俳句庵

10月『檸檬(れもん)』全応募作品

(敬称略)

山頂やレモン嚙りて万歳す
新婚の妻の分厚くきる檸檬
電子辞書檸檬の文字を拡大す
阿多多羅の空にたばしるレモンかな
つやの良き海苔の帯解くレモン割り
マラソンのラストスパートれもん噛み
すれ違ふ女子高生にレモンの香
立て続けレモンジュースや野良上がり
檸檬の酢かけて昼餉の焼き魚
男子組レモンの香る新教師
檸檬もぐ色づき初めし小さ目を
潮騒や椰子の葉陰のレモン風呂
レモン切る卓にひろがる酸っぱい香
智恵子かの詩にほとばしるレモンかな
形良き艶あるレモン選りて買ふ
レモン一滴ふわっと広がる小宇宙
レモン添え妻とふたりのティータイム
酸っぱさが口に漂ふ檸檬の黄
暑い日は檸檬の花咲く妻の顔
新婚に何かを期待レモンの香
搾る手を止めて檸檬の香を妻へ
サンキストの青きしるしの檸檬買ふ
搾り切り檸檬の力を妻の床
厚切りの檸檬の香る日曜日
真っ二つ南国溢る檸檬かな
檸檬切る婚約指輪の指細し
ひと振りに二味深む檸檬力
蟠り解けてゆるゆるレモンティー
檸檬一つ買って夕餉のアジフライ
ときめけること余生にも青レモン
カッと照る太陽に向かって見るレモン
売り上手にのって土産の檸檬かな
透きとおる輪切りのレモン青春だ
色付くや確と檸檬の形して
酸っぱさの後に残るよ檸檬色
嫁が来て小暗き庫裏に檸檬の香 
レモン色あの子の服を想い出す
酎ハイに垂らす檸檬の一ト搾り
アクセントかける檸檬のしぼり汁
檸檬添へレシピ通りの子の料理
玄関の檸檬清しき祖母の知恵
檸檬1個投げて寄越しぬ孫娘
一片のレモンにはづむ喫茶店
檸檬切るまな板白き新世帯
車椅子止めて檸檬をもて遊ぶ
宇宙の日楕円に切りしレモンかな
差し入れの甘き檸檬や小休止
レモン成しなを若々しヤンママの
ナンプレにつまり檸檬を丸かじり
惜敗の口が求めしレモン水
疲れ気味檸檬の輪切りひたすらに
青虫の食べ忘れたるレモンかな
テロリスト投げし爆弾レモンかな
レモンにも頭と尻のありにけり
檸檬には憂鬱薔薇と書けそうだ
激情を喉に吸い取るレモン水
レモンでも酸っぱいものが食べたいか
レモン噛む気づいて欲しき嘘ひとつ
五百色輪切りのレモンどんな色
さみしさは睫毛のあたりレモン買う
頂上でレモンの雫絞りだす
レモンティー深夜のカフェで書く手紙
レモンにも言いたいことがあるかしら
恋愛論しぼり足りない檸檬かな
恋知らぬベンチにふたつ青檸檬
少年の戦車に投げた檸檬かな
青が黄になりゆく丘に檸檬の香
友だちにもどれぬ人とレモンティー
若さとは恐いものなしレモン噛む
檸檬浮く薬罐の水やラグビー部
レモン貼る少し若さがあるうちに
興ざめる柚子の替わりの檸檬かな
ゴッホの黄少しうすめてレモンの黄
まっぷたつゴロンとふてる檸檬なり
ジーンズでレモン噛む娘の長き足
小指たてレモンティー飲む午餐会
檸檬熟るイエスを信じ子沢山
檸檬水肌の火照りに沁みるよう
檸檬熟る瀬戸の島々楕円形
紅茶飲む檸檬の香り楽しんで
レモン齧る髭面シェフの皓歯かな
檸檬なる庭で息をし君を待つ
資生堂パーラー紅茶の檸檬の香
細長き魚に絞るレモン汁
レモン齧り湘南の海見てをりぬ
少女から女へ青き檸檬の香
レモン一個にアメリカの太陽一個
病室の夜中の檸檬光りおり
輪切り浮くレモン紅茶の馥郁と
絵てがみのレモンの輪切り香りたり
黄熟の大きを選び檸檬買ふ
汗ふきて檸檬がぶっと女学生
絵手紙や大き檸檬に文小さく
レモン好きされど一切れあれば足り
腹癒せに檸檬かじれど遣り場なく
レモン水鏡に映る外のみどり
ふくよかな檸檬の尻撫で買ひ選ぶ
男なら男らしくとレモン噛む
顔しかめレモンティ啜る五歳孫
病床の鉢のレモンは摘果終え
檸檬成るアルハンブラの庭園で
レモン捥ぎ冷たさ残る掌
無造作に檸檬をかじる友を見る
青レモン恋人に逢う昼下がり
湯気の立つフライに檸檬振り絞り
何にでもレモンを搾る愚か者
大ぶりの牡蠣に寄り添う檸檬かな
B4で描いたレモンに影付ける
ほとばしる檸檬に恋の予感あり
病妻を檸檬の浮いた湯に入れる
カンヴァスの檸檬に喉を潤しぬ
バーテンの指に染み込むレモンの香
レモン汁加へ香のたつジャムの赤
青春はレモンで洗う胸の中
レモン一切れあっけらかんと目覚めけり
地下茶房レモン色なる待ち時間
檸檬しぼる皮の4,5個を浴槽に
人間の過去を引き出すレモンティー
黄ばみたる母のレシピの檸檬パイ
ぼそぼそと愛の告白レモンティー
変わり行く季節とともに虫の声
レモンティー飲めば思ふや初恋を
蝉の声見上げてみれど姿なし
レモン風呂つかれば漂ふその香り
あどけない檸檬こぼるる恋の詩
化粧塩くずす檸檬のしぶきかな
太陽を絞るが如き檸檬かな
新婚の食卓にある檸檬かな
子が絞り母絞り切る檸檬かな
決心のつかず檸檬を噛んでみる
檸檬の香料理の機微を引き立たせ
真夜中の部屋に残りて檸檬の香
手料理を上手に仕上げ檸檬の香
真夜中の部屋に残りて檸檬の香
檸檬の香家族の数に切り分けて
焼き魚添えしレモンの半月に
檸檬の香最後に顔を一叩き
スケッチのレモン白紙の上に置く
ランナーの手にすつぽりと檸檬の黄
奥様の買物籠にレモンかな
母となる日々を数へてレモン水
嘘の色詰めて檸檬といふ漢字
幼子の百面相の檸檬かな
奥様の買物籠にレモンかな
青空と檸檬の好きな智恵子かな
嘘の色詰めて檸檬といふ漢字
レモン買う夫と向き合ふティータイム
すっぱさに慣れてレモンの懐かしき