俳句庵

3月『雛一切』全応募作品

(敬称略)

遠き日のお国振りなる雛談義
雛まずは虫干しをとて空向けて
古雛や偲ぶ人あり被爆川
薄明かり雛も児もまだ寝ておりぬ
いにしえを語る雛の笑顔かな
産院の前より沖へ流し雛
雛の歌浅草橋の日が暮れる
貴種流離譚一刀彫りの吉野雛
雛遊び優しくなりし男の子
問診の女医の机の雛かな
平安の顔して母は雛飾る
女系四代一間を占むる享保雛
宅配の箱どっさりと雛届く
言い訳のために遅らす雛納め
古雛に追憶の傷孫眠る
遠き日を呼び戻すかに雛飾る
箱を出て畳冷たき内裏雛
雛祭り仏頂面の婆三人
譲り雛母に似たるは肌のしろ
ほどほどの馳走と白酒老い二人
乱れいし女雛の髪を梳きにけり
余生とは云えど夢あり流し雛
先づ屏風埃払いて雛納む
心根をすべて見透す雛飾る
相伴に男児も見ゆる雛の客
雛壇に紛れてをりし縫いぐるみ
雛飾る嫁せし娘の幸祈り
雛かざり 赤いもうせん 春招く
書き止めを幾度も見つつ雛納め
雛だして 春を先取り 我が家かな
その中に男児はしゃぐ雛の客
甥ばかり 妹の雛 飾る親
ゆとりなき時代を偲ぶ古雛
雛あられ 口ではじけて 春が来た
雛の間に雛のやうに三世代
箱出して 一年ぶりね 雛人形
古雛の由緒去年も聞かされし
雛人形 出していないよ 何年も
雛あられ老女拾つてまたこぼす
彩りで 春を感じた 雛あられ
餓鬼大将けふ神妙に雛ノ客
ずるいよと 弟泣いた 雛祭り
今もなほ早く雛をしまふ癖
後れ毛を許さぬ気品内裏雛
あいさつもおしゃまな所作の雛の客
首抜けば首棒長し使丁雛
初ひひな母を受け継ぐ富士額
雛祭りもうしなくていいわ五年生
末の子が波を怖がる流し雛
灯を消して王朝の闇に置く雛
飾られて眠ることなきひひなかな
泣き虫の少女とははの雛納め
雛あられ手よりこぼれて家具の裏
きぬぎぬの朝に相寄る立雛
温暖化一重が良いとお雛様
立雛や夜は休ませて白き布
マニキュアの爪にかかりしお雛様
吊し雛風がひかりを運びくる
お雛様壁越しに聞く狂詩曲
幼な手に色取り分けて雛あられ
雛飾り育てし娘アッパッパ
桃の日や耳が痒くてならぬ夜
お雛様あらまし事を聞いとくれ
立雛の御寝すがたや夜の売り場
重ね着の雛様お肩揉みましょか
折りは足崩されよ夫婦雛
囲まれて母系家族の雛の夜
燃さずとも手立ては無いか雛供養
流し雛それぞれの生(せい)海へ行く
襖開け雛に会わせる雪景色
雛なりし孫が七人記念写真
居間の闇犯行見ていた雛人形
雛たちはぼんぼり灯し宴かな
ぼんぼりに願う心の温かさ
来年も再会約す雛納め
早く来よ来れば寂しき雛供養
雛節句大試験日の夢見たり
少年の短き正座雛の客
雛のよな美男夢見る少女かな
雛あられこぼれてをりぬランドセル
雛遊び裾踏み歩くおっとっと
戦中も戦後も隠れ古雛
こうこうと夜間保育や雛祭
燈を入れてよりの華やぎ雛の店
四万十の河口たゆたふ流し雛
詠みはずし 雛も黙らぬ 選句者ね
知床の岸辺に迷ふ流し雛
雛段に せめて並べや わが投句
分校の子らも輪に入る雛祭
当選句 詠む暇あれば 雛育つ
仲良しの子山羊もはしゃぐ雛遊び
雛までも 望み持てない 俳句庵
思い出も雛と流さんふるさとに
これ以上 書いても無駄と 雛も知る
胸に棲む母若かりしお白酒
古庇くぐりて出逢ふ享保雛
四代が男家系に雛の菓子
在りし日の匂い遺りし雛かな
決めている我の雌雛は君一人
ひなまつり主役の赤児寝ておりぬ
揚げたてのあられ盛りたる雛祭り
下戸ばかり寄りて今宵は雛の宴
雛飾り孫はどの子も男なり
皺すこし出てきた娘雛かざる
雛飾る毛氈のしみ覚えあり
花活けて花より美しき女雛かな
一段は吾の文机の雛飾り
嫁さぬ娘に手伝わせたる雛納め
縁側に茶飲み友達雛飾り
小児科の診察室に紙の雛
部屋譲り子に添い寝乞う雛飾り
どの家も物語持つ雛人形
雛祭り うらやましいな 娘なし
お神籤は小吉なりし雛の日
息子でも 飾ってみたい お雛様
雛あられ退院まぢかの少女かな
お雛様 息子の嫁と 飾りたい
雛飾るモノクロームの写真帳
ひなあられ 食してせめて ひなまつり
しばらくはお雛どころの御一行
娘なし お雛祭りは ひままつり
陸奥の雛いにしえの京の顔
ちりめんの細工多彩やつるし雛
雛まつりロゼシャンパンの時代なり
謂れある一つひとつやつるし雛
雛あられ粒の揃わぬおもしろさ
ちりめんに願ひ込めたるつるし雛
マンションのロビーを飾る雛人形
蔵町の玄関ごとの古雛
雛飾る団地の狭き部屋なれど
段飾り下段は祖母の雛道具
雛祭り神妙に座す男の子
潮騒の囃子にそろふ磴の雛
子らはみな都会へ去りて雛祭り
立ち雛を飾りて遺影笑みが増し
雛の乗る小舟を曳いて雛流し
変わり雛こぞの話題に頬緩み
ためらへる慣わし哀し流し雛
検針に見てけと孫が雛自慢
雛飾る今年限りと思ひつつ
亡妻の部屋明るみて雛飾り
内裏雛だけにするかと妻の言ふ
雛祭 弟すねて 泣き寝入り
待合室に医聖壁画や雛飾る
雛あられ 無邪気に選ぶ 色違い
真夜の雛己が出自を語りだす
雛市の 店前並ぶ 発送品
竹刀胼胝のこる指もて雛納む
雪洞のスイッチ入れる雛祭
あな畏ピアノのうへに雛飾る
寝かされて空を見てゐる流し雛
うぶすなを離れ難くに流し雛
まだ何も分からぬ嬰に雛飾る
蔵開けて豪商しのぶ享保雛
行儀良く座る娘や雛の前
雛の間の夜は大奥の世界かな
雛の如子を着飾らせ雛祭
紙雛の胸軽く触れ押し流す
まだ壇に並ばぬ五人囃子かな
ひとつずつ声かけ包む雛の和紙
雛あられ小さき手より大き掌に
四畳半に秘密の多き雛人形
雛祭りひとりは女優になると言う
マンションの自動扉や雛飾
土雛を洗いていのち吹き込みぬ
ひなまつり就職活動終りけり
雛納めまた来年と呟きつ