俳句庵
季題 4月「花冷」

- 太秦や花冷に待つエキストラ
- 神奈川県 矢神 輝昭 様

- 花冷の手を握り合うクラス会
- 岡山県 岸野 洋介 様
- 地震の地の声なき声や花の冷
- 東京都 岩崎 美範 様
- 花冷の闇美しき二月堂
- 神奈川県 佐藤 博一 様
- 花冷の夜は書く文の優しかり
- 安立 公彦
安立公先生コメント
今年は桜の開花が例年より早く、それとともにうすら寒い冷え込む日が多くなり、いつもより開花が長いでした。この季節の、うすら寒い冷え込む日々の時候を「花冷」と称します。視覚的にも感覚的にも適確な言葉で、情緒のある季語です。
優秀賞の矢神さんの句。太秦と言えば広隆寺を思い出しますが、また東映太秦撮影所のある所としても知られています。エキストラは周知の通り撮影で端役を演ずる臨時雇いの出演者。馴染みの言葉の中にある「待つ」がこの句を活かしています。
岸野さんの句。久しぶりのクラス会です。懐かしさにお互い手を握り合う様子が、花冷えの気候を背景に良く表現されています。
岩崎さんの句。四月十四日夜発生した「熊本地震」は、М7.3という大自然の脅威を私たちに与えました。東日本大震災のような津波こそ発生しませんが、山容の崩れ、城郭、地表、集落、建造物等の被害は甚大なものがあります。地層の活断層が原因とのこと。謹んでお見舞申し上げ、一日も早い鎮静化を望みます。この句「声なき声」が肺腑を突きます。尚地震は「なゐ」とも読みます。
佐藤さんの句。二月堂は「お水取」で知られた東大寺二月堂です。お水取が済まないと暖かくならない、と言われています。この句はその二月堂の桜も咲き始めた夜の景。ことに冷え込む夜気の空間に、「闇美しき」が二月堂を浮き立たせています。
今回も佳句が多いでした。〈家出猫さがす貼り紙花の冷 岩川容子〉、こういう微笑ましい光景はいいですね。〈花冷や風の音舞ふ石舞台 土屋徹三〉、「風の音舞ふ」の発見がみごとです。〈花冷の身を引き締める再検査 林田正光〉、正に「身を引き締める」ですね。多くの方が体験されていることと思います。お大事に。
なお、歴史的仮名遣では、基本的に名詞には送り仮名はつけませんので、季語も名詞には原則的に送り仮名はつけません。「花冷え」は「花冷」とするのが良いでしょう。
◎ 優秀賞、入賞に選ばれた方には、山本海苔店より粗品を進呈いたします。