俳句庵

季題 9月「コスモス」

  • コスモスの花の揺れゐる古戦場
  • 東京都     内藤 羊皐 様
  • コスモスや眺めて居れば病癒ゆ
  • ブラジル     玉田 千代美 様
  • 初産の稚の寝顔や秋桜
  • 神奈川県     河野 肇 様
  • 秋桜摘んで少女に戻る母
  • 大阪府     津田 明美 様
選者詠
  • 移りゆく世事を遠見の秋ざくら
  • 安立 公彦

安立 公彦 先生 コメント

 今月の題は「コスモス」。傍題は「秋桜」です。秋咲く花は、朝顔、鶏頭、鳳仙花、秋海棠、曼殊沙華、そして菊と、数え切れないほどあります。その中でコスモスは愛らしく親しみのある花です。コスモスは、メキシコ原産のキク科の一年草です。日本には幕末の頃種子が入りました。コスモスは、「飾り」という意味のギリシヤ語と歳時記は記しています。成長力の強い花で、こぼれ種子からも容易に生育します。
 優秀賞の内藤羊皐さんの句。この「古戦場」はどこでしょうか。真っ先に思い浮かぶのは「関ケ原」でしょう。東軍と西軍が天下を争ったのは418年前のことです。いま目前に広がる古戦場は関址の記念碑で偲ぶのみです。コスモスとの取り合わせがみごとです。
 玉田千代美さんの句。作者の住まいはブラジルです。故郷を離れた地で、目下病いを癒しています。胸中の思いは複雑と思います。しかし病室の窓から見下ろす一叢のコスモスの花は、そういう作者のこころを癒してくれるのです。臨場感のある作品と言えましょう。
 河野肇さんの句。嬰は稚としました。お孫さんの誕生です。それも初産です。「稚の寝顔」に作者の思いが宿っています。同感の思いの人も多いでしょう。このお孫さんは多分女のお子さんでは。産院の窓外に見る「秋桜」が、良く一句をまとめています。
 津田明美さんの句。作者はいま、老いた母の手を引いて、久しぶりの散歩を楽しんでいます。ふと路傍に見つけたコスモスの花。老いた母はその一本を摘み顔にかざします。その顔はまるで少女に戻ったように輝いています。句を見る私達も胸打たれる一瞬です。
 今月の佳句。〈秋桜風の縺れをほぐしけり 佐藤博重〉。〈コスモスや貧しき人の美しく 勢田清〉。〈さよならとコスモスゆるる九十九里 豊島仁〉。それぞれ思いの深い作品です。

◎ 優秀賞、入賞に選ばれた方には、山本海苔店より粗品を進呈いたします。