俳句庵

5月『菖蒲湯』全応募作品

(敬称略)

菖蒲湯にうたふ校歌や孫ふたり
遠き日の唄口ずさみ菖蒲風呂
終い湯にしあわせ匂う菖蒲の湯
初湯浴み小さく菖蒲浮かべけり
菖蒲湯の一番風呂は長男坊
交わりは淡きがよろし菖蒲の湯
菖蒲湯に生気を貰う老いた母
菖蒲湯に昼のざらつき流しけり
菖蒲湯に首を浮かべてわらべ歌
菖蒲湯や少年なべて草食系
しあわせを鎖骨に溜めて菖蒲風呂
菖蒲湯や北国育ちの白き肌
銭湯のエコーのきいた菖蒲風呂
菖蒲湯という薬効に晒す老い
終い湯にしあわせ匂う菖蒲の湯
雨上がる野天の青さや菖蒲の湯
菖蒲湯の一番風呂は長男坊
八つ橋に武者立つ青さや菖蒲の湯
菖蒲湯に生気を貰う老いた母
神酒注ぎ蓬・菖蒲の湯三昧
菖蒲湯に首を浮かべてわらべ歌
菖蒲湯の残り香着けて本屋入る
しあわせを鎖骨に溜めて菖蒲風呂
夏前は 恋の抱負と 菖蒲湯と
銭湯のエコーのきいた菖蒲風呂
菖蒲湯は 就活疲れ 癒せるか?
ふわふわと病後の痩躯菖蒲風呂
リフレッシュ 菖蒲湯浸かって 内定だ
戦傷を自慢の祖父や菖蒲風呂
菖蒲湯に玩具のあひる浮かべおり
菖蒲風呂児らと見せあふ力瘤
母方は背高のっぽ菖蒲の湯
孫抱いて吾も好々爺菖蒲風呂
菖蒲湯の香る路地裏幟たつ
菖蒲湯の鉢巻締めて兄弟
菖蒲湯や賭け事好きな父は亡き
菖蒲湯に邪気払はれて別世界
櫓の音を聞きつつ宿の菖蒲風呂 
じいさんも孫も鉢まき菖蒲風呂
銭湯の壁の能書き菖蒲風呂
菖蒲湯に古池の句を思ひけり
残業の父に取り置く菖蒲かな
菖蒲湯を浴びてただよう土と草
夫の後菖蒲入れ替へ娘呼ぶ
菖蒲湯に鼻を浸して邪気払う
大人びていやがる兄と菖蒲の湯
菖蒲湯の香りをまとう次女の髪
沈むまで五右衛門菖蒲母が持ち
湯につかり静かに鳴らす菖蒲笛
高だかと掬ふ香りや菖蒲の湯
身を浸しまったく熱き菖蒲の湯
上がり湯をせずに娘や菖蒲の湯
引っ越して菖蒲湯に浮かぶよもぎの葉
菖蒲風呂無言で洗ふ父の背ナ
菖蒲湯や少年老い易く学難し
一握りほどの菖蒲の湯浴みかな
急かされて少年入る菖蒲の湯
菖蒲湯やをさな独りで入りだがり
菖蒲湯に少年の夢満ちあふれ
少年の肌湯を弾く菖蒲風呂
いつになき長湯となりし菖蒲の湯
遠き日の額の傷や菖蒲風呂
少年の大志あたため菖蒲の湯
溢れける湯に運ばれる菖蒲の香
父と子の対話の弾む菖蒲の湯
菖蒲湯やおまけしますと一束を
菖蒲湯や ゆび折り百を 数へけり
バスタブも床しく思ふ菖蒲風呂
菖蒲湯のしまひ湯母のなが湯かな
連れ立ちて銭湯へ行く菖蒲風呂
朝採りの菖蒲の浮かぶ湯船かな
菖蒲湯やことに刺青のいきいきと
菖蒲湯のちんぽこふぐりピンク色
肩車して菖蒲風呂の家路かな
菖蒲湯の墨書の朱墨二重丸
若狭路の菖蒲湯ぬるき旅役者
朝市女菖蒲湯すすめ菖蒲売る
菖蒲湯や古稀の気概をかきまぜる
菖蒲湯の匂ひを包みバスロープ
泣き虫と今夜でさよなら菖蒲の湯
菖蒲の葉なかなか鳴らぬ長湯かな
菖蒲湯やいちばん風呂の妾かな
葉に巻かれじゃいあん浮かぶ菖蒲の湯
菖蒲湯に指折り数ふ五歳の子
菖蒲湯や幼時の子の湯気に立ち
菖蒲湯の葉刀ふれし白き胸
菖蒲の葉皺目の目立つ孫の後
父と子の入ればこぼる菖蒲の湯
子育ての済んで菖蒲湯絶えており
菖蒲湯や胸に傷ある戦中派
菖蒲湯や写真肴の独り酒
菖蒲湯に父より長く生き浸る
菖蒲湯に浸れば菖蒲寄ってくる
刃こぼれの無き葉刀の菖蒲の湯
菖蒲湯を立てて家中菖蒲の香
菖蒲湯や五右衛門風呂に下駄はいて
銭湯の胸で分け入る菖蒲かな
赤坂に残る銭湯菖蒲の湯
菖蒲湯をたてていつもの順に入る
菖蒲湯や今日は隣へ貰ひ風呂
銭湯の首に纏わる菖蒲かな
菖蒲湯を出でて凛々しき男(おのこ)かな
一束の菖蒲浮かべて子を入れる
たぷたぷと肚の中まで菖蒲の湯
菖蒲湯で笛を習いし人も亡く
菖蒲湯の菖蒲で吾子を撫でにけり
残り湯の邪気も清めて菖蒲の湯
菖蒲湯や浪曲唸る白寿翁
ピンとしたイケメン選んで菖蒲の湯
菖蒲の湯五臓六腑に染み込みて
香り着て五歳の若武者菖蒲の湯
菖蒲湯や街の虚飾を忘れけり
菖蒲湯の歓声まとめて排水溝
菖蒲の湯救わるいのちさすりけり
菖蒲湯や人魚となりし愛娘
菖蒲湯に邪気を払いし児の笑顔
菖蒲湯に戦艦大和ぷかり浮き
菖蒲湯の匂う厨に子の夜食
菖蒲湯や婚活娘一番風呂
菖蒲湯に傘寿の邪気を払いけり
菖蒲湯や息子の髪をアトムにす
菖蒲湯に沈める短躯日本人
翠子がいよいよ翠菖蒲湯で
菖蒲湯の匂う碁敵手筋冴え
菖蒲湯と銭湯の前緑字で
鉢巻きの菖蒲鋭く湯に浮かぶ
軍艦もアヒルも菖蒲湯に浮ぶ
一番の下足札取る菖蒲風呂
草がなぜあるの子の問ふ菖蒲の湯
菖蒲湯に浸かり十まで数へる子
菖蒲湯の香の湯上りの子が届く
菖蒲湯や女系家族とは言へど
湯船ちと狭くなりたり菖蒲の湯
菖蒲湯や一姫二太郎なる我が家
菖蒲湯や古びを撫でて種痘痕
菖蒲湯や温泉宿の家族風呂
終ひ湯の菖蒲疲れてをりにけり
街一軒のみの銭湯菖蒲風呂
菖蒲湯の葉先鋭く迫りくる
立ち初めの菖蒲湯の葉の真直ぐなる
菖蒲湯の香確かめ湯をこぼす
陽の高きうちの菖蒲湯こと平和
病院の風呂も菖蒲が浮いてゐる
菖蒲湯や葉の切つ先の胸を刺す
菖蒲湯に家族全員飛び込みぬ
ゆつくりと湯にある菖蒲押し戻す
菖蒲湯に入りたがつてゐる佛
憂ひあり我に逆らふ湯の菖蒲
仕舞い湯や菖蒲とともに上がりけり