俳句庵

10月『柿』全応募作品

(敬称略)

木守柿に鴉配慮や突かざる
柿割れば隣の美代のあばた顔
篤姫を孫と語りつ柿を剥く
バス待ちに柿食う客や町の人
嫁ぐ日の姉にわが家の柿をむく
バス停のポールを囲む柿の種
婆ちゃんの柿むく皮の切れ目なし
バス待ちの柿籠照らす夕日かな
鍵っ子のおやつは皿の柿ひとつ
熟柿の滴りており金婚日
柿むいて縄に括って軒に干す
図書館の窓薄暗き柿若葉
学校の往きと帰りに数ふ柿
柿落ち葉避けて見舞いの客となり
身代わりにランドセル置きし柿泥棒
渋柿の一口かじる夕陽かな
熟柿の下でうつかり立ち話
当てもなく旅路の畦や吊し柿
近江の海柿をたわわに従えて
柿かじる見上げる空や万国旗
みの柿の蔕の蓋とるそこからは
柿の色なかゝだせぬ絵筆かな
柿の木の下に宝がといふ夢
若さゆえ歯茎に刺しぬこねり柿
柿啜るベツドの母のおちよぼ口
聞かん坊が故に登るは柿ノ木
柿落ちて夜半に目覚ざむ旅の宿
柿渋や裏切ったのは貴方です
渋柿か鳥の飛び行く夕まぐれ
列乱す虚無僧の手にうれし柿
一面に海風やさしおけさ柿
登下校誘いかけるも熟し柿
鈴なりの盆栽の柿奥会津
田園のここぞとばかし渋き柿
白皿に盛られし庭の記念柿
柿食へば背筋伸ばせと妣の声
渋柿の甘く化けたり藁の中
柿落し終へて樹上のトランペット
裏年の柿の木見上げ実を数え
柿熟れて肩抱きあふ道祖神
パーシモンで振り抜く打球秋の空
柿すだれ間口五間や坂の上
柿一つ影と供うる地蔵かな
柿の実をカニがはさみで切り落とす
柿の葉やざらりと鳴きし月明り
熟し柿スプーンですくい食べちゃおう
柿の葉やざらりずらりと大和路に
渋柿を魔法をかけて甘くする 
柿の木や象肌持ちて仰ぐ空
柿色に染まる夕暮れ秋の空 
柿食べておむすび食べて猿になり
柿ゼリーお口の中が秋になる
柿落下引力寂し廃屋や
柿羊羹紅色の秋の味
柿とふ字(こけら)と読みし俳句会
肖りて柿を食ひつつ苦吟する
名あて祖父便り祖母なる柿届く
年功の慌て騒がず熟柿かな
柿五六顆上枝(ほつえ)に棹の届かぬか
百あれば百の顔なり柿の蔕
柿剥けば皮の一連妻の腕
実のならぬ老大木の柿紅葉
熟れ柿をすくふスプーンの左利き
老いてなほ柿泥棒をしたくなり
吹く風に一蓮托生熟柿落ち
柿たわわ妊婦ゆっくり昼下がり
からす達わたしも好きなずくし柿
人気なき寺苑を統べる木守柿
皮むきて母の器用さわかりけり
水よりも風敏くなり柿旨し
歳とった酒のつまみに干し柿よ
望郷の思ひ語らず柿を食ぶ
渋柿を抛りぬ兄の憎らしき
猿と蟹のお伽話や柿の種
富有柿の夕陽のやふにつぶれゆき
風よりも水敏くなり柿旨し
柿渋のやはき更紗に顔うずめ
此の国の同じ呼び名の柿旨し
柿の色カンヴァスに秋来てをれり
眼裏の生家も柿もスーパーに
よく熟れて少し怒っています柿
百年の移民の歩み柿たわわ
干し柿を暖簾に吊るす旅の宿
故郷に似た移民村柿たわわ
垣根越え食べられたいか枝の柿
いただいてかぶりついたがしぶの柿
食べ終えた刺身が消えて柿絵皿
子のおやつ夫の膾に庭の柿
家帰りテーブル見つけ柿の山
昭和哉柿を英語のパーシモン
浅葱空いっそう栄える柿の味
幾年や柿を育てて村起し
子供達分かっているのか柿と牡蠣
三方の 山の高さに 柿つるす
柿と栗どちらも美味しい秋の味
山峡に 柿の実一つ 空に浮く
兄弟で柿の木登った幼き日
柿の実を 一つ献上 空の神
柿色に空がそまりて家路つく
初物の柿を頂く葬の家
山あいの畑でひっそり実る柿
言葉なきことも幸せ市田柿
あたご柿見るたび浮ぶ祖母の笑 
柿食ふてより俳論の始めたる
柿もたべなしやぶどうもたべてやる
柿簾夕陽の欠片集めけり
柿を剥く柿の形に逆らわず
干し柿の粉ふく顔に母想う
柿齧る少年白き歯を見せて
柿たわわ過疎化の進む山里に
ふるさとや柿あかあかと燃ゆる里
里山の景となりゆく吊し柿
柿の夢火鉢の縁で熟れながら
鐘の音時空を超えて柿を食い
木守柿村一望し異常無し
柿は「冷え」敬遠される食事情
一村の夕日を吊るす柿すだれ
柿の実に「今が旬」とはお世辞かな
不二の嶺はすでに白銀次郎柿
奪われる梨葡萄から主役の座
鳥の眼を集めて熟るる柿の肌
柿好きに思われがちな風流人
木守柿出征持参と遺書にあり
故事多い柿の縁から物語
当てにせし富有柿食われ鳥を追う
吊るし柿見れば思ふや母の里
鳥含め柿の割り当て決めしかど
柿の色夕日に照らし尚赤く
食べ順を決めて購う柿選び
渋柿の皮むく夜なべ皆無口
ひと突きに大柿落とし鳥退る
干し柿の暖簾の並ぶ品評会
夜逃げしたやとなが踏みし青き柿 
柿抱いて甲斐の光をひとりじめ
柿落ちてもぬけのからの空ひとつ
こんなにも大きな柿の出来嬉し
柿落ちて空の広さの不安かな
柿たかく実り限界集落は黙
柿の秋隣り湯の女(ひと)桶静か
いまの子は柿は食わぬか盗まぬか
山襞の斜め斜めに柿の秋
柿干せば縁側甘き日の匂ひ
干し柿の縦一列の冬ごもり