俳句庵

9月『鯊(はぜ)』全応募作品

(敬称略)

鯊釣やくじらの髭の竿撓ふ
鯊焼かれ目に溜む塩の涙かな
鯊釣りにずらりと並ぶ太公望
鯊の潮沈まぬ発泡スチロール
飴色になるまで煮込む母の鯊
浮きしもの徐々に寄り来る鯊の潮
鈴鳴りてしなる竿先鯊の曳く
石段を浸し満ち来る鯊の潮
じっとして動かぬ鯊と根競べ
自転車を連ねて親子鯊日和
小石吐く鯊は釣り餌を顧みず
鯊釣るや子もいっぱしの竿さばき
満腹の鯊の小石をふっと吐く
川底の動かぬ鯊と目が合いぬ
浜風にしの字ノの字と泳ぐ鯊
ハゼ釣らる木屑の如く真っ直ぐに
鯊揚げる手元や暑さも峠かな
海にいて大洋知らずハゼ釣らる
崩れても暫し我が家の鯊甘露
海をでて虹に輝く竿のハゼ
目を荒げ食べ残すなと皿の鯊
一竿に四匹下がりハゼ釣らる
お重にもガングロ鯊の晴れ姿
虹色に輝きハゼの釣られけり
潮ひいて帰り支度で鯊はねる
顔に似ず美味なりハゼの白身かな
糸たらしなにも釣れずに鯊笑う
鯊を釣る会社勤めに未練なし
鯊の顔嫌いな人にあてはめる
ラジオ聴き鯊釣る路上生活者
かわいいね鯊の顔見て笑う母
釣り上げた鯊を役者の名で呼んで
鯊跳んで夕日に一瞬影映る
鯊釣りやいっぱいついた軽い嘘
鯊の夢人魚の鱗に刻みけり
借金が言いだせずして鯊釣りに
鯊釣りや堤防の果て鎮座して
高層の住居を背なに鯊を釣る
剽軽な顔立ちのまま鯊釣られ
鯊船でしばし風見る釣り名人
鯊一尾釣り船の隅死亡せり
あきらめの悪き顔つき鯊ならで
一年の命の鯊のフライかな
糸垂れぬ客も鯊食う海の昼
鯊釣りや金融工学無関係
白き帆の海は彼方や鯊日和
父の声聞こえてきそうな鯊日和
見えてゐる鯊に相手を頼みけり
ぶさいくな顔して鯊の干されけり
鯊釣の餌のごかいと格闘す
干した鯊届きし父の宅急便
おっかなびっくり初めて鯊を釣る
釣られると思わぬ鯊の恨み顔
釣れし鯊どことなくわが顔に似し
肩書きのなき者同士鯊を釣る
鯊釣やからすは山へ帰りゆき
鯊釣るや渾名の友の懐かしき
鯊を煮る醤油の藍染めながら
鯊煮るや亡き父誰も触らせず
鯊を釣る外道と呼ばぬ今日だけは
入れ食いの鯊に憂鬱払はれり
クイクイと寄せて応える鯊のヒき
竿はもう割り込めぬ岸鯊日和
楽しくて鯊焼いて干し出汁をとる
鯊釣の岸壁だれも足垂らし
鯊を刺身として戴く素朴さ
鯊釣のかたへの競馬ラジオかな
痩せ鯊を逃がしたくなる頃の釣り
甘露煮の鯊が佃の叔母より来
鯊よ鯊お前は食うてくれるなよ
一竿は父の形見や鯊の竿
いとおかし鯊をもつれぬ党もあり
鯊釣の親子小さきバケツ提げ
鯊を釣る東京湾の風受けて
をさな子も釣れて嬉々とす鯊の潮
鯊を釣る河口近くの酒気の風
釣り来る鯊の天ぷら夫(つま)任せ
鯊釣りや前夜楽しき竿手入れ
釣果あり急ぐ家路や鯊の秋
皮算用している天気鯊の竿
鯊釣りや浮子(うき)の微動に気負ひ立つ
父が竿子はバケツ提げ鯊日和
空魚籠に一尾分け遣る真鯊かな
鯊釣られ海より空へ飛び出しぬ
汽水湖のいや賑々しい鯊の秋
鯊日和ときに釣果でもめてをり
釣竿を選ばぬ鯊でありにけり
突堤の鯊釣る影の伸びて来し
鯊舟に油の爆ぜて釣果待つ
突堤に親子の影や鯊を釣る
「こんにちわ」と言ふ顔をして鯊釣らる
噴煙は空に直立鯊日和
鯊釣って後悔先に立ちにけり
転舵するフェリーに投げる鯊の竿
鯊釣って鯊に釣らるる一日かな
上げ潮の橋より伸ばす鯊の竿
釣れて良し釣れずとも良し鯊日和
瑞巌寺の甍仰ぎて鯊を釣る
対岸に並ぶ高層鯊日和
釣れた鯊人間くさい貌になる
鯊を釣る無位無官の身となりて
べか船の東京湾は鯊日和
しがらみのなき世に生きる鯊日和
鯊舟は若い女性の声ばかり
東京湾岩場を探す鯊日和
釣れた鯊太公望が調理する
大量に魚籠の傾き鯊日和
鯊の海人の祖先はいざり魚
釣り糸に嵌る親子の鯊日和
百才で鯊の天ぷら揚げる母
鯊日和父と子の距離近づけて
踝にさざ波遊ぶ鯊の海
舟の昼てんぷら揚げて鯊談義
醤油と鯊の匂いの佃島
自分流はぜ佃煮の六拾年
いざり魚鯊と人との分かれ道
江戸前や直立不動はぜ閣下
たかが鯊されど鯊釣り奥深し
大物に負けぬ手応へ小はぜ釣り
鯊釣れば東京湾はすぐ暮れる
愛らしやレンズに覗く鯊の貌
其の昔デズニーランドは鯊の国
清し身に硬骨通す鯊の意地
鯊つりの日課となりて川暮れぬ
水平線近くに見ゆる鯊日和
鳥は飛び猫は寝そべる鯊日和
釣りそこね鯊には鯊の命あり
釣れてよし釣れなくて良し鯊の秋
鯊釣りの子供に負けて竿たたむ
はぜ日和燗徳利の整ひて
鯊釣りの親子が帰る橋の上
鯊釣や浮子を見つめて一日暮れ
釣り上げし鯊の天ぷら美味なりし
父と子の竿を並べて鯊日和