俳句庵
季題 3月「山笑ふ」

- 仮設より還るふるさと山笑ふ
- 北海道 飯沼 勇一 様

- 柔らかき空の広さよ山笑ふ
- 神奈川県 佐々木 僥祉 様
- 野良仕事精出す寡婦や山笑ふ
- 山口県 山縣 敏夫 様
- 分校も今年限りや山笑ふ
- 宮城県 林田 正光 様
- 山笑ふことに雑木の明るさに
- 安立 公彦
安立公先生コメント
山笑ふという季語は、山粧ふ(秋)、山眠る(冬)とともに、北宋の画家郭煕の山水画論の一節から来ていると辞書にあります。春の山の木々の芽吹き、とりどりに咲く花、鳥の囀り、そういう生気あふれる山の姿が絶妙に象徴されている言葉です。
優秀賞の飯沼さんの句。一見して「東日本大震災」に関る作品であることが分ります。立ち並ぶ仮設住宅から、わが家に帰ることが出来たという安堵の思いが、「山笑ふ」に集約されています。原句の上五「から」は「より」としました。
佐々木さんの句。「柔らかき空の広さよ」が、情景を良く表現しています。如何にも春の山国の風情が思い出されます。
山縣さんの句。この「寡婦」はご主人を亡くされた女性と思われます。ご自身の心労に打ち勝って、農作業に精出す姿は立派です。その立派さの中に、一抹の寂しさも感じられます。原句の中七の「に」は「や」としました。
林田さんの句。まさに現代の世相を反映した作品です。過疎化した地域には、就学の学童も居なくなり、「分校も今年限りや」となります。しかし分校を取り巻く山々には、いつもの春が訪れているのです。原句中七の「の」は「や」としました。
今回の佳句。〈分校に女校長山笑ふ 長浜良〉、先述の分校とは異なり、この分校は今も活気づいています。「女校長」がいい取合せです。〈結願の同行二人山笑ふ 津田明美〉、「同行二人」が見事です。〈みづうみは大地のゑくぼ山笑ふ 木原登〉、言われてみると「大地のゑくぼ」が生きて来ます。俳句は僅か十七文字。如何に表現するかという「発想」が、一句を左右します。
ところで葉書で投句の場合、一枚一句で投句の方がいらっしゃいますが、一枚に五句までお書きくださって結構です。
◎ 優秀賞、入賞に選ばれた方には、山本海苔店より粗品を進呈いたします。