俳句庵
季題 1月「日脚伸ぶ」

- 退院の近づく窓辺日脚伸ぶ
- 北海道 飯沼 勇一 様

- 日脚伸ぶ縁側で読む夕刊紙
- 兵庫県 岸下 庄二 様
- 夕焼けに子らの歓声日脚伸ぶ
- 滋賀県 村田 紀子 様
- 今日からは後期高齢日脚伸ぶ
- 長野県 木原 登 様
- 一書得て帰る街空日脚伸ぶ
- 安立 公彦
安立公先生コメント
歳時記に収録されている季語の多くは、季節の推移を敏感にそして的確に表現しています。「日脚伸ぶ」は、中でも季節感を良く把握している季語です。一月も半ばとなると、誰しも「日が永くなった」と感じます。それを即文字化した季語です。
優秀賞の飯沼さんの句。「退院の近づく窓辺」は、入院の経験のない人であっても理解出来る表現です。「近づく窓辺」に、作者の安堵の思いが良く出ています。さらにその思いの飾り気の無さが、この句の良さを一段と深めています。
岸下さんの句。「縁側で読む」がいいですね。現在の住宅事情では、縁側の無い家も多いですが、この中七は、かつて誰れしも覚えのあることです。ゆったりとした寛ぎが、良く表現されています。目を転じると、庭前の梅の開花も見えるようです。
村田さんの句。夕暮どき、天上の雲が久しぶりに晴れ上り、みるみる西空は夕焼けに彩られてゆく。遊びを終えて帰ろうとしていた子供達がその夕焼け空を仰ぎ一斉に歓声を挙げる。そういう景が、それを見守る作者とともに浮かんでくる句です。
木原さんの句。「後期高齢者」という呼び名は、該当する人たちにとって、名誉な呼称ではありません。しかし作者はそういう思いを呑み込んで、「今日からは後期高齢」と潔く一歩を踏み出しています。その潔さがこの句を内容あるものにしています。
今回の佳句。〈村巡る移動図書館日脚伸ぶ 藤林正則〉。原句の図書やは図書館としました。春近い村里の景が良く出ています。〈借りてはく夫のジーンズ日脚伸ぶ まどん〉。若いご夫妻の日常が微笑ましいです。〈改札を出てより一人日脚伸ぶ 山地美智子〉。連れの人たちと別れて自宅に向う作者、その思いが「一人」に良く出ています。
◎ 優秀賞、入賞に選ばれた方には、山本海苔店より粗品を進呈いたします。