俳句庵

6月『紫陽花』全応募作品

(敬称略)

紫陽花の移ろひ易き性あはれ
紫陽花の 色変わりゆく 夏時計
とどめおくことはむつかし七変化
紫陽花や旅の途中の雨宿り
紫陽花の咲く四阿の雨宿り
あじさいやノートに綴りし詩の一片
移ろふを咎むるなかれ七変化
紫陽花が園児の歌を聴いている
あじさいや相合傘のすれ違ふ
紫陽花やおててつないであつまって
哀しみの色深めゆく濃紫陽花
紫陽花やてるてる坊主かなしそう
紫陽花の朽ちてゆくまで見とどけし
紫陽花が手まりのように咲きにけり
紫陽花の褪めゆくことや無為の日々
ぴんくあおいる移りける紫陽花よ
鐘楼を見上げ紫陽花咲きにけり
紫陽花や古きモダンの異人館
紫陽花や参道に濃き雨降れり
沢紫陽花一気に渡る丸木橋
はやばやと紫陽花くれる雨の闇
紫陽花の被さり隠す水溜り
離れまで紫陽花沿うや長廊下
紫陽花の奥に夫婦の余生あり
寺の名を覚えず紫陽花観て帰る
濃紫陽花二人の暮らし隠しをり
喜寿祝い色濃く咲けり七変化
紫陽花や雨降ってゐる水溜り
鎧坂露にねれせし紫陽花よ(室生寺にて)
紫陽花や傘のなかより京言葉
紫陽花に阿弥陀如来の笑みさそふ(矢田寺にて)
紫陽花の雨滴に街の灯の映る
心地よき風を感じて七変化
あぢさゐの路地のピンクの三輪車
紫陽花を飛び出す笑顔ばかりの子
江ノ電の小さき踏切七変化
紫陽花や傘に重たき雨の粒
紫陽花に映ゆる人皆みづみづし
紫陽花や北鎌倉を起点とす
紫陽花に呼ばれし雨を纏いけり
ぶつけあう心時には七変化
用水の水音軽し濃紫陽花
捨てられぬ昨日も明日も七変化
水に色おき陽に返す濃紫陽花
妣のいるように紫陽花咲きにけり
濠でありしあじさゐ園の昼昏き
雨は友庭の紫陽花色を増し
あじさゐを掠め走るよ貴志川線
紫陽花の雨に濡れにし封書かな
老いの夢ざんげもかすめ白紫陽花
紫陽花や生徒三人書道塾
紫陽花はしずかに痩れ海色に
紫陽花は意固地でありし俯かず
濃紫陽花雨にうるほふ馬の背
紫陽花の通せんぼして三輪車
さくための色溜めおり濃紫陽花
紫陽花や下町暮らしを愛すなり
濃紫陽花石佛ふっと息したる
紫陽花や路地よりおてんば湧いてくる
その中の白は仏心よひらかな
この駅も無人駅なり濃紫陽花
紫陽花と小さき母の背に雨落つる
紫陽花や円空仏は荒荒し
藍は雨さそふ色なり七変化
闊達な円空の鑿濃紫陽花
紫陽花の藍より青へ橋渡る
円空の鉈仏在す紫陽花寺
紫陽花や子に祝はるる誕生日
色移りしつつ紫陽花寺静か
紫陽花を活けて外出をせぬひと日
蓬髪の円空荒神濃紫陽花
雨降つて紫陽花の色定まりぬ
校庭に色移りして七変化
紫陽花の七変化して雨弾く
紫陽花に 埋もれて覗く 雨地蔵
紫陽花や小花の色を集めけり
紫陽花や しとどの雨を 弾きをり
紫陽花も庭の一隅照らすなり
紫陽花や ころころ隣りの 寺へ入る
あぢさゐにあぢさゐの闇ありにけり
紫陽花よ狂おしいほど優しくて
墓石の黒く濡れゐる四葩かな
紫陽花が雨に打たれた僕を抱く
わが妻はジューンブライド濃紫陽花
紫陽花よ君が咲かせてくれた僕
何はさてまづは紫陽花寺を訪ふ
紫陽花よ僕といっしょに空見よう
あじさゐの雨藍色となりにけり
雨の声紫陽花と聞く寄り添って
白足袋の楚々と磴踏む四葩かな
紫陽花の明日は何色思案顔
紫陽花を一枝添えて月参り
庵主留守紫陽花寺の昼下がり
紫陽花や窓辺で外すイヤリング
丸窓の外にまん丸濃紫陽花
紫陽花の色の漂ふ夕べかな
紫陽花や壊れたままの万華鏡
七変化せず白のまま咲きにけり
紫陽花や闇の底よりどらえもん
自己主張まとめて一つあじさい花
濃紫陽花毒婦の墓を包みけり
あじさいの雫落として雨あがる
嫁がぬ子の齢を重ね濃紫陽花
傘かしげあじさいに落ち雨生まる
紫陽花や小糠雨降る坂の町
あやかしの住む庭に棲む七変化
紫陽花の雫七色雨の朝
紫陽花や百花個性を凝縮し
花の毬仄かに点す五月闇
境内に佇む人や七変化
川べりの花火のような隅田川
ほんのりと雨の匂ひや七変化
あぢさゐは雨を集めて水風船
一休みピアノのそばの額紫陽花
紫陽花の花言葉にこそ誓う愛
わが庭はアルカリ性よ赤紫陽花
あぢさゐや遠景にスカイツリータワー
紫陽花のこぼるる涙傘が触れ
七変化みどりから花芽はまず白に
訪れる人もなけれど咲く紫陽花
母のまま母の眺むる七変化
ほっくらと紫陽花たちが待つ寺院
あぢさゐや傘を持たざる日もありて
紫陽花が花嫁の白きわだたせ
刺繍花覚悟の赤を濡らしけり
紫陽花に囲まれし母ポーズとる
ワンツースリー色のマジック七変化
紫陽花や大きな鏡占領し
紫陽花の変はることなき重さかな
紫陽花に教えられをり藍の色
軽薄な指で爪弾く七変化
紫陽花や博物館の手話父子
能なしのをとこはいらぬ七変化
静けさや玉紫陽花の苞開く
紫陽花の大事にされて返事する
紫陽花や相合傘の愛語り
紫陽花の咲く時すでに知つてをり
幸運の六葩(むひら)紫陽花見付けたり
いじめられ紫陽花ふんと睨みつけ
紫陽花や宵の珊瑚となりにけり
白絵具 使い切ったり 大紫陽花
樹雨(きさめ)降り玉紫陽花の割れにけり
紫陽花の 奔放加減 羨まし
紫陽花の珊瑚を巡る傘のエイ
一服すあじさい祭り雨の中
あぢさゐの裏側にあるがらんどう
あじさい園海ことほか碧きかな
空瓶に紫陽花を差す無人駅
七変化単身寮の物干場
井の頭線紫陽花が包囲する
あじさい園ついつい廻すアンブレラ
紫陽花やどの赤子にも蒙古斑
あじさいの似合ふ雨の日大嫌い
紫陽花や露西亜へ逃げし老婦人
紫陽花の雨を払いし傘の先
紫陽花や頬杖並ぶ窓の席
紫陽花の垣より紫煙立ち昇り
紫陽花の影さかさまに映る部屋
紫陽花やひっそり暮らす異母きょうだい
雨に色あらばむらさき濃紫陽花
紫陽花や根付いた土地の青き色
旅立ちも帰宅も雨や濃紫陽花
大振りの紫陽花一輪七回忌
路地奥に微笑む地蔵濃紫陽花
紫陽花の径跳ね行くや小さな傘
あち"さゐ園色咲き分けて今盛り
紫陽花を味わうことなく引っ越しす
江ノ電の脇を紫陽花触れている
紫陽花や幕間のごとき通り雨
紫陽花の庭から入る訪問者
紫陽花や二人で入る男傘
側室の墓ある寺の濃紫陽花
紫陽花やうら若き葉のうす緑
下町に四葩を濡らす情の雨
しとど降る雨に色ます四葩かな
紫陽花に黄色い帽子の見えかくれ
紫陽花や雨に伏目の六地蔵
家々の四葩の色に個性あり
紫陽花の濡れて誘ふ寺の門
本殿へ紫陽花の坂昇りゆく
紫陽花に道幅狭くなりにけり
紫陽花やスイッチバックの胴震ひ
ジョギングの急な坂道七変化
雨意たたへ紫陽花の房寡黙なり
雨音の前に揺れたる七変化
爪皮の先を近づけ濃紫陽花
七変化絵の具に水を溶かしたる
あぢさゐの気息に合はせ近寄れり
七変化仕舞ひ忘れし花鋏
薄墨の夜が重たい濃紫陽花
紫陽花や心得違ひ解けぬまま
紫陽花の雨に音あり蛇の目傘
濡れそぼつ奈良の古刹や瓊花揺る
紫陽花や渡り廊下の遠会釈
紫陽花の露に滲みし訃報かな
紫陽花を 訪ねて歩く 老いの日々
紫陽花や白きセーラー露散らす
妻が留守 紫陽花眺め ひとり酒
紫陽花や風は紫雨は白
紫陽花や 気兼ねをしつつ 雨戸引く
あじさいのはかなきごときいのちかな
あの時の 君の浴衣は 手毬花
紫陽花や風に吹かれて蟻上る
紫陽花が こくりと会釈 雨上がる
紫陽花の緑の葉には幸宿る
紫陽花を 愛した母も 七回忌
古民家は源氏の血筋四葩咲く
紫陽花の中にて恋のみくじ引く
紫陽花や今朝の新聞湿りがち
紫陽花のインク深めてさらに雨
紫陽花が好きで私は雨女
紫陽花のいまだ出さざる秘めし色
うなだれし紫陽花雨を恋いにけり
紫陽花の青は水色空色も
猿之助襲名公演七変化
紫陽花の色を見たきに早寝する
あぢさゐの花の待たるる日和かな
雨読する窓を紫陽花染めて来し
紫陽花の寺と呼ばれて久しかり
雨が好き雨の紫陽花なおも好き
紫陽花や駆け込み寺と呼ばれゐる
紫陽花や咲けば鎌倉思ひあり
紫陽花の毬を撫でゆく登校児
紫陽花の鎌倉に住む原節子
けふの色あすはどの色七変化
紫陽花や漢詩の多き父の文
紫陽花や無住寺にも咲きほこり
江ノ電の車窓に映る七変化
紫陽花の色を湛えてiPad
紫陽花の雨となり母忌日
千年を紫陽花であり続けしか
紫陽花は誰にもなじむ七変化
紫陽花が爆発するかとぞ思ふ
紫陽花に涙預けて空仰ぐ
紫陽花の宇宙に浮ぶかと思ふ
一枝も花束となる紫陽花よ
哀しきも丸くしてゐる四葩かな
紫陽花に添って出会えた山の寺
失恋はすぐ癒えるべし七変化
紫陽花に傘を差し出す人の影
雨の窓 紫陽花映す モザイク画
枯れ果てて更に紫陽花風情増し
色溢る 紫陽花の道 傘の列
満開の紫陽花寺の人出かな