俳句庵

9月『柘榴(ざくろ)』全応募作品

(敬称略)

柘榴笑ふ入日の窓の厨かな
淋しさを笑い飛ばして柘榴の実
大口の柘榴が笑う金メダル
写生には少し手強い柘榴の実
子を愛す全き母の柘榴かな
約束は柘榴の実の下午後三時
石女となりし柘榴の去就かな
行く人の帰り見届け柘榴の実
幼稚園砂場の上の柘榴笑む
知らぬ間にわが身を割って柘榴の実
ざくろ売る老婆の紅緒鞍馬寺
粒よりのぎっしり詰まり柘榴の実
幾星霜訛りも抜けし花柘榴
月満ちて裂ける音する柘榴の実
身の内に夜叉と観音花柘榴
口元のついほころびし柘榴かな
井戸端の閉じる口無し柘榴かな
柘榴の実入れて青空撮りにけり
石榴の実固まりし血のごとくなり
柘榴の実夕陽をとどめてをりしかな
石榴食べ赤い小鳥になりにけり
柘榴裂け満身創痍となりにけり
石榴の実あかあか燃えし命の火
掌に柘榴遊ばせ老い二人
全力で石榴割れける虚空かな
数えても数え切れない柘榴の実
石榴落ち侘しさませり廃屋や
一日を無事に過ごして柘榴の実
きのふよりけふの緋の濃し柘榴かな
あの花にこんな実のなる柘榴かな
秘め事を吐き出すごとく柘榴裂け
お世辞の一つも言えず柘榴の実
ぱっくりと割れし柘榴のルビー玉
夕焼を食べて終いし柘榴かな
憂き事の割れて晴るるや柘榴の実
人知れずわが身をさらす柘榴かな
人知れず裂ける柘榴の不気味なる
ピースする柘榴少年紅き指
少子化にあらな多産や柘榴の実
亡き父のごつき拳や柘榴の実
柘榴割れ犇くルビーのあまたなる
時に笑み時に怒って柘榴の実
柘榴裂けルビーの宝石溢れ見ゆ
青空をもぎ取るやうに柘榴もぐ
無住寺落つるにまかせ柘榴落つ
幼児に破顔一笑柘榴の実
赤心とはこの事なるや柘榴の実
口下手で無骨な父や柘榴の実
割れ柘榴胸の痞へを吐けと言ふ
爆弾を落す如くに柘榴割る
裂けし実の麗子の笑みに似てをれり
告げ口はしない約束柘榴の実
鬼流す涙知りをる柘榴かな
懸命に笑みをこらへて柘榴の実
描きかけの柘榴が匂ふ教室に
鑑定師抜く日本刀石榴落つ
青空を赤い実で弾(は)じ柘榴かな
実ひとつの柘榴を愛す我もまた
子宝の笑う柘榴に鬼子母神
柘榴酒に亡母の思い出漬け込みぬ
登下校見上げるだけの柘榴かな
柘榴たわわ今朝の献体見送りて
花と実の似ても似つかぬ柘榴かな
割れてなほ見向く人無き柘榴かな
はちきれる若さを見せて柘榴の実
喉チンコ見せて石榴の大笑い
柘榴ノ実少年真っ赤な嘘を言ひ
石榴弾けて甘い恋に落つかな
口開けて何か言いたげ柘榴の実
魂が燃えたるような柘榴の実
人気無き事を確かめ柘榴笑む
更年期ザクロジュースを日々食す
青空をかっと吐き出す柘榴かな
津々と柘榴はじけて燃ゆる恋
枝先に釣られるやうに柘榴の実
零れたる柘榴の赤に染まる恋
泣き言は言わないつもり柘榴の実
弾けたるザクロお化けと子らが言ふ
柘榴の実愚痴のいくつかこぼしをり
百面相して柘榴食ぶ夫かな
吹き出して笑い止まらぬ柘榴かな
妻逝きし人の庭先石榴熟る
少年に高き塀あり柘榴の実
妻逝きし人の庭先石榴熟る
青空の一つとなりし柘榴かな
柘榴酒に氷の浮かぶペアグラス
いたずらを見ても見ぬ振り柘榴笑む
恋知る子ルビーの光赤柘榴
悪童が突いて逃げる柘榴かな
大笑いおさな口あく赤柘榴
女の子笑い転げる柘榴かな
思い出が口で弾ける赤柘榴
多感なる乙女心や柘榴の実
バス停の木椅子の傷や石榴の実
立ち話聞いて微笑む柘榴の実
実石榴や石塀続く袋小路
柘榴もぐ子らの視線を集めつつ
酸っぱさも石榴の命貰いけり
屋敷より身を乗り出して柘榴の実
青空が夕日に熟す柘榴かな
夕焼をむさぼるやうに柘榴の実
実柘榴やソロモン王の夢の跡
大空の耳目を集め柘榴の実
打ち明けて心も深く柘榴かな
大空に喝を入れたる柘榴かな
実ざくろや寺の本尊鬼子母神
通勤の足を止めたる柘榴かな
絹の道胡姫旋舞して柘榴あり
どの子にも優しき母や柘榴の実
あこがれの美肌ざくろのジュース飲む
お早うと声かけている柘榴の実
絵手紙のはみだしそうな柘榴かな
夕焼を添えて柘榴をもぎにけり
われ画家となれば描かむ石榴の実
ジャンプする少年届かず柘榴の実
宝石を包みてごつき柘榴かな
柘榴割る少年一途な顔となり
実柘榴の厚き割れ目にルビーかな
手にとればしみじみ緻密な柘榴かな
採れさうで採れない位置の柘榴かな
裂けてより陽の濃く匂う柘榴かな
プロポーズされし柘榴の実の爆ぜる
青空に喝を入れたる柘榴かな
柘榴の実爆ぜても海の遠きかな