾れる晩夏かな
鮫の歯を描ひた飛行機夏深し
晩夏かな東京に置く被爆石
京都府      田端 欲句歩
夏深し時刻の褪せた停留所
風見鶏客船の波追う晩夏
キャスターの壊れたバッグ引く晩夏
神奈川県      井手浩堂
火の島の噴火おさまる晩夏かな
八方に枝張る欅晩夏光
江の島のそら鳶さらぬ晩夏かな
風晩夏ふるさとの駅降り立ちて
晩夏光波あき缶を置きゆけり
滋賀県      正庵
ロシア船多き舞鶴港晩夏
生傷の絶えぬ少年晩夏光
浦町の潮の香強き晩夏かな
グローブに残る晩夏の匂ひかな
部屋の隅にエキスパンダー晩夏光
栃木県      仲川光風
晩夏光こまち号の輝ける
二番子の口に餌はこぶ晩夏かな
寒霞渓真下に望む晩夏かな
ふる里の姉の痴呆の晩夏かな
運転を止せばの声の晩夏かな
兵庫県      山地美智子
街晩夏席譲られて戸惑へり
午後の日の水面に遊ぶ晩夏かな
砂黒き三保の松原晩夏光
埃まみれの仁王が二体寺晩夏
ダンプカー疲れ晩夏の駐車場
栃木県      垣内孝雄
斎了へて畦道もどる晩夏の夜
あれこれと晩夏に思ふこと多し
高音にて晩夏に鳴ける鴉かな
故郷にやうやく帰る晩夏かな
疲れなどたまる晩夏や茶漬け食む
奈良県      堀ノ内和夫
廃竪坑天を突くごと晩夏光
故里の破屋の揺らぐ晩夏光
東京都      勢田清
富士山の稜線冴えし晩夏かな
暮れかかる晩夏の海や浜遠き
富士山の暮れ残りたる晩夏かな
突堤の先端に立ち晩夏かな
海の色晩夏の空を映しけり
愛知県      榊原
夕暮れに 晩夏が映える 水面かな
宮城県      仙華
束の間の晩夏一日に再会す
晩夏の夜覚めたる風は浅葱色
黒髪の乱れし海の晩夏かな
晩夏の夜母の思い出残しけり
晩夏光独り一つの恋探す
神奈川県      塚本治彦
濃くなりしルージュの色や晩夏光
耳朶に穴の残りし晩夏かな
父親の背丈越えたる子の晩夏
骨折の腕を吊りたる子の晩夏
声変はりしたる少年晩夏光
新潟県      加藤正子
海よりも深きものあり晩夏光
お弥彦の晩夏や赤き大鳥居
竿収め光る川石晩夏かな
千葉県      河村千怜
夕焼けと 母帰り待つ ランドセル
東京都      原井 壮
老いの身に鞭を打ちたる晩夏かな
やはらかき知床の風晩夏光
ビー玉を翳す晩夏の光かな
異国語の飛び交ふ街の晩夏かな
捲りたる腕の細さや晩夏光
大阪府      津田明美
風抜けて晩夏の湖面波立てり
常夜燈ひそかに灯り晩夏かな
リベンジを誓う少年晩夏かな
白球の一つ残され晩夏かな
たぐりよす虚空の光晩夏光
京都府      山野うさぎ
雑草の影の長さや晩夏光
晩夏光車窓をはしる空紅し
中国語とびかふ京の晩夏かな
晩夏光かばんの底の砂ぼこり
くろぐろと海藻ゆるる晩夏かな
山口県      山縣敏夫
下校する子等の背中に晩夏光
下り立った山の駅舎に晩夏光
校庭の砂場を照らす晩夏光
夏深しボケッと過す午後の居間
本を読む連れ合いの背に晩夏光
神奈川県      原川泉水
晩夏光磯で干す背に冷しぶき
霧ヶ峰風の香に晩夏知る
晩夏入り抗暑の意欲萎える午後
公園の鳥のさわぎに晩夏見る
奥入瀬の水音変わる晩夏かな
神奈川県      矢神輝昭
退職の挨拶の目に晩夏光
老ゆらくの恋は臙脂の晩夏かな
夢に見た世界一周晩夏かな
長袖を悩む姿見晩夏かな
恋の果て列車見送る晩夏かな
三重県      後藤允孝
甲子園のマウンドに立ち晩夏光
陰影のなき晩夏いま風渡る
一行詩詠んで晩夏のひとりかな
うねりきて岩に砕ける波晩夏
笑わせて始める法話晩夏かな
神奈川県      河野肇
からからと笑ひて逝きし晩夏かな
晩夏光遊びせむとや生まれけむ
鉄棒の影の若さや晩夏光
帆船のやうに下着干され晩夏
ふるさとの苗木を植ゑし晩夏かな
岐阜県      雅風
賑はひの日々を遠くに海晩夏
寄せ来ては波の荒らぶる晩夏かな
三井寺の時鐘晩夏の湖わたる
鳴き砂を踏む音にある晩夏かな
忍び寄る晩夏の影や志賀の湖
東京都      佐藤博重
濡れ縁に下駄脱ぎ捨つる晩夏かな
立ち読みは我一人のみ晩夏光
福岡県      西山勝男
漢江の流れたゆたふ晩夏光
大阿蘇の晩夏の色に暮れ初む
礎に夕日とどまる島晩夏
日矢一条軍艦島の夕晩夏
ひたむきに土と向き合う晩夏かな
埼玉県      櫻井俊治
高原の合宿終はる晩夏かな
合宿の学生帰り晩夏かな
東京都      豊宣光
夕映えや晩夏の富士の逞しき
稔り待つ晩夏の青き田圃かな
絵日記に晩夏の海と忘れ貝
移りゆく季節の名残り晩夏光
東京へ子ら帰り行く晩夏かな
東京都      かつこ
ピアスして可も不可もなき晩夏かな
鶏の声のかすれる晩夏かな
神奈川県      ぐ
点滴の落ちる一日晩夏光
卒寿の腹のうなぎで張りし晩夏かな
子をかかへ握る晩夏の処方箋
路地裏の小さき神社や晩夏光
宮城県      石川初子
一冊の本持て余す晩夏かな
千葉県      横井隆和
闘病の暦へXの晩夏まで
片下駄の薄き二の字や季夏の浜
暮れて尚白い傘あり季夏の墓
大阪府      永田
長き名の肩書とれて晩夏光
愛媛県      砂山恵子
雑踏を外れ晩夏の音を聴く
石のうゑに石の影ある晩夏かな
街晩夏プラスチックの紅き花
マンホールの穴に風なき晩夏かな
シンバルの音の余韻や晩夏光
神奈川県      月野木潤子
ジャズ喫茶にビクター犬や夏深し
久に訪ふ晩夏の地なり疎開の地
ちちははの墓にあまねき晩夏光
模様替への居間に差し込む晩夏光
街路樹のなりもかげりも夏深し
東京都      伊藤はな
夕照を背負ひ戻り来晩夏なり
晩夏なる午後のコーヒーブラックで
夫の背少し痩せたる晩夏かな
小糠雨肩に沁みいる夕晩夏
背な丸き母の繰りごと晩夏光
奈良県      平松洋子
晩夏過ぐ庭の片隅散る玩具
夫遅し気にもかけずや晩夏の夜
飛行機の爆音籠る晩夏かな
千葉県      山田香津子
晩夏光長き電車の長き音
物忘れ時にはありぬ晩夏光
手の染みのまた一つ増え夏深し
神奈川県      龍野ひろし
配達を終へしバイクや晩夏光
揺らしたるグラスのワイン晩夏光
止まり木に紫煙くゆらす晩夏かな
晩夏かな潮の香りのカフェテラス
神奈川県      月のうさぎ
絵日記の余白を旅す晩夏かな
大阪府      木山満
独り居の部屋に晩夏の灯を灯す
振り向かず揚げたてのひら夏惜しむ
変形性不治の病と知る晩夏
純愛のきりり直線夏惜しむ
風鈴の音衰えて晩夏かな
三重県      西井治男
人退いて波の静けさ晩夏なり
思い出を日記に綴り晩夏かな
神奈川県      伊原文夫
ゴールならず選手うなだれ晩夏かな
眼科医のいつになく混み晩夏かな
富山県      岡野満
草丈の盛りを過ぎて晩夏なり
夏深し色とりどりの野菜かな
早朝の風が晩夏を知らせけり
岐阜県      ときめき人
晩夏光原爆ドームの影法師
大阪府      山岡和子
沈む陽に向かう一舟晩夏光
流木の突っ立っている浜晩夏
貝殻の捨て場ある浜晩夏光
遠浅に白鷺一羽晩夏光
愛媛県      加島一善
母の顔ちょっと上向く晩夏かな
ちょっと痩せちょっと気怠き晩夏かな
青空の雲がぼやけて晩夏かな
孫守りにへばる晩夏の昼下がり
どの顔も凛と晩夏の野球団
埼玉県      まんたろう
夕晩夏一人二人と縁に座す
人ひとり駐輪場の晩夏光
雨上がり遠景筑波晩夏かな
一度ならず二度も晩夏の通り雨
思ひ出はいつも晩夏の空にあり
東京都      中田ちこう
草むらのボールは赤き晩夏光
滋賀県      村田紀子
木霊する山に囲まれ風晩夏
犬と子が飛び跳ね踊る風晩夏
鍬を手に晩夏の山を背に翁
鳥一羽晩夏の湖面に弧を描く
子の声が晩夏の湖面揺るがせる
千葉県      入部和夫
力投の敗戦投手晩夏かな
大阪府      太田紀子
席譲られ断らざりき晩夏かな
みずかめ座夕日の後追ふ晩夏かな
宵闇にうたたねをする晩夏かな
東京都      岩川容子
散らばって老いゆく家族晩夏かな
絶海の話聞いてる晩夏かな
遮断機の赤の点滅晩夏光
ヘッドフォン外せば晩夏の波の音
大阪府      椋本望生
長き影踏んでさよならせり晩夏
放題に伸ばし寂しき庭晩夏
恙なく母を見送る晩夏かな
腸のポリプ元気か坂晩夏
何もかもキャラメル色やシャツ晩夏
神奈川県      月野木 若菜
まだ続く採用試験晩夏光
晩夏光むかし話によく笑ひ
読み切れぬ小説放る晩夏かな
アルバムの一冊増えて晩夏かな
プロジェクト佳境に入りて晩夏光
福岡県      多事
長袖の父の背中や晩夏光
咬合紙重ねて更けり晩夏の夜
テラス席白人ばかりパリ晩夏
クルーズに街の灯うすき晩夏かな
クルーズの客まばらなり街晩夏
ブラジル      林とみ代
晩夏岩に座せる記念の写真かな
行く雲の姿侘しき晩夏かな
湯の町に三々五々と晩夏かな
娘の休暇に便乗したる旅晩夏
郷愁てふ病にかられ月晩夏
東京都      石井昌男
昼の空色なき月の晩夏かな
晩夏光影長くなり空の色
六地蔵の胸染めたるや晩夏光
おちやのみづ博物館に晩夏射す
太公望ハミ跡探す晩夏かな
長野県      油井勝彦
晩夏なり内視鏡飲む午後一時
晩夏なり浅間の煙嘘もなし
晩夏なりけぶらふ脳をととのふる
山形県      斎藤碩志
晩夏とは盛りを過ぎた年増女(め)か
山里の川辺の花も晩夏光
夏惜しむ遅れて老いの身襟正す
死に急ぐわが身に重たき晩夏なり
お茶会に紫陽花見渡す夏深し
兵庫県      岸野孝彦
母逝きて心は白き初晩夏
涸沢で星降る夜の晩夏かな
月蒼し白亜の城の晩夏かな
帆を上げて疾風抜ける晩夏かな
夕茜汽笛が響く晩夏かな
北海道      飯沼勇一
抜ける風島は晩夏の中にあり
晩夏といふ夏を眼下に沖縄へ
甘酒が五臓六腑に晩夏の夜
観覧車鉄骨抜けくる晩夏かな
置き去りのバイクに忍び寄る晩夏
埼玉県      哲庵
枇杷の木の杖削りたる晩夏かな
なんじゃもんじゃの木 見上ぐる晩夏かな
起重機の吊り鈎光る晩夏かな
遠筑波日照雨に煙る晩夏かな
豆腐屋の喇叭かそけき晩夏かな
愛知県      斉藤浩美
単線の鉄路の旅や晩夏光
ジーンズの膝の穴にも晩夏光
聖堂のステンドグラス晩夏光
晩夏光ノートの白さなくなりぬ
音楽室の写真褪せ晩夏光
東京都      遠山比々き
ワンプレートディッシュで済ます晩夏かな
神奈川県      成田あつ子
終電で降りたつ子待つ晩夏かな
晩夏かな落暉の統ぶる地中海
地中海に夕日褒め合ふ晩夏かな
潦に流るる雲の晩夏かな
犬と歩く動物墓地の晩夏かな
埼玉県      小玉拙郎
番長に失恋の噂晩夏かな
長袖も旅の荷に入る晩夏なり
人の来ぬふれあい広場の晩夏かな
生菓子の色模様移る晩夏かな
神奈川県      海野優
悔い残すその一球や晩夏光
ノーサイドゴールの遠き晩夏かな
初めての恋ほろ苦き晩夏かな
三重県      倉田 伊都子
佳き事は 秘めておきたき 晩夏かな
夕暮の カレーの匂ひ 晩夏かな
砂浜の 賑わい疎ら 晩夏光
埼玉県      守田修治
一夜干し添える寝酒の晩夏かな
江ノ島に伝言残す晩夏かな
宿題の消しゴム激し晩夏かな
気の利かぬ下校放送晩夏かな
振り向けば昭和名残の晩夏かな
埼玉県      彩楓(さいふう)
貝殻を窓辺に一つ晩夏かな
流木に波の寄せ来る晩夏かな
両の手の荷物下ろせる晩夏かな
胸元の青き真珠や晩夏光
口ひらく貝の歌聞く晩夏かな
神奈川県      皆空眞而
峠下(お)り晩夏の娑婆に帰るとや
バス待つや午後は三時の晩夏光
麻シャツの皺の風合い夏深し
シャツの色褪せて晩夏もあと少し
東京都      五十嵐 秀山
ウエストにベルトの跡晩夏光
靴下の裏に大穴晩夏光
スニーカーの紐ほどけたるまま晩夏
東京都      飯田 哲司
さみしさが日々かけ足の晩夏かな
じりじりと凌ぎきれない晩夏かな
東京都      綾部 捷子
仕事終え晩夏の土手を真っ直ぐに
神奈川県      髙梨 裕
夕暮れて瓦礫に晩夏の日の残り
ひとつ町消えて晩夏の日の落ちて
駆け抜ける人馬や北の晩夏光
少年の海に晩夏の日が沈む
晩夏光少年時代連れ去りし
京都府      中村 万年青
祇園会の熱気ムンムン晩夏かな
川床の料理も涼し晩夏かな
晩夏光真っ赤な入日ちと温る