俳句庵

2月『春浅し』全応募作品

(敬称略)

挨拶 両手ポケット入れ 春浅し
浅春や胎内仏の学習会
春浅し未来を語る友の頬
浅春や隻眼となる白内障
春浅し綾取りしたる小さき手
浅春や効き目の薄き鎮痛剤
春浅く立ち漕ぎしたる風の音
堀川に開かずの蔵や春浅し
春浅くブルーのシャツの袖長し
鯉の目ののんぼり洗い春浅し
受付の窓おずおずと春浅し
円空の笑う仏や浅き春
春浅し午後はたっぷりカフェオーレ
春浅し男所帯の洗い物
窓よりの陽射し机に春浅し
望郷の象のはなこよ浅き春
打ち明けて心の重荷春浅し
病床に羽二重団子浅き春
黒土に種まく人の春浅し
投薬の二つも減って浅き春
春浅し五体のきしむ畑仕事
浅春の午後のひと時喫茶店
グローブのまだ硬きまま春浅し
古書街をのぞいて歩く浅き春
浅き春殺風景という風景
補助輪のとれぬ自転車春浅し
太陽の粒の降りだす浅き春
春浅きガラスのビルにきらめく陽
春浅し半分日の射す古本屋
浅春やよちよち歩きの三歳児
春浅く椀の舟浮く洗い桶
親亀の背に子亀のる浅き春
自転車の立ち漕ぎの娘よ浅き春
二月堂闇跳ぶ火炎春浅し
春浅く飯粒こそぐ折の蓋
日当たりを求めて散歩春浅し
春浅く塔婆の数の整はず
気が付けばエンドロールや春浅し
春浅く瀬戸の小鉢と漆椀
浅き春ミルクふうふう冷ましけり
春浅く髻結へぬ勝力士
消印の読めぬ横文字春淡し
万葉の歌碑の温もる浅き春
浅春や旅券けふより新しく
地下鉄を出て春浅き光りかな
雲と風山にもつれて春浅し
浅春の一滴奏づ水琴窟
自転車の少女立漕ぎ春浅し
古民家の庭盛り上がる浅き春
釣人の日差しに動き春浅し
春浅き土手をかけゆく子らの声
薄埃かぶる位牌や春浅し
手のひらに陽の光り亨く浅き春
浅春の荒野の隅の薄緑
慕う人夢へ進み春浅し
浅春の野面行く風まだ尖り
浅き春機敏な車掌に目が醒めて
春浅し縺れそうなる足ふたつ
浅春や通行止めの峠道
日溜まりに雀遊びぬ浅き春
春浅き中山道の石畳
春浅し各駅停車待つホーム
浜名湖の見ゆる峠や春浅し
三叉路のどれも行きたし浅き春
春浅き小夜の中山訪ねけり
春浅し扉を開けてまた扉
春浅し肩を抱き合ふ道祖神
春浅し明日の約束して別る
春浅き甲斐と諏訪との峠越ゆ
春浅し朝の小道に犬を追う
春浅し猫と眺むる旅の本
春浅し朝餉忙しい出社前
髪型の候補は三つ春浅し
春浅き頃に我が子が生まれけり
公園を斜めに突っ切る春浅し
春浅しダム放水の音がする
太陽光発電システム春浅し
春浅き宵にサイレン鳴り響く
水底にさかなのしずむ春浅し
払暁の浜に潮の香春浅し
春浅し捜し物する心地して
春浅し賢治の息の地面かな
バスを待つ時長からん春浅し
春浅し風もまどろむ眠り姫
春浅し薄日こぼれしアーケード
春浅し白き影なる砂を蹴る
マネキンの微笑む街や春浅し
春浅し訃報の束を燃やしけり
ウインドの細いパンプス春浅し
春浅し見上げて蒼き虚空かな
春浅し宅急便で風届く
春浅し釣り人のまなざし軽し
失ひし吾が句と出会ふ浅き春
公園の遊具塗り替え春浅し
師の文は深き藍にて春浅し
春浅し途絶えて久し子の便り
春浅しいざやをとこの独り旅
春浅し枯山水の禅の庭
富士に隙寸分もなく春浅し
教会のステンドグラス春浅し
浅春や若き尼僧の蒼き指
春浅し薄く紅ひき保護者会
軒下の猫の足跡春浅し
雪舟の筆の絶景春浅し
母の靴揃へてをりぬ春浅し
銭洗う弁天様や春浅し
浅き春始発電車の軋む音
明治座のはねて大川春浅し
朝市を斬り裂く警笛春浅し
乳母車子の足見えて春浅し
牧場に牛放つ声春浅し
浅春の寺をめぐるや句帖手に
浅き春和室の空気の動かざる
時計出て旗振る小人春浅し
春浅し本堂の読経凛として
春浅しまだ夕風の尖りをり
老木の縮みしままに春浅し
春浅し尖りし波の煌めきて
窓を打つ雨横に這い春浅し
浅春の川を流るる鳥の声
浅春や山端に掛る朧月
浅春の海の一片忘れ潮
小走りに 湯煙る銭湯へ 春浅し
白壁を返す光や春浅し
お代りの 熱き蕎麦湯や 春浅し
浅春の島へ五分の渡し舟
ひと羽織 取りに戻るや 春浅し
石畳続く路地奥春浅し
春浅し 緋鯉も底に 冴えもなし
百舌鳥の声背戸で鋭く春浅し
はこべらや ハート型の葉 浅き春
浅春の岸辺這う波尚寒し
浅春や サンダル履きを 後悔す
春浅し川の流れも尚浅し
春淡し ヴィヴァルディの春 聴き散歩
頬に風まだまだ春の浅きかな
春浅し 日陰路肩に まだら雪
校舎からコーラス洩れて浅き春
浅春や 靴下2重に 朝ぼらけ
天神の絵馬がいななき春浅し
万歩計 寒さに慣れぬ 浅き春
くちずさむ少女歌謡に浅き春
春浅し 時々白息 なお白く
浅き春旅情を誘う時刻表
浅春や 七草未だ 若芽まま
今はもう跳べぬ小川や春浅し
春淡し マフラー忘れ 引き返す
思い出を辿る信濃路春浅し
指先に痺れの残る浅き春
春浅し鉄橋の音届く里
浅き春玻璃をへだてし金色堂
遠き山見る浅春の橋の上
浅き春積まれし本のうす埃
仮橋のままの歳月春浅し
浅春や指で頬突く弥勒仏
春浅し障子に溜るねこの恋
浅春の一汁一菜修行僧
春浅しSL発てり無人駅
春浅く坐禅の僧のおぼこ顔
外せないパーティ二つ春浅し
あかつきの寄する貝殻春浅し
春浅しベイブリッジが通せんぼ
せわしげに流れゆく雲春浅し
春浅しかくれ体操巫女だまり
浅春の仏を撫でて願ひごと
受験子のラストスパート春浅し
春浅し駅の足湯に浸りけり
日にぬくむ地蔵の背や春浅し
春浅き上野の駅の国訛
浅春の渓流速し九十九折
春浅し小橋を渡る鼓笛隊
浮世絵ののっぺり顔に春淡し
春浅き谷川岳の墓標かな
浅春や草は平たく地を這ひて
春浅し堆肥の山の湯気揺れて
この猫の居場所は日向春浅し
浅き春昇格人事掲示あり
浅き春部活の子等の声高し
浅き春魚信伝わる赤き浮子
春浅し金平糖の数かぞへ
カーテンのフリル膨らむ春二月
浅き春待合室の咳騒ぐ
春浅し 今年はヘビも 遅寝哉
春浅し甥子の手紙封を切る
春浅し 子どもは元気 半ズボン
春浅し入念に切る削り節
春浅し 隣の柿もまだ実る
陳さんの麻婆豆腐春浅し
春浅し 七草探す村の道
公園に人影まばら春浅し
春浅し 遠き夏の日 思えばや
春浅し舫の解けぬ漁師町
春浅し 厚着に厚着 出社する
にはたづみ流れぬままに春浅し
子らとするままごとあそび春浅し
しげしげとしはぶき商ふ朝市女
ドロップの缶ころころと春浅し
口を開け 歯科医と話す 浅き春
失った片手のうずき春浅し
春浅し旅の誘いの来る頃か
伝統の着物職人春浅し
春浅しスカイツリーの展望台
骨董の目利きが集う春浅し
流れ来て堰にとどまり春浅し
みどり児に名前をつけて春浅し
御七夜の赤子の欠伸春浅し
春浅き診察室に告知受く
不動尊水掛けられて春浅し
浅春や地震の港の迷ひ犬
腰痛のはづかに癒へて春浅し
浅春や沖をギリシアの貨物船
春浅きもののひとつに水の音
春浅き天城峠を越えにけり
春浅き御百度石のぽつねんと
浅春の子らが石投ぐ伊豆の海
復興の歩みは遅し春浅し
切る石も切らるる波も春浅し
問診の医師に向き合ひ春浅し
浅くのみ春のけぶらふ千曲川
春浅しビルの工事に大重機
村と村つなぐ吊り橋春浅し
キーボード旅程を組むや春浅し
春浅き水の流れとなりにけり
裾野まで富士くつきりと春浅し
春浅し人がまばらの遊園地
春浅しやさしき雨の始発駅
茶柱の少し斜めや春浅し
春浅し梢刺す空やはらかき
病室に枯れた草あり春浅し
春浅き運河茶房のジャズピアノ
春浅し雀は瞼細めけり
蝦夷富士の展望茶屋の春浅し
春浅しオオバコの葉のまだ赤し
子規堂の旅立ち像の春浅し
春浅し水切りの石跳ねあがる
春浅き膝掛軽し人力車
雄鶏も首を竦めて春浅し
喫茶店の卓の日差しや春浅し
二の腕の産毛逆立ち春浅し
バザールに客も疎らな浅き春
春浅し猫を抱えて二度寝する
春浅し客待つ車夫ら屯ろして
ランドセル入れては出して春浅し
春浅し草の匂ひを風が消し
春浅し止め石の座す茶室かな
浅春の山に目覚めの気配あり