俳句庵

7月『夏草』全応募作品

(敬称略)

神奈川県     佐々木 僥祉
夏草や白球ゆるり隠しけり
東京都     鈴木 眞由美
夏草や寝息ばかりの続き部屋
線香に移らぬほのお夏の草
青草のそれほどまでに強き香や
千葉県     藤鷹 圓哉
夏の草吾子の行方を目の隅に
埼玉県     小玉 拙郎
分け入れば夏草甘き日の匂い
川に沿い夏草遠く蛇行して
夏草を倦まず刈り込む長き午後
夏草を越えれば線路そして海
廃校の庭の夏草意のままに
東京都     蘭丸
夏草の中に息合ふ膝小僧
夏草や栄ゆる宿の鎧櫃
東京都     安西 信之
夏草を薙ぎて離るる戦闘機
正座してラヂオ聴き入る夏の草
夏草の中に隠るるけもの道
東京都     水野 二三夫
夏草の闇にまぎるる吉次墓
東京都     鈴木 綾子
夏草を踏みわけ進む一人かな
ニュータウンに廃校二校夏の草
夏草や少女に戻り駆けださむ
夏草のグランドに朝練の声
夏草の匂ひて戦後七十年
埼玉県     哲庵
夏草に埋れし津波到達碑
石仏の裳裾となりぬ夏の草
夏草引く単身赴任三年目
夏草を蹴散らし神旗争奪戦
夏草の伸び放題や廃炉跡
東京都     笹木 弘
夏草を引き抜き力自慢かな
夏草や背丈の伸びし悪戯っ子
夏草を踏んで鍛へる膨ら脛
夏草や心ある風逆らはず
夏草の矢鱈に増えし無人駅
埼玉県     守田 修治
夏草や放哉さんの奥座敷
夏草に色深めゆく俄雨
夏草の語りつぎおり敗戦史
夏草にジョン万次郎漂流す
夏草やたどりつけない甲子園
千葉県     一季
夏草や 街の音消え 谷伝う
千葉県     藤原 純夫
息詰まる夏草の香に家消ゆる
夏草や人なき村に覇を競う
北海道     伊藤 哲
夏草や少年時代の扉開く
夏草の中に埋もれし記憶かな
千葉県     犬槇庵 光晴
夏草ややんちや通せし故郷(くに)遠し
東京都     石見 光夫
夏草や母娘の帽子見え隠れ
夏草や弁慶のごと立ち向かふ
東京都     岩川 容子
夏草のざわめきたちぬ軍用機
夏草の匂ひ纏いて猫帰る
夏草に埋もるる空き家猫の棲み
夏草や路傍の石を動かしぬ
夏草の名もなき花の美しきかな
東京都     近田 吉幸
夏草やとろりと眠い地蔵尊
夏草の蔓延る空地空まさお
夏草や大河浪浪渡し舟
夏草や諸行無情の風立ちぬ
夏草や億年前の光る星
神奈川県     河津 信三
定年の 旅に妻あり 夏草の寺
妻と往く 定年の旅 夏草の寺
埼玉県     長澤 千鶴子
連山もかすかに見えて夏の草
夏草やアカペラの団長の声
広島県     安冨 正則
夏草や永良部は遠く出漁船
夏草や口永良部へ帰りたし
神奈川県     相模太郎
夏草に反芻の牛寝そべをり
夏草に崩れかけたる土塀かな
夏草の斜面一気に駆け下る
夏草や若者の声弾みけり
夏草に転がり遊ぶ猫直る
千葉県     隼人
夏草や旧ぶる友の飛球かな
広島県     有馬 未知
夏草や遠くの風が吾を呼ぶ
夏草に閉じ込められし午後三時
むせ返り蝗となろう夏の草
千葉県     二階堂 脩一朗
夏草や津軽訛りの五能線
夏草や牧場の牛のゆったりと
石川県     藤谷 幸恵
夏草の茂る湖カヌ―漕ぐ
川縁の夏草払い犬散歩
夏草や外人墓地の静もれり
ブラジル     林 とみ代
夏草や廃れ果たる校舎跡
夏草に転がり遊ぶ子らの声
夏草の牧場巡る牛の群
夏草を蹴飛ばし走る競馬かな
夏草を指にからめて遠思ふ
岐阜県     ときめき人
廃屋の銭湯の跡夏草踏む
大阪府     津田 明美
夏草や打たれ強さは親ゆずり
夏草や夢千年のまほろばに
地の軋み踏んばっている夏の草
夏草や弔うための石一つ
夏草や墓標に生きた証しあり
岡山県     土屋 徹三
夏草や星露枕に夢に入る
戦さ場や俄かに濡るる夏の草
帆船を眼下に望む夏の草
見渡せば放棄地埋めし夏の草
夏草や生まれし土地は荒ぶまま
福岡県     潤 正彦
夏草へ腓の白さ滑りゆき
犬も吾も駆ける夏草鵐なす
夏草を結び悪戯追こくら
夏草も田も越え墓へ子は眠し
夏草や三脚照らす夜の銀
大阪府     山下 みゆき
夏草の丈の限界見たくなり
夏草の放置実験開始せり
鋭いのも平たいのも皆夏草
夏草や花さえつけば別の名か
夏草の穂先を抜きて空を斬る
東京都     上田 智子
夏草で 暑さをしのぐ 小鳥かな
夏草を 刈られて飛び立つ 夏の虫
風吹いて 緑が映える 夏の草
朝露で 大地を潤す 夏の草
汗流し 夏草かげに 休むアリ
岡山県     渡辺 牛二
夏草も人も我が物顔の街
夏草や三鬼生家の裏に土手
夏草の犇きあへば寄りがたく
福岡県     河瀬 周治
夏草や蒸せる畑の土固く
夏草や砲台山の瀬戸眼下
夏草を来れば奥城大いなる
夏草や碧天の鳥岬を越え
夏草や潮路はるけき名護屋城
東京都     豊 宣光
夏草の刈りても伸びる強さかな
夏草や転がるボール見失ひ
ブルドーザー夏草荒らし過ぎにけり
夏草をかき分け不意に人の出づ
夏草茂るフクシマの跡地にも
大阪府     永田
夏草や油滴天目静まれり
夏草をかき分け探すファウル球
夏草に勝てず我が家の緑とす
東京都     中田 地溝 
夏草の丘を跣で仁王立ち
福井県     岡本 紅
夏草や貨物列車の数珠つなぎ
神奈川県     矢神 輝昭
夏草や鉄臭残る廃線路     
夏草や穂先の照りて相模湾      
夏草を手折りて口に山の峰
夏草のうねりかき分け子らや戯る
夏草や行きとし生ける息溜まり
神奈川県     秋山 直子
御嶽を夏草覆う日の遠く
夏草や紙ひこうきを青に染め
惟る口永良部島夏の草
夏草の匂いまといて犬散歩
外来種ばかりとなりて夏の草
福岡県     平山 なな子
夏草やつわもの共は夢の夢
夏草をかき分け走りゆくチワワ
夏草は香りたちて尚揺れる
埼玉県     米田 哲
夏草や風が足跡残しをり
夏草や思いのたけをまなかひに
夏草や件の如しわが人生
夏草や狭庭に残るプラショベル
夏草に負けずに一花凛と立つ
東京都     三浦 靖男
友が庭茂る夏草三回忌
被災地に夏草茂る星月夜
夏草よ安保法案埋め尽くせ
夏草にどっかりあぐら握り飯
この先は夏草深く影も濃く
埼玉県     櫻井 玄次郎
夏草に畑奪われ老いにけり
兵庫県     吉祥寺 友子
全員で探したボール夏の草
夏草に埋もる古道の標石
夏草という我が庭に要らぬもの
夏草や境界知れぬ藪と畑
街中の尺寸の地に夏の草
神奈川県     佐野 利典
夏草や昭和ぎらぎら照り返す 
夏草や少年の日がふと匂ひ
夕日落ち夏草少しそよぎだし
夏草や村を唸らせ消防車 
夏草に城址の空を絡めらる
栃木県     長浜 良
夏草の野球中断玉探し
夏草や鎌の音して人に会わず
夏草を出て夏草へ渡し舟
大鎌を天地夏草刈り倒す
岡山県     純子
夏草の影おく余地のなく生ふる
夏草の礎石をかくし大野原
水音に添ふ夏草の道続く
福岡県     幻草
夏草やゆつくり進む高齢化
夏草や遠くに新興住宅地
夏草におのずと風の道生まれ
夏草やひねもす風の吹きどほし
千葉県     飯島 史朗
夏草や検針員も隠れけり
夏草に痛し腰曲げ指伸ばし
夏草を抜きて辺りに草の生
夏草の朱い息吹やゴルフ場
東京都     村上 ヤチ代
夏草を踏む靴底に付く香り
大阪府     太田 紀子
夏草にもう踏み込めぬ妣の家
夏草や引き込み線の錆びてをり
夏草を踏みつつ守るライトかな
神奈川県     川島 欣也
生き場所の選り分けをせぬ夏の草
夏の草小川の水面隠しけり
老いの手に扱いきれぬ夏の草
鎌の刃へまとわり解かぬ夏の草
夏草やゴルフボールを誘い込む
神奈川県     塚本 治彦
夏草の谷や掘られし火焔土器
夏草や空堀深き山の城
夏草や鉄条網の厚木基地
夏草や有刺鉄線潜る子ら
夏草に溺れたるごと石仏
東京都     岩崎 美範
夏草や耳を澄ませば死者の声
夏草や時間の止る生家跡
夏草や軍靴の響き耳奥に
夏草や静まり返る古戦場
夏草や耳に武田の鬨の声
東京都     石井まゆみ
夏草に犬も隠れて子も隠れ
夏草と程よく揺るる小鬢かな
夏草や軍手一双父の後
廃駅や踏み込む脚に夏の草
夏草や休耕田も腰の丈
兵庫県     岸野 孝彦
夏草や蓼科の棒道一人
夏草やガラスの靴のシンデレラ
夏草やみどりご泣けば父母の風
夏草や父を見送る母子の影
夏草や仮の夜の雨奥の院
兵庫県     ミュージック
夏草や 失くしたものが 多すぎる
大鎌で 夏草刈った 父と僕
夏草や シュプール描く 段ボール
夏草が かすかに残す 草いきれ
夏草や 我知らぬ間に 育つ孫
千葉県     柊二
歓声の落ちて夏草ホームラン
夏草に錆音うごく無人駅
夏草や縄文人の貝の塚
夏草や母の見ている忘れもの
夏草や藁屋にウサギ放ちたる
兵庫県     但馬のおっさん
夏草や 損得言わず 風に揺れ
夏草や 刈りそろえたる 放棄人
夏草や 孫の瞳に 乱舞する
玄関に 夏草食べる 牛がいた
花のそば 夏草を取る 母がいた
長野県     木原 登
夏草に母の匂ひのありにけり
夏草のたちまち領す廃線路
夏草の碓氷峠を越えにけり
牧牛の一日にれかむ夏の草
夏草の蔓延る三・一一地
神奈川県     井手浩堂
夏草や礎石のみなる城の跡
夏草の岬や馬の嘶ける
武士の駈けしあたりか夏の草
ホームランのボール消えたり夏の草
飛び石を島に海めく夏の草
岡山県     岸野 洋介
畦道の夏草刈って嫁御まつ
夏草を踏みわけ礎石巡りけり
夏草を刈って棚田の水落とす
夏草に空き家覆われ風青し
夏草や連れ添う犬も風を読み
奈良県      ―
清澄の青滴りて蘆の碧
いとけなき空事恋し夏の原
水田やわが世と笑う夏水鶏
たゆたえば水髪放つ姫女菀
青嵐小鬼はいずこシェイクスピアの夜
神奈川県     佐藤 博一
臥して見るいのち眩しき夏の草
夏草を抜くに抜けないたくましさ
夏草を引けばいつしか無心なる
夏草を引き始めれば終わり無し
夏草の三日見ぬ間にはびこれる
山口県     山縣 敏夫
夏草を抜けた途端に青い海
夏草や市街を見遣る坂の上
夏草の土手を走るか柔道着
夏草や牛の寝そべる昼下がり
夏草や昭和の子等の登下校
東京都     直木 葉子
夏草を縫ひて水音高まりぬ
長崎県     内野 悠
夏草や手荷物多し妻の道
夏草を分け入り進む捜索隊
人こばむ風車や夏の草千里
夏草の余熱をわたる夜風かな
夏草やローマにもある古戦場
兵庫県     岸下 庄二
使われぬ引き込み線に夏の草
震災の傷痕隠す夏の草
夏草や城址につづく道険し
夏草や跡形残す登り窯
夏草の中に一筋獣道
神奈川県     荻原 季美子
夏草や叱られし子の背丈ほど
ゆふまぐれ夏草揺るる雨意のあり
去る猫の尾は夏草に触れて和ぐ
夏草や錆びた牛舎の薄埃
夏草や墓群は異国兵士の眼
山口県     ひろ子
夏草の猛けて過疎地となりにけり
福岡県     桑田 勲
夏草の直立不動暮れ泥む
夏草の閻魔と競ふ背比べ
夏草と言へど紅さす廓跡
夏草の川一文字の浜鉄路
夏草の伸び放題に無住寺
大阪府     弗椿
星滲みただ夏草の風の音
夏草を枕せば甦る君
東京都     淵田芥門
夏草に畦の跡あり牛の声
夏草や大家滅びて売られけり
水切りや夏草だけの向う岸
岐阜県     金子加行
夏草の行く手遮る一揆の地
夏草の深きの底の本籍地
案内図夏草隠し役立たず
夏草に刈る人雇ひ母の老ひ
夏草の隠す故郷の秘密基地
熊本県     貝田 ひでを
夏草に噎せつつ父母の墓を訪ふ
ひねもすを牛の反芻夏の草
近道を来て夏草に難渋す
神奈川県     守安 雄介
夏草の車窓流るる速さかな
夏草や早やも忘るる地の怒り
夏草や千年の計嘲笑う
夏草や緑眼の黒毛牛
夏草に奮い立ちたるコンバイン
静岡県     池ヶ谷 しょうご
夏草を刈り新しき風生まる
夏草の二進も三進も空き地かな
夏草や踏んで精気の立ち上る
夏草の地球を掴む根張りかな
夏草を踏んで精気の立ち上る
神奈川県     猪狩千次郎
夏草や大仏裏の伽藍石
夏草を分け入れば風の産屋かな
夏草や誰が置き捨てし箸二膳
夏草と袖振り合ふや行脚僧
夏草や同窓会の明け初むる
愛知県     岩田 勇
夏草や大演習の石碑立つ
夏草の深きしとねに昔かな
里山の池夏草に隠れをり
夏草や一両電車現れぬ
夏草にむせて青春よみがえる
石川県     香美
藍色の花器に添えたり夏の草
夏草や石碑刻まる辞世の句
終点の先は音なき夏の草
夏草の栞や本に馴染みをり
使われぬ子供の学書や夏の草
群馬県      ―
夏草や 悲恋語りし うつむけり
夏草や 瓦礫の下に 棲む平和
夏草や 二杯目の飯 ほおばりぬ
夏草や 恋の身支度 ととのへん
夏草や 黒髪あげし べにをひく
福岡県     西山 勝男
夏草や空濠ふかき落城址
夏草や石垣遺す坊の跡
夏草の馬脚匂はし草千里
分けいりて夏草匂ふ草千里
夏草や遠見番所の烽火あと
新潟県     近藤 博
夏草や引き抜く根にも生満つる
夏草や在りし鉄路に茫茫と
老ゆる身の生気賜る夏の草
夏草や学びし母校は夢の跡
身丈越し迷路となりぬ夏の草
北海道     藤林 正則
夏草へ真つ赤なポルシェ一直線
夏草の野を折り畳む山背風
美しき夏草の野へ魂放つ
夏草に紛れ込みたるホームラン
夏草の野を駆け抜けてゆく兵士
京都府     中村 万年青
夏草や池を鏡に半夏生
夏草や緑に染まる吾も虫
夏草や青葉燃え立つ嵯峨野かな
夏草や叢の蛇畔に這ふ
夏草や藪から聴ゆ雉子の声