俳句庵
季題 10月「穭田」

- 穭田や大きく曲がるブーメラン
- 神奈川県 守安 雄介 様

- 穭田や子は故郷を出でしまま
- 東京都 豊 宣光 様
- 穭田に静かに雨の降る日かな
- 神奈川県 井手 浩堂 様
- 穭穂に生きる力を貰ひけり
- 千葉県 伊藤 和幸 様
選者詠
- 穭田の入り日わが息ととのふる
- 安立 公彦
安立公先生コメント
多くの田で十月になると稲刈りが始まります。昔と違って今は稲刈機が主役です。刈り取った稲を自動的に結束して落としてゆく光景には心が和みます。しばらくすると稲を刈った切株から緑の芽が萌え出て、それが田一面に広がります。穭田です。
優秀賞の守安さんの句。一読景の分かる句です。父と子と、互いにブーメランを飛ばしています。場所は一面の穭田。力一杯投げたブーメランは遥かまで飛び、大きく水平回転して戻ってきます。穭田だからこそ出来る遊びです。平和な光景です。
豊さんの句。「子は故郷を出でしまま」が全てを語っています。或いはご自身のことかも知れません。古里を出て都市に勤める青年は、都市近郊に家庭を持ち、やがてその地を第二の故郷とするのです。この句には親の寂寥感がよく出ています。
井手さんの句。稲を育て収穫という大役を終えた穭田、その穭田を雨が包む。その静かな雨を、作者は安堵の思いで見守るのです。
伊藤さんの句。「穭穂」は刈り取った切株から萌え出て伸びていく稲穂です。その穭穂を見ているうちに生命力を感じる作者。現在八十歳以上の人は一千万人居るそうです。作者もそのお一人でしょうか。「生きる力を貰ひけり」、共鳴を覚える句です。
今回の穭田は、見る機会が少なかった所為か、皆さん苦心されている様子でした。その中で、〈穭田の雨に深まる緑かな 安西信之〉。〈穭田に離農うながす小糠雨 守田修治〉。〈穭田や部活帰りの中学生 直木葉子〉など佳句がありました。
◎ 優秀賞、入賞に選ばれた方には、山本海苔店より粗品を進呈いたします。