俳句庵

季題 4月「木蓮」

  • 紫木蓮咲けば妻の忌めぐり来る
  • 岡山県     岸野 洋介 様
  • 白木蓮の飛び立たむかに青き空
  • 神奈川県     井手 浩堂 様
  • 掌に母のぬくもりありぬ紫木蓮
  • 東京都     水野 二三夫 様
  • 紫木蓮指たおやかに阿弥陀仏
  • 東京都     近田 吉幸 様
選者詠
  • 紫木蓮雨の重さに耐へず散る
  • 安立 公彦

安立公先生コメント

木蓮を辞書に当たると、「暗紅紫色六弁の花を開く。紫木蓮とも言う。近縁に白木蓮がある」と記されています。歳時記では「木蓮」で括られていますが、正しくは「木蓮」とあれば、「紫木蓮」を指します。また投句の中に、「白蓮」、「白れん」とありましたが、この表記は「蓮」を意味し、夏の季語となります。ご注意下さい。
 優秀賞の岸野さんの句。表現は淡々としていますが、思いの深い句です。夫人の忌日は木蓮の咲く四月なのでしょう。今年も紫木蓮が咲いたと、夫人への思いを、うち仰ぐ紫木蓮の花と重ねている姿が、「妻の忌めぐり来る」によく出ています。
 井手さんの句。この句の要点は、「飛び立たむかに」です。高く伸びた白木蓮の姿は、まさに飛び立つような印象を与えます。その上には青空が奥深く広がっています。いい景です。原句は「木蓮」でしたが、「白木蓮」の方が善いでしょう。
 水野さんの句。往時の回想でしょう。手を繋ぎながら歩いていた母がふと立ち止まった。見ると母は目前の紫木蓮を仰いでいる。その時の母の掌のぬくもりが、 今見る紫木蓮の花とともに蘇って来たのです。「ぬくもりありぬ」の現在形が効果的です。
 近田さんの句。境内の紫木蓮と、阿弥陀を安置する本堂の景が見えて来ます。「指たおやかに」が弥陀を良く捉えています。
 今回も佳句は、〈抱擁を解くごと開く白木蓮 佐藤博一〉、〈前庭に木蓮一本町役場 岸下庄二〉ほか数多ありました。

◎ 優秀賞、入賞に選ばれた方には、山本海苔店より粗品を進呈いたします。