俳句庵

5月『麦秋』全応募作品

(敬称略)

愛知県     岩田 勇
参拝のバス延々と麦の秋
行軍は三日三晩と麦の秋
懐かしき名優あまた麦の秋
聞こえ来る般若心経麦の秋
疎開せし麦秋の村訪ねけり
埼玉県     長澤 千鶴子
野良猫のとほりみちかな麦の秋
遠山の茜に染まり麦の秋
麦秋や風はやさしくなでてゆく
神奈川県     佐々木 僥祉
凍餒の大地に陽の染む麦の秋
埼玉県     哲庵
おふくろの手打ちうどんや麦の秋
麦の秋円空仏を訪ね行く
ランナーの列が過ぎゆく麦の秋
麦秋や卑弥呼の墓の調査隊
麦秋の風に吹かれて杖試し
千葉県     隼人
麦秋や風吹き抜ける八合目
諸手寄せ掬ふ湧き水麦の秋
水風呂に馴染ませ躰麦の秋
麦秋やあじのいりこのうどん汁
神奈川県     相模太郎
若者の脚みな長し麦の秋
麦秋や花舗の外まで花並べ
馬の脚膝に抱へる麦の秋
生みたての卵いただく麦の秋
物置に使はぬ農具麦の秋
東京都     安西 信之
病歴は勲章のごと麦の秋
麦秋の午後の体操広場かな
麦秋や橋を渡るに手を借りて
笹舟のくぐる木の橋麦の秋
麦秋や旧家梳かれて石ごろごろ
埼玉県     小玉拙郎
山並みは青の濃淡麦の秋
麦の秋矩形重ねて岬まで
草野球ネットの裏は麦の秋
干拓に今も異議あり麦の秋
麦秋に人を配るや田舎バス
千葉県     犬槇庵 光晴
茫茫の塩狩峠麦の秋
千葉県     響
麦秋や水飴片手に風の中
ブラジル     林 とみ代
麦秋のふるさと後に半世紀
富士山の裾野に熟す麦の秋
戦禍跡覆ひ隠して麦の秋
麦秋の風になびくや選挙旗
ふるさとは懐かしきかな麦の秋
埼玉県     岸 保宏
麦秋やより密やかな無人駅
麦秋に新ネタ聞ける高座かな
麦秋や羽織増やしてデイに行く
東京都     岩川 容子
麦の秋したたかに人生きており
ていねいに種馬洗う麦の秋
暮れなずむ空をも焦がす麦の秋
遠き日の祖母のおむすび麦の秋
東京都     丸山清子
彼方より鈴近づくごとし麦の秋
口笛の上手くなりけり麦の秋
山里のパン屋繁盛麦の秋
東京都     村上 ヤチ代
麦秋に影を落とせり熱気球
愛媛県     宮下 靖弘
麦秋に描かれし色となりて我
麦秋に開くページの白さかな
麦秋の金は電車も洗うごと
麦秋の無人駅次は日没後
東京都     鈴木 眞由美
麦秋の向かうの声は母に似て
燈明の煽ぎて消せり麦の秋
麦秋や繋ぐ手堅き園児どち
埼玉県     守田 修治
十二才少女羽化する麦の秋
居酒屋のメニューも替わる麦の秋
銭湯の昭和談義や麦の秋
クラークの指さす大地麦の秋
野球部の選手急募や麦の秋
北海道     飯沼 勇一
風ごくり呑み込む美味さ麦の秋
山下りてくればいきなり麦の秋
ローカル線窓いっぱいに麦の秋
麦秋や画布にも風を描き込みぬ
麦の秋十勝平野は空碧し
東京都     石見 光夫
農業の体験ツアー麦の秋
黄帽子の園児一列麦の秋
東京都     坂本 牧子
麦秋やモーツアルトでぶっ飛ばす
麦の秋洗車を終えし宮大工
住職のバイク消えゆく麦の秋
麦秋や寿限無寿限無を諳んじる
千葉県     横井 隆和
なびく穂の風にたたずみ麦の秋
静岡県     柳谷 益弘
風の音も心地良きかな麦の秋
岐阜県     ときめき人
麦秋や「はだしのゲン」の足の跡
東京都     右田 俊郎
麦の秋一年生も馴れるころ
麦秋や国境を守る歩哨兵
ひたすらに地平線まで麦の秋
一島を一色に染め麦の秋
麦秋や子らの隠れ家秘密基地
大阪府     太田 紀子
麦秋や川の右にも左にも
麦秋や介護ホームの小さき窓
麦秋や客が一人の路線バス
静岡県     柳沢 浩
麦秋の生きると死との線を引く
田んぼと田んぼの微笑み麦の秋
麦秋や追われ拾いて笊のなか
麦秋の時の歩みを掻き交ぜて
麦の秋時計を外す黄金色
東京都     蘭丸
麦の秋大方のこと飲み込みぬ
麦秋や手紙の如き立ち話
カナダ     花里真希
麦秋の海のハイウェイ走り行く
麦秋の波に飛び込む雀かな
風吹けば輝き増せり麦の秋
神奈川県     塚本 治彦
麦秋のパールバックの大地かな
麦秋や聖フランシス無一物
畑通る家庭訪問麦の秋
麦秋や留守番の婆惚けてをり
麦秋や田舎のバスの土埃
千葉県     二階堂 脩一朗
延命を母は望まず麦の秋
方言のとびかう茶会麦の秋
神奈川県     長瀬 正之
道草の友の増えたる麦の秋
ランドセル馴染む姿に麦の秋
麦秋や田舎の節句月遅れ
麦の秋蔵の片付け爺と婆
富山県     岡野 満
吹く風の色変わりたる麦の秋
麦秋に日射しゆるりと吸われけり
麦秋や風がお客の無人駅
福岡県     河瀬 周治
それぞれが地軸でありぬ麦の秋
一本道の軽トラックの麦の秋
麦秋の筑紫次郎のたひらけし
麦秋のあらたな風の風を追ひ
神奈川県     秋山 直子
麦秋や陶器のジョッキ交わす夜
山麓を黄金に染める麦の秋
麦秋や夫つまびくビートルズ
幼稚園せまき畑の麦の秋
麦秋やミレーの絵の人微笑めり
大阪府     山下 みゆき
麦秋の原野に透明バス走る
麦秋にオープンサンドウィッチ携えて
麦秋は雲眩しくて影白し
異星へと迷い来しかや黄の麦秋
バス停の錆まで眩し麦秋は
福岡県     西山 勝男
幸若の里をまほろに麦の秋
麦秋や鍛冶場遺跡をただなかに
麦秋やまつただなかの落城趾
麦秋の真っ只中を婚の舟
麦秋や大和三山遥かげに
北海道     伊藤 哲
麦秋や美瑛の空の果てしなき
麦秋や青春時代の空遠く
栃木県     長浜 良
終点へ一両電車麦の秋
後ろ手の弔問多き麦の秋
農耕機妻と相乗り麦の秋
麦秋の一番星や農耕機
大阪府     永田
何となく後ろ手になり麦の秋
麦秋や予定なき日の軽きこと
深呼吸ふたつみつよつ麦の秋
神奈川県     矢神 輝昭
畦道にやかんの転げ麦の秋
放課後やザリガニ釣りへ麦の秋
教室に居眠りする子麦の秋
黒潮にさばの大漁麦の秋
石狩の平野一面麦の秋
埼玉県     櫻井 玄次郎
麦秋に赤髭伸びて刈り込めり
神奈川県     猪狩 千次郎
麦の秋孤独の好きなピエロかな
牛の尻両手に押すや麦の秋
麦秋や天を哀しむ犬の声
麦秋の岬すとんと切れて空
砂浜を馬疾走す麦の秋
大阪府     津田 明美
麦秋の日暮一望遠岬
麦秋や海に溶けゆく単線車
麦秋の終いの空や遠岬
ハミングの少年過ぎて麦の秋
暮れなずむ風の大地や麦の秋
広島県     永野 昌人
滔々と筑紫次郎や麦の秋
麦秋のゆつくり曲がる大河かな
麦秋や昔日本は飢えたると
麦秋の野末に落つる夕日かな
麦秋の北の大地と言ふところ
兵庫県     山地 美智子
麦秋や客の少なき昼のバス
大樹あるところ社寺あり麦の秋
麦秋や近づいてくる浅間山
麦秋や知人少なくなりし故郷
大声で孫に呼ばるる麦の秋
福岡県     桑田 勲
麦の秋城の名残の野面積
麦の秋錆の極みの捨碇
潮焼けの浦の捨舟麦の秋
墓所守る屈強な松麦の秋
石積めば山神となる麦の秋
山口県     山縣 敏夫
麦秋や小津の世界に浸りきる
三丁目夕日が丘に麦の秋
麦秋や農家を急かす二毛作
麦秋を眺めて走るこころ旅
バス停がポツンと立つや麦の秋
群馬県     クズウ ジュンイチ
麦秋へ村に残りし子のバイク
大阪府     森村ふうみ
街道に風誘うや麦の秋
麦秋の風に寄り添い石仏
雨あがる穂先輝き麦の秋
埼玉県     米田 哲
麦秋や普き日射し風そよと
風そよと彩なす故山や麦の秋
麦秋や琥珀のグラス指二本
麦秋や風の足跡ゆっくりと
麦の秋亭午の下のさんざめき
東京都     芒紫
麦秋や 風に刹那を 求め過ぎ
麦秋の 囁き何故か 芳しく
東京都     紫藁
黄み帯びし 風麦秋の 澱なる
麦秋や 乾いた地声で 独り言
東京都     紫麦
麦秋や 就活生は 颯爽と
突然の 雨に麦秋 鈍る午後
岡山県     渡辺牛二
麦秋や婚の荷の入る里の家
滑走路走る両側麦の秋
静岡県     池ヶ谷 しょうご
若き日の思いを宿し麦の秋
トンネルの向こうはぽっかり麦の秋
滋賀県     村田 紀子
麦秋の風に誘われ旅に出る
五年ぶり友と出会った麦の秋
猫二匹隠れんぼする麦の秋
麦秋に兄と歩いた道を行く
麦秋の里を駆け来る赤い傘
福井県     岡本 紅
マラソンのゴールテープや麦の秋
大阪府     弗椿
ネクタイをしない麦秋早五度
麦秋や爆買いの声去り虚空
東京都     新保 徳泰
麦秋の水車まだある村の景
愛知県     斉藤 浩美
日本人なれどパン好き麦の秋
なつかしきものにコッペパン麦の秋
抑留の記憶は消えず麦の秋
給食の脱脂粉乳麦の秋
食糧自給率低き日本や麦の秋
岡山県     岸野 洋介
山門を出て眼前の麦の秋
麦秋や産着の揺れる甥の家
微笑も介護のひとつ麦の秋
誰にでも笑うみどりご麦の秋
麦秋や昼餉伝えに来し少女
東京都     北川 京子
麦秋や沈む太陽ゆったりと
麦秋の海に漂ふ鳥の群れ
北海道     みなと
英語教師口笛吹ゐて麦の秋
散骨の大海原や麦の秋
麦秋や傍ら寂し鳶の笛
麦の秋古刹に後架在りにけり
淋しらに彷徨ふ二人麦の秋
東京都     水野 二三夫
真つ盛りなる麦秋やうどん打つ
麦秋の果筑波嶺を望みけり
麦秋の栃木路をゆく軽四輪
埼玉県     沼崎 和子
大阿蘇に赤牛育つ麦の秋
麦秋や柱に母の文字みつけ
石橋の多きふる里麦の秋
手を振れば手を振り返す麦の秋
道端の地蔵や麦の秋に染む
東京都     笹木 弘
手をつなぎ木の橋渡る麦の秋
麦秋や特急通過の無人駅
全身で深呼吸する麦の秋
麦秋や天を見上げる天の邪鬼
産土に風の乾きし麦の秋
千葉県     伊藤 和幸
麦秋の匂ひ誘(いざなう)ふ旅心
麦秋の続く限りや風の景
岡山県     純子
麦秋へ入りてよりの旅心
麦秋へ心開いてをりにけり
神奈川県     井手浩堂
バイエルンは黄の明るさに麦の秋
村々に教会一つ麦の秋
刈取り機整備の音や麦の秋
送電線張りし鉄塔麦の秋
見合ひせる女ほがらか麦の秋
東京都     三浦 靖男
麦秋無性に見たくロ-カル線
発車し直ぐに一面麦の秋
麦秋を観たオリオン座今は無く
雨上がるきらめく穂先麦秋
また一人訃報に揺れる麦の秋
神奈川県     佐藤 博一
麦秋や老いては過去を振り向かず
いつよりか予習復習麦の秋
泣かされて泣かせて少年麦の秋
麦秋や水平線までゴッホの黄
麦秋や麦の熟せる日の匂い
石川県     香美
麦秋や村へと続く野の轍
麦秋をかき分けゆるりローカル線
君の町バスを降りれば麦の秋
ゴッホより金深くして麦の秋
村地蔵花たむければ麦の秋
山口県     ―
麦秋やマッサンの愛揺れている
麦秋の季語に馴染めず詠みにけり
兵庫県     岸下 庄二
麦秋や穂擦れの音のなつかしく
時刻表繰って旅する麦の秋
吹き渡る風に色あり麦の秋
麦秋や単線駅に降り立ちぬ
麦秋や風に色あり匂ひあり
神奈川県     守安 雄介
麦秋やドミノ倒しに穂の戦ぐ
麦秋やTPPは如何ならむ
麦秋や二期も二毛も廃れけり
麦秋や午後から父の腰をもむ
麦秋や楽になりたる農作業
茨城県     たいようたろう
麦秋の夕日せせらぐ遠筑波
麦秋の風に乗りたき一輪車
筑波山麓麦秋のとんびの輪
麦秋を渡る潮鳴り縞模様
麦秋の匂ひ分けゆく一輌車
福岡県     紙田幻草
踏み入るや古稀なる世界麦の秋
麦秋や白蝶どこにでも湧ける
白蝶も黄蝶もどつと麦の秋
麦秋や乾ききつたる蝶の翅
麦秋のむつと重たき曇り空
北海道     江田三峰
麦秋や少年少女裸馬
アイヌ村観光客や麦の秋
麦秋や十勝平野の地平線
富良野線左右に映える麦の秋
麦秋や美瑛の丘の夕陽映ゆ
埼玉県     柏木 晃
潤いは人の声かけ麦の秋
異次元の色の広がる麦の秋
麦秋に父と母との過去の色
麦秋の中にミレーが立っている
麦秋や柩を花で埋め尽くす
香川県     いわし
桃色の春の訪れ知らす花
花冷えの雨にうたれて床の中
千葉県     田中 洋子
里は今空の青さと麦の秋
麦秋や実りの色に染められて
麦の秋幟はためく蕎麦どころ
麦秋や村のはずれのベーカーリー
麦の秋鍬をかつぎて家路へと
埼玉県     今野 徹
麦秋やビール片手に夜半の月
麦秋やすすきが実り赤とんぼ
麦秋や奈良の紅葉も赤くなり
麦秋や奈良の庵のこたつかな
麦秋やおでんの恋し夜半の月
千葉県     柊二
地を焦がし蒼き懐中麦の秋
太陽を飲干してゆく麦の秋
風の穂に雲ぶつかって麦の秋
単線の空想好きな麦の秋
麦秋や穂先に雨の煙りたる
岐阜県     金子加行
麦秋や道草らしきランドセル
麦秋に新幹線の新型車
麦秋や区画整理のなされぬ地
麦秋に迷ひ込みたる独り旅
麦秋の駅の列車は二時間後
大阪府     金成 愛
麦の風ヨモツヒラサカよりの風
きみは前にわたしはうしろに麦秋
新潟県     近藤 博
麦秋や刈り入れ待つがに黄金色
産土への道の狭しと麦の秋
麦秋や夕暉に映ゆる黄金色
空青く黄金敷き詰む麦の秋
麦秋や刈るに足るると黄の熟す
奈良県     和田 康
麦秋や庭下駄ふたつありにけり
麦秋の若草山に登らうか
麦秋や声の嗄れたる村夫子
麦秋やくづし字読める人あらば
麦秋の農事メモなど読んでみる
熊本県     貝田 ひでを
スキップの下校のこども麦の秋
麦秋やバイク飛ばして往診医
麦秋や基地局と言う塔の建つ
麦の秋一人降り立つ無人駅
黒髪を風に梳かせて麦の秋
東京都     飯塚 佳代
幼には風見えるらし麦の秋
麦秋や月見張ってる猫のをり
あれもこれも忘れてしまえ麦の秋
強風の中の告白麦の秋
麦秋や昔心を寄せし人
神奈川県     川島 欣也
下校時の道草ランド麦の秋
麦の秋のこぎり鎌の歯をめたて
麦の秋鳥もち作る子供かな
麦の秋分断をする高速道
麦秋や働き者の父と母
兵庫県     岸野 孝彦
麦秋や黄金の海の赤城山
麦秋や徐州居よいか住みよいか
麦秋や黒きスーツの影軽し
麦秋やゴッホの農夫天仰ぐ
麦秋や関帝廟に茜さす
埼玉県     ふみ
麦秋や 雁が戻りて 燕来る
麦秋や 猫も出て来る 野良弁当
麦秋や 空は雲雀の さえずりて
東京都     岩崎 美範
麦秋や窓全開の小海線
待ちわびし産声響く麦の秋
二人目を妊る妻や麦の秋
兄追ひて妹転ぶ麦の秋
麦秋や褌を干すケアハウス
東京都     直木 葉子
麦の秋千歯唐箕のむかしはも
秋田県     ―
麦秋やふるさとのにおい思い出す
麦秋の中を素足で駆ける飛ぶ
長野県     木原 登
麦秋の小径たどれば少年期
ナターシャもソーニャもむかし麦の秋
旋毛なす産毛かがやく麦の秋
麦秋の坂に会釈を交はしけり
この村の一畑のみの麦の秋
東京都     かつこ
七十や記憶の中の麦の秋
潮風と空の青さや麦の秋
三重県     平谷 富之
麦秋の色が目を引く帰り道
行く道の話題となりし麦の秋
京都府     中村 万年青
朝ドラの「マッサン」終えて麦の秋
日本では今や昔の麦の秋
麦秋や遠い記憶の目裏に
「麦秋」や映画の中の物語り
文明の稔りチグリス川の水