俳句庵

10月『菊一切』全応募作品

(敬称略)

菊人形軍服着せられ昭和の日
武勇伝かたる龍馬の菊人形
菊花展出品欠かさぬ友の逝き
ちちははの遠きふるさと菊膾
手折り来し野菊一輪文机
菊人形に太き背骨の竹一本
菊の酒醒めてペン取る自分史の
同窓の元気な顔や菊日和
黙(もだ)なるも目もて声掛く菊人形
花魁の胸元なほす女菊師
あてどなき歩みまたよし菊日和
お隣をほめてほめらる菊花展
ふる里は六三四(むさし)の塔の路地の菊
菊まくら夢の中まで匂ひけり
我が国に菊の香りと日本犬
菊供ふあしたは雨といふ予報
和菓子屋に小豆の匂う菊の鉢
出し巻きのうまく焼けたり菊日和
菊見るか人形見るか香に酔うか
白菊や吾が身役立たせよといふ
哀愁の風に野菊は墓慕う
漱石の齢を超へて菊日和
菊花展正論吐いた鉢並ぶ
生きてきてふと白菊に立ち止まり
眼科より戻る夫に菊枕
ひとつとて贋作は無し菊花展
スーパーの刺身のつまや菊の花
菊日和母はミシンを踏みにけり
菊人形今年は龍馬賑わえり
立山の頂写す菊日和
菊月や窓辺で童話書いてをり
菊人形まぶた塞ぎし時の無き
菊供養二胡の調べも清らかに
菊香行く ブラスバンドの マーチかな
大輪の菊や延命長寿宿
菊咲けば 青きセーラー 風となる
野を駆ける添えし菊花が離れ飛ぶ
忠魂碑 白菊一つ 横たわる
けふからは門口に出す菊の鉢
菊花展 順位つけられ 並びけり
野の風を添えて野菊を活けにけり
遊園地 今年は龍馬 菊人形
菊を観て菊観る人の貌(かお)を見て
残菊に ヴィオロン響く 上野かな
久々のネクタイ締めて菊展へ
口開けの暖簾をくぐる菊日和 
残り香をまとめて菊を括りけり
豊胸の志功菩薩や菊日和
呼ばれの孫に持たせし除虫菊
引越しの荷物従へ菊の鉢
厳しさに怯んでおりし夏の菊
野菊咲く故郷に寄らず戻りけり
菊比べ家族旅行も我慢せり
「ことしこそ」菊につぶやく菊花展
夏菊や十日白紙の日記帳
白菊の墓地より海へ風わたる
手間の差が花に表わる菊くらべ
弁慶の盛り上がる肩菊人形
子も孫も素直でありし菊の花
三人目出来たと告ぐる菊盛り
大賞の隣の菊を褒めにけり
江戸菊と西に貴船の秋明菊
黄昏に菊見ればまた祖母のこゑ
境内に物売りのこえ菊花展
ウォーキングシューズ選びし菊日和
野の菊に出迎えられし秘境駅
お澄ましの菊の香やさし見合席
アリバイのなき日となりぬ菊日和り
電話なり小菊の栞はさみけり
菊手入れご隠居さんの鼻眼鏡
菊月や少しお話しましょうか
菊薫る血統ただしき競馬馬
矢を受くる弁慶の胸菊厚く
菊の香の仄かに残るエレベータ
懸崖の椅子で足らざる菊の丈
今頃は菊の咲きいる故郷かな
どの部屋も菊の香満たし母を待つ
その中に菊を挿しいる羅漢かな
野菊咲く土手を二重に輪中村
大輪の菊置いてある無人駅
婚の荷のバック許さず菊の路地
勇ましき菊人形の顔ばかり
丹精もほったらかしも菊香る
主まだ知らぬままなり菊の庭
縁側は母の社交場菊日和
菊の香を土産に持って母見舞ふ
樟脳の香とすれ違ふ菊日和
それを見て判る世相や菊人形
穢れなき山の日差しや野菊咲く
大輪を見た帰りがけ菊最中
隣家より嬰の声して菊手入
見得きって香りふり撒く菊人形
菊の香や帯のきつさに息を吐き
残菊や船出払った小湊に
とめどなく薀蓄つづく菊花展
残菊や煙突崩れし工場跡
祖父ちゃんの菊の話が終わらない
彼の人へ散らす野菊や来る来ない
百歳はみんな元気と菊薫る
如何な人野菊挿し置く無人駅
菊花展胸のリボンは菊の花
白菊の眩しかりけり通夜の明け
大輪の菊に添えある黒リボン
アルバムに無垢の白菊永久の母
菊おいて棺のふたを閉じにけり
小冊子の旅券に菊の重さあり
大輪より路傍の野菊愛しけり
皆一輪菊一輪のパスポート
龍馬おりょう清しく添へり菊人形
菊日和経木屋の前通りけり
敵役吉良に過ぎたる菊衣
お結びの海苔の香高き菊日和
大仏の膝下を巡ぐる菊花展
菊の香にのれんくぐりし民芸店
菊展裏弁当使ふ菊師かな
菊近く百葉箱のありにけり
本堂の画龍眼の澄む菊供養
独り言このごろ多し菊膾
月島の路地の昭和や懸崖菊
菊いじる父も庭師も左利き
川べりに夏草のかげ菊の花
捨て猫を家族に加え菊日和
八十路坂歩幅もあふて菊日和
菊の日や渡る人なき二重橋
再会を祝す一献菊膾
吹く風は嵯峨菊愛でて大覚寺
つまみ細工の菊の簪京の秋
しらぎくや故郷と同じ花が咲く
水澄むや「野菊の墓」に詣でけり
風孕む帆船の菊の極彩に
大原女の薪に一枝黄菊かな
一弁の瑕瑾も無くて受賞菊
菊月の風情まとひし芸子かな
菊一輪金剛峯寺の自刃の間
菊の香や母は生涯化粧せず
水琴窟如庵に響き月今宵
野菊濃し秋篠寺へ道続く
菊花展明眸と言う名の受賞菊
一畝の菊の盛りや貸し農園
姫を抱き起こし菊師のご満悦
菊日和貸し農園のティータイム
美術の秋感傷的な夜を待つ
寺町に鉦の途切れぬ菊日和
色彩は美術の秋に甦る
菊なます越後生まれの祖母の味
ベレー帽美術の秋に繁殖す
目つむりて菊に埋まりて棺の中
ここだけはコンテの匂う美術の秋
気まぐれに育てし菊の立派かな
百号の額縁彫って美術の秋
菊日和父母金婚の朝の顔
照明を美術の秋に曲げている
入賞を外しし菊の置き処
わが里に「もつてのほか」てふ菊日和
白菊や真つ正直に生きて逝き
走らざる犬の利口や菊日和
電照菊明日の出荷を待つハウス
結納や口上に借る床の菊
軽トラで大輪が着き菊花展
明番の多段ベッドへ菊活けり
菊一花少女に与へ無人駅
割り勘の損は承知で菊膾
物売のながき売声菊日和
残菊やハングル碑拭く母娘連れ
菊の間に菊の大輪相模灘
舞鶴が引込み線の小菊かな
肥料からつくる翁の菊手入れ