俳句庵

12月『切山椒(きりざんしょう)』全応募作品

(敬称略)

手になじむ夫婦の湯呑み切山椒
切山椒並びて伸びて居らずや
切山椒食ぶれば敦思ひをり
茶には合わさぬ切山椒の意地よ
仲見世を冷かしながら切山椒
切山椒好物と言ふ頃久し
振袖の膝に懐紙や切山椒
切山椒休める酒の事なれば
仲見世にやっと見つけし切山椒
ういろうもきりざんしょうも茶をうける
門前に昔馴染みの切山椒
まあまあ食べてみやんせ切山椒
頑なに守る伝統切山椒
朝酒の酔ひ醒ましをり切山椒
妻と子に買ひ求めたる切山椒
児の分は残す要なし切山椒
切山椒売る店一軒のみとなる
爺婆で百五十歳ぞ切山椒
切山椒子らの笑顔の待つわが家
切山椒心の傷に沁みてきた
切山椒刻む包丁の弾む音
ちらちらと儚き恋の切山椒
去年は去年今年は今年切山椒
青春の苦き想ひ出切山椒
漱石のことなど思ふ切山椒
ぽつぽつと馨り散る散る切山椒
切山椒雷門を食べて過ぐ
母の労癒してくれよ切山椒
子規庵や帰路の浅草切山椒
罪人が皮肉味わう切山椒
切山椒厄を祓えと母寄越す
忙しさの中の一時切山椒
切山椒始めましたの札揺れる
切山椒瞬の童心味わひぬ
恋人の母の好物切山椒
懐かしき茶の間の匂ひ切山椒
黄昏や君住む里の切山椒
お駄賃に両手で受けし切山椒
目出けれ紅白彩る切山椒
初物や娘(こ)からの土産切山椒
噛むほどに風味じわりと切山椒
粉山椒話弾みし父母遠き
お喋りは茶の間がよしと切山椒
切山椒輪ゴムが腕輪ごとき母
懐かしや切山椒の色香り
茶柱の立つがうれしき切山椒
お茶請けの談笑尽きぬ切山椒
エプロンのポツケ謎々切山椒
切山椒買ひて久しひ師の宅へ
切山椒ひとつ食べてはもうひとつ
一口に江戸の香が立つ切山椒
ひかえめに紅白みせる切山椒
篤姫と薄茶すすりて切山椒
切山椒風邪をひくなと三の酉
酉の市ちょいと味見の切山椒
切山椒どんより雲にとり一羽
切山椒遠き町より友来る
居間の皿十四十五の切山椒
切山椒鎌倉晴れてぶらり旅
切山椒幼子ほほにしわをよせ
帰宅した母の頬色切山椒
切山椒母の小言の懐かしき
売り切れて切山椒の見本函
一息に仲見世抜けて切山椒
切山椒淡き色こそめでたけれ
切山椒昔買ひしはこの辺り
雪駄あり草履も覗く切山椒
日暮れなら日暮れの色に切山椒
切り口のほのかに香る切山椒
ほほばればたちまち笑顔切山椒
切山椒残して仲見世昏れにけり
百才の顎おおような切山椒
父いまも四角四面よ切山椒
山頭火袂に揺れる切山椒
空撥ねる手締めの音や切山椒
本籍は東京本所切山椒
切山椒老いに夢狩る一里塚
激動の昭和練り込む切山椒
一直線この味母の切山椒
亀戸に太鼓橋あり切山椒
切山椒トムの好物たんと召せ
切山椒昭和の色は褪せにけり
母囲む和み茂りし切山椒
もてなしの心に添へて切山椒
山椒切る香り人気に市の客
仲見世のそぞろ歩きや山椒餅
もみぢ手を重ねる瞳切山椒
省みて淡き夢なり切山椒
切山椒話も喉も温めり
それぞれの夢の色なり切山椒
縁先に和みを醸す切山椒
一服の茶に亡母(はは)思ふ切山椒
デパートの隅に見つけし切山椒
美しき叔母ゐる誇り切山椒
切山椒昔話を引き出せり
ふと思ふ人ありてこそ切山椒
雷門往き来の顔や切山椒