俳句庵
季題 2月「早春」

- 早春の音を奏づる水ぐるま
- 長野県 木原 登 様

- 宿木に早春の色まどかなり
- 東京都 岩川 容子 様
- 江ノ電に早春の潮匂ひ来る
- 神奈川県 井手 浩堂 様
- 早春の土に種まく農夫かな
- 東京都 豊 宣光 様
選者詠
- 早春や矢を射て少女息を継ぐ
- 安立 公彦
安立公先生コメント
早春という季語は、あまたある季語の中でも、ことに希望に満ちた季語です。寒さはまだ残りますが、折々に仰ぐ青空の色には、これから訪れる木々の芽立ち、鳥の巣立ち、そして人びとの生活、そういうものへの温かい兆しが伺われて来る季語です。
優秀賞の木原さんの句。この句を見て、いつか訪れた安曇野を思い出しました。連なる山葵田、路傍の道祖神、遠く仰ぐ残雪の北アルプス、そういう季節の彩りが一句の背景に見えて来ます。「早春の音を奏づる」が、よく情景を描写しています。
岩川さんの句。対象を宿木にもって来たのがいいですね。宿木は他の樹木に寄生する木です。よからぬ印象もありますが、純粋に季節の対象として観ると、「まどかなり」が活きて来ます。落葉した樹木に、そのさ緑の安らぎの色がよく映えています。
井手さんの句。江ノ電は周知の通り、鎌倉と藤沢を結ぶ私鉄です。江ノ島から稲村ヶ崎の間は相模湾に面しいています。春先になると、沿線の景は波の輝きに満ちて来ます。まさに「早春の潮匂ひ来る」です。この句、「匂ひ来し」を「匂ひ来る」としました。
豊さんの句は、一読してミレーの絵を思い出します。しかし「農夫かな」が、しっかりと俳句表現を為しています。
今回の佳句。〈早春の針山に刺す赤い糸 碩真由美〉、早春と赤い糸の取り合わせが、意外のようでよく釣り合っています。〈早春の風の影引く砂丘かな 名木田純子〉、鳥取砂丘でしょうか、「風の影引く」の深みのある写生がいいですね。〈早春や江戸の古地図の坂歩く 守田修治〉、最近こういう景が見られるようになりました。「坂歩く」がこの景にふさわしいです。
◎ 優秀賞、入賞に選ばれた方には、山本海苔店より粗品を進呈いたします。