俳句庵
季題 6月「蛍」

- 囲む掌に水の匂へる蛍かな
- 神奈川県 佐藤 博一 様

- 大空を星に返して蛍消ゆ
- 埼玉県 守田 修治 様
- 口に出る水子の名前蛍の夜
- 神奈川県 塚本 治彦 様
- 決断を明日に持ち越す蛍の夜
- 兵庫県 岸下 庄二 様
選者詠
- やはらかに闇のよりくる蛍かな
- 安立 公彦
安立公先生コメント
往時は都市に近い村里でも、六月になるとよく蛍を見ました。夏の夜を彩る蛍には、忘れられないものがあります。その思いは蛍を詠む時跡を曳く。しかし俳句は「詩」です。懐旧の思いのみに捉えられた句は表現が疎かになります。注意しましょう。
優秀賞の佐藤さんの句。「囲む掌」には、捕えた蛍が囲われています。その蛍を見ようと掌をひらいた一瞬、その掌から水の香りが匂って来た。蛍を捕えた小川の水の匂いです。「水」と「蛍」の取り合わせが効果的で、省略の効いた句です。
守田さんの句。今まで飛んでいた蛍が、気がつくと消えていた。小流れのほとりに移動したのでしょう。蛍の消えた空には、夏の星が鮮やかに瞬いているのです。「星に返して」という中七の表現が良く出来ています。
塚本さんの句。この「水子」は、出産後あまり日を経ず亡くなったお子さんでしょう。名前も用意してあったそのお子さん。庭に点滅する蛍火を見ていると、ついその名が出てくるのです。「蛍の夜」に、作者の思いがこめられています。
岸下さんの句。一読よく分かる句です。重い決断、それは明日の事として、一夜の蛍を愉しむという悠然さがよく出ています。
今月も佳句は、〈蛍見や船頭の声水伝ひ 河瀬周治〉、〈往診の自転車を追ふ夕蛍 蘭丸〉、〈蛍火やゆつくり回る水車 岩川容子〉。それぞれ良く出来ています。又、〈蛍火や母の手のぬくもり感じ 長澤千鶴子〉は〈母の手のぬくもり今も蛍の夜〉とされた方がよろしいでしょう。
なお、ホタルは常用漢字では「蛍」ですから、コメント内は全て「蛍」としました。
◎ 優秀賞、入賞に選ばれた方には、山本海苔店より粗品を進呈いたします。